一般社団法人 ディレクトフォース

サイト内検索 powered by Google
DFの研鑽支援活動

企業ガバナンス部会

トピックス 第17期(2021-2022)

開催日 テーマ 講 師
- 2022年7月30日(土) 企業ガバナンス部会主催 研究会発表会実施報告
9 2022年6月22日(水) 第17期 企業ガバナンス部会 第9回セミナー 永田 秀俊 氏
潮田 一成 氏
8 2022年5月20日(金) 第17期 企業ガバナンス部会 第8回セミナー 柿﨑 環 氏
7 2022年4月15日(火) 第17期 企業ガバナンス部会 第7回セミナー 浜辺 陽一郎 氏
6 2022年3月16日(水) 第17期 企業ガバナンス部会 第6回セミナー 松田 千恵子 氏
5 2022年2月17日(木) 第17期 企業ガバナンス部会 第5回セミナー 杉田 純 氏
4 2022年1月31日(月) 第17期 企業ガバナンス部会 第4回セミナー 五味 祐子 氏
3 2021年12月24日(金) 第17期 企業ガバナンス部会 第3回セミナー 武田 智行 氏
2 2021年11月25日(木) 第17期 企業ガバナンス部会 第2回セミナー 今井 祐 氏
1 2021年10月29日(金) 第17期 企業ガバナンス部会 第1回セミナー 小川 康 氏
2022年8月19日

企業ガバナンス部会主催 研究会発表会実施報告

去る7月30日(土)、日比谷図書文化館において、企業ガバナンス部会主催の研究会報告会が開催されました。本年1月にキックオフした研究会AグループとBグループのメンバーは、時には夜を徹して、時には日曜日の朝から、侃々諤々の議論を重ねて当日を迎えました。

日比谷図書文化館での企業ガバナンス部会主催のイベントは勿論、DFでも初めてのことであり、いつもと勝手が違うために開始時にZoomトラブルが発生し、視聴者に皆さまに多大のご迷惑をお掛けしました。この場をお借りしてお詫び致します。

新型コロナ「第7波」が襲来する中、会場の日比谷図書文化館自体が閉館となること、並びにDF会員の参加が少なくなることの懸念がありながらも、運よく図書館は開き関係者の努力もあって開催に漕ぎつけました。

発表内容については、添付の各スライドをご参照ください。

【Aグループ】

テーマ:

新しい資本主義と日本経済の再生~「失われた30年」にどう対応するべきか

メンバー:

越後屋秀博(L)、田中久司(SL)、牧野義司、宮崎泰雄、斎藤龍三(5名)(以下敬称略)

発表の構成と報告者
第一編 資本主義はどのように発展してきたのか
第1章 資本主義発展の歴史
越後屋
第2章 現代資本主義の抱えるジレンマ
越後屋
第二編 日本経済の停滞~失われた30年
第1章 失われた30年に関連する諸データ
越後屋
第2章 失われた30年の原因分析
田中
第三遍 日本経済再生のための処方箋/新しい資本主義
第1章 日本経済再生の処方箋
越後屋
第2章 「新しい資本主義」と「人への投資」
斎藤
第3章 福沢諭吉の経済思想からのヒント
宮崎
第4章 日本らしい資本主義
田中
第5章 日本企業再生の処方箋はあるか
牧野
第6章 衰退日本に歯止めをかける新成熟社会モデル
牧野
クリックして報告書のPDFをご覧ください
クリックして報告書のPDFをご覧ください
Q&A
Q1.
経済活動活発化にはイノベーションが必要だが、米国発の半導体は小型イノベーションを日本が担っただけ。新興国に負けて衰退した原因は? TSMCの戦略評価は?
A1.
日本の半導体シェアは50%以上あったが、1986年の日米半導体協定により競争力を失った。新興国は自国政府の支援によって台頭した。日本の政策的失敗。今やTSMCのシェアは50%強に達する。
Q2.
①自国発のイノベーション創出には何をすべきか? ②またその波及効果を拡大するためにはどうすれば良いか?
A2.
①産官学によるムーンショット型開発事業が必要。大企業においては既存組織、人材を分離した新しい組織形態が必要。米国版SBIR制度によるスタートアップ企業の育成も。
②日本企業はマーケティング力が弱い。
Q3.
(提案) 100歳社会総研との協働ができないか? ①定年制見直し、②中小企業のDX化推進、③働き方改革
A3.
できると思う。
Q4.
(コメント)第3編第4章の「日本らしい資本主義」と「主体別対応策を是非強く勧めて頂きたい。
Q5.
①労働分配率は低い方がいいのでは? ②中小企業は400億円クラスでも技術力No.1の企業が日本には沢山ある。 ③超高齢社会に対してDFは何ができるか?
A5.
①労働分配率は経営側から見れば低い方が良いが、労働側からみれば高い方が良い。今日本では欧米に比べると低すぎることが問題。 ②たくさんある。 ③DFが社会貢献できることはたくさんある。
アンケート結果
Q1.
Aグループの研究発表の内容について
①大変良かった44.4% ②良かった55.6%
Q2.
Q1でそう答えた理由は?
  1. 大変良かった:包括的な流れが共有できた/多面的視点からの的確な分析、表現の分かり易さなど、非常に説得性のある内容/頭の整理になり、問題の所在もそれなりに抉り出されていた/非常に難しいテーマで、「我褒め」にもならず「自虐」にもならず深堀できていた
  2. 総じて良かった:特に田中さんの緻密な分析は聴き応えがあった/失われた30年の分析については詳細かつ丁寧にされていて素晴らしかった/内容的に高度なものであったし、当発表会に向けて皆様のご努力が伺えた
Q3.
改善点やアドバイスがあれば
  • 全体に多くの書籍論文などの研究もされていて、分析手法も駆使され、章立ても工夫されていました。また失われた30年の分析などさまざまな要因が絡み合って因果関係の明確化は困難とされていたところなど、真摯な取り組み姿勢にとても共感した。
  • 失われた30年について発表では細かく分析されていたと思うが、マクロ的要素が多く、ミクロに迫った意見が無かった。
  • 今回のテーマは大きくて具体的な改善に向けての活動となると手が出せません。もう少しテーマを絞って社会に提言できる案件にしては如何ですか?
  • DFにどのように貢献するかをもっと具体的に
  • 自分としては、Factとして為替レートや購買力平価、生活の安全安心の向上、格差拡大などを考慮して、この30年が何だったのか総括してみたい。

【Bグループ】

テーマ:

持続可能な企業経営を支えるコーポレートガバナンスを実現する社外取締役・社外監査役のあり方

メンバー:

芦田千晶(L)、國安幹明(SL)、柳澤達維、山本英嗣(4名)

発表の構成と報告者
第1章 今何故サステナブル経営が求められるのか
國安
第2章 サステナビリティに関する開示制度化の動向
芦田
第3章 サステナブル経営に関する事例研究
  1. オムロン
  2. コスモ石油
  3. 丸井グループ
  4. イケア
芦田
柳澤
國安
山本
第4章 ESG情報開示のこれ迄の経緯と今後の課題
柳澤
第5章 サステナブル経営における社外取締役等に期待される対応
國安
クリックして報告書のPDFをご覧ください。
(会員限定)
クリックして報告書のPDFをご覧ください。
(会員限定)
Q&A
Q1.
石油だけではなく、セメント、鉄鋼、アルミ、プラスチックなどの企業の事例もあればなお良かった。
A1.
事例研究については、各自関心が高かった企業を選択したので、業種比較はしなかった。開示制度が整った段階で整理できるといいと思います。
Q2.
報告でも言われていたとおり、不祥事が最大のリスクだと思う。その対策は?
A2.
会社の理念と現場でやっていることの間に大きなギャップがある企業は、矛盾が発生拡大し、収拾がつかなくなっている。このギャップを埋める努力が必要ではないか?
Q3.
一般的にサラリーマン会社であるため、不祥事が起こりやすい。中堅企業のように経営者が全体を把握しているのが望ましい。経営者がどう考えるかにかかっている。また、社外役員の役割として、経営者を説得して正しい方向に向ける、という指摘はそのとおりで勉強になった。そこで、丸井グループだが、①丸井社長の役割、と②虚偽記載の罰則について教えて欲しい。
A3.
  1. 青井社長が就任時は企業業績が赤字だったので、業態変革の必要性を感じフィンテック企業に転換するべく実行に移した。唱えたのは「将来世代のために事業をしよう」だった。昔から「対話の文化」が醸成されており、必ずしも「上意下達」ではなかった。
  2. 有報など法定のものは罰則規定がある訂正報告が必要だが、統合報告書やHPなどでは特に罰則規定はない。
Q4.
開示について“IIRC”の報告書が正式に採用される、というような説明を受けたが?
A4.
まだ最終形ではないので、今はまだ断言できない。
アンケート結果
Q1.
Bグループの発表内容について
① 大変良かった 35.3% ②良かった 52.9% ③いまいち 11.8%
Q2.
Q1でそう答えた理由は?
  1. 大変良かった:自らの考えを織り込んでいる。通り一遍のセミナーにない説得感がある/有用な知識を得ることができた/企業理念と実態のギャップが大きい企業では不祥事が起きやすいという指摘には共感。IKEAの理念は非上場だから実現できるとすれば、市場のあり方自体も問われるべきかも。いろいろな視点での課題取り組みが参考になりました/実際の企業でのサステナブル経営の事例研究がよく調査されていて勉強になった/TCFDの開示基準について、「4. のサステナブル経営に取り組む意義とESG情報開示」の項目で良く分析されており素晴らしい/第5章の「サステナブル経営における社外取締役等に期待される対応」で書かれている「7つの視点」は素晴らしい。これを今後も充実して行ってください
  2. 良かった: 新しい発見があったこと/特に7つの視点が良い/第4章の企業のESG情報開示の充実は参考となった/基本的な事項が網羅的に盛り込まれており俯瞰することができた/よく研究されておる/企業事例なども多く持続的な企業経営のイメージが理解できた
  3. いまいち:社外取締役、監査役になりたい人に対する勉強会であった/サステナブル経営における社外役員の役割はどうあるべきと主張したのかが今一つ良く分からなかった。業種などによっても一概に言えないと思うが、一言で敢えて言えば、企業価値を持続的に成長させるために経営者の正しいアニマルスピリットをエンカレッジし続けることにあるように思う。統合報告書をどんどん厚くすることではない
Q3.
発表内容につき改善点やアドバイスなどがあればご記入ください
  • 7つの視点から見た事例研究を来年度の研究テーマにしたら如何?
  • 失われた30年について発表では細かく分析されていたと思うが、マクロ的要素が多く、ミクロに迫った意見が無かった。
  • トップ起因の不祥事を防ぐにはどうするか?
  • 現在、河野龍太郎氏の「成長の限界」を読んでいますが、共通する部分も多く、今回の発表の奥深さに刺激を受けています
  • 毎年共通であるが、スライド1ページの文字が多くて読みにくい。
  • 企業の実例をもっと盛り込んでほしい。またESGやSDGsあるいはCSRといった言葉が飛び交う中、経営者の本音は随分と異なるはず。コスモ石油の事例は経営側の本音がにじみ出ていた。大きく気になっているのが、企業統治の概念やそれに関わる諸々の規程の殆どが欧米発ということ。JSOXもそうでしたが、欧米を「家元」とするこうしたルールがそのまま日本企業に当てはまるのか?また盲目的にこれを是とすべきなのか?日本はルールメーカーになれないのか?といったことについても考察を深めたい
  • DFにどのような貢献をするかも具体的に考えて欲しい
  • どのチームでも時間を越える発表は聴いている方も疲れました。要点をもっとコンパクトにするようにして欲しい
  • 研究タイトルである社外取締役・社外監査役のあり方について、企業事例などを踏まえてもう少し深堀りして頂き、発表もその部分にもう少し時間を掛ければさらに良かった
  • 機材の使い方を含め、一度はリハーサルをした方が良いかもしれません
  • 質問のチャットを会場参加者にも見える形でQ&Aがあるといい

◇ アンケートの最後の質問で、「来期の企業ガバナンス部会研究会活動への参加ご意向」についてお聞きしたところ、7名の方々が「参加を検討する」または「参加する」と記載頂きました。この秋には新規の研究会メンバーの募集を予定しておりますので、是非ご参加されるようお待ちしております。

以 上(平井 隆一)
2022年7月26日

第17期 企業ガバナンス部会 第9回Webセミナー講演要旨

  • 日 時 : 2022年6月22日(水)14時~16時
  • 場 所 : DF事務所スタジオ751 + Zoomのハイブリッド形式
  • テーマ :「最近の上場審査の視点について~新市場区分とコーポレートガバナンス・コードなど」
  • 講 師 :
    株式会社東京証券取引所 上場推進部長 永田 秀俊 氏
    日本取引所自主規制法人 上場審査部長 潮田 一成 氏
  • 参加者 : 27名(申込者を含む)

【講演概要】

永田 秀俊 氏 潮田 一成 氏

二部構成。前半では、株式会社東京証券取引所 上場推進部長の永田氏より、最近のIPO市場の動向についての紹介とともに、今年4月の東京証券取引所市場区分の見直しについて、並びに昨年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コードの改定内容も含めて解説された。
後半では、日本取引所自主規制法人 上場審査部長の潮田氏より、上場審査の事例などを踏まえて、独立社外取締役や社外監査役の皆様の役割や期待について解説された。

【要旨】

(前半の部)

冒頭、日本取引所グループ(JPX)の組織を紹介し、傘下の東京証券取引所内の上場推進部、日本取引所自主規制法人内の上場審査部の組織上の位置づけが説明された。

  1. 東証市場の紹介
    旧東証市場は市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQの4市場とプロ投資家向けのTOKYO PRO Market であった。市場構造を巡る主要な課題を意見募集やヒアリングを通じて把握したうえで、2022年4月に新市場、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3市場に新市場区分として再編された。(TOKYO PRO Marketは市場再編の対象ではない)
  2. 昨今の国内IPO市場の状況
    国内IPO件数の推移を見てみると、2020年ごろからのIPOは好調であった。2021年は、136社(前年比+34社)が国内証券市場においてIPO達成。各地域別のIPO件数の推移や大型企業グループの大型IPOが紹介された。参考として、最近のIPO企業(2019年~2021年までのIPO企業)の規模比較や海外企業(クロスボーダー企業)の新規上場が2021年は5社で直近10年間では最多を記録したことが紹介された。
  3. 新市場区分の概要
    1. 上場基準の考え方
      新市場区分【プライム市場】【スタンダード市場】【グロース市場】別に市場のコンセプトを確認し、各市場区分のコンセプトに応じた、時価総額、流動性、コーポレートガバナンスに関する定量的・定性的な基準が設定された。各市場区分の新規上場基準と上場維持基準は原則として共通化された。従来の一部指定基準・市場変更基準のような「市場区分の移行」に関する基準はない。
    2. 新規上場
      新市場への新規上場に関する形式基準を抜粋して、流動性・ガバナンス・経営成績および財政状態・その他事業継続年数等の項目についてその基準値を説明。なお、上場審査は実質基準で判断されるため、実質基準の概要を説明。グロース市場の新規上場審査では、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示を適切に行うことができる状況にあることが必要なため、開示すべき主な記載項目を説明。
    3. 既上場会社の対応
      東証の既上場会社は、2021年9月1日から12月30日までの間に、自社の経営環境と新市場区分のコンセプトや上場基準を照らしたうえで新市場区分を選択した。選択先の市場区分の上場基準を充たしていない場合は、「上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出し、改善に向けた取組み図ることで当分の間、経過措置として従来の上場基準を適用した。「当分の間」については何時までかが議論の的になっているが、東証としては議論を進めていくことにしている。新市場区分の選択結果は、2022年4月4日現在で、プライム市場1,839社、スタンダード市場1,466社、グロース市場466社となっている。プライム市場を選択したうちの296社は上場維持基準を充たしていないので経過措置を適用した。また、市場第一部に上場していた企業のうち338社はプライムでなく、スタンダード市場を選択していた。
  4. コーポレートガバナンス・コードの改訂
    コーポレートガバナンス・コードは、3年に一度定期的に見直されている。前回の改訂は2018年。コードは普遍的なものではなく、目的実現のために、実状に応じて見直しが必要とされている。コーポレートガバナンス・コードとは何か、その特徴、基本構造(5つの基本原則・それに紐づく31原則、47補充原則の三層構造)、コンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲について解説。改訂コード(2021年6月)における主な追加事項についても解説。
  5. TOKYO PRO Market について
    最近関心が高まりつつある、TOKYO PRO Market の内容が紹介された。2021年の新規上場は、過去最多の13社(前年比+3社)で現在55社。制度上、特定投資家に限定、形式的上場基準はなし、上場審査及び上場後の管理業務についてはJ-Adviserの助言制度を採っている。TOKYO PRO Marketが活発に利用されることを期待している。

最後に、IPOに関する疑問等有ればいつでも問い合わせてもらいたいと、上場推進部の窓口となる上場推進部IPOセンターのメールアドレスが紹介された。

(後半の部)
  1. 上場審査の状況について
    最近の審査件数の推移としては、上場審査部では年間200社から250社の審査を担当している。うち約30社程度は審査を受けたが上場承認に至っていない。承認に至らない理由は様々で、株式市況などを理由とするやむを得ないケースもあるが、経営者の意識がもう少し違っていれば、真摯にIPOに取り組んでいれば、状況は変わっていただろうと考えられる事例もある。経営者の意識が上場審査上で問題になった事例を紹介していきたい。
  2. ケーススタディ(IPO時やIPO前後の不適切な事例を中心に)
    2013年頃から、経営者による不適切な取引や上場直後の大幅下方修正等の不祥事が多発してきたため、新規公開を巡る問題とその対応については、経営者主導の不適切な取引に関する上場審査を強化する、不適切な取引防止のための啓発セミナーを実施する等の対応方針を2015年3月31日に公表した。上場審査では、経営者による公私混同や経営者が関与する取引について、引き続き注視している。上場審査上の不適切な事例として、経営者に関する問題(意識が足らなかったため上場に至らなかった)が論点となった審査事例3つをケーススタディとして紹介する。

    事例① 飲食店等の多店舗経営をするA社。新規出店、退店に際しての基準の明確化とルールにのっとった意思決定がなされているかが審査上のポイントとなった。長年にわたり、創業者である社長が重要な意思決定を主導しており、意思決定手続きにおける規程との乖離が改善されず、監査役・内部監査担当者からの指摘もなく、事態改善に向けた自律的な動きは確認できなかった。改めて、社内の意思決定フローを整備することになり、上場申請を取り下げた。

    事例② 本業の不動産関連事業以外に飲食店事業を展開するB社。上場にあたって関連当事者取引の整理をするため、本業以外の飲食店事業を切り離すことにした。形式的には整えていたが、実態は公私混同のまま何も変わっていなかった。社長が関連当事者取引解消の当事者であったにもかかわらず、解消しなければならない理由を理解しておらず、公私混同の行動を続けてしまった。本質を理解せず形式的な取組みであった。社内で問題を指摘できるような企業風土が醸成されていなかった。社長の意識改革を含め、原因分析・再発防止策の策定を行うため、上場申請を取り下げた。

    事例③ 人材派遣業のC社。C社会長は数年前に経営の第一線から退いたのに、会長にかかる多額の交際費支出や会長の役員報酬額が突出した状態が続いていた。実質的に大きな影響力を持つオーナー会長自身に、上場会社の経営者として持つべき「意識」が欠如していたことと、当該オーナーに反対や疑問の声を上げることが出来ないような社内風土であったことが原因であった。報酬額の妥当性について、きちんと検証し対外的に説明できることが必要なため、ガバナンス体制の再構築、社内風土の改革を行うために上場申請を取り下げた。

    以上の3つの事例は、何十年も前からよく見られる上場準備の象徴的な失敗事例であるが、最近になっても無くならないため、創業者として経営者の意識を変えることの難しさをお伝えする失敗事例として紹介した。
  3. 最近のIPO前後の不正事案
    これまで紹介した事例は上場審査でつまずくというレベルの事例であったが、オーナー経営者による公私混同や経営者への牽制が機能していなかった事案以外にも、代表的な不祥事としてIPO前後における不正会計事例が発生している。経営者の関与する上場前後の不正会計については、不正が発覚すると、不正に関与・黙認していた経営者は引責辞任し、マーケットからも退場することになるほか、企業自体も上場廃止になるリスクが高まる。不正会計の主な動機としては、上場スケジュールを予定通り進めるための業績達成に対するプレッシャーが大半を占めているが、プレッシャーに負けて破滅の道を歩まないよう、IPOそれ自体が「目的化」されていないか確認する必要がある。
  4. 外部からの情報提供
    JPXでは、新規上場申請会社に関する不祥事等、上場適格性に重大な影響を及ぼす事項についての情報を提供いただくための受付窓口を設けているが、近年、その通報件数は増加傾向にある。提供のあった情報の真偽の確認のために調査を行うこともあるが、調査の結果、審査が予定通りに進捗しないケースや、情報提供がきっかけとなり上場承認に至らないケースも出てきている。自社の内部通報制度が形骸化していないか、上場準備の負担を押し付けていないか検証しておく必要がある。上場準備の過程では、内部通報制度だけでなく、社内外の様々な声を経営者に届ける機能を整備していただきたい。
  5. IPOに携わる役員・実務家の皆様への期待
    上場準備に携わる皆様には、上場準備の趣旨の正しい理解や浸透のため、経営者や社内に対する正しい啓発・取組みを期待している。例えば、上場会社として最低限備えるべき水準に達していなければ、上場申請の延期を進言するストッパーとしての役割を果たしてもらいたい。疑問に感じたことは、静観するのではなく積極的に問題解決に関与してもらいたい。一方で、過去の経験を過信して傲慢になって周囲からの信頼が得られなくなったり、上場が延期になってしまう事態を恐れ、当該情報の速やかな取引所への報告を躊躇するような失敗事例も見受けられるため、そのようなことがないようにしてもらいたい。特に上場審査に不利になるからと不正を働きかけるなどはあるまじき行為である。IPOに携わる役員・実務家の皆様への期待を纏めると、①上場準備会社のガバナンス・内部管理体制の構築・強化に貢献。②IPOを正しく推進するゲートキーパーとしての役割を発揮。③上場後においてもガバナンス、内部管理体制の充実は常に必要。の三つとなる。皆様の知識・経験を活かして頂き、IPOを通じた我が国の資本市場の発展に寄与頂くことを、切に願っています。

【Q&A】

Q1.
プライム市場とスタンダード市場の違いで、プライム市場に求められる高水準の基準とは何か?
A1.
プライム市場には一段高いレベルのコーポレートガバナンス・コードが適用される。それは、独立社外取締役を3分の1選任、指名・報酬員会の独立性強化など。ガバナンス・コード以前の話として、東証がプライム市場の新規上場基準では、時価総額250億円以上、最近2年間の経常利益の総額25億円などスタンダード市場と比較してかなり高い水準の経営成績を求めている。これは、機関投資家や海外の投資家も意識した基準としているためである。
Q2.
TPMはプロ投資家向けとあるが、具体的にはどういう投資家なのか?
A2.
特定投資家という定義がある。機関投資家や海外の投資家はTPMに参入出来る。 個人投資家であっても金融資産が3億円等の要件をクリアすれば特定投資家になることができる。
Q3.
以前は、マザーズ市場から本則市場への市場変更を目指す場合は、直接本則市場に上場する場合と比較して緩和された基準があった。グロース市場からプライム市場を目指す場合は以前より基準が厳しくなったのか?また、現在もグロース市場からプライム市場を目指す動きはあるのか?
A3.
グロースからプライム市場を目指す会社は確かにある。新市場の基準には緩和基準はないので厳しくなったと言える。
Q4.
マザーズやグロース市場は成長可能性を重視しているはずだが、その市場にとどまり続けるという状況は想定されているのか?
A4.
グロース市場で、上場10年後から時価総額40億円を維持しなさいという基準が適用される。このような基準によって成長を維持する努力を会社に求める仕組みになっている。
Q5.
新規上場後に不正会計等が発覚した場合の宣誓書違反による市場退出基準はどのようになっているのか?
A5.
個別判断となるが、例えば不正が発覚し、1年以内に改めて再審査するということになった場合、当該審査に合格しない場合は上場廃止となる。
Q6.
すべてワンマン社長が意思決定しているという悪い事例の紹介があったが、社長の意思決定をチェックする機能がないということが問題となるのか?
A6.
ルールを作ったのであればルール通りに運営してくださいということを問題にしている。実態にあっていない社内ルールでは問題であるとの認識である。
Q7.
役員報酬が高額すぎるという事例の紹介があったが、創業社長は事業運営に相当尽力してきたはずなので、それに報いるための高額報酬は許せる範囲ではないか?
A7.
報酬が高すぎることが問題ではなく、高額であればその理屈が必要と考えている。報酬額の妥当性の理屈がないのは問題と認識している。

【アンケートの結果】

  1. 講評
    アンケート回答者の65%が「大変参考になった」、残り35%が「参考になった」という結果であり、大変好評であった。
  2. 良かった点
    • 4月から変わった東証制度と昨年改訂のコーポレートガバナンス・コードがよく理解できた。
    • 市場区分の見直し後のポイントがクリアになった。全体像も理解できた。
    • 最新情報や事例が豊富であった。上場審査の事例紹介は大変参考になった。
    • IPOの基礎的な勉強に役立てることが出来た。
  3. 改善点
    • 冒頭音声が聞こえないまま始まった。Zoom視聴者の声が入ったりして聞きづらいところがあった。Zoomの取扱いが不慣れなようで改善が必要。
    • Zoomリモート会議であってもドレスコードには配慮が必要。
    • コロナ禍が終わればリアル講演を再開してもらいたい。
以 上(平井 隆一)
2022年6月3日

第17期 企業ガバナンス部会 第8回Webセミナー講演要旨

  • 日 時 : 2022年5月20日14時~16時
  • 場 所 : DF事務所スタジオ751 + Zoomのハイブリッド形式
  • テーマ :「持続可能な企業価値向上を支える取締役会の高度化と内部統制」
  • 講 師 : 明治大学法学部教授 柿﨑 環 氏
  • 参加者 : 27名(申込者を含む)

【講演概要】

柿﨑 環 氏

コロナ禍によって加速度的に変化する企業環境のもと、世界的にも上場会社には中長期的な企業価値の向上を図るビジネスモデルが求められている。そのため、これからの取締役会には、企業のリスク情報を適時に捕捉・評価し、企業ミッションを実現する中長期的な経営戦略と事業遂行との整合性を不断にチェックする監督機能の強化と、これに適合する内部統制の実践が喫緊の課題となっている。この実践のためには、2017年の改訂ERMやIIAの3ラインモデルが参考になる。また、我が国のCGC、金商法、会社法や英米の動向が、企業経営への処方箋として紹介された。昨今の事業環境の急速な変化に対応して経営戦略を不断に見直すアジャイルアプローチによるERMの実践が求められている。

【要旨】

  1. はじめに

    去年6月に改訂CGCが公表され、①取締役会の機能発揮、②企業の中核人材における多様性の確保、③サステナビリティを巡る課題への取組み、などについての変更がなされた。とりわけ②③は、現状の取締役会が有する機能のままで、対応が難しいと考えられるので、本報告では、改訂CGCを契機として取締役会に期待される役割の変化とこれに応えるための内部統制・内部監査の在り方を模索する。

  2. 改訂CGCが及ぼす取締役会に期待される役割の変化

    改訂CGCの主な変更点を補充原則の記述をもとにおさらいした。それらは、
    補充原則 2-3① 取締役会が対処すべき課題の変化、補充原則 2-4① 中長期的な視点からの人材戦略の重視、補充原則 3-1③ サステナビリティの取組みと整合的な経営戦略の開示、補充原則 4-2② サステナビリティ課題の取組みに対する取締役会の監督責任、補充原則 4-3④ 取締役会における全社的リスク管理体制の整備と内部監査部門の活用、補充原則 4-13③ 取締役会・監査役会の機能発揮に向けた内部監査部門による直接報告であるが、特に、取締役会に求められるリスクマネジメント型の監督機能と内部統制・監査の役割が強調され、具体的には将来事象へのプレアクションを取締役会で検討する仕組みが必要であり、それには改訂ERMや3ラインモデルの活用が有用である。

  3. 改訂ERMの活用

    2002年米国でSOX法が導入されたが企業に過度な整備とコスト負担が強いられたため反発され、併せ導入されたERMが業務プロセスのコントロールとして把握されてリスクマネジメントとしての意義は経営層に正しく理解されず失敗した。その後2017年にERMが大幅に改訂され、COSO CUBEからリスクとパフォーマンスの関係にフォーカスしたモデルに変更され5つの構成要素と20の原則が定められ、次のような変更点が強調された。
    - リスクと企業価値を結びつけることでERM推進の原動力とする。
    - 企業カルチャーの役割、戦略の議論、意思決定とパフォーマンスの関連付け、リスク選好と許容度の精緻化 などを重視し、経営課題にリスクマネジメントアプローチを浸透させる。
    なお、改訂CGCで気候変動に係る開示で言及されているTCFDの提言もERMの考えに沿っている。

  4. 取締役会の監督機能を発揮させるための内部監査―IIAの3ラインモデルの実践

    上述した改訂版ERMを我が国のガバナンスに活かしていくために、内部監査にもIIA(The Institute of Internal Auditors)の3ラインモデルの実践が求められている。この新しいモデルでは、①守りだけのモデルから攻めのモデルも追加(適切なリスクテイクと企業価値向上)、②第1/第2ラインから取締役会への直接報告ラインの確立、③第1/第2ラインの経営管理者と第3ラインの内部監査の連携の強調の3つが主な変更点である。内部監査に求められる役割を簡潔に纏めると、①形式から実質へ、②過去から未来へ、③部分最適から全体最適と表現される。

  5. 我が国の法規整に基づく内部統制の開示

    上述したような海外の動向が我が国の法規整にも取り入れられて来ており、企業としての開示に係る指針ないし処方箋となっている。

    1. ① CGC

      経営戦略等の公表には、事業ポートフォリオに関する基本的な方針やその見直しの状況について分かりやすく示すべきである。また、経営戦略と結びついたリスクマネジメントの概要や内部統制システムの企業価値創出への貢献などについて記載する。

    2. ② 金商法

      有価証券報告書の「事業リスク」の記載は、リスクの羅列でなく、経営戦略との関連における重要性やリスク管理上の区分に応じたものとする。

    3. ③ 会社法上の「業務の適正を確保するための体制整備とその運用」についての開示

      会社法施行規則100条等に定められた項目について、より具体的な開示が期待されている。

    このような開示の在り方については、英国会社法における取締役会の「戦略報告書」の開示項目が参考になる

  6. まとめにかえて
    1. ① 企業ミッションの実現と監督

      VUCA(ブーカ)時代において、ビジネス環境の変化に即応して経営戦略を是正しているかを取締役会は監督出来るようにする。すなわち、アジャイルアプローチによるERMの実践が求められている。

    2. ② 役員の責任体系とリスクマネジメントのギャップ

      法律上の役員の責任と実際の経営で求められる責任のギャップをうめていくように務める。
      我が国の最高裁判決にみる内部統制構築・整備に係る役員責任や機関投資家のプレッシャーによる役員の経営責任の追及は以前よりも厳しくなっており、米国における最高裁の判決や、Board3.0の議論が参考になる。

    3. ③ 取締役会の監督機能の高度化

      取締役会は、単なる過去情報の収集やそれに基づく合理的審議による監督を越えて、企業価値向上や企業ミッションの実現に資するフォーワードルッキングな経営の意思決定を支える監督を行うことが求められている。

【Q&A】

Q1.
今回の講演の趣旨は、簡潔には、改訂ERMの考え方を会社経営に取り入れるべきという風に理解したが、ERM自体はJ-SOX導入時でも知られていたにもかかわらず、当時も現在でも財務報告の正確性に焦点が当てられ、ERM的考え方の普及はハードルが高いように思われるがどう対応すべきか?
A1.
核心をつく質問だが、いろいろな対応が進んでいる。現在では、財務報告の正確性よりも、非財務情報の方が重要だという認識が浸透してきており、特に欧米ではそれが進んでいる。ただ法的にはSOXもJ-SOXも変更されておらず、金商法か会社法のどちらでどのように対応すべきか議論が始まっている段階である。またソフトローのCGCが及ぼす企業への影響力が強く、委員会等の組織や開示の内容についてリスク情報を含む非財務情報を取り込む動きが各社各様の工夫により活発化しており、徐々にその方向に進みつつある現状と言える。

Q2.
リスク分析や評価の実務をしているが、リスクマネジメント委員会などが組成されていても、社長への報告で終っていることが多い。リスクテイクの戦略は誰が担当するのか、また、リスクテイクの残存リスクの受容が企業価値に結びつくのか、そのあたりの考え方や実情を知りたい。
A2.
リスクマップを作成する会社も増加しているがその作り方も様々で、リスク事象のリストアップも各社各様だが、経営戦略リスクを取り上げる会社と対象外とする会社に二分される。私は経営戦略リスクへの対応が重要で、具体的な戦略についてのメリット・デメリットを取締役会で議論し、社外役員や株主へ判りやすく説明することが必要であると考える。このような議論は日本の会社の経営会議では従来から当たり前にやってきており、これを上手に見える化し開示すべき点は開示することが大事である。

Q3.
リスクには幾つかのリスクがあるが、会社側でリスクを具体的にとらえられていない例が多いように思う。リスクとは何かと言うことを真剣に考える必要があると思う。
A3.
リスク事象は様々なものがあり、それを具体的に捉えるべきと言うのはその通りだと思う。リスクマネジメントとは「変化」のマネジメントであり、最近はその変化のスピードが非常に速いということが現在の特徴である。

【アンケートの結果】

  1. 講評

    アンケート回答者の90%が「大変参考になった」、残り10%が「参考になった」という結果であり、大変好評であった。

  2. 良かった点
    • 時宜を得た内容に加えて、網羅的な整理があって、判りやすい説明で、状況がよく理解できた。
    • 直近の経営課題について具体的に説明され、その対応についても納得がいった。
    • サステナブル経営と内部統制、コーポレートガバナンスの全体像を理解できた。
    • 形式だけではなく、運用面の問題も説明され、実態が理解できた。
  3. 改善点
    • 途中、Zoom画面が共有されなかったり、視聴者の声が入ったりして聞きづらいところがあった。視聴者の音声オフを徹底すべきである。
    • 先生の丁寧に回答される姿勢には敬服するが、もう少し簡潔でも良い。
以上
2022年4月22日

第17期 企業ガバナンス部会 第7回Webセミナー講演要旨

浜辺陽一郎氏
  • テーマ:
    • 企業法務のガバナンスを考える
    • 企業法務の近時の動向及びあるべき方向性
    • 企業法務の活用に向けて必要となる経営者の役割
  • 日 時:2022年4月15日14時~16時
  • 講 師:青山学院大学法学部教授、弁護士 浜辺陽一郎
  • 参加者:20名(申込者を含む)

【要旨】

  1. 企業法務の近時の動向

    企業法務を巡る近時の動向としては、社内弁護士の増加、いわゆるリーガルテック(IT及びAIの活用や外国弁護士を起用する機会の増加といった動きが見られている。このような動きを経営に活かすためには、コストに見合うベネフィットを常に念頭に置き、それらをしかりと使いこなす人材を確保・育成することが求められる。

  2. 国内外の厳しい競争に打ち勝ち、生き残るために

    国内外の厳しい競争に打ち勝ち、生き残るためには、法務コンプライアンス部門の存在意義を十分に認識する必要がある。企業法務部門とコンプライアンス部門の関係は、企業の健全性や持続可能性を確保するために極めて重要である。企業の社会的責任を自覚し、これを戦略的に捉えていくためには、両部門を一体として運用することが肝要である。

  3. リーガルマインドの涵養と弁護士倫理に対する理解

    弁護士等の外部専門家を活用する局面では、自社が賢明な依頼者となるためには、「リーガルマインド」が不可欠である。そもそも、様々なプロフェッショナルの職務倫理規範は何のために存在するか?と言えば、「公」的な役割を担うとともに、依頼者の正当な利益の保護にある。私的利益の追及との調和を図り、依頼者への忠実義務が絶対的なものではなく、真実義務との関係も考慮する必要がある。このような、企業側の経営倫理や企業倫理とプロフェッショナルの職業倫理との相互補完性を良く認識しておくことが肝要である。

    そのためには、弁護士倫理に対する理解が極めて重要となり、弁護士職務基本規程に留意する必要がある。先ず、弁護士を起用する局面では、事件について有利な結果を請け合い、保証してはならない等という定めがあるが、これは依頼者を守るためにある。そして、企業・依頼者として「企業の社会的責任」との関係で、事件解決に向けてどのような形・方向性に持っていくのか、その妥当性をどう考えるのかといった視点が求められる。次に、弁護士報酬について合意する局面では、弁護士から事件の見通し、処理方法や弁護士報酬・費用について適切な説明を受けて、どのような副作用があるか、相手側から考えられる反撃の予想などについてよく認識する必要がある。その次に、弁護士の紛争処理プロセスを監督する局面がある。依頼者の意向に応じて紛争対応をしていくというのが弁護士の務めであるが、そもそも弁護士がどのような活動をしているのかをチェックするのは依頼者、企業法務部門の役割である。その際に肝に銘じるのは、感情的になりやすい依頼者を抑え、紛争領域を絞っていくのが見識ある弁護士のスタイルということになる。また、利益相反問題や潜在的な利害対立問題(とにかく訴訟主義等)などにも留意が必要である。

  4. 企業法務のあるべき方向性

    現在、高度化・複雑化に対応できる組織力・人材の強化が求められている。企業側が弁護士の生態を肌感覚として理解していることが重要であり、そのような人材を育成していることが必要である。また、それを補うために、社内弁護士起用等による企業法務部門によるチェック体制の強化やセカンドオピニオン活用も必要である。このような依頼者側の適切な対応や正しい姿勢によってこそ、弁護士の本当の正しい能力を引き出すことができる。

  5. 企業法務の活用に向けて必要となる経営者の役割

    企業組織体に求められる実質的に機能する「内部統制」の構築・運用、その一環として法務コンプライアンス部門の充実と強化が含まれている。

    企業自体がコンプライアンスを目指すことにより、組織自体の法務機能の向上を図り、業務全体の質的向上や効率性・生産性の向上を図り競争力の強化を実現していくことが大切であり、詳細は講師の近著「企業改革への新潮流 法務コンプライアンス実践ガイド」(清文社2021年11月)を参照ください。

【Q&A】

Q1.
企業の顧問弁護士と当該企業の社外取締役を兼務する例が見受けられる。線引きが必要と考えるがどうか。
A1.
ご指摘の通り線引きは必要で、利益相反の問題や潜在的な利害対立問題、弁護士倫理に照らして判断を行う必要がある。関連して、企業と社外取締役の関係では、企業の重要な取引先の関係者が当該企業の独立社外取締役に就任できるのかという問題がある。米国ではこれが明確に制限されているが、わが国では重要な取引先の定義の難しさもあって制限がなされていないのが現状である。
Q2.
講師が所属されている弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニックとはどのようなものか。
A2.
早稲田大学に併設された法律事務所である。リーガル クリニックとは臨床体験を通じ、真の法曹を養成する教育プログラムで、法曹養成を目的に設立された法科大学院の臨床法学教育(Clinical Legal Education)の一つであり、学生が、実務体験を通して求められる実用的な法の力を習得することを目標とするものである。その一環として、早稲田大学の法科大学院に付設した当事務所において、弁護士及び大学教員の指導監督のもと、学生が実際の法律相談の場に立ち会う法律相談(無料法律相談 臨床教育用)を実施している。

【アンケート結果】

  • 良かった点

    • 会社法判例百選の事例を示されていたこと。
    • リーガルの課題と対応について、気づきがあった。
    • 論理的で歯切れの良い説明で分かり易かったと思います。
    • 難解な内容をとても分かり易く説明頂いた。特に実例を交えたお話は理解し易かった。
  • ご感想・ご意見

    リーガルマインドがあればいいというわけでなく、具体的な事例の対応策、姿勢について学ぶことが多かった。
以上
2022年3月25日

第17期企業ガバナンス部会第6回WEBセミナー開催

第17期 企業ガバナンス部会 第6回セミナーを以下の通り開催しました。

  • テーマ:「サステナブル経営とコーポレートガバナンスの進化」
  • 日 時:2022年3月16日(水)14:00~16:00
  • 場 所:Zoomを利用したオンライン方式
  • 講 師:東京都立大学大学院経営学研究科教授 松田千恵子 氏

  1. プライム市場への移行
  2. 「執行」と「監督」の分離(モニタリングボードの奨め)
  3. 人的資本への注力/多様性の確保
  4. 事業の将来像+サステナビリティ(事業戦略)
  5. 事業ポートフォリオマネジメント+資本コスト(全社戦略)
詳しくはこちらをご覧ください。
2022年3月4日

第17期企業ガバナンス部会第5回WEBセミナー開催

杉田 純 氏

第17期 企業ガバナンス部会 第5回セミナーを以下の通り開催しました。

  • テーマ:「企業のサステナビリティ・ガバナンスへの対応」
  • 日 時:2022年2月17日(木)14:00~16:00
  • 場 所:Zoomを利用したオンライン方式
  • 講 師:三優監査法人会長パートナー 杉田 純 氏
  • 参加者:46名

【セミナー概要】

  1. 経済環境の変化
  2. 新市場の動向
  3. 改訂CGコードの概要
  4. サステナビリティ・ガバナンスと気候変動リスクの開示
  5. サステナビリティ・ガバナンスと人権尊重
  6. 2021年の一連の制度改定による監査役関連基準の改訂
詳しくはこちらをご覧ください。
2022年3月1日

第17期 企業ガバナンス部会 第4回セミナー開催

五味 裕子 氏

第17期 企業ガバナンス部会 第4回セミナーを以下の通り開催しました。

  • テーマ:「公益通報者保護法と危機管理
  • 日 時:2022年1月31日(月)
  • 会 場:ZOOMを利用したオンライン形式
  • 講 師:五味 祐子 氏(国広総合法律事務所 パートナー弁護士)
  • 参加者:30名

【セミナー概要】

不正などの内部通報者を守る改正公益通報者保護法が6月に施行される。 公益通報者保護法はもともと2006年にスタートしたが、企業不祥事のたびに機能不全が指摘されてきた。そこで、従業員300人超の事業者には、内部通報体制の整備が義務付けられるとともに、公益通報対応を行う責任者や担当者の守秘義務を厳格化することによって、通報者探しに繋がる行為を禁止して通報者保護を強化している。通報者の保護を強化することで企業の自浄能力の向上に繋がることが狙いである。

さらに、経営層が関与する不祥事が相次いだ現実を踏まえ、改正法は経営層等から独立性を確保するための措置を講じることを義務付け、ガバナンスの強化を求めている。そして、最近のSDGsやESGの潮流の中で、今回の法改正が全ての企業でガバナンスとコンプライアンスの質を見直し、向上させる機会になることが期待されている。

詳しくはこちらをご覧ください。
2022年1月8日

第17期 企業ガバナンス部会 第3回セミナー開催

武田 智行 氏

第17期 企業ガバナンス部会 第3回セミナーを以下の通り開催しました。

  • テーマ:「社外取締役になるためのTips
  • 日 時:2021年12月24日(金)
  • 会 場:ZOOMを利用したオンライン形式
  • 講 師:武田 智行 氏(御園総合法律事務所 弁護士)
  • 参加者:41名

【セミナー概要】

武田氏の略歴や最近の業績などが司会者から紹介された後、武田講師より本日の講演要旨が説明され、下記の項目に沿って講演が始まった。

  1. 社外取締役を巡る近時の状況
  2. 社外取締役に就任するためには
  3. Appendix:上場準備企業の監査役の就任打診があった場合の留意点

また、講演後のアンケート結果も好評で、80%の方が「内容につき大変参考になった」と回答、良かった点を「社外役員になるためのアピール方法を理解できた」、「社外役員を選ぶ側の事情が良く分かった」、「社外役員就任時の留意点が明確に示された」、「DF会員に合わせた内容であったこと」、などと感想を寄せている。

詳しくはこちらをご覧ください。
2021年12月16日

第17期 企業ガバナンス部会 第2回セミナー開催

今井 祐

第17期 企業ガバナンス部会 第2回セミナーを以下の通り開催しました。

  • テーマ:「新コンプライアンス経営」
    ~ 短期主義 ショートターミズム の弊害排除とサステナビリティを目指して~
  • 日 時:2021年11月25日(木)14:00~16:00
  • 会 場:Zoomを利用したオンライン方式
  • 講 師:今井 祐氏(DF会員、日本経営倫理学会常任理事)
    (写真右:日本経営倫理学会サイトより)
  • 参加者:23名

【セミナー概要】

今井氏の経歴や最近の著書などが司会者から紹介された後、今井講師から本日の講演の趣旨や使用された略称が説明され、下記の章建てに沿って講演が行われた。

  1. 序章:2014年以降の企業統治の制度改革の急展開
  2. 第1章:新コンプライアンス経営の概念図
  3. 第2章:近年の不祥事(60社)の内容・特徴
  4. 第3章:近年の60社企業不祥事の真因と対策
  5. 第4章:倫理・コンプライアンスプログラムの制度化
  6. 第5章:不祥事60社中、41社(70%)経営者の資質・能力に問題あり
  7. 第6章:コンプライアンスの実効性を上げるために経営者資質・能力はどうあるべきか
詳しくはこちらをご覧ください。
2021年11月17日

第17期 企業ガバナンス部会 第1回セミナー開催

第17期 企業ガバナンス部会 第1回セミナーを以下の通り開催しました。

  • テーマ:「成長投資とコーポレートガバナンス」
    ~考え方とリスクマネジメント業務・四半期報告を
    支えるDXについて~
  • 日 時:2021年10月29日(金)14:00~16:00
  • 会 場:Zoomを利用したオンライン方式
  • 講 師:インテグラート株式会社 代表取締役社長 小川 康 氏
    (写真右:インテグラート社サイトより)
  • 参加者:23名

【セミナー概要】

小川氏の経歴やインテグラート社のサービス内容が簡単に紹介された後、小川氏から「本日は、成長投資のリターンを高めるために、将来予測の仮説(前提条件)を明確化し、継続的に管理するコーポレートガバナンスの実効性を高める仕組み、取締役会を支える仕組みについて考えたい。提出される情報の質を高めて取締役会を支えるために、事業部門と管理部門が情報共有を継続していくことを仕組みとして紹介したい」とのお話に始まり、以下の内容にて講演が行われました。

  1. インテグラートの紹介と顧客企業事例
  2. 将来予測の合理性に関する一般的な課題
  3. 議題解決の手法:仮説指向計画法(DDP : Discovery-Driven Planning)
  4. 課題解決のクラウドシステム:DeRisk(デリスク)
詳しくはこちらをご覧ください。