( 2019年7月6日 )
今回は、令和に入り最初の環境セミナーで、6月10日(月)14時~16時、東京ウイメンズプラザにて、自然電力株式会社 代表取締役社長 磯野 謙 氏をお迎えして、講演1時間、質疑応答1時間、朝から大雨の中60名の参加者を得て開催した。
2011年6月、東日本大震災の3ヶ月後設立。代表者は設立前、ベンチャー企業で風力発電事業に関わった磯野氏含め3名の共同代表にて運営。
自然電力(株)は、太陽光発電からスタートし、現在、事業の8~9割を占めている。
風力発電、洋上風力、小水力、バイオマス等あらゆる再生可能エネルギーを手がけており、地熱発電は今後の課題としている
再生可能エネルギーを最大限活用するために各国が蓄電池開発を始めた。まだ蓄電池は高コストだが、生産量が増えるにつれてコストは急速に大幅低下するだろう。今世紀前半にも再生可能エネルギーは全電力の半分以上を供給すると予想(ブルームバーグ)。
現在、日本でも家庭用ソーラー発電コストは電力会社の電気料金より安くなっている。
産業用はまだ電力会社の料金の方が安い。海外では、産業用も電力会社の料金より安い。
自然電力はブラジル、インドネシアでも低価格の電力を供給しようと努力している。
コラボレーション(異業種や遠隔地を結ぶ)がイノベーションの源泉と考えている。
例えば、アートの未来を目指した The Chain Museum と協働し、唐津の風力発電機のナセル組立ボルトの上に、著名な現代美術家の作品を展示している。また、白馬をはじめ、各国の自然の雪山を滑る「フリーライド」を主催する Freeride World Tour とスポンサーシップを結び、地球環境の持続可能性に貢献する再生可能エネルギーの認知拡大に努めている。
アントレプレナーシップは“独立自尊”である。江戸末期に出版の『自助論」でもほぼ同じことが言われたが、何事も他人のせいにせず、自立して未来に向かうことが大事と考える。
ベンチャーを一時的なブームにせず、文化として定着させるには、実現のため強い気持ちを持った人達を大切に育てていくことが必要である。私たちも国内では少なからず高い評価をいただいているが、社内に緩みが見え始めたら、創業当時の意識を忘れず、海外でも初心をもって事業を拡げていきたい。(講演終わり)
〔質問1〕ビジネスモデルはほぼ理解した。地域共生を図ることは、事業運営に有利になると思う。発電所の設計、メーカー選定、施工はどのようにしているのか?
《回答1》
〔質問2〕エネルギーのコスト、安定性、地球温暖化を全て考慮すると、エネルギー源は何が良いか分からない。再生可能エネルギーの予想比率64%は実感が涌かない。安定供給のために高コストのバッテリーを全国に設置も疑問、地熱発電の適地は限られている。いろいろな問題点も考慮して、発電事業者としてどれが好いと思うか?
《回答2》
〔質問3〕エネルギーは市場が決めると言うが、電力については規制が強いので、現在の規制のまま続けば、将来の事業発展に差し障りがあるというものはあるか?
《回答3》数多い規制の中でも、事業の発展に影響するのは2つの要件がある。
① 送電系統接続の規制。電力会社の系統運用者が自らを変えるのに時間がかかるので、政府が関与して欲しい。電力会社の送電設備を使わずに、需要家に直接供給することも考えざるを得ない。
② 分散電源の立地点では、地元の合意形成が難しいので、合意しやすいように政府が指針を決めて欲しい。ヨーロッパではゾーンニングといって、国が発電用土地の用途を指定して環境アセスもやっている。
〔質問4〕最近政府はFIT買取価格を下げており、既存のソーラー事業者の中には縮小・撤退や代りに地熱等の開発を考える者もいる。地球環境対策として危険な原子力は止めると再エネ発電しか残らないが、今後の方向性はどうか? 再エネ事業は低コストでも拡大して行くか?
《回答4》世界的にソーラー発電コストは下がり続けるが、発電量は右肩上がりに伸びる。国内では買取価格低下により大規模なメガソーラー発電の拡大は無理で、自家消費に向かうとみている。ソーラー以外の再エネはプロの世界で、容易に新規参入はできない。風力発電には外資系の参入が増えるのではないかこれから国内企業は自力単独ではなくパートナーと組む方が短期間で完工が期待できる。
〔質問5〕日本では全国的なスマートシティ化は難しいと思われる。自然電力はグローバルな建設会社だと思うが、ソーラーと風力の地産地消例や面白い利用例を教えて欲しい。
《回答5》自然電力の建設業部分は一部で、メインは電力会社。事例として、ブラジルやインドネシアのように、企業の自社消費のために直接供給しようとしているが、これらはFIT買取制度の枠外事例。最近、海外の島嶼地域で島全体に電力供給する検討要請を受けた。スマートシティではないが、電力系統がなくゼロからインフラ整備をスタートする途上国では、港湾や町に供給する案件がある。
〔質問6〕“あてにできない”再エネ発電で地産地消した例はないか?
《回答6》精密機械の工場はおそらく難しいが、ディーゼルエンジンを使う鉱山機械の駆動にバッテリーと組み合わせて供給した事例はある。町全体の供給は実例がないが、一部だけならバッテリーと組み合わせて実施することが可能。
〔質問7〕再エネ事業で予想されるリスクは二つある;①は事業期間内の買取価格低下、②は受入電力が求める出力抑制で、これらをどう見込むか? 出力抑制は電力会社によって差があると思うが、電力会社別にはどう見ているか。またリスクをカバーするため投資収益率にヘッジ分を上乗せすることはあるか。企業秘密かも知れないが、言える範囲内で教えて欲しい。
《回答7》
〔質問8〕先ほど通信の歴史との比較を聴いて、電力もベストエフォートにすれば大幅なコストダウンが達成できるかも知れないが、5G通信が普及すると自動運転などで使われるため、逆に通信も絶対切れないことが要件になる。電力もベストエフォートではなく、もっとコストダウンできる別の技術革命があり得るのではないか。
《回答8》今の日本では再エネが高くて不安定な電力とされているが、10年くらい後には世界の主要電力会社がほとんど再エネ中心の電源構成になる時代が来ると思う。その頃再エネは安くて安定な電力になることが、技術革新によってきっと実現するはずだ。そのはしりとして最近、東京電力と自然電力などが、また中部電力とトヨタが組んで、それぞれVPP(virtual power plant 仮想発電所)として制御するための実証事業を始めた。自然電力も海底用蓄電池を用いて4秒で周波数制御を行う実証事業に参加する。
この様な技術革新は、規制の強い日本より、インフラが未発達のケニアなどの開発途上国で早く実現するかもしれない。(以上、質疑応答は終わり)
以上
文責:布施 和夫