2019年7月6日

第41回DF環境セミナー 講演録

「日本の電源構成は、
再生可能エネルギーが主役になった?」

 

講師今回は、令和に入り最初の環境セミナーで、6月10日(月)14時~16時、東京ウイメンズプラザにて、自然電力株式会社 代表取締役社長 磯野 謙 氏をお迎えして、講演1時間、質疑応答1時間、朝から大雨の中60名の参加者を得て開催した。

1.会社紹介(概略)

2011年6月、東日本大震災の3ヶ月後設立。代表者は設立前、ベンチャー企業で風力発電事業に関わった磯野氏含め3名の共同代表にて運営。

自然電力(株)は、太陽光発電からスタートし、現在、事業の8~9割を占めている。

風力発電、洋上風力、小水力、バイオマス等あらゆる再生可能エネルギーを手がけており、地熱発電は今後の課題としている

2.なぜ再生可能エネルギーなのか

  1. 世界の再生可能エネルギーの割合(大ダム式水力含む)は、2015年時点で約30%、2040年には64%に達し、その約半分の約30%は太陽光(ソーラー)発電と予測し、世界で最も大きなエネルギー産業は再生可能エネルギーであろう(ブルームバーグ)。
  2. ソーラー発電が急速に普及した要因は、圧倒的にソーラーパネルの低コスト化にある。ソーラーパネルのコストは過去10年で約90%も下がった(ブルームバーグ)。日本のマスコミは、ソーラー発電を高くて不安定なエネルギーと見ているが、過去10年とか未来10年とか、もっと長い時間軸で価値を見るべきだ。
  3. ドイツなど欧州では早くから再生可能エネルギーの価値に気づき普及が拡大し、続いて中国などで急速に拡大した。風力発電は過去10年で約50%コストが下がった結果、国や地域によるが、風力やソーラーが世界で最も安い電源となっている。

3.世界のエネルギーと産業の動き

  1. 世界のトップ企業が、自分達の使うエネルギーの100%を再生可能エネルギーで賄うと宣言して“RE100”という企業連合を形成した。2018年アップルは目標を達成し、サプライヤーに対してビジネス面でプレッシャーをかけている。
  2. ジェレミー・リフキンの『限界費用ゼロ社会』にあるように、19世紀には石炭を燃料とし、蒸気印刷機で新聞が大量に印刷され、蒸気機関車がそれを遠くに運ぶことでメディアを変えた。その後は石油燃料の自動車と石油火力発電の電気が電話・テレビ・ラジオを普及させた。21世紀には「通信」はインターネット、「エネルギー」は再生可能エネルギー、「物流」は電気自動車の3つが社会を変貌させる。ソフトバンクの孫正義会長もこの3つを軸として投資していると思われる。中国、EU諸国、米国も国家政策としてこれらを推進しているが、残念ながら日本はこれに乗り遅れつつある。

4.再生可能エネルギーと蓄電池

再生可能エネルギーを最大限活用するために各国が蓄電池開発を始めた。まだ蓄電池は高コストだが、生産量が増えるにつれてコストは急速に大幅低下するだろう。今世紀前半にも再生可能エネルギーは全電力の半分以上を供給すると予想(ブルームバーグ)。

5.発電コスト

現在、日本でも家庭用ソーラー発電コストは電力会社の電気料金より安くなっている。

産業用はまだ電力会社の料金の方が安い。海外では、産業用も電力会社の料金より安い。

自然電力はブラジル、インドネシアでも低価格の電力を供給しようと努力している。

6.会社紹介(詳細)

  1. 現在までに約1,300MW(原発1基分相当)の再エネ発電事業に携わり、海外はブラジル、インドネシアでプロジェクト開始。台湾、フィリピン、マレーシアなどでも事業化調査中。
    自然電力グループが既に完工発電所の設備出力は約181MW、全国で60箇所以上ある。
  2. 事業内容は、メーカー機能以外EPC(エンジニアリング、機材調達、製作、建設工事)の業務を実施している。在来の電力会社と同様、発電所の適地を探して地元合意と許認可を取得し、資金調達、建設工事も一部行い、設備の保守運営、電力小売販売も行っている。再生可能エネルギーに特化した小さな電力会社である。
  3. 創業以来8年間に、再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取制度)のおかげで、爆発的にソーラー発電、風力発電が増えた。しかし地元にとっては、巨大な分散型電源が多数並ぶ再エネ発電は迷惑施設にもなってしまった。そこで、地元目線で“自然の力で街づくり”に協力し、新しい地域創生モデルを提案することで、地元からの賛同を得ることができた。昨年、長野県小布施町、地元ケーブルテレビ会社のGoolight、自然電力の3社が合弁会社「ながの電力」を設立し、小布施松川小水力発電所(190 kW)と地元でのソーラー発電の電力の販売を目指している。併せて地域貢献・地域課題解決のための生活支援サービスも提供していこうと事業を進めている。
  4. 2019年の社員数は約200名、国籍は累計20カ国以上。年齢構成で特徴的なのは60~70代が約15%を占める。本業の発電所建設には、実務経験の豊かなベテラン技術者が、設計・建設等のエンジニアリング、安全管理を徹底し、その知見を若い世代へ伝えている。

7.私たちの独自性

(1)第1の独自性

  1. 創業時から「投資家のためではなく未来のために働く」という姿勢を堅持。資本構成を大切にし、株式の大部分は創業者3人が保持、一部東京ガスが保有。
  2. 資本提携先は、東京ガスおよびファンド運営で独立系最大REITのKENEDIX投資法人などと提携。
  3. 世界で2番目の再生可能エネルギー・デベロッパー・ドイツのEPC会社(設計・機材調達・建設工事すべてを行う)juwi(ユーイ)と合弁会社(juwi自然電力およびjuwi自然電力オペレーション)を設立。

(2)第2の独自性

  1. “グローバルとローカル”。
    グローバルは各地域の良い物を世界的に繋いでいくという考え。
  2. グローバルな人事採用の実施としては、世界中の応募から、インターンとして数ヶ月間を実際に会社で過ごしてもらい、会社の思想を共有した人の中から選んでいる。
  3. 日本政府(JICA)が実施の国際協力事業 “ABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ)” にも参加して、アフリカからもインターン生を受け入れており、その結果、セネガル、ケニアでの事業も調査中。
  4. 日本では、創業当初から自治体との合弁会社設立等、発電所の売電収益の約1%を地域に還元する取り組み(「1% for Community」)を進めており、地域社会の課題解決のため事業者を支援する「自然基金」を設立し、よりインパクトをもって地元の文化や産業へ貢献していきたいと考えている。事例としては、熊本県にて地元クラフトビール醸造業者へ地場農産物使用レシピの新ビール開発に売電収入を充当し、昨年から販売が始まった。(朝日新聞2019.3.21掲載)
(クリック⇒PDF)

(3)第3の独自性

コラボレーション(異業種や遠隔地を結ぶ)がイノベーションの源泉と考えている。
例えば、アートの未来を目指した The Chain Museum と協働し、唐津の風力発電機のナセル組立ボルトの上に、著名な現代美術家の作品を展示している。また、白馬をはじめ、各国の自然の雪山を滑る「フリーライド」を主催する Freeride World Tour とスポンサーシップを結び、地球環境の持続可能性に貢献する再生可能エネルギーの認知拡大に努めている。

8.アントレプレナーシップ

  1. 激変する改革の時代には、膨大な事業計画を作成しても直ぐに時代遅れになり、よりフレキシブルに動ける会社が必要だという世界的潮流が日本にも来たと感じる。
  2. 3人共同経営で起業すると、多くは失敗すると云われているが、自然電力3人が成功しているのは、創業前に同じ再生可能エネルギー事業会社で苦しい事を乗り越えた仲間同志で、互いに強く信用し、毎週末3人で会話し常に意思疎通を図っていることによると考えている。
  3. 創業時は資金が無かったこともあり、大手企業との提携を進めた。2012年熊本製粉から熊本県初のメガソーラー発電所の発注を受け、その後も県内のソーラー発電事業を続けた。また同年、岡山県で国内最大メガソーラー発電所(250MW)建設に、日本IBM、NTT西日本、ゴールドマンサックス、東洋エンジなど7社のJ/Vに参加し2016年に完工。
    2017年東京ガスと資本業務提携を結び、VCを始めるきっかけを作った。
    このように奇跡的なことが続いたが、自然電力を支援してくれた大企業とめぐり会えたのは、本気で地球環境と日本・世界のエネルギー問題を解決することを目指し、長期的目線でやり遂げる覚悟を持って取り組んでいることを信用してくれたからだと思う。

9. 母校の慶応大学創立者・福沢諭吉先生

アントレプレナーシップは“独立自尊”である。江戸末期に出版の『自助論」でもほぼ同じことが言われたが、何事も他人のせいにせず、自立して未来に向かうことが大事と考える。

10.未来へ向けて

ベンチャーを一時的なブームにせず、文化として定着させるには、実現のため強い気持ちを持った人達を大切に育てていくことが必要である。私たちも国内では少なからず高い評価をいただいているが、社内に緩みが見え始めたら、創業当時の意識を忘れず、海外でも初心をもって事業を拡げていきたい。(講演終わり)

 

質疑応答

〔質問1〕ビジネスモデルはほぼ理解した。地域共生を図ることは、事業運営に有利になると思う。発電所の設計、メーカー選定、施工はどのようにしているのか?

《回答1》

  • 設計には、世界共通のルール(技術基準)と現地のローカルルールを夫々適用する。国内では自前スタッフが行うが、海外では提携先のEPC juwiか地元企業に委ねる。
  • メーカー選定については、ソーラー発電設備のメーカーは無数にあるので、品質と価格の兼ね合いで信頼度が高いトップ企業を選ぶ。風力発電設備は国内メーカーがほとんどないので、GE、シーメンス、ヴェスタスのものを採用。

〔質問2〕エネルギーのコスト、安定性、地球温暖化を全て考慮すると、エネルギー源は何が良いか分からない。再生可能エネルギーの予想比率64%は実感が涌かない。安定供給のために高コストのバッテリーを全国に設置も疑問、地熱発電の適地は限られている。いろいろな問題点も考慮して、発電事業者としてどれが好いと思うか?

《回答2》

  • いろいろな見方があって、どれが正解かは将来のことは分からない。ブルームバーグは、エネルギーは国の政策よりは市場が決めるので、安くて簡単なものが普及すると言っている。エネルギーだけではなく、自動車も安くて簡単なEVになると予想。ソーラー発電はそのうち3Dプリンターで作れるようになると予想する人もいる。そのうちエネルギーは“エネルギー屋さん”のものではなくなる。
  • 安定性とコストについては、通信自由化でも同様の議論があった。昔は絶対安定が要求されたが、ベストエフォートに変わって通信コストは劇的な低下を遂げた。産業用は安定が大事だが、地域にもよるが家庭用には多少の変動でも許されるところがある。
  • EUのTSO(独立電力系統運用者)は再エネ比率が40%までならバッテリーを使わなくても系統運用は可能と言っている。テスラはバッテリーコストを市場価格の1/3で供給すると言っている。電力変動があっても家庭用電気機器の制御はインターネットIoTによって可能になると思われる。
  • 現在の日本のエネルギー論争は、幕末期の体制変革論争と同じで、世の中が将来どう変化するかは分からない。

〔質問3〕エネルギーは市場が決めると言うが、電力については規制が強いので、現在の規制のまま続けば、将来の事業発展に差し障りがあるというものはあるか?

《回答3》数多い規制の中でも、事業の発展に影響するのは2つの要件がある。
① 送電系統接続の規制。電力会社の系統運用者が自らを変えるのに時間がかかるので、政府が関与して欲しい。電力会社の送電設備を使わずに、需要家に直接供給することも考えざるを得ない。
② 分散電源の立地点では、地元の合意形成が難しいので、合意しやすいように政府が指針を決めて欲しい。ヨーロッパではゾーンニングといって、国が発電用土地の用途を指定して環境アセスもやっている。

〔質問4〕最近政府はFIT買取価格を下げており、既存のソーラー事業者の中には縮小・撤退や代りに地熱等の開発を考える者もいる。地球環境対策として危険な原子力は止めると再エネ発電しか残らないが、今後の方向性はどうか? 再エネ事業は低コストでも拡大して行くか?

《回答4》世界的にソーラー発電コストは下がり続けるが、発電量は右肩上がりに伸びる。国内では買取価格低下により大規模なメガソーラー発電の拡大は無理で、自家消費に向かうとみている。ソーラー以外の再エネはプロの世界で、容易に新規参入はできない。風力発電には外資系の参入が増えるのではないかこれから国内企業は自力単独ではなくパートナーと組む方が短期間で完工が期待できる。

〔質問5〕日本では全国的なスマートシティ化は難しいと思われる。自然電力はグローバルな建設会社だと思うが、ソーラーと風力の地産地消例や面白い利用例を教えて欲しい。

《回答5》自然電力の建設業部分は一部で、メインは電力会社。事例として、ブラジルやインドネシアのように、企業の自社消費のために直接供給しようとしているが、これらはFIT買取制度の枠外事例。最近、海外の島嶼地域で島全体に電力供給する検討要請を受けた。スマートシティではないが、電力系統がなくゼロからインフラ整備をスタートする途上国では、港湾や町に供給する案件がある。

〔質問6〕“あてにできない”再エネ発電で地産地消した例はないか?

《回答6》精密機械の工場はおそらく難しいが、ディーゼルエンジンを使う鉱山機械の駆動にバッテリーと組み合わせて供給した事例はある。町全体の供給は実例がないが、一部だけならバッテリーと組み合わせて実施することが可能。

〔質問7〕再エネ事業で予想されるリスクは二つある;①は事業期間内の買取価格低下、②は受入電力が求める出力抑制で、これらをどう見込むか? 出力抑制は電力会社によって差があると思うが、電力会社別にはどう見ているか。またリスクをカバーするため投資収益率にヘッジ分を上乗せすることはあるか。企業秘密かも知れないが、言える範囲内で教えて欲しい。

《回答7》

  • 買取価格低下の制度リスクは見込んでいない。売電契約条件に一定期間の出力抑制が明記されている場合は、リスクシミュレーションをして確認している。
  • 出力抑制が多いのは北海道と九州だが、海外でも出力抑制はある。当初開業したプロジェクトは抑制条件がなく、大きな価値を生んでいる。シミュレーションは社内、外部、業界団体の3箇所で実施し、九州では抑制を予想するノウハウを持つ。関東・中部・関西ではそれほど抑制リスクはない。
  • FIT買取制度が施行される前のRPS制度の段階で風力発電の開発に関わったので、FITよりもっと厳しい条件で電力会社と相対交渉をした経験が、運営リスク管理に役立っている。厳しい環境で事業化を経験したので、日本より高リスクの海外でも対応可能。

〔質問8〕先ほど通信の歴史との比較を聴いて、電力もベストエフォートにすれば大幅なコストダウンが達成できるかも知れないが、5G通信が普及すると自動運転などで使われるため、逆に通信も絶対切れないことが要件になる。電力もベストエフォートではなく、もっとコストダウンできる別の技術革命があり得るのではないか。

《回答8》今の日本では再エネが高くて不安定な電力とされているが、10年くらい後には世界の主要電力会社がほとんど再エネ中心の電源構成になる時代が来ると思う。その頃再エネは安くて安定な電力になることが、技術革新によってきっと実現するはずだ。そのはしりとして最近、東京電力と自然電力などが、また中部電力とトヨタが組んで、それぞれVPP(virtual power plant 仮想発電所)として制御するための実証事業を始めた。自然電力も海底用蓄電池を用いて4秒で周波数制御を行う実証事業に参加する。
この様な技術革新は、規制の強い日本より、インフラが未発達のケニアなどの開発途上国で早く実現するかもしれない。(以上、質疑応答は終わり)

以上
文責:布施 和夫