( 2019年7月19日 掲載 )
2019年7月8日(月)15時から18時まで、学士会館202室にて、117名の参加者が参加、第182回講演・交流会が開催されました。
講師には本間希樹氏(国立天文台水沢VLB観測所所長、教授)をお招きし、タイムリーな演題「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)が捉えた巨大ブラックホールの姿」で興味深いお話をいただきました。
今年4月10日に「巨大ブラックホールの撮影成功」のニュースが世界を駆け巡りました。本間氏は、その中心となる日本を代表する研究者で、記者会見で画像を公表、その後もメディアに登場されブラックホールの解説をされています。
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すでに今年は50件の講演予定があり、6月末からは10日以上連続講演というお忙しい中、会員の澁谷和雄さんの紹介で今回の講演となりました。
講演内容は以下のとおりです。
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北緯39度の世界6か所に設置した望遠鏡で、連携して地球の首振り運動を観測するために水沢(岩手県奥州市)に天文台ができたことなど、国際的に協調して天文観測が行われている現状の説明から始まりました。世界各地に設置した電波望遠鏡による多くの観測結果を合わせて画像解析すると、一か所での観測では不可能な超大型の望遠鏡で観測したと同様な結果を得ることができるため、天文観測では国際協調が進んでいます。
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今回の撮影には、世界8か所のミリ波・サブミリ波干渉計(望遠鏡)EHT(Event Horizon Telescope)を結合させた国際プロジェクトの成果です。超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometry: VLBI)という仕組みを用いて、世界中に散らばる望遠鏡を同期させ、地球の自転を利用することで、地球サイズの望遠鏡を構成します。解像度20マイクロ秒角という極めて高い解像度を実現できました。これは人間の視力300万に相当し、月面に置いたゴルフボールが見えるほどの性能です。
今回撮影を目指したのは、おとめ座の銀河M87の中心に位置する巨大ブラックホールです。ブラックホールとは、強い重力のため光さえ脱出できない暗黒の天体。とてつもない高密度で、地球と同じ質量ならば僅か直径2cm、物質も光も飲み込む天体です。分かり易く例えれば「究極の飲ん兵衛。いくらでも飲め、絶対にはかない!」そして、吸い込まれるガスが高温になって輝く様は「飲むと明るくなるのは人間と同じ!」です。
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ブラックホールの重力によって光が曲げられたり捕まえられたりすることで、ブラックホールシャドウ(ブラックホールの影)が生まれます。それを調べれば、ブラックホールの性質についていろいろなことがわかりますし、ブラックホールの質量を測定することもできます。従来は、ブラックホールに吸い込まれるガスが高温となって輝いている映像しか撮影できませんでした。今回は、明るいリングの中に暗い部分が写し出されました。これこそが、ブラックホールシャドウであるということが、再現性などから証明できたのです。ブラックホールは、光さえも抜け出すことができない完全に真っ暗な天体です。ブラックホールシャドウは、そのブラックホールにもっとも近くまで視覚的に迫れる理論的な限界といえます。ブラックホールを分かり易く例えると、ドーナツではありません。大福です。真ん中のアンコがブラックホールで、周囲の薄皮がまとわりついた光の衣です。
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物理学的には、アインシュタインの一般相対性理論からブラックホールの存在が予言され(1916年シュバルツシルト解)、天文学的には、銀河の中心に活動性の元になる「何か」があることが20世紀初頭から知られ、観測からほぼ全ての銀河の中心にブラックホールがあると考えられ、重力波観測で小さなブラックホールの存在も確実になりましたが、「光さえ脱出できない暗黒の天体」であることを人類はまだ実際の画像として見たことはありませんでした。この度の画像で、銀河の中心にある天体が巨大ブラックホールであることが確実になったのです。100年にもわたる疑問に終止符を打つ成果です。「100年掛けて解こうとしてきたジグソーパズルの最後の1ピースが埋まった!」のです。本間講師は今回の成果をこのように表現されました。
これらの成果を得た世界の200名強のメンバーで、日本人は22名(国内14名)。画像解析ではスパースモデリングを利用した独自の方法で取り組み、従来法、米国方式と並んだ3つ目の方式として大きな貢献を果たしました。
新たな宿題も見つかりました。「ジェットとブラックホールの関係」「ブラックホールの回転はあるか」。今後の観測が重要です。
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熱い講演の後、多くの会員からの質問に分かり易く丁寧に回答をいただき、あっという間に90分の講演が終了しました。
なお、講演に関連した内容がこちらの「国立天文台ニュース」に記載されています。技術的な解説もありますので、ご興味のある方はご一読下さい。
以上
(記・保坂洋 写真・小林慎一郎)