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( 2014年4月25日 掲載)

DF監査役部会第9クール    第7回研修会

講師グローバル化が一層進展し、日本企業の構造改革が進む中で、M&Aがその手段として活用されるようになってきた。しかし、日本企業のM&Aは、必ずしも成功しているとはいえない。今回、M&Aの実務経験も豊富で、M&A理論の権威である服部教授から、M&A成功のための必要条件、日本企業のM&A失敗事例からの教訓について、ご講義をいただいた。監査役監査の重要ポイントとして、大変参考になる内容であった。

明瞭で歯に衣着せぬ語り口で、内容ともどもプレゼンも好評であった。

  • 開催日時:2014年4月17日(木)午後3時〜5時
  • 場 所:学士会館203号室
  • テーマ:「M&A 日本企業の成功と失敗」
  • 講 師:服部暢達氏(早稲田大学院ファイナンス研究科客員教授)

【要 旨】

1.M&Aの動向

  1. M&Aの長期トレンド:ブームと退潮の繰り返し。現在は20世紀初頭から数えて第6次ブーム後の退潮期。過去2年連続退潮後上昇しているが、今回は腰折れ!
  2. 日本企業のアウトバウンドM&A:80年代後半とネットバブル期に続く第3次アウトバウンド買収ブーム到来。2013年も円安にも関わらず好調。
  3. 日本企業のインバウンドM&A:99年以降インバウンド案件も増加してきたが、2013年は失速。
  4. 海外企業によるインバウンドM&A:99年以降の案件ばかりである。「失敗」や「失敗の可能性が高い」案件が多い。
  5. 日本の銀行業界の合従連衡と事業効率:銀行業界の合従連衡が進んだが、その効果は実現していない。なお、製造業は構造改革効果が実現している。
  6. 日米のM&Aプレミアム:世界(米国)のM&Aでは30%〜40%のプレミアムが支払われるのが常識。日本の買収プレミアムはやや低かったが、近年は米国に比べてもむしろ高め(プレミアムがプラスの案件では)。M&A全案件では、米国の最多値が20%〜40%であるのに、日本の最多頻度はマイナス10%〜プラス10%となっている。

2.M&Aの本質(現象と結果)

  • M&Aは「買手・売手の双方が株主価値増大(結果)を見込める時に成立する会社支配権の移動(現象)」である。先行研究データによれば、短期CAR(累積超過収益率、cumulated abnormal returns)で売手は20%〜30%、買い手は4%〜0%である。トータルとしては株主の富を創造している。
    なお、日本企業の場合、株主価値増大ではなく双方の役職員の身分保障や現経営陣への経営依存になりがち、また、対等合併など支配権の移動の観念が薄い。

3.M&A成功の必要条件

  • 売手はプレミアムを受領して投資を完了→成功は確実
  • 買手はプレミアムを支払って投資を開始→成功は不確実

*買手成功のための必要条件

  1. ① 負けから始める投資であることの理解
  2. ② 支払プレミアムを上回る価値創造の綿密な計画
  3. ③ そのためには経営権の取得不可欠。折衷案としての49%は最悪
  4. ④ そのためには自分で経営出来る力が必要
  5. ⑤ 欧米人経営者には飴(お金)と鞭(Replaceability)が必要
     更に、労働意識が日本と海外では全く違うことの留意。
    (海外の価値観:いくらくれるんだ。日本の価値観:企業への帰属意識)

4.日本企業のM&Aの失敗例・成功例及びチェックリスト(教訓)

  • 失敗:日本鉱業、ソニー、三菱地所、富士通、松下、ソフトバンク、NTT等々
  • 成功:ブリジストン、イオン、京セラ、DKB、日本たばこ、等々
◎ 失敗を防ぐための自問自答

*一時的な業界のバブルに賭けていないか?好況は持続可能か?

*自社・相手株式の評価は妥当か?割高であれば対価として現金ではなく自社株を使用するチャンスではないか?

*環境変化で劇的に不況化しないか?

*不測の事態に対するリスクヘッジは充分できているか?

*事業特性を理解しているか?他人任せでなく自分で経営できるか?

◎ 成功事例からの教訓

*戦略上のシナジー実現(判り易いシナジー:1分で説明でき、誰にもわかる)

*対象会社の経営者が(たまたま)優秀

以上