( 2012年4月17日 )

DF監査役部会第7クール    第8回研修会

監査役部会第7クール第8回研修会が、次のとおり開催されました。

講師
  • 開催日時:平成24年5月15日(火)午後3時〜5時
  • 場  所:学士会館202号室
  • テーマ:「コーポレート・ガバナンスと内部統制」
  • 講  師:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長
    小林利治先生 (東芝の執行役常務法務部長・取締役監査委員、日本年金機構の監事をご歴任)
  • 参加人員:約50人

【講演要旨】

Ⅰ.コーポレート・ガバナンス

「コーポレート・ガバナンス」というのは、経営者支配からくる弊害を最小化し、経営の健全性を確保するための仕組みである。後出の「内部統制」においては経営トップが主体となるが、ここでは彼らは監視・監督される側、つまり客体である。

  1. コーポレート・ガバナンスに係る3経営形態(公開・大会社の場合)の課題
    1. 監査役設置型(従来型)におけるガバナンスの課題
      1. 「決定」、「執行」、「監督」の全てを取締役(会)が行うため、下位取締役が上位取締役を監視・監督しにくく、監督機能の弱体化を招来するおそれがある。
      2. 重要なヒト、モノ、カネ、組織等につき取締役会の承認が不可欠のため、意思決定のスピード阻害、責任所在の曖昧さ<多数決による>を招来するおそれがある。
      3. 「監督」の重要要素であるインセンティブの決定(取締役報酬)、再任・不再任の決定(取締役候補者指名)にかかる不透明感(会長、社長等が密室で決める例が多い)がある。
      4. 監査役機能の充実が難しい(原則適法性監査、取締役会での議決権なし)。
    2. 執行役員制度型(従来型+執行役員制度)におけるガバナンスの課題
      1. 「執行」を執行役員に任せ、取締役(会)は「決定、監督」に徹しようとする制度であるが、法的にはこれらは全て取締役(会)の機能である。
      2. 執行役員は従業員の最高職位の位置づけにすぎない。
      3. 監査役設置会社の問題点はそのまま残存する。
      *なお、01、02 の課題をカバーする運用事例として帝人グループの経営体制があり、参考になる(取締役会の構成を事業担当役員ではなくコーポレート担当役員を中心にする、会長は取締役会の仕切り役と位置付け代表権は持たせない、執行役員を中核子会社の代表取締役とし法的な責任を持たせる、社外者中心に構成されるアドバイザリーボードに報酬委員会・指名委員会の機能を持たせる等)。
    3. 委員会設置型におけるガバナンスの課題
      この形態は、決定・執行と監督が分離しておりコンセプトとしては分かりやすいが、以下のような実務上の課題は残る。
      1. 監査委員会の、(執行役ではなく)取締役に対する監査をどのように行うか。
      2. 日常的な重要意思決定の最終責任者が(代表)執行役であるため取締役会によるチェックという最後の砦がない。
      3. 指名委員会での、新たな役員候補者の選任方法に決め手がない(解任には威力あるが‥‥)
  2. コーポレート・ガバナンスのカナメである社外役員に期待されること
    1. 経営に関するアドバイス(健全性確保のためには有用だが、業績向上に資するようなアドバイスを期待するのは危険)
    2. 透明性の確保(外部に説明できないようなことはやらないという企業風土の醸成)
    3. 専門的アドバイス(弁護士、学者など)
    4. 株主vs経営者の利益相反的事案への適切な対応(買収防衛策、配当、赤字事業の清算等)
    5. 経営判断原則の適用確保(意思決定プロセスのチェックなど)
    6. 内部統制体制の適正性確保(リスク管理体制の構築・運用のチェックなど)
  3. 「グループ・ガバナンス」と「監査に関するグループ・ガバナンス」というコンセプトが必須
    会社法が、内部統制はグループで行うべきことを要請しているため、そのモニタリング体制を含め全体を体系化する必要がある。
    1. グループ・ガバナンスとは、企業グループとしての内部統制システムを構築し、経営の効率性を高めるとともに、リスク管理、法令遵守を徹底することによりグループの企業価値の最大化を図るステムをいう(「東芝におけるグループ・ガバナンス」の実態を例に、グループ・ガバナンスの具体的説明があった)。
    2. 監査に関するグループ・ガバナンスとは、企業グループとしての内部統制システムの整備・運用状況を統一された監査方針に基づき監視、検証するシステムである(「東芝における監査に関するグループ・ガバナンス」の実態を例にグループ監査の具体的説明があった)。

Ⅱ.内部統制

会社法上「業務の適性を確保するための体制」と定義されており、コンプライアンス(「法令・定款遵守」)を含むリスク・マネジメント(「損失の危険の管理」)が柱である。上述のように経営トップが主体となって実施していく必要がある。

  1. 企業の抱えるリスクの種類
    1. クライシスリスク(コンプライアンスリスク+事故・自然災害等リスク)
    2. ビジネスリスク(経営判断リスク)
  2. 100億円〜1000億円のリスクコストを発生させるような大きなコンプライアンスリスクの事例と留意事項
    1. 人権問題(米国での人種差別、セクハラ等)
    2. 独禁法違反等(欧米でのカルテル等)
    3. 品質・PL問題(欧米に加え、日本、中国でも厳しさを増している)
    4. 隠蔽改竄(日本企業の「運用損の飛ばし」による粉飾等が大問題化している)
    *特に米国においては陪審制度、懲罰賠償制度(実損に加え、被告の悪性に応じて賠償額が青天井になる)、集団訴訟(たとえば品質問題で、販売した100万台について共通して100ドル相当の欠陥があれば、1台100ドルの損害賠償請求訴訟が瞬時に1億ドルという巨大訴訟になる)などがあり、損害額が多額になるうえ、結果の予測ができないので、法的リスクが大きい。
  3. クライシスリスクについては、体制整備などシステマティックな対応が不可欠
    1. 平時においては、リスクテーブルの作成、リスクマップ(リスク評価)の作成、 事業部門による自主点検サイクルの構築と実施、行動基準の周知徹底が肝要である。
    2. リスク発生時には、素早いCRO等への連絡、情報・対策等の一元管理の実行がポイントである。
    3. ホットラインの整備について:
      趣旨は、リスク情報がいきなりマスコミ等外部へ流出することの未然防止である。ホットラインのポイントは、通報者の氏名等の守秘、不利益な取り扱い禁止、弁護士ルートの併設などである。
  4. ビジネスリスク・マネジメントについて
    1. 取締役等は善管注意義務違反を問われないよう、経営判断原則に則り、合理的かつ誠実に経営判断をしなければならない。
      <経営判断原則の4要件は以下>
      ・法令等に違反しない。
      ・判断の対象に利害関係なし。
      ・前提となる事実の認識(意思決定のプロセスを含む)に重大かつ不注意な誤りが無い。
      ・意思決定の内容が、推論過程を含め特に不合理・不適切でない。
    2. 上記の原則に則るため、取締役等の意思決定は、コーポレートスタッフ部門等専門部門によるリスクスクリーニングの結果を踏まえた上でなされることが望ましい。
会場

以上