(01/08/2013)

第2回 環境とエネルギー シリーズセミナー 講演録

「 再生可能エネルギーの実態と将来の可能性」

千葉大学大学院人文社会科学研究科教授の倉阪秀史氏を講師にお招きして,「ディレクトフォース環境部会・環境新学習分科会」の主催で<環境とエネルギー>の4回シリーズセミナーの第2回目「再生可能エネルギーの実態と将来の可能性」が2012年12月21日に開催されました。

当日は55名の方々が参加され盛況のうちに講座が行われました。 主な内容は次の通りです。

  1. 日本の再生可能エネルギー

(1)日本は再生可能エネルギーには恵まれている国

  • 太陽光発電:日本の国土に注がれる太陽エネルギーは,日本の最終エネルギー消費量の100倍の量がある。技術的なポテンシャルもある。
  • 水力:日本は欧米の2,3倍の降水量に恵まれており,ダムを用いなくても発電に必要な落差を得ることができる。(2mの落差で発電できる)
  • 地熱:地熱資源の賦存量は世界第3位。温泉とは使うところが異なる(地表からの深さ)。全くの解禁ではないが国立公園でも認めていく方向。
  • 風力:北海道,北東北そして洋上で大きなポテンシャル。送電網の整備が必要。
  • バイオマス:間伐材をはじめとして木質系バイオマスの有効利用が必要。

(2)エネルギー永続地帯

  • 「その区域における再生可能エネルギーのみによって,その区域における地域的エネルギー需要を賄うことができる区域」で全国52市町村ある(2011年)。
  • 都道府県レベルでは,大分県の自給率が最も高く,10%超の都道府県は8県。

  1. 再生可能エネルギーは基幹的エネルギー源になるか

(1)量としては,2011年以前の原発相当分の発電量を得るポテンシャルがある。 2030年までに2009年の原発相当分の発電量を得るための事業費としては2兆5千億円/年。(参考:2011年年間道路事業費3兆1千億円,2011年エネルギー対策特別会計2兆4千億円)

  • 水 力:規制緩和も進んできている。適地はまだまだある。
  • 地 熱:安定的。20年間地熱発電は止まっている。景観に問題ない地熱発電は可能。
  • 風 力:洋上(将来は浮体式)の可能性。水素蓄電など蓄電技術を日本の先進技術に。
  • 太陽光:コスト低減が必要
  • バイオマス:熱供給とあわせて更に小型の設備を。

(2)化石燃料代替に伴う国富の海外流出の防止による経済効果がある。

(3)安定供給

  • 地熱,小水力は稼働率が高く,バイオマスは出力調整が可能
  • 太陽光と風力は供給過多になる恐れがあるので,電力会社間の融通強化,需要側のコントロール,畜エネルギー設備のコントロールを進めることが求められる。
  • 将来的には,高度な気象予測とITによる畜エネルギー設備コントロールを組み合わせて,再生可能エネルギーで必要なエネルギー需要を賄う社会になる。

  1. 再生可能エネルギーが育つまでの「つなぎ」をどうするか?今後のシナリオ

(1)省エネ努力を怠らず,省エネを進める

電力需要抑制の可能性

  • 人口減少に伴う需要抑制
  • 一人あたりの節電の定着による需要抑制
  • 照明や動力の効率向上による需要抑制
  • 再生可能エネルギー熱による電力代替

2030年に2009年比で75.7%に電力需要を抑制することができる

(2)熱需要が大きく,緊急時の電源多様化が必要な場所(病院,指定ホテル,老人ホームなど)から戦略的にコジェネシステムを導入する。

(3)15年から20年で再生可能エネルギーを基幹的エネルギー源に育てるため,再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度を適切に運用する。

  1. 再生可能エネルギーと地域経済政策

(1)再生可能エネルギーによる経済効果

電力需要抑制の可能性

  • 成長部門:世界市場での競争力を維持し,外貨を稼ぐ産業部門。国が行うもの。
  • 持続部門:地域の風土に応じて,人工資本,自然資本,人的資本,社会関係資本の維持・活用を図る産業部門。地方自治体が主体的に行うもの。

  1. 今後の政策

(1)「40年停止,新増設なし」を守れば2030年代には原発ゼロになる。

(2)固定価格買取制度

  • 再生可能エネルギー熱も加える必要がある
  • 地方自治体の役割を入れるべき
    地方の風土に適した再生可能エネルルギーを地域が選択して促進する仕組みが必要。
    再生可能エネルギー交付金,地方債,低利融資等を取り入れる。

(3)将来世代への責任を考えたエネルギーの選択

  • 風呂の水をガスで沸かすのは,チェーンソーでバターを切るのと同じ(by エイモリー・ロビンズ)
  • 原子力発電は,可採年数100年未満の枯渇性のウランを使用しながら,数万年に及ぶ放射性廃棄物の管理を将来世代に押し付ける技術である。
  • 再生可能エネルギー基盤の経済社会の実現は,将来世代への責任を果たす観点から必要不可欠である。

以上 
(文責:神山利)