(12/09/06)

第16回DF環境時事セミナー講演録

  • 講師開催日:2012/08/30(14:00 ~ 16:00)
  • 会 場:東京ウィメンズプラザ
  • テーマ:「東日本大震災後の東京都の環境・エネルギー政策」
      スマートエネルギー都市の実現に向けて  
  • 講 師:宮沢 浩司氏 東京都環境局環境政策部政策課長

  1. 東京都の環境・エネルギー政策

  1. 2年前にDF環境時事セミナーで「東京都のキャップ&トレード制度」(以後C&Tと略)の話をした時は大変関心が高くあちこちで数多く講演をしたが、大震災以後は全くC&Tに関心が無くなったように見える。つまりCO2より電力だ!ということ。 しかしこの電力対策に東京都のC&Tが非常に役立った。即ち省電力対策は省CO2対策そのものである。
  2. 2006年から低炭素都市への転換を最重要課題として位置づけて経済界と共に先駆的なCO2削減・省エネ制度を構築し、更に自立分散型電源の確保、需給の最適調整施策にも着手⇒低炭素、快適性、防災力の3つを実現するスマートエネルギー都市の実現に向けて様々な施策を総動員して取り組んでいる。

  1. 気候変動対策への都の基本姿勢

  1. 東京都はエネルギーの消費量が北欧の一国並み(ノルウェー、スウェーデン並み)という大消費地としての責務があるという基本認識。
  2. 低炭素社会の実現という不可避な制約の中で、東京都の経済や生活を支える基盤のエネルギースマート化を図り低炭素型の都市に変換することが結果的に東京都の持続可能な成長を可能にするという基本認識の下に様々な施策を展開してきている。
  3. 2010年からC&Tを導入して今年で3年目になるが、導入までの経緯は
    1. 第1ステップ:1300の大規模事業所にCO2排出量の報告と自主的な削減目標の設定を依頼し3年間で2%の削減となった(2002年〜2004年)。
    2. 第2ステップ:対象事業所がより高いレベルの削減対策に取り組むように都が基本対策を提示し都による指導・助言を行った。対象事業所は毎年排出状況を都に報告し、都はより積極的に温暖化対策に取り組む事業所を評価し公表する。5年間で6%に削減目標を引き上げた(2005年〜2009年)。
    3. 2010年から業務部門も対象にした世界で初めての都市型C&T制度を施行した。今までの環境規制はしきい値を設定し、それを超えたら直ちに罰則を科すものだったが、CO2排出量の場合はしきい値を設定し、それを超えたら超えた分の排出量を購入することによって超えなかったと見做すという経済的手法を取り入れたところが大きな違い。
    4. C&T制度の概要

      対象範囲:前年度の燃料、熱、電気の使用量が原油換算で1500kl以上の約1300の事業所(約1000のオフィスビル等の業務部門と約300の工場等の産業部門)

      削減計画期間:第一計画期間が2010〜2014年度、第二計画期間が2015〜2019年度のそれぞれ5年間で毎年排出量の把握と報告書の提出が義務

      削減義務率:オフィスビル等は8%、工場等は6%

      実効性の担保:措置命令(義務不足量×1.3倍の削減=排出量の購入)
      ⇒措置命令に違反した場合は罰金、公表、都が代わりに購入した排出量の 代金請求

    5. C&T制度の総量削減義務の内容
      基準排出量(2002年度から2007年度までの間のいずれか連続する3年間の平均値)を定めそれに規定の削減義務率8%を掛けた量が削減義務量となる。 この削減義務量×5年間の排出限度量を5年間合計で下回われば各年の凸凹は許容される。5年間の合計としたのは景気変動、気候変動、計画行動など年によって異なることを加味した。
    6. C&T制度の義務の履行手段
      ① 自らの事業所で削減する:高効率なエネルギー消費設備・機器への更新や運用対策の推進など
      ② 排出量取引:都基準によりクレジット化した削減量を取引で取得
      これには a.超過削減量 b.中小クレジット c.都外クレジット d.再エネクレジット等があり検証を経て都に認定される必要がある
    7. C&T制度のテナントビルへの対応
      ビルオーナーには、総量削減義務、ビルの省エネ推進体制の整備義務、地球温暖化対策計画書の提出・公表義務が課せられている。 しかし、都内のビルは自社ビルをオーナーが自ら使っているケースは少なく、ほとんどのケースはテナントが借りている。
      従ってテナントの協力なくしてビルの削減義務は達成されないので、延べ床面積や電気使用量が一定の基準を超える特定テナント等事業者(約800)には独自の地球温暖化対策計画書をオーナー経由で都に提出してもらい、都はそのテナントに対して直接指導が出来る。
      また全てのテナントは排出量の把握、排出抑制の実施等の義務、ビルオーナーの対策に協力する義務が課せられ、都は必要に応じて指導が出来る。
      この仕組みが震災後の省エネ対策に大変役立った。
    8. 2009年度の削減実績
      区分Ⅰ(事業所等)は8%の削減率であった。情報通信分野だけが基準排出量に対して14%オーバーしたが、その他は全て削減された。
      区分Ⅱ(工場等)は16%の削減率であった。
      区分Ⅰと区分Ⅱの合計でも10%の削減率であった。
      約60%の事業所において削減義務率以上に削減された。
    9. C&T制度の排出量取引の実績
      削減義務率は5年間で達成すればよいのでまだ3年目では大きな取引は行われていない。
  4. 地球温暖化対策報告書制度
    1. 中小規模事業所が自らの事業所におけるCO2排出量を把握し具体的に講じる地球温暖化対策(省エネルギー対策)を提示。提出事業所は省エネ減税、中小クレジットの創出が可能になる この仕組みが夏季の節電対策に大きく貢献した 。
      イ) 報告書提出の約3万事業所への節電対策の呼びかけ
      ロ) 省エネ診断、業種別・区市別セミナーなどの集中実施
      ハ) 251の対策メニューを具体的に示すハンドブックの活用
    2. 報告データを生かした新たな展開 3万件を超える中小規模事業所のCO2排出量等の情報を活用して既存中小規模テナントビルのCO2排出量を比較評価できるベンチマーク(評価指標)を作成した。これにより不動産投資家やテナント事業者の投資先や入居先の選定において低炭素ビルの選択を促し、市場の評価を通じて低炭素ビルの普及やビルオーナーによる省エネ改修が促進された。
      ベンチマークは全20種の業種毎に作成した(パチンコ店、カラオケ店‥‥) 東京都が紹介している省エネ対策メニューは「地球温暖化対策報告書作成ハンドブック」に載っているのでネットからダウロードして欲しい。

  1. 東京都の電力エネルギー施策

  1. スマートな省エネ・節電の推進
    過去の東電管内最大電力は2010/7/23の5999万kw(気温35.7℃)であったが、昨年の最大電力は2011/8/18の4922万kw(気温36.1℃)と約1000万kw(18%減)で国民の最大限の節電協力によって何とか切り抜けられた。 更に昨年の電力使用制限解除後も2010年同期比約10%(約400万kw)の最大電力削減が継続され国民の中に節電意識・節電行動が根付いたことを示している。 そして昨年の冬も2010年の冬よりも気温が低かったにもかかわらず約4%の最大電力削減が継続している。
  2. 東京における「2011年夏の節電対策」実施結果
    1. 都内の多くの事業所や家庭で省エネに寄与する取り組みが徹底して実施された。
      • 照明照度の見直し750ルックスから500ルックス以下が主流に
      • 空調温度も28℃が主流に
      • テナントが自主的かつ積極的に対策実施しオーナーに対して節電対策を提案
      • 街中の節電対策(照明の明るさや空調温度など)について多くの市民が支持・協力した
      • 多くの事業所・家庭では今後も継続して取り組む意向
    2. 一方一部負担の大きかった状況もあった
      • 工場などでは5割の事業所で「生産量の調整」を実施。
      • 「エスカレータの使用停止」も大規模事業所で実施されたが2012年夏は6割の事業所で「実施予定なし」
      • 工場における夜間・早朝への操業時間シフトは、周辺住宅との関係から実施は困難。また休日営業・平日休みも他の取引先との調整に苦労した。
      • 「駅構内・ホーム」での「エレベータ/エスカレータの運転台数の削減」も市民の支持は下がる傾向 ⇒負担のかかり過ぎる対策は2011年限りとしCO2削減の観点も踏まえて「合理的な省エネルギー対策」をより一層推進する
  3. 「東京都省エネ・エネルギーマネジメント推進方針節電の先のスマートエネルギー都市へ」の策定
    • 2012年夏以降の「賢い節電」基本原則
      1. 無駄を排除し、無理なく「長続きできる省エネ対策」を推進
      2. ピークを見定め、必要なときにはしっかり節電(ピークカット)できる体制
      3. 経済活動や都市の賑わい・快適性を損なう取り組みは原則的に実施しない
    • 事業所向け「賢い節電」7か条
      1. 照明照度の500ルックス以下を定着して無駄を排除
      2. 実際の室温が28℃を目安に上手に節電
      3. OA機器の省エネモード設定を徹底
      4. 電力「見える化」で効果の共有、みんなで実践
      5. 人の活動に影響しないバックヤードで省エネを徹底
      6. EVの停止など効果の少ない取り組みは日常的には実施しない
      7. 電力需給逼迫が案内されたときに追加実施する取り組みを事前に計画化
    • 家庭向け「賢い節電」7か条
      1. 夏は冷蔵庫の庫内温度を「中」に設定
      2. テレビの省エネモード設定を徹底
      3. 白熱電球は、LEDや電球型蛍光灯へ交換
      4. 室温が28℃を上回らないようにエアコンや扇風機などを上手に使う
      5. 猛暑日にはエアコンの過度な抑制をしない
      6. 家電製品等のこまめな省エネを実践
      7. 消費電力の大きい家電製品は、平日14時前後(特に電力需給逼迫時)での使用を控える
  4. 以上省エネ技術やノウハウを最大限に活用した賢い省エネ・節電

    低炭素・自立分散型エネルギーの利用拡大

    エネルギーマネジメントによる需給の最適制御

    によってスマートエネルギー都市の実現を目指す

  5. 低炭素・分散型電力供給の促進
    首都圏の電力供給構造は、遠隔地の大規模発電所に過度に依存している。 震災当日は、福島原発以外にも東京湾岸の火力発電所が停止したため2000万kw以上の電源が脱落した⇒首都圏の電力供給構造の脆弱性が露呈された。
    1. 需要地近接系統電源の強化・低炭素化 首都圏の火力発電所は運転期間が40年を超える老朽火力が847万kw、5年以内に老朽火力となるものが655万kwで、合計1500万kwもの火力発電所が老朽化している現状である。 火力発電所の燃料は石炭、石油、LNG、LNGコンバインドがあり、電力量1kwh当たりのCO2排出量は石炭が最も多く、LNGコンバインドが石炭火力の約半分と最も少ない。最新鋭のLNGコンバインド火力の発電効率は61%と高いが一般火力発電所の発電効率は47%なのでこれらを高効率なLNGコンバインド火力に切り替えることが出来ればCO2排出量は減る。
    2. 100万kw級の大規模発電所の建設計画 東京都が自ら大規模発電所建設に取り組み、事業化を阻む規制等について国に提案・要求するということで昨年プロジェクトチームを発足させ、候補地を3か所に絞って詳細な検討・調査を進めているところ。
    3. コジェネレーションなど地域分散型電源の導入 上下水道、地下鉄、避難拠点などで災害時の電源確保 熱利用も行うコジェネレーションシステムの導入で高効率化を図る 具体的施策例:新宿都庁舎に供給する電力の多重化、臨海副都心への分散型エネルギーネットワークの導入など
  6. 再生可能エネルギー等の普及拡大
    1. 「住宅用創エネルギー機器等補助事業」実施中
      ●太陽光発電システム●ガスコジェネレーションシステム ●太陽熱利用システム●蓄電システム
    2. 「新築住宅向け太陽熱補助事業」も開始
    3. 「中小企業向け自家発電設備・蓄電池等の導入支援」実施中
  7. エネルギー需給最適化システムの実現
    短時間のピーク電力に対応するため専ら供給能力拡大してきた従来のシステムは、需給バランスを調整する仕組みが欠如していた。
    ●大丸有地区(大手町、丸の内、有楽町)でのモデルプロジェクトの実施
    ●100戸以上の高層マンションでEMSのモデルプロジェクトの実施
  8. 電力制度改革の推進
    9都県市での取り組み→共同要請
    ●電気事業への民間事業者の参入促進
    ●広域的な系統運用
    ●需要家側の合理的な省エネ・節電の促進

  1. 質疑応答

Q 東京都は原発に関してどのように考えているのか?

A 今日の講演では敢えて原発について一切触れなかった。何故なら原発の解釈に触れると政策の施行が一切ストップしてしまうから。我々は原発が稼働してもしなくても出来る政策を粛々と進めるというスタンス。つまり節電・低CO2対策を進め電力需要を抑制するということです。それから再生可能エネルギーは少しずつかもしれませんが確実に導入を進めていくということです。その上で足りない電力については電力会社に頼らざるを得ないと思っています。

Q 石原知事は原発賛成のようだが?

A 知事は日本の原発技術について評価している。その技術を簡単に諦めてしまって良いのか、フランスがあれだけきちんと管理しているのに日本が管理できないはずがないと言っています。

Q 猪瀬副知事の発言について?

A100万kwの発電所建設は、現在候補地を3か所に絞って、建設する場合に制度上どのようなバリアがあるのか、どうすればそれらを克服できるのか、そして民間事業者が参入できるのかを明らかにしたい 。東京都自らが必ず建 設しなければならないということではない。これから1年間かけて調査・検討していきます。

 

《講師の略歴》

1992年東京都に入庁。産業局、総務局等を経て2002年の「地球温暖化阻止!東京作戦」の立ち上げ時から地球温暖化防止対策に携わり、排出量取引担当課長、総量削減課長として2010年4月の「キャップ&トレード制度」立ち上げを担当。2011年4月からは環境政策課長として電力不足を踏まえた省エネ・エネルギーマネジメント施策を担当。