(11/02/09 )

第12回 DF環境時事セミナー

「福島原発事故の現状と今後の見通しから、
 日本のエネルギー政策の視点を探る」

講師第12回DF環境時事セミナーが、財団法人地球環境財団の第12回環境大学市民講座とタイアップして、2011年8月8日、東京ウイメンズプラザ1F視聴覚室で開催されました。

講師は佐藤暁(さとうさとし)氏(講師紹介は後述)、テーマは「福島原発事故の現状と今後の見通しから、日本のエネルギー政策の視点を探る」で、聴講者は102名、うちDF会員90名でした。当日の講演要旨は次のとおりです。

 

Ⅰ.事故発生の概況

福島第一原子力発電所は、政治的な理由から、福島県双葉町と大熊町にまたがって建設され、1971年3月に送電を始めています。1号機は、沸騰水型米GE(ゼネラル・エレクトリック)製で出力は46万キロワット。2号機はGEと東芝の共同開発、3号機は東芝、4号機は日立、5号機は東芝、6号機はGEと東芝の共同製作で、沸騰水型は79年までに原子炉6基が設けられ、総出力は469.6万キロワットでした。世界に「フクシマ」の名を発信した3月11日の原子力大事故は、開始から40年の節目の時期でした。

2011年3月11日、午後2時46分、震源地は福島第一原子力発電所から100キロあまりの、宮城県牡鹿半島東南東約130キロの海底下で発生。マグニチュード9.0、震度7を記録。1000年に1度の大地震とされました。

このとき、福島第一原子力発電所は、5号機、6号機は定期検査のために停止中。稼動していたのは1号機から4号機までの4基です。福島県では震度6強のすごい揺れがおこり、福島原発では送電線が崩壊して停電、外部の電源が確保できなくなりました。しかし、地震は想定していましたから、非常用のディーゼル発電機がそのかわりを果たしていました。

ところが、その約1時間後の津波により、内部電源が水浸しになります。あっという間に海水が施設に押し寄せて発電機の電源が水をかぶり、また水をかぶらなかった発電機も外部電源が確保できなくなったために動かず、原子炉に水を送って冷やす冷却機能がピンチになったのです。

東電は、午後3時42分には電源喪失を国に報告しています。国は原子力緊急事態宣言を出し、第一原発3キロ以内に避難指示、10キロ以内に屋内退避の指示を出します。

皆さんの中には、地震や津波の衝撃によって福島第一原子力発電所が崩壊したと思われている方が多いのですが、外部電源が断たれたのは地震による送電線の倒壊ですが、内部電源は地震や津波の衝撃で発電機が壊れたのではなく、水をかぶって使用不能になったのです。そして、外部電源が損壊して確保できないために内部の非常用発電も動かなかったのです。しかも、外部電源と内部電源がもたれあった構造になっていて、その結果、非常時の電源が確保できなかったのです。このことが今回の事故のポイントです。

こうして冷却機能がピンチになり、その結果は翌日の3月12日の1号機の水素爆発に続きます。

これは、1号機は炉心を冷やす装置が冷却不能となり、原子炉格納容器内で圧力が異常に上がって、普段から出ている水蒸気が圧縮されて、水素爆発を起こしたのです。もともと1号機の建屋は壁が弱く、そのため、水素爆発が起きたときに建屋の天井が吹っ飛び、壁も崩れ落ち、その粉じんが舞いあがって降り注ぐというすさまじい光景を映し出しました。

そうこうするうちに、14日、3号機の建屋で水蒸気爆発が起こって建屋が吹き飛び、その煙は440メートルにも昇り、15日以降も使用済み核燃料プールから水蒸気が白煙となって上がりました。そのたびに何が起きているのか私たち国民は不安になったのでした。

また、空焚きになった2号機も圧力抑制室付近で爆発が起き、ピット高濃度の汚染水が海へと流れ、4号機では、15日、使用済み燃料棒が原因と見られる2度の火災が起きています。

16日以降3号機の白煙には自衛隊のヘリコプターによる散水などが行われ、その後も放射能を浴びながら電源の復旧作業と注水による冷却に努め、冷温停止に向けて作業が続いているのは記憶に新しいところです。

Ⅱ.事故の現状

現在のような悲惨な状況は、地震による外部電源の破壊、原子炉建屋が海水をかぶったための内部電源破壊から2、3日で、その運命が決まったといえます。

〇 原子炉の内部

日本の原子炉はたとえば110万キロワットの場合で、高さ22メートル、幅6メートルほどの大きさの沸騰水型です。燃料が核分裂すると、水が熱せられて蒸気に変わり、この蒸気がボイラーでドライなガス状の蒸気となり、デリケートなタービンを通して発電するシステムです。デリケートなというのは、ほんのちょっとの水滴でタービンの羽根がぼろぼろになるほど水滴に弱いということです。また、この水蒸気には放射性物質が含まれています。

この原子炉には百数十トンの燃料が入れられ、この量で1年間、原子炉の運転をします。燃料はセラミックで焼き固めたウランセラミックというペレット状のもので、これは、体積は小さいけれど、鉛のように重いのが特徴です。これが燃料棒に入っていて、この燃料棒の核分裂をコントロールするのが制御棒です。

水は核分裂で得られた熱エネルギーを原子炉の外に取り出すときの冷却水として使用され、同時に、核分裂のプロセスでウランなどから飛び出した中性子のスピードを弱めるための減速水としても使用されています。これによってエネルギーのコントロールが行われているのです。そして、非常時や緊急時には、緊急炉心冷却装置がはたらくようになっています。実際には、原子炉が緊急停止し、核分裂が停止しても核分裂生成物からの放射性物質の放射が5%は残留するといわれますが、普通、燃料棒が頭を出しても5分間、水を注入すれば大事は防げることになっています。

ところが、今回の地震・津波では、外部電源、内部電源が壊れ、冷却水・減速水が失われ、緊急炉心冷却装置も作動しなかった、空焚きが進んだということです。

〇 米ミネソタ州の一般向け原子炉事故マニュアル

原子炉のあるミネソタ州では、一般の人びとに、原子炉事故対応マニュアルを配布し、確認しあっています。日本では事故が起きたときの一般向けのマニュアルはなく、原子力を扱う人の間で、また電力会社でも、一部には原子力発電の問題点を指摘するグループはいたのですが、なぜか事故は起こらないという安全神話が先行していたのでした。

ミネソタ州の場合は、1980年ころから、原子炉の事故を招くような原子炉の異常現象が起きたときを想定して解析が行われ、どの情報が発信されたら屋内退避すべき、避難すべきといったマニュアルが周知されています。

たとえば、通常運転時の燃料棒の表面温度は315℃ですが、事故が起きた場合、これが10〜20分で表面温度が1000℃近くに上昇し、燃料を覆っている被覆管が破裂して核燃料生成物が放出される。20〜40分で表面温度は1400℃〜1700℃となり、水素が発生すると同時に燃料被覆管の破損が広がり、ヨウ素、セシウム、希ガスが発生。30〜60分では表面温度は2000度〜2300℃となり、溶解した金属に燃料のペレットの破片が混じり、効果的な冷却は不可能になる。45分〜90分では、2500℃〜3000℃に達し、揮発性の核分裂生成物が放出され、燃料ペレットが熔解し、原子炉圧力容器のメルト・スルーの可能性が出てくると時間を追っての現象が述べられ、このときのとるべき行動とともにマニュアル化しています。マニュアルに基づいて住民はどうすればいいかがわかっており、冷静に行動できるのです。

〇 メルト・ダウン、メルト・スルーとは

日本では、人びとの不安をあおるようにメルト・ダウン、メルト・スルー、さらにはメルト・アウトなどという言葉が使われてきました。それはどういう状態なのか、ここで、簡単に説明しておきましょう。

メルト・ダウンとは、原子炉が冷却機能を失ってから2時間前後くらいに発生します。燃料棒がどんどん熱くなって、燃料が溶け、炉心熔融となる状態です。これによって水蒸気爆発が起こることはまずありません。また、初期の段階で大量の冷水が注入されないかぎり再臨界(核分裂が止まってふたたび核分裂反応を起こすこと)は起こりません。

さらにメルト・ダウンがすすむと、溶けた燃料が原子炉圧力容器の底部にたまるようになります。これは、すぐに冷やさないと救いがたい状況です。福島原発の場合、1号機は14時間で、2号機・3号機およそ6時間半で、このような状況に達したと見られています。

メルト・スルーとは、原子炉の圧力容器から燃料ペレットの破片に高レベルの汚染水が混じって漏れる状態をいい、進行すると原子炉格納容器のコンクリートに達します。CCI反応といって、熔融炉心とコンクリート(石灰と水などを含有)とが反応して、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水などを生成、放射性物質を含んだエアロゾル(粉じん、ミストなど微粒子がたくさん浮かんでいる気体)を大量に発生します。

さらに、原子炉格納容器のコンクリートを熔融炉心が突き破って岩盤に達したものをチャイナシンドロームということがあります。これは熔融した炉心が重力にひっぱられて果てしなく下に落ちていきます。もし地下水が流れていれば地下水で冷やされてその上で熔融炉心は食い止められます。食い止められた熔融炉心は縮小していきます。

なお、チャイナシンドロームというのは、アメリカで原子炉がメルト・スルーを起こしたら、地球の裏側の中国にまで高温の核燃料が溶けて到達するのではないかというジョークによります。

では、日本の場合、現在、原子炉はどの状態にあるのか、チャイナシンドロームの状態、という人もいます。いろいろと推定されています。私は、熔融炉心の一部がぽたぽたと原子炉圧力容器から原子炉格納容器のコンクリートに落ちている状態ではないかと考えています。

もし、状況がさらに進んでいたら、放射性エアロゾルがもっと出るはずです。かといって、水を注入しても水がたまらないことを考えれば、燃料の破砕片も混じった高レベルの汚染水が流れるくらい、原子炉の圧力容器の底が抜けている状態ではないかと思います。

Ⅲ.今後の見通し

〇 冷温停止断念

福島第一原子力発電所の事故が向かうところは、工程表でも冷温停止でした。

冷温停止とは、原子炉内の温度が100℃未満になって、原子炉が安定的に停止する状態をいいます。冷温停止が達成できれば、汚染水の外部への漏出を抑制でき、揮発性放射性物質の発散を抑制します。

そして、冷温停止を達成したあとは、廃炉プロジェクトが展開します。理想としては緑地化の達成です。

アメリカでは、運転中の原子炉を廃炉にするプロジェクトが行われてきました。たとえば、メインヤンキーの原子力発電所は、2004年9月から廃炉プロジェクトが進み、原子炉格納容器を爆破する、使用済み燃料の地下埋設を処理し、地中奥深く蟻の巣のように掘り進めたトンネルの中に保管処分し、放射能漏れによって土壌が汚染されていたところを削って土を入れ替えて処理するなどして、2005年5月には実質100%平地に戻り、7月には緑化を達成しました。その費用は数千億円に達しました。このように、福島の場合もこのままの状況で原子炉があるのはつらい、最終的に冷温停止して廃炉にすることもできるのではないかと思うでしょう。

しかし、そういうわけにはいきません。メインヤンキーの場合は、原子炉が破損したのではなく、通常の業務を終えた問題のない原子炉だから廃炉も順調に可能だったのです。福島原発の場合は、燃料棒が熱で溶けて流れ落ち、その熱で原子炉の圧力容器も格納容器も穴が空いています。冷温停止のところで躓きます。容器を満水にして外から水で冷やすこと(水棺)も、容器に水を循環させながら冷やす(ドライウェル冠水)こともうまくいかず、断念せざるを得ないと思われます。冷温停止がままならないのです。

もし冷温停止が成功したとしても、壊れた原子炉の廃炉はかなり大がかりなプロジェクトを組む必要があり、なかなか一筋縄では行かない、コストもかかり難しいでしょう。ほかに代案はないのでしょうか。

最終処理までのブループリントの条件としては、次のようなことが考えられます。

  1. 現場で働いている人々への慰労を考慮したうえで、冷温停止を区切りとして目標達成を賞賛する。
  2. ただし、冷温停止はゴールではない。
  3. 廃炉を含めて最終処理までのブループリントを示す。
  4. 最終ゴールは達成可能であるものであるべき。
  5. 最終ゴールは、コスト、スケジュール、被ばく線量が最少となるものであるべき。
  6. 最終ゴールは、「3K」のイメージから脱したもので、参加意欲が生じるプロジェクトであることが大事。
  7. しかし、最終的に重大な利益相反がある点に問題がある。

最後のこの点に関しては、会計監査院などの厳格な監視が必要です。今までのように安全に疑問があっても蓋をして原子力にかかわっていればお金が儲かるというような観点から、国民を裏切るようなことは、もう二度と電力会社にやってほしくない。率先して良心にかなう最終処理のブループリントを出してほしいと思います。

Ⅳ.今回の事故の周りへの影響

〇 原子力エネルギーの問題点

原子力エネルギーは低濃縮ウランを燃料として使っています。この低濃縮ウランは、天然では0.7%しか存在していないU-235を約3%に濃縮したものです。このU-235を、電気出力784MWの原子炉では1年間に915キログラム消費します。石炭の場合は年間200万トンを使用します。そのことを考えると原子力はエネルギー密度が高いといえるでしょう。

問題は核燃料廃棄物ですが、100個のU-235が分裂した場合、6.2個の放射性セシウムが原子炉内に残ります。

ところで、この放射性セシウム(Cs-137)は、半減期が30.17年です。この1ベクレルは0,312ピコグラム、1グラムは約3.2テラベクレルなので、1年間に核燃料廃棄物となるセシウム32.9キログラムは、約10万5000テラベクレルにもなります。

さて、琵琶湖の水などはコップ半分の量のセシウムが混入すれば、飲料水ガイドラインすれすれの汚染状態になります。セシウム5キロもあれば日本全体を汚染させることも可能です。セシウムは30年と半減期が長いやっかいな放射線物質で、土壌や水、肉、野菜などの食品が汚染されると、それを管理するのは非常にやっかいなことになります。

〇 放射線物質の飛散状況

今回放出された放射性汚染物質は希ガス、ヨウ素、セシウム、粒子物質などですが、これはチェルノブイリ事故に近い放出量といわれます。福島原発1号機や3号機の水素爆発によって水蒸気に含まれていた放射性物質が煙のように上がり、風まかせで流れていきました。これは風が頭上を通り抜けるときがいちばん高濃度で、ガイガーカウンターがピーピーなります。通り過ぎると濃度は下がります。そして、雨が降ると、放射性物質は雨の芯になって降り注ぎ、地表を汚染します。

福島原発事故では、福島盆地、郡山盆地、那須野ヶ原盆地、八溝山地などが放射性物質を含んだ風の通り道になって、関東にまで流れたのです。放射線はずっと同じ密度で大気に漂っているのではなく、爆発などで流れ出るたび、1日に数回以上も、放射線量はピークになります。ずっと大気を測定していると、事故当時はこの放射線量がピークを告げるときが何度もあったのですが、現在は、空中に漂っている放射線物質は少ないと思われます。グラフを見ても放射線量の高まりを示す山は4月を最後にほとんど見られません。今、放射線がガイガーカウンターに反応するとしたら、空中に浮遊しているものではなく、また福島の原子力発電所から飛んできているのではなく、大部分は地面に付着した放射性物質から放射されたものです。

Ⅴ.福島原発事故で崩壊した国民の信頼

地震・津波による福島原発事故がこれほどまで大きくなってしまったのは、事故対策が不十分だったこと、起きてしまった事故への対応が不十分だったことが原因です。これだけははっきりいえます。

事故対策に関しては、たとえば、米カリフォルニア州ディアプロ・キャニオン原子力発電所の場合の設計基準は、津波ひとつを取り上げても、津波の高さ10.7メートルを想定して対策をとっています。10.7メートルとは、この地域では、この津波の高さは、100万年、または1000万年に1度起きるか起きないかの高さであり、これを想定して対策しているのです。しかも、もし津波が襲ってきた場合に備えて、いざというとき水をくみ上げ、施設が水浸しにならないように海水ポンプスノーケルを装備するという対策までとっています。

これに対して、日本の福島第一原子力発電の場合の設計基準は、津波の高さに対しては5.7メートルでした。2006年の東京電力における津波に対するハザード曲線の設定手法に関する論文で、「向こう50年以内に5.7メートルを超える津波が発生する確率は4%」としています。50年1度起きるか起きないかの高さ、いってみれば自分の代に「津波が来なけりゃいい」という想定での設定基準なのです。こういう基準設定はありでしょうか。

3月11日の実際の津波の高さは14メートルでした。もし、米国のように100万年に1度を想定して対策を立てていれば違っていた、ここまで水をかぶることもなかったはずです。地震と津波という自然災害で終わり、損害もこれほどひどくはなく、放射性物質にまみれるような大事故も起こらなかったのです。まさしく人災といわれるゆえんです。

安全、安全といいながら、日本はいかに安全に無頓着であったか、気配りがされていなかったかということです。バックアップ電源に関しても同じことです。電源が破壊されたらバックアップがきかない構造になっていたのです。

事故後の対応も不十分でした。風向きなどから放射線物質の飛散状況を知るスピーディの活用や環境モニタリングの不徹底、緊急作業者・被災者の被曝測定なども後手にまわり、正しい情報を流さないために人びとの憶測を生みました。しかも、原因は国や電力会社にあるのに、いざというときの対策マニュアルを国民に提示することもせず、いかにも国民に責任があるかのような風評被害という言葉を使って国民を悩ませるなどし、こうして国民の信頼を完全に失ってしまったのが現況といえます。

Ⅵ.危機管理の専門家の登用を

さて、事故を起こした原発の処理をどうしたらいいか、冷却停止して緑地化するのをプランAとしたら、私はプランBを提案します。

福島第一発電所の2号機の使用済み燃料プール、また4号機の原子炉はそれほど大きなダメージを受けていないので、冷温停止後に緑地化を志向するのも手だと思います。しかし、1号機、3号機に関しては、冷温停止、緑地化は無理でしょう。

そこで、プランBにより、冷却停止して、事故を起こして汚染された1号機から4号機の4つの原子炉をピラミッドのように石棺化すればいいと考えています。

プランBというのは、冷温停止するのに、冷却媒体に水ではなくヘリウムガスを使って強制冷却します。ヘリウムガスは排熱性能を高め、コストも低くおさえられるでしょう。ただし、一口に冷却するといっても、実際には長い年月が必要です。100年、200年という単位の時間がかかります。時間が経過するうちに、自然対流による冷却へともっていく方法がプランBです。最終的には汚染水はガラス固化してキャニスタに納められ、現地の貯蔵庫に埋蔵、汚染された機器は原子炉建屋内に閉じ込め、これには防護フェンスをつけて航空機テロに対応します。施設がある海岸には津波の防波堤、津波のエネルギーを弱める障害物、津波バリアを設け、その周辺は新エネルギーなどのコミュニティ開発地区にします。

いずれにしても、今回の大事故は、危機管理に対する専門家がいなかったことが、そして今もいないことが事を大きくしています。専門家の登用を切に望みます。

質問1:原発はコストが安いといわれるが、実際のコストはどのくらいですか。

原発の初期コストは大きく、100万キロワットの原子炉で約3000億円、そしてこのメンテナンスに40年で約1兆円かかります。日本ではさらに使用済み燃料の再処理プランがあり、使用済み燃料3万5000トンに対してコストは12兆円といわれます。原子力はかなりお金を食うエネルギーです。ちなみに、使用済み燃料の再処理プランのために、国民から電気料金に含めて徴収している積み立てが現在4兆円あるとされます。

国際的には、現在、原子力発電のコストは、天然ガスや石炭などに比べて不利とみられています。まして今回のような事故を起こせば何倍もの経費が事故処理にかかります。今まで行われてきたコスト計算が今回の事故でがらりと変わったのです。

質問2:敷地の設定などはどこが指定するのか。建設したメーカーの責任はどこまであるか。

どの地に原子力施設を建設するのか、その敷地を指定するのはメーカーではありません。国や原子炉の所有企業が気象条件や地殻条件、地震、津波などの自然災害などの情報をメーカーに与え、これに基づいてメーカーは原子炉を設計します。米国などではその後も継続的に調査を行い、たとえば断層などが見られればそのたびごとに情報を所有企業やメーカーに流します。日本でも情報ぐらいはメーカーに流すでしょうが、メーカーが情報を知って打診することはできますが、情報の対応を決めるのは所有企業です。責任は所有企業に移管されています。

質問3:今回の事故は40年前の原子炉の安全性に問題があったのではないか。

津波、台風、地震といった自然条件の問題は発電場所を選んだ側に責任があります。一方、プラントの技術は、40年前に比べ、現在はかなり進歩していますし、設計基準もかなり厳密になってきています。しかし、津波で水をかぶることを予想して、もっと高台に建屋をつくるべき、機器を配置すべきというようなことは、事業者が積極的にすべきことで、設計者の責任ではありません。

質問4:仏アレバ社の安全性は高いという人がいるが、日本の技術と比べても高いのですか。

結論からいえば仏のアレバ社の原子炉は安全性が高い。原子炉格納器は2重になっており、中の容器を守るために外に破砕片が落ちるのを想定して冷却設計しているなど、危機管理に優れています。

質問5:50~60年の核実験がさかんに行われたころと、広島・長崎に原爆が落ちたころ、今回の事故とでは、放射線量が多いのはどれですか。

放射線量が多いか少ないかは、どれだけウランを核分裂させたかによります。50~60年代に行われた米ソの核実験では、ソ連だけでも50メガトンといって広島の3000個分のストロンチウム、セシウム、トリチウムなどの放射線物質をまき散らしています。世界中で相当なレベルに達したと推定されます。また今回の事故では広島の20倍という説もありますが、これも50〜60年代の核実験には及びません。

質問6:今回の責任者はだれもいないのですか。国でも東電でもないのですか。

国は東電といい、東電は口をつぐみ、責任の所在がはっきりしていないように見えるのは、事故が余りに大きく、事故を起こした当事者が責任を取りえないからです。日本一の企業とはいえ所詮民間企業です。しかし、こういうときのための保険制度があり、少しはカバーできるはず。それが1200億円といわれながら、活用されていないように見えるのが不思議です。米国では、どこかの原子炉が事故を起こすと、他の原子炉がそれぞれ1億円ずつ負担して事故に対処しています。日本でも、そうあるべきと思います。

質問7:先生のプランBは、政府で検討されているのですか?

残念ながら、無視されています。政府や役人にわかる話ではないからです。プラントのことを知っている人でないとわからないようです。心ある電力会社の中には賛成してくれる人もいます。プランBにシフトすべきという気運を高めたいと思っています。

質問8:政府も東電も最初はメルト・ダウンのことを隠していました。もう冷温停止は不可能ですか。

政府や東電に悪意があったとは思いませんが、原子炉の様子は目に見えないために過小評価したのでしょう。人はこういうときは、過大にものをいうか、過小にものをいうかどちらかなのでしょう。過大にいってあとからいい過ぎと咎められるのを恐れたのでしょうか。しかし、そこに、原子炉のトラブルや情報などに精通した人が控えていたら、もっと別の説明があったと思われます。海外でも政府、行政、東電の一連の発表は、評判が悪かったです。

なお、福島の原子炉の冷温停止は苦しい状態だと思います。どうすべきか、事故対策ができる専門家を交えて、早く対策を練るべきでしょう。

<ライター:戸田真澄>

講 師 佐藤暁(さとうさとし)氏 紹介

1957年、山形県生まれ。80年山形大学理学部物理学科を卒業後、米General Electric Nuclear Energy日本法人(現GEⅡ)に入社し、おもにGENEが建設を手がけた原子力発電所で、各種改造、修理、検査などのプロジェクトを通し、設計、工程管理、放射線管理、プロジェクト管理などの実務を担当。柏崎・刈羽原子力発電所の建設では試運転責任者、福島第一原子力発電所では現地事務所長、米国本部ではR&Dマネジャーを務めた。帰国後は4カ所の現地業務の総括責任者。2004年からインフラ事業のコンサルタント会社IAC(本社・米国ワシントンDC)の原子力コンサルタント。以降、軽水炉の総合的な安全問題の調査、研究に携わり、現在に至る。