2012/11/01(No136)
鈴木 信男
友人に誘われ私大2校で年にほんの数回ですが講義をしています。金融論ゼミ(夏合宿)と経営学イノベーション論です。基本的には実務の雰囲気を学生に伝えるのが私のミッションなので、簡保の宿の不動産鑑定評価が1年で10分の1になった事例を挙げ、不動産価格は金融論のDCF法(脚注)で支配されていることや、信託銀行時代に「レポ信託」という取扱高1兆円の新商品を開発した経験談などを話しています。
講義の冒頭や合間に学生に簡単な質問をします。会話を通して学生諸君に考える練習をしてもらい、社会人となり新たな局面に遭遇して自ら考えるときに頼りになる「よすが(視点)」を伝えることが狙いです。
例えば「環境を学習するために有用と思われるツールを2つ挙げよ」。模範解答として「英語とIT」を用意していますが、どのような問題意識で自分の環境を捉えるかにより回答は異なるので open question です。ある学生の回答は「人間関係が大切だし自分自身についても知りたいので心理学を勉強したい」。仏教の唯識に通じる印象があり驚きました。なかなかの回答だと思いませんか?これは夏合宿での講義でした。模範解答の1つが「英語」というのは学生諸君にとっては興味津々だったようで、その夜の飲み会(実は宴会での作法の指導も友人のリクエストです)は、英語を勉強する意義・方法・楽しみなどで盛り上がりました。学生はグローバル化について漠然とした期待と不安を感じている。しかし「英語」が何物なのか良く分からない。つまりそうした教育を受けてきていないのです。
「売上10百万円・利益1百万円と、売上10百万円・利益2百万の会社でどちらが良い会社か」。これも open question です。どんな前提を補うかがポイントで、財務分析の模範解答は「資産効率」です。学生の回答は紙幅の都合で紹介しませんが多様な興味あるものでした。ビジネスを案外良く見ています。
私はこの春にコンサルティング会社を起業しました。顧客に3年間の会社勤めの後に起業し、7年かけて社員7名のベンチャーを育てた若者がいます。終身雇用に安住しない別の生き方であり逞しく頼もしい。グローバル化が職業生活の有り方にも影響を及ぼしているのかもしれないと感じています。
この様にここ1〜2年、大企業の世界とは別の視点で若者と付き合う機会を得ました。今時の若者はなかなかのものです。彼らに経験者としての知恵を伝えることは実に楽しい。元気である限り続けたいと考えています。
最後になりましたが、おかげさまでDFの会員ライフをエンジョイしています。ただ、起業したばかりということもあり、work life balance の取り方を測りかねています。所属している部会への参加がままならずご迷惑をおかけしていますが、ご容赦賜るようお願いいたします。■
すずきのぶお ディレクトフォース会員 元興銀、みずほ信託銀行、長谷工コミュニティ
注:Discounted Cash Flow 法の略 収益資産の価値を評価する方法の1つ。株式や不動産その他多様な投資プロジェクトの価値を算出する場合に用いられる。