( 10/12/20 )
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12月の勉強会は、12月7日学士会館で会員150人余りが出席して開催されました。今回の講師は韓国済州島のお生まれで、親日派として知られる呉善花(オ・ソンファ)氏にお願いしました。現在は日本に帰化され、評論家、拓殖大学国際学部教授としてご活躍中です。著書には話題を集めたルポルタージュ「スカートの風」シリーズや山本七平賞を受賞した「攘夷の韓国 開国の日本」など多数あります。今回のテーマは「日本人の美風と日本力」です。
日本は外国人に分かりにくいという評価があるが、日本には自然と融和しその生成流転の中に美を求める独特の価値観や文化があり、それが日本の社会を形作っていることに気づいたとき日本の真の良さが分かると語られました。
我々が自身では気づかない日本人特有の感性や習慣を例に挙げながら、ユーモア溢れるお話に聴講した会員全員が魅了された勉強会でした。詳細は次のとおりです。
世界の言語のなかで日本語と朝鮮半島の言葉に最も敬語が多いといわれるが、その使い方は全く正反対である。朝鮮半島では徹底した儒教社会なので、自分の身内を立てる敬語の使い方をする。韓国人が日本語を勉強するとき、正反対であることを理屈では理解していても実際にはなかなか納得できない。小さなことであっても、これがトラブルの原因となることがある。
外交、民間交流において、こうした違いを理解し解決しないとなかなか上手くいかない。
今話題になっている民間人をも犠牲にした北朝鮮の砲撃問題について、政治を離れ文化的な側面からいうと韓国にも北朝鮮にも人権問題についての感覚はほとんどない。国家を維持していくためには民間の多少の犠牲を伴っても仕方がないという気持ちを持っている。今回の事件は領土に重点を置いた問題であるが、北朝鮮側はこれによって戦争にはならないと信じていると思われる。なぜなら北朝鮮には、韓国人は同じ民族であるという強い身内意識があり、国内紛争に過ぎないとの考えがある。韓国から米などを援助してもらっているのにこれを攻撃するのは不思議と感じるかもしれないが、儒教思想では恵まれた人が恵まれない人に援助するのは当たり前のことであり、援助するのなら大きなことをするべきであると考える。これは中国にも共通することで、北朝鮮にはこの考え方が特に強く残っている。日本の相互扶助の精神からすれば理解しにくいことかもしれない。
民間人を巻き込んだ事件であることから韓国の多くの人が北朝鮮に怒りを覚えているが、3分の1ぐらいの人たちは、北朝鮮をこのような行動に駆り立てた原因は韓国にもあるという気持ちを持っている。韓国では戦後強烈な反北朝鮮教育が行われてきたが、金大中・元大統領のときに親北朝鮮政策がとられた。これにより北朝鮮の情報が入ってくるようになり、北朝鮮は情緒的、感覚的に素晴しい国だ、貧しいかもしれないが自分たちが失くしてしまった良き文化を残していると見直し始め、自分たちと同じ民族なのだという意識を持つようになった。特に大きなきっかけになったのはアジア大会に派遣された美女軍団。10年間続いた親北朝鮮政策によって若者たちの間で反北朝鮮感覚がなくなった。現在の李明博大統領は反北朝鮮政策を取るが、これまで国民はなかなか反北朝鮮の方に向かなかった。今回の北朝鮮の砲撃は李明博政権にとって順風となる。
日本と韓国の間では戦後60年間、民間交流、政治的外交が行われてきているものの、韓国人にとって日本人は分かりにくいというのが本音である。人種的に異なる人たちとの気持ちを持っている韓国人が大半で、韓国の有名な作家が新聞のコラムに、多くの在日韓国人で本当の意味で日本人と友人になった人は何人いるだろうかと書いているのがこれを物語っている。
表面的な付き合いにとどまっているのは国と国の関係も同じであり、日本と中国との関係も同様。実際的、具体的なところで本質的な付き合いが出来ない。なぜだろうと突き詰めて考えた結果、これは小さな違いが障害になっているからだと思うようになった。
長く日本に滞在している韓国人、中国人が日本を理解していくプロセスで1年目は良い印象を持つ。韓国や中国では強烈な反日教育が行われているが、実際に付き合ってみると日本人はやさしくて思いやりがあり親切だ、日本は素晴しいとの印象を持つ。治安が良く、どこに行っても清潔感があり町並みは美しい。日本社会を学ばなければならないと思う。
ところが2年目、3年目に入って1歩踏み込んだ付き合いをしようとしたとき、表面的にはやさしく親切だが、中までは受け入れてもらえない。日本人はなにを考えているのか分からなくなり落ち込んでしまう。
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私も2年目、3年目に入った時期に日本が嫌いになるぐらい落ち込んでしまった。しかし、おかしい人たちが住む日本だが、貧富の格差が少なく平等な社会を作り上げた日本、犯罪率が一番低い日本、これは何なのだろう。自分の価値観、イデオロギーを捨てて日本を探っていこうと考え直した。そうすると、幅が広く、奥が深い凄い国と分ってきた。多くの人たちがそのことを理解していないのが残念だと思うようになった。多くの場合、問題は2年目、3年目で、これを乗り越え5年ぐらい経つと日本の良さが見えてくる。日本と韓国、日本と中国の関係も2年目、3年目の問題であり、今これを乗り越えられずに困っている。
日本人がはっきり自分の意見を言わないことにイライラする。神々が一杯いることも不思議なこと。近代国家では一神教が普通であり、自分が信じる神以外を拝むのは悪魔である。儒教文化圏の韓国人、中国人にとっては先祖以外のものを拝み、崇拝することは未開人のすること。日本人が未開人と教えられるのはこの点にある。
もうひとつの例。韓国の女性ジャーナリストが2年半日本に滞在したのち韓国にもどり、日本を批判する本「日本はない」を書いた。日本が存在する限り自分たちの幸せはありえないという意味のタイトル。最近日本に学ぼうという声が高いが日本のような国になってはいけないという使命感でこの本を書いた、日本人は異常な人たちだと説いている。2年目、3年目に私が理解に苦しんだ習慣の違い、文化の違い、価値観の違いを彼女はすべて韓国的価値観に当てはめ、これと異なる点で日本人は人間でないとしている。この本は戦後最大の300万部売れた。日本を研究する学者は今もこの本を読んでいる。成功した彼女は国会議員になり、与党にいる。
韓国では反日カードを出すことが選挙で票に結びつく。親日派、反日派というのでなく、1人の人が親日であり反日でもあるという不思議な二重構造になっている。
韓国では親日派のレッテルはイコール売国奴を意味する。私、呉善花は韓国の代表的な売国奴とされマスコミや政府からずいぶん叩かれ、抑圧されている。韓国のこうした一面を理解しておかなければならない。
なぜそのような扱いを受けてまで親日派であり続けるのかとよく問われる。日本のことを徹底的に評価し、良いところを見付けていかないと日本と韓国の未来はないという気持ちから日本伝道師の役割を果たそうとしている。
目に見える習慣の違いは時間が解決してくれる。例えば本質的で料理のあり方そのものに関る食事の作法についても、日本と韓国のルーツに遡るところまで考えれば大きな問題ではなくなる。日韓関係もきれい事だけで向き合おうとしても上手く進まない。ルーツまで遡れば日本人と韓国人は本質的に分かりあえる仲のはず。それを妨げる目に見えない価値観の違いをほとんどの人が乗り越えられないでいる。
目に見えない価値観の一つは感覚ないし感性であり、生き方そのものにもつながる。
キリスト文化圏、イスラム文化圏、儒教文化圏の人たちはどんな生き方が正しいかを考え、倫理的、道徳的に生きようとするのが一般的。あなたは善い人間といわれるのを理想とする。
随分経ってから、日本人は善悪よりもどのような生き方が美しいかに重点を置く人が多いことを知る。自然な生命、衰えた生命、未熟な生命にも風情、美を感じるし、生成流転する揺れ動くものに心惹かれる。韓国人にとっては完成された不動のものが美しいのであり、「ワビ」「サビ」といった美のあり方は理解できない。
そこで日本人に「品がある」と受けとめられるものを理解しようと努め、食器を買い集めているうちに止まらなくなった。終わりがない。そこで気づいたのは、日本の文化は絶えず揺れ動き終わりのない状態を作っておこうとすること。これは「生(き)の文化」といえる。
日本の自然は上手く調和しており、そこには絶対唯一の考えが生まれにくい。日本人は対立を好まず、異なる価値観を受け入れ融合しようとする。
朝鮮半島も日本と同じ自然を持っている。四季があり温暖で、山が8割、海に囲まれている。何が日本と違うのか。一つは地勢学的な問題。朝鮮半島は中国の影響を圧倒的に受け、北方民族から絶えず侵略を受け続けた。絶対的なものは一つしかないという価値観がそこから生まれた。
一方、日本は島であったことが幸いした。大陸から文化文明が入ってきてもそれを融合吸収してきた。他民族から一度も侵略を受けていない世界唯一の国でもある。
自然のあり方を精神的に強い文化に組み込み、それを時代ごとに開花させていったことが特長。インド、中国そして朝鮮半島にはなくなったものが日本には宝庫のように全部残されており、それを探る楽しさはほかの国では味わえない。
融合化された日本の文化には欧米化された世界、農耕アジア的な世界、自然とともに生きてきた縄文時代的な要素の世界と3つの世界がある。
これらのうち、自然とともに神々とともに生きてきた世界にしか未来はないと思える。これは他の国が失くしてしまったものだが、いま全世界が直面している限界を打開するため「全体と個の調和を軸にした高い理想を持つこと」を提言するものでもある。
日本は世界一格差の少ない中間層社会を作り上げたし、伝統的な職人技術から最先端技術まで持つ。最も治安が良く安全な国であり、経済は世界に誇る技術に支えられ世界に貢献出来る。これらは世界の国々が理想としながら達成出来なかったこと。日本ができたのは直感的、情緒的な世界に裏打ちされた日本の社会性を経済に浸透させたことによるものと考えられる。
これからは意識的に体系的にこの世界を生かしていくしか日本の未来ひいては世界の未来はありえないと確信している。
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講演後の懇親会で、講師の呉善花氏を囲み歓談する皆さん |