元のページへ戻る 

(2013年9月18日 )

一般社団法人 ディレクトフォース 9月 講演・交流会

「アミノ酸の話    がんのリスクもわかります !!   

味の素株式会社 山口範雄

 

講師何故、"当社が、アミノ酸"なのか。当社の原点である「味の素®」は、機能的には、「うま味調味料」ですが、物質的にはアミノ酸の一種であるグルタミン酸であります。アミノ酸の新しい機能、量産化技術の開発を繰り返すことで事業の多角化を図り、アミノ酸に関する知見を深めてきました。 当社の原点である「アミノ酸」のもつさまざまな効果や機能についてご紹介したいと思います。

1.食品とアミノ酸

それでは、まず、食品とアミノ酸について、お話します。

我々、人間は、五つの基本味と、その栄養生理学的な意味を知っています。

甘味はエネルギー源、塩味はミネラル、酸味は腐敗・未熟、苦みは毒、そしてうま味はタンパク質、という具合です。うま味成分を昆布から抽出し、グルタミン酸であることを突き止めたのは東京帝国大学の池田菊苗博士ですが、他のうま味物質――例えば、カツオのうま味成分・イノシン酸、シイタケのうま味・グアニル酸等、いづれの発見者も日本人です。これらの出汁に、日常的に親しんでいた日本人にとり、うま味は把握・認知し易いものだったのでしょう。

「うま味」は、今や、日本語がそのまま「UMAMI」として世界の有力辞典にも掲載されています。グルタミン酸が、うま味の中でも、最も重要な成分であることを示す事実を二三、ご説明します。皆さん、青いトマトには食欲は湧かず、赤く熟したトマトが美味しいことは、ご存知の通りですが、トマトが赤く熟す過程で最も増える成分が、グルタミン酸です。又、ヒトの母乳の中に最も多く含まれているアミノ酸は、グルタミン酸です。基本五味と赤ん坊の表情の関係を研究した学者がいますが、スマイルのような良い表情をするのは、五味の中、甘味とうま味を与えたときです。男女関係なく、ヒトの赤ちゃんは、オッパイが好きであり、人生で最初に出会う美味はグルタミン酸なのです。

2.スポーツとアミノ酸

次に、スポーツとアミノ酸についてお話します。人間の体は、60%が水分で、20%がタンパク質です。タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されていますので、人間の体は、アミノ酸から出来ていると云っても、過言ではありません。アミノ酸は、体内で作ることができる非必須アミノ酸と、体内で作れない必須アミノ酸があり、中でもバリン、ロイシン、イソロイシンを分岐鎖アミノ酸(BCAA)といい、筋肉形成や疲労回復に大きく関わっていることが、分かっています。例えば、BCAAを摂取すると、運動中の筋タンパク質の分解が抑えられます。又、BCAAの摂取により、筋肉痛が軽減されることも、実証されています。アミノ酸であって、薬剤ではありませんので、ドーピング検査の問題も全くありません。

記憶に新しいロンドンオリンピックでは、日本選手団のために、アミノ酸の含有量を増やしたサプリメントを提供し、活用いただきました。オリンピック選手と競馬馬を同列に並べては、お叱りをうけてしまいますが、アミノ酸で育った地味な血統の競走馬"セイウンスカイ"は、1998年、皐月賞、菊花賞の二冠達成をしました。皆様のゴルフ・スコア改善については、保証しかねますが、プレイ翌日の筋肉痛および疲労軽減については、お約束できると思います。

3.アルコールとアミノ酸

次に、お待ちかねの、「アルコールとアミノ酸」に移ります。アルコールは、分解されてアセトアルデヒドになり、最終的には水と二酸化炭素に分解されます。アラニンというアミノ酸は、しじみ等の魚介類に多く含まれる非必須アミノ酸の一種ですが、グルタミンというアミノ酸と共に、アルコール分解を早める機能があることが分かっています。お酒を飲む前に一服、途中で一服、就寝前に一服、この二種類のアミノ酸を摂取すると、飲み過ぎても、二日酔いにならずに済みます。私も、かつては愛用していたのですが、最近はドクターの指示により、残念ながらアラニン、グルタミンが必要になる手前で、毎晩、打ち止めにしております。

4.睡眠とアミノ酸

次は、アミノ酸の一種、グリシンが齎す熟睡効果についてお話します。

この効果の発見に繋がったエピソードがあります。我々の研究員が、或る薬剤の効果確認のために持ち帰りテストに参加しました。薬品業界の方はご存知の通り、通常、薬品の効果確認のためには、当該品と共に、当該効果とは無縁の「プラセボ」と呼ばれる比較対象品を持ち込み、両者の有意差がどのくらいあるかで、当該品の有効性を評価しますが、この評価試験の時に、「プラセボ」として、グリシンがつかわれました。ところが、何の効果も期待されていない「プラセボ」グリシンを摂取した翌朝、我が研究員は、奥様から"昨夜は、いつもの煩いイビキをかいていなかった"と言われ、その報告を受けた感度の高い上司が、"ひょっとしたら"と、本格的な追求がテーマ化されたのが、グリシンの熟睡効果発見に結び付いたのです。絵に描いたような「瓢箪から駒」でした。睡眠には、身体も脳も休息状態にあるノンレム睡眠と、身体だけが休息状態で脳は活動状態にあるレム睡眠、の二種類があり、ヒトは一晩にノンレムとレム睡眠を3〜5回繰り返し、その深さが次第に浅くなって、目覚めるというパターンを描きます。寝入りばなの深いノンレム睡眠を徐波睡眠と云いますが、健康なヒトは、この徐波睡眠が多く、覚醒に近づくにつれて、レム睡眠が多くなります。各睡眠状態への到達時間を脳波測定により調べてみますと眠りつく時も、徐波睡眠に至る時間も、又、レム睡眠においても、グリシンというアミノ酸を飲んだ時のほうが、飲まない時より、短縮されることが判明しています。つまり、グリシン摂取により、自然な深い眠りに到達しているわけです。私は、常用しておりますが、特に、南米・ブラジル出張時には、例えば、帰途、サンパウロで搭乗直後に一服、ニューヨークで乗り換え直後に一服し、機内で熟睡出来ると、帰国後の時差ボケが軽くて済んでいます。尚、先ほどのエピソードからもご賢察の通り、睡眠時無呼吸症候群にも効きます。

5.医療分野とアミノ酸

最後に、アミノ酸技術による癌や成人病診断について、お話します。ここでは、「アミノインデックス®」という商標名を使うことをお赦しください。ヒトの血中のアミノ酸パターンは、健康時には或る標準パターンを示し、健康を損なう時にはそのパターンが変わることがあります。アミノインデックスは、そのパターンの変化により、特定の疾病リスクが生起していることを判別する技術です。一滴の血液検査により、胃がん、乳がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、他の婦人科がん等について、既存のマーカー検査以上の精度で短時間のうちにリスク判別が出来、精密検査により早期発見に繋げることができます。既に、1200以上の全国の医療施設で採用されつつあります。その中で、既存マーカーでは発見出来なかった早期がんが見つかり、早期治療に結びついた症例が、既にあります。

又、神奈川県・横浜市・川崎市による国際戦略総合特区の主要テーマとして、川崎市を先駆けに検診への採用、データの蓄積が開始されています。内臓脂肪、耐糖能異常(糖尿病の一歩手前)、脂肪肝など、生活習慣病領域についても潜在患者の早期発見が可能であることが、判ってきており、間もなく実用段階に入ります。生活習慣病については、既に疾病状態にある者は早期発見により、早期治療が可能になるのですが、更に素晴らしいことは、疾病状態には至っていない予備軍のヒトには、食生活やライフスタイルの改善により、疾病状態への進行を抑えることが出来る点です。

東日本大震災の折に、避難先で医療を受ける時に、地元での医療記録・データが無いために、ご苦労をされた話を沢山、耳にされたと思います。通常時でも、診療データが医療機関で共有されないために、短期間に同じ検査を何度もしたり、薬剤を重複して施薬された経験は、皆さんお持ちだろうと思います。蓄積された医療データを、個人情報としてのセキュリティ確保の上で、 本人の移動と共に、他地区でも参照・利用できれば、医療履歴に基づいた適格な診断・医療サービスが可能になります。

 又、多数のヒトの医療データを統計処理することにより、医療行為の 効果や、そのための諸条件なども、解析できるでしょう。こうした仕組みが出来、その中核に、日本人の死因の過半を占める癌や成人病に関するデータが具備されれば、日本人の寿命は、更に伸び、ひいては、医療費の削減にも繋がるでしょう。

アミノインデックスが、癌をはじめ生活習慣病の早期発見に役立ち、ひいては、老齢化が進む日本社会の医療費の削減にも繋がることが、ご理解いただけたと思います。尚、アミノインデックスのリスク診断技術は、人種横断的に適用できることが判っていますので、日本で、この診断技術の実績が上がれば、米国、アジアをはじめ、世界の人々の健康、長寿に貢献する可能性を秘めています。

食べる時も、飲む時も、ゴルフをする時も、寝る時も、アミノ酸のことを、チラッと思い浮かべてください。

21世紀は、「アミノ酸の世紀」です。

以上

懇親会の様子
講師の山口範雄氏を囲んで歓談する皆さん
懇親会の様子
講師の山口範雄氏を囲んで歓談する皆さん

(原文のママ)