(2012年10月4日 )
9月の勉強会は、9月12日学士会館で会員約100名が参加して開催されました。今回は講師に元京都大学教授、副学長、現在は国立社会保障・人口問題研究所長の西村周三氏(写真右)をお迎えし、「社会保障と日本経済の行方 人口減少と日本経済の見通し」というテーマで講演いただきました。
西村氏は医療経済の分野でわが国の草分け的存在の方で、医療経済学会の初代会長として活躍され、現在は厚生労働省におかれた上記の研究機関で社会保障と人口問題の政策研究を行っておられます。
お話は、人口問題については今起きていること、将来起きることを一緒にしないで時間概念を持って対応を考えること。経済については、震災復興分を除けば当分大きな景気回復は望めないから、超高齢化が進み経済が低迷する状況下で誰が社会保障の費用を負担するのか、どのように展開していけば良いのか考えることが重要であるという内容でした。詳細は次のとおりです。
2060年における人口は、14歳以下の年少人口の割合が9.1%と10%を割り込み、65歳以上の高齢化率が39.9%、それにともない15歳から65歳の生産年齢人口の割合は50.9%になるとショッキングな予測がなされている。少子化現象は、母数である子供を産む女性の減少と未婚率の増加によって歯止めがかかりにくい。高齢者を支えるのが「お神輿」から「騎馬戦」そして「肩車」に移っていくと深刻に受け止められている。但し、50年先の経済の姿を予測することは超難しいが、高齢化の予測は2025年頃までならかなり正確にできる。いま、50年後に備えて打つべき手を考える必要がある。
昔と比べて今は65〜74歳の人たちが元気だから、この人たちが支える側に回れば当面は深刻に考えることはない。65歳以上が40%を超えている集落のことを「限界集落」という。限界集落は次第に消滅していくといわれるが、ここ20年ぐらいで実際になくなった集落はそれほど多くはない。これら地域では、65〜74歳の年齢層のほとんどが支える側になっている。ただ都市部ではそう簡単ではないだろう。都市部で支えていく仕組みをどのように作っていくかは喫緊の課題といえる。
2025年以降、団塊の世代によって75歳以上が激増する。生産年齢人口15〜64歳を支え手とすると、2015年には65歳以上を支えるのは2.5人であり、これをちなみに75歳以上を支えるとすれば4.7人となる。75歳以上を支える場合には2045年で支え手が2.4人となるから、2045年まではなんとか持つことになる。
少子化対策は20年後を見越した場合、極めて重要な課題である。いまの20〜30歳代の若年者に投資しないと日本の将来が危うい。企業は内部留保を増やすだけで投資を減少させているが、正規雇用の問題を含めて熟練・技能の継承にもっと投資すべきである。学校教育だけでは若年者への投資は不十分である。
大都市部で75歳以上の人口増加が著しく、高齢化が急速に進んでいく。埼玉、千葉、神奈川では2010年から2025年の15年間でほぼ倍増する。この人たちの備えをどうするかが重要な課題となる。他方鳥取、島根のような人口の少ない地方都市ではほとんど変わらない。
東京都は総人口が1300万人で、75歳以上の人口が140万人から2025年には200万人を超え1.62倍となる。この間総人口はほとんど増えない。また国交省は、2050年には北海道にはだれも住まなくなる、中国・四国は大幅に人口が減少するという推測をしている。
15年先のことと50年先のことを一緒にすることがないようにしなければならないが、2050年についてどうするか考えておくことが重要である。
日本の名目GDPは、2008年の517兆円から2011年には462兆円と約50兆円減少した。デフレが続くことによる期待成長率の低下が我慢の企業経営を強い、付加価値を低迷させている。そのため雇用環境が悪化し労働所得が低下。将来に不安を感じる勤労世帯は貯蓄率を上昇させ、老後に不安がある人は貯蓄額を200〜300万円上乗せしている。これが国内消費の低迷に繋がりジリ貧の悪循環を招いている。
経済産業省が医療や介護を産業として拡大することで雇用が増えると期待を示している。しかし社会保障は今以上充実しません、医療や介護を自分で買ってくださいといわれたとき、老後の不安を抱く人が果たして医療や介護に消費を向けるだろうか。
これ以上豊かにならなくても良いという考えがある。高齢者にとっては、この考えで良いかも知れないが、若い人たちには妥当ではないだろう。高齢者と一緒にして、若い人たちに「下山の思想」(五木寛之)を説くことには賛成できない。これ以上豊かにならなくても良いという考え方には賛同できるが、要はソフトランディングをどうするかである。
経済が成長するよう、若い人たちが新しい産業を作れるような環境を整える必要がある。長期的に若者への教育訓練に投資を十分行い、熟練、技能を継承していくことが重要な条件となる。
日銀が長期にわたり通貨供給量を増やしてきたにも拘らず、企業が投資を抑制するために借り手が増えず通貨は銀行にとどまるだけで景気回復に繋がっていない。インフレを起こすことにより、これを解消しようとする考えがある。インフレになると消費が増えるというのが根拠になっている。しかし高齢者が物価上昇を考慮して消費を増やすだろうか。これから消費税が上がる際に、どのような消費行動を取るか関心のあるところだが、基本的にインフレは長期的な景気回復にあまり寄与しないのではないかと考えられる。
2000年から2010年の10年間で物価は5%程度下がったが、年金給付額は引かれていない。高齢者は物価が下がったからといって年金を下げることには同意しない。
しかし物価は地域によって差がある。物価水準は個人により異なるから、物価が高いところ、安いところを選ぶのは自己責任である。したがって従来の生活水準を維持するのに、物価が下がったら年金を下げても大丈夫ではないかと考えられる。基本的には物価の下がっていることを高齢者に理解し受け入れてもらう働きかけが求められるのではないだろうか。
社会保障費用の多くが赤字国債でまかなわれ、負担を将来世代に先送りしている現状から脱却するために、社会保障・税の一体改革として消費税増税が決定した。目指すところは社会保障の充実と機能強化で、トータルで3.8兆円程度、内訳として「子育てに0.7兆円、医療・介護サービス提供の機能強化に1.4兆円、おなじくセーフティネット機能強化に1兆円、年金制度に0.6兆円程度」を計画している。
深刻なのは、ここ1年税収が全く増えていないこと。このまま行けば益々借金が増える。増税が借金返済にまわってしまうのでないかと国民の不安や不満が増すことへの対応が課題となる。
これからの医療・介護のあり方として考えられることは、病院への入院を減らし、在宅・訪問診療を強化して、地域レベルでの療養中心への方向をめざす。さらに病院・病床機能の役割分担を通じて、より効果的、効率的な医療・介護の提供体制を構築するために、「高度急性期」「一般急性期」「亜急性期」「長期療養」「介護施設」に機能分化させ、互いの連携を強化させる。方向としては施設から地域へ、医療から介護をめざす。そして居住系、在宅サービスの拡充を図っていく。
これら実現のためには国民の意識変化や、IT技術を活用した社会保障ナンバーの導入により医療の重複をできるだけ避けることも考えていかねばならない。
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講師の西村周三氏と歓談するみなさん |