(2012年9月11日 )
8月のディレクトフォース勉強会は、8月20日に学士会館で会員90人弱が参加して開催されました。今回は、慶應義塾大学講師を務める憲法学者そして作家としても活躍されておられる竹田恒康氏を講師にお迎えして、「女性宮家は日本を滅ぼす」というテーマで講演いただきました。
竹田氏は、明治天皇の玄孫として旧皇族竹田家にお生まれになり、大学在学中から環境学の講演活動を始められ、現在多くの企業・団体の役員や顧問を務めておられます。環境問題と併行して憲法学、天皇制の研究を続けその成果を多くのマスコミで発表されるとともに、「日本を学ぶ」ことを目的とした「竹田研究会」を主宰されるなど幅広い活動を行っておられます。
天皇の天皇たるゆえんは、皇統男系男子が皇位を継承する万世一系の「血統の原理」にあるとして、女性宮家創設を認めることは天皇を天皇ではなくすものと明快に否定する見解を示されました。今回の勉強会は、会員が天皇について改めて考え直す機会となった内容でした。詳細は次のとおりです。
日本国憲法第2条は、「皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定めている。そして皇室典範は、「皇位は皇統に属する男系の男子がこれを継承する」と規定する。
小泉政権の時に、このままでは皇族が絶えるとして女性天皇、女性宮家という議論が起こった。当時若い男性皇族がおられず、愛子内親王が誕生されたとき女性天皇を認めるために皇室典範の改正が論議されることになったものである。しかし平成18年(2006年)9月、41年ぶりに皇族男子悠仁親王が誕生し皇室典範改正の議論は一旦沈静化している。
私は早い段階から女性宮家は女性天皇の始まりであって、天皇の終わりの始まりであると主張し、女性宮家は絶対ダメだと反対してきた。天皇はなぜ天皇かといえば、それは血統の原理である。天皇になることがあらかじめ決まっていて、その星をもって生まれてきた者が粛々とその運命を背負うことになる。これが天皇であり、それ以外の者が天皇になることは決してありえない。
女性天皇を認めることは未だ良いとしても、女系天皇(女性宮家)は血統の原理を否定することになるから本質的に受け入れ難いものである。民間人の場合であれば婿をとり、あるいは養子を受け入れて家督を継承させることが可能であるが、天皇は地位や財産を承継するものではなく血統そのものを継承するのであるからこのような方法はありえない。
しかしこの論拠にはトリックがある。女性宮家の趣旨は天皇陛下のご公務を軽減することにあるとするが、現在の女性皇族(6方)は公務を担う立場にない。公務を担っていない女性皇族が結婚され、皇族を離れても陛下のご公務負担が現状よりも増えることはない。宮内庁は当然このことを理解している筈だから、宮内庁がこの主張を支持することは国民を欺くものとしか思えない。
女性宮家を認めることは、天皇の終わりの始まりである。いきなり天皇をぶっ潰すといえば反発が出るので徐々に崩していこうという狙いが込められている。何故かといえば、女性宮家は民間男子を皇族に受け入れることになる。2000年の皇室の歴史において女性を皇族に迎え入れた例はあるものの、民間男性を受け入れた例はただの一度もなく、万世一系の男系継承を守り続けてきた。女性天皇の婿を民間から受け入れれば、天皇の血統を引かない者が天皇の父ということになりうる。これは万世一系の男系継承を放棄することを意味し、血統の原理を否定することであるから天皇の本質を失うことになる。
昨年11月の女性宮家の議論は、たまたま起こったものではない。小泉政権時代の有識者会議に端を発している。有識者会議で出された結論は次のようなものであった。
ちなみに有識者会議の座長を務めた古川元官房副長官は、旧社会党と強いパイプでつながれており、自身マルクス・レーニン主義者である。彼は小泉政権を遡ること10年以上も前、橋本政権時代から既に女性宮家の研究、議論を始めている。
皇室典範は一般法ではあるものの皇族に関するいわば国体を決する法律であり、憲法に次ぐ重要なものでその改正は至難のことである。強大な政治力を持った小泉政権ならこれをなしうる力があると見た女系派は絶好のチャンスと捉えていたと思える。しかし、このとき秋篠宮親王妃殿下紀子さまご懐妊で皇室典範改正は沙汰止みとなった。
有識者会議の結論のⅰ、ⅱは沙汰止みになったものの、ⅲの女性宮家について女系派はチャンスを待っていた。一つは眞子内親王殿下がご成人されること、もう一つは天皇陛下のご病気である。眞子さまが成人されたのに加え、陛下が長期入院されたことで天皇のご公務の多忙さを国民に知ってもらう機会を捉えて昨年11月に女性宮家案を発表した。タイミングとしては完璧であった。
これに対して多くの人が賛同したものの、万世一系の血筋を引かない者が天皇の位につく可能性があると主張して一部保守派が反対した。この反対意見を受けて官邸が保守派重鎮からヒアリングしたところ、「万世一系男系継承を保証する、それを前提に女性宮家を一代限り認める」という意見が出た。しかし一代限りとしてもこれから長い皇室の歴史の過程において女性宮家の男子を天皇にということが起こりえない話ではない。2000年続いた天皇の男系継承の伝統が崩れることになる。
2000年続いた天皇の男系継承の伝統を守るためには旧皇族を活用すれば良い。戦後皇室を縮小するとして12宮家が廃止された。この中には天皇の男系血筋を引いた人がいるから、これを活用することを考える。旧皇族で未婚の男子は9人、結婚された若い夫婦は5組ぐらいおられる。したがって旧皇族を復帰させる、あるいは旧皇族から養子を宮家に入れる方法が考えられる。復帰した皇族が天皇になることはあり得ないが、宮家はいざというときの血のスペアーである。大宅壮一によれば「宮家とは万世一系血の理論における伴走者」である。
宮家から天皇が出たのは、これまでの例からすれば800年に1度に過ぎないが、いざというときのために準備をしておく。4つの宮家を存続させれば確率論的には500世代に1度危機があるかどうかであり、天皇の男系血筋が途絶えることはまずありえない。したがって伝統を変えることではなく、伝統を守ることを考えるべきである。
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講師の竹田恒康氏の著書にサインをいただき、歓談するみなさん |