DF超高齢社会問題分科会の世話人で、生涯現役ジャーナリストをめざす牧野義司です。最近、私がインターネット上で展開します「時代刺激人(じだいしげきびと)」コラム欄で下記のようなテーマでコラムを書きました。一部のDFメンバーから「100歳社会総研の談論風発ひろばで問題提起してもいいテーマなので、転載したらどうか」とアドバイスをいただき、さっそく実行に移すことにしました。ぜひ、ご覧いただければと思います。
劣化著しい日本、新ソフトパワーで再興めざせ
高齢社会対応のシステム改革進め、新興国にモデル提供を
オランダや韓国といった人口少なく国内市場も小さい国々が、ハンディを乗り越えグローバル世界で際立った存在感を見せている。これに対し超高齢社会の課題対応で苦しむ日本は、負けずに頑張れ、と前回コラムで申し上げた。日本は改革チャレンジが必要だが、とくに、新たなソフトパワー国だと言われる社会システム改革を大胆に進め、今後、同じ高齢社会問題への対応で苦しむ新興国に対し独自モデルを提示することだ、と思う。
政治がその典型だ。政治業者かと思う高齢政治家が現場を仕切り、世代交代に待ったをかけている。日本の周辺で起きる地殻変動にも鈍感だ。若手政治家がこれに全く反発しないのも不思議だ。今や政治に次代を見据える志も力もなく、三流レベルと言わざるを得ない。
経済も二流、三流の領域に入ってきた。バブル崩壊から30年間もたつが、その間のマクロ経済政策はちぐはぐで、年率1%前後の低成長を続けたままだ。政策検証が行われず、状況に流されているだけで、メリハリがない。また日本の科学技術水準は高いはずなのに、次代を画する凄いイノベーションが見えない。経済社会に構造問題がある、としか思えない。
今や「海外投資家は日本を見捨て『円売り』の動き」
そうした中で最近、巨大マネーを動かし話題多い米投資家のジム・ロジャーズ氏が「捨てられる日本」という題名の著書で、鋭い指摘を行った。一時1ドル150円にまで円安が進んだ日本の現状について「大半の海外投資家は、これまで日本円を安全資産で、リスク回避のための避難通貨をみなしてきた。しかし昨今、彼らは、この国を徐々に見捨て、『円売り』の動きを加速しつつある」と述べている。悔しい話だが、日本自体の劣化で円評価がかつての円高時に比べて大きく下落、国際的な信認が落ちていることは間違いない現実だ。
BBC特派員「老人世代の支配する日本の未来が心配」
もう1つ、厳しい指摘がある。英BBC東京特派員を10年続け、最近、中国上海特派員に転出したルーバート・ヘイズ氏が「過去にとらわれる日本」と題した日本卒業?レポートで「かつて米国や欧州から経済台頭を恐れられた日本が今、経済低迷に苦しみ、変化に対する根強い抵抗と過去への頑な執着が前進を阻んでいる」というのだ。以下に提言が続く。
「私は、老人世代が支配する日本の未来を心配している。(中略)日本は次第に存在感のない存在へと色あせていくのだろうか。それとも自分を作り直す気があるのだろうか。日本が繁栄するには世界の変化を受け入れ(自らを変えていか)なくてはならない」と。
強み、弱みを見極め成熟経済社会の先進モデル事例を
これらの人たちの指摘は実に厳しい。日本は今や二流、三流国に転落し、将来展望がない国になったのだろうか。私の答えはNOだ。もちろん、日本には「経年劣化」現象が見られ、今後、人口の少子化、そして高齢化をきっかけに、成長への制約となる問題や課題を数多く抱え、成熟経済社会の負の側面が出てくるのは確実だ。それは否定しない。
しかし、ここからが日本の踏ん張りどころだ。自らの強み、弱みをしっかりと見極め、強み部分を伸ばすことが重要だ。その場合、軍事力などハードパワーを誇示することは日本ではあり得ず、ソフトパワーを全面に押し出すことだ。ソフトパワーには、いろいろなものがあるが、日本としては新たな成熟経済社会の先進モデル事例を示すことがポイントだ。
高齢社会対応の新介護システムも一案、中国などが関心
具体的に申し上げよう。人口の高齢社会化に伴って、たとえば介護サービスシステムが間違いなく重要課題になってくる。高齢社会の世界フロントランナーの立場にある日本は、もがきながらも介護サービス分野で先進取り組み事例を持っている。そこで「介護先進国」デンマークなどと連携し、優れたモデル事例を新たにつくって世界にアピールすればいい。
というのは人口高齢化の進む中国、ベトナム、タイ、シンガポールが経済成長を優先するか、介護など社会保障に積極対応するかの板挟み状態。特に中国は、社会保障対応を怠ると社会問題化しかねず、先進国入り?目前で「中進国の壁」問題に直面している。関係者によれば、中国は日本の介護システムに強い関心を持ち、研究対象にしている、という。
そこで日本の出番だ。これまでの介護現場での失敗体験、それらの課題克服にどう取り組んだか開示と同時に、今後の合理的な介護システムや介護ロボット導入事例、介護デジタル化をアピールすればいい。介護サービスのみならず高齢者医療、認知症などの課題対応も重要だ。それら事例に関しても情報共有、アジア関係国間データベースづくりを主導すればいい。積極情報開示し政策提案すれば高齢化先輩国・日本への評価は間違いなしと思う。
若手に次代を委ね「老人支配国」イメージ払しょくを
とはいえ高齢化社会のさまざまな課題を抱える日本が、「老人支配国」と思われている点を払しょくするのも重要テーマだ。プライド高い高齢の政治家、企業経営者の背中を押し、世代交代を積極的に進めるのは難しい。しかしメディアを軸に論争を巻き起こし、世代交代によって日本を変える、という状況を作り出すことが間違いなく重要だ。
その場合、人生椅子取りゲームに例えれば、シニア世代は椅子にしがみつくのでなく若手に席をどんどん譲る、その代わり自らは経験や人脈ネットワークを生かしてシニア用の椅子を独自につくって座ればいい。そして、今後の大胆なイノベーション、新時代を作り出す担い手役は若手世代に委ね、自らはバックアップ役に回る。それだけでない。シニアの独自発想で面白い成熟世代対応の消費市場をつくり、経済の掘り起こしを担えばいいのだ。
今後の日本を支える民間主導GX・脱炭素戦略投資に期待
ただ、日本の今後を考えると、高齢社会&成熟社会国では1億2000万人の巨大人口を抱える日本をとても支え切れない。その経済を支えるイノベーション投資が必要になる。
その1つとして、日本政府が今年2月に決めたGX(グリーン・トランスフォーメーション)戦略が興味深い。2023年度から10年間で政府、民間合わせて総額150兆円の巨額投資を軸にGX・脱炭素戦略を実行に移す、という。でも大事なのは民間主導で行くことが最重要だ。そこで政府は民間投資を引き出す先導役になるため、GX経済移行債を10年間、毎年発行して20兆円を確保、そして中核エネルギー源になる水素、アンモニア活用のため、18プロジェクトにグリーンイノベーション投資を行う計画という。期待したい。
バブル崩壊後の日本経済が30年間も低迷した最大原因は、イノベーション投資が起きなかったことだろう。責任は政府のみならず、民間企業にもある。中でも民間企業はリスク回避が先行し、イノベーションにチャレンジする投資を行わず、自社株買いの後ろ向き投資に充てた。今回のGX戦略投資では、それら反省に立ち民間主導で積極投資を望みたい。