第19クール 企業ガバナンス部会

第1回月例セミナー

2023年1030日
山本 礼二郎 氏 インテグラル(株) 代表取締役パートナー
日時
2023年9月13日(水)
講師
山本 礼二郎 氏 インテグラル(株) 代表取締役パートナー
演題
PE(投資家)から見たコーポレートガバナンスの課題について

講演要旨:

過去、ハゲタカなどと呼ばれて、なかなか日本に定着しなかった Private Equity(PE) であったが、長期視点で「良い企業」を残すということを目指し、「産業」と「金融」の実務を複合化させることを目指して日本版PEを始めた。
PEは、バイアウトとベンチャーキャピタルの2つに分けられるが、インテグラルが目指すのは、ある程度の事業プラットフォームの中堅以上の会社のマジョリティーを取るバイアウトの分野。事業承継、民事再生、安定成長期を迎え再成長を目指す会社などが対象になっている。
過去に31社の買収を行い、うち6社は上場している。IPO実績では、日本最多。

「ともに『良い会社』を作ろう」というモットーで、インテグラルの投資には、下記の特徴がある。

I-Engine:

70名の社員を必要に応じて出資先企業に派遣し、DDで見つけた成長テーマの実現に向け貢献する。(会社と一緒に汗をかく。決して一方的に人を送ることはせず、出資先のために黒子として働き出資先企業に役立つ人を厳選する。(Human Resource Consulting)

ハイブリッド投資:

資金提供するに際しては、ファンドとして集めたファンド資金(最長10年)と当社の自己資金(プリンシパル投資=無期限)を組み合わせる。ファンドの資金は、リターン付きで償還する。ファンドがExitした後でも、当社の自己資金については、出資先の長期的な安定株主として協力する。
これにより、

  • 会社価値の最大化
  • 投資家だけではなく、カウンターパート全体への還元
  • プリンシパル投資の回収資金は再投資に回す

ことを実現することで、社会インフラとしての信頼を獲得していく。

出資先の業種は多岐にわたるし、出資後のアクションは様々。例としては、出資企業を一旦非公開会企業として、市場を気にすることなく比較的自由に同業他企業を買収し、マーケットに応じた事業会社群の再編を行い、成功に導いた例(豆蔵)、出資後同業の他社を買収し、業界内での地位を確固たるものにした例(T―ガーデン)、出資先企業同士が協力して新たな成功を生み出した例(TEC)など多くある。また、同じ会社の中でも販売の戦略を大きく変えることにより成功した例(ヨウジヤマモト)、お客様へのサービス向上(定時発着ワーストからベストへ)を大きく改善して会社のイメージを変えることにより成功した例(スカイマーク)、販売と生産の情報共有サイクルを改善したことにより利益率を大幅に改善した例など、出資先では当社の人間も一緒に汗をかくことにより成功に導くというのが当社のやり方である。

人材の派遣については、当社から人を押し付けることは絶対にしない。「その業界のプロフェッショナルはその会社にいる」ということを常に念頭に置き、投資先企業のニーズに応じて、中継ぎの社長派遣、社長の派遣、CFOの派遣、経営企画、海外進出、M&Aその他CxOなどの担当者を派遣するなど、いろいろなことが出来る人材を当社の中に持っているのが大きな特徴。例えば下記のような形を目指す。

I-Engine:企業革新支援チーム(経営陣とともに)

事業成長面のサポート

  • 企業価値向上プランを立案・海外事業展開の実行支援
  • 新規事業の立ち上げ支援
  • 戦略的提携/企業買収等の実行支援
  • 取引先等の紹介、条件交渉等への協力

財務面のサポート

  • 投資スキームのストラクチャリング
  • MBO、増資引受、借入調達等による投資実行・キャッシュフロー改善施策推進(運転資本等)・リファイナンス等の財務政策の実行支援

管理体制面のサポート

  • 計数管理の「見える化」
  • 経営の仕組みの改革(経営会議等)
  • インセンティブ・プランの導入等、人事制度の改良・法令遵守・内部管理体制の整備・強化
  • ITシステムの改良(業務・財務効率の向上)・DXによる本業強化
  • 人材採用支援

M&A

日本のM&Aは、拡大・活性化した20年間を経て更に一層拡大していく。日本のM&A関連の法制・制度はほぼ米国と同じレベルに来ていると考えていい。新産業革命が全社・全産業・全市場で進行中であり、必ずM&A活用機会が増大していく。例としては、

  • IoTの技術・人材を獲得するためのM&A
  • EV化に対応するR&D集中投資のために他の事業を売
  • M&A後にEコマース・DXの強化の施策が必須に
  • 生命科学DNA先端技術で急成長ベンチャー企業と投資提携

など、全産業でもっと活発化していく。

上場・非上場

企業の上場・非上場化については、日米の間で大きな考え方の違いがある。米国では、上場するかしないかは、出入り自由と考えてもいいほどの考え方が浸透している。日本では、まだ上場していること自体が神聖化されているのではないか。上場のメリット・デメリットは常に考えて会社にとってどちらが良いかを考えておくこと。一般的に、上場のメリットは、知名度・信用力を上げる、資本市場からの資金調達の容易性などであるが、デメリットは、買収脅威、情報開示などの上場コスト、また当該企業の情報(製品、戦略など)が情報開示により同業他社に筒抜けになってしまうことにもなりかねない点だと認識すべき。

その他、敵対的買収、DD、PMIの注意点などのお話をいただいた。最後に、「個人の力」はどこでも小さく、この力を結集できるようベクトル(推進力)の最大化(「出力係数」X「ベクトル係数」)を図るべき、「腕力のある善玉」を目指すということで締めくくられた。

今回の資料はかなり固有名詞が詳細に亘って出ておりますので、取り扱い注意でご覧ください。

ご講演の後、下記のQ&Aあり

Q1.
買収後の取締役・監査役の派遣・人選などはどうされているのか?
上場会社の場合には基本的に買収時点での役員をそのまま継続、一旦非公開化する場合には全役員の入れ替えも視野に入れ、再上場する場合には、コーポレートガバナンスコードなどを考慮して新しく役員を探す。上場を目指す場合には、N-3からガバナンス設計をはじめ、N-2から具体的な人選を始める。インテグラルからの派遣役員は1名のケースが多い。
Q2.
I-Engineで企業から派遣してほしいという人材ニーズと、インテグラルの人材とはある程度リンクしているのか?
熱意のある人を中心に多種多様な人を揃えている。但し、基本的には、「最高のプロフェッショナルは投資対象の会社にいる」を常に考える。あくまでも専門家として、支援するというスタンスで派遣している。
Q3.
CGC改訂などで何が変わったのか?
正直なところ、海外の投資家などは日本の制度に失望している。今回のCGC改訂も東証市場改革も、基本的には従来と変わっていないということで、それほど期待はされていないのではないか?ただ、今回で本気で動きが変わるか、見極めているところだと思う。
米国などは、公開・非公開が自由に行われている(出入り自由)。ここ20年程度で、日本の上場会社数はほとんど変わっていないが、米国では半減している。一方で米国の新規上場数は増えている。即ち、上場会社は多産多死の状況。日本もこれから変わっていくかどうか、というところ。
Q4.
社外取締役に就任するにあたっての心構えは?
マインドの切り替えが最も重要。社外から来るので「異物」が入ってきたと見られるので、自分が「異物」だと言ってひけらかせるのは最悪。(前職では云々というのは絶対言わないこと)
以 上(荻野 好正)