第18クール 企業ガバナンス部会

第10回月例セミナー講演要旨

2023年7月21日
開催日
2023年6月20日(火)10:00~12:10
場所
Zoom + スタジオ751(事務局)
テーマ
米国子会社のガバナンスとコンプライアンス
 ~弁護士から見た日系米国子会社の経営~
講師
秋山 武夫 氏
米国弁護士(元丸紅、元ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン法律事務所パートナー)
参加者
45名(録画視聴者含む、DF非会員15名含む)

講演概要

秋山 武夫 氏 米国弁護士(元丸紅、元ピルスベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン法律事務所パートナー)

本年1月のアカデミー本部第一回知楽会で、日本企業に対する米国法の域外適用の諸問題について解説した講師が米国から再登壇。今回は「グローバル企業の頂点にある日本の親会社の米国事業を含むグループガバナンスと米国子会社自身のリスク管理とコンプライアンス」について、特に現地経営陣や少数株主とのコンフリクト(利益相反)の問題を中心に弁護士から見た日系米国子会社の運営について米国での実体験を踏まえ幾つかの事例紹介を含めご講演いただいた。

講演内容要旨

1. 本日の要点

全てのステークホルダーが共通のミッションに向けて、利益相反や利害の不一致によるコンフリクトが発生しない調和の取れたガバナンスとコンプライアンスの枠組みをどう構築するかがポイント。グループ経営によるグループ全体の企業価値の最大化にはコンプライアンスの為の親会社による管理、監督が必要であり、日本の親会社の役割と責任は大きい。子会社における効果的なコンプライアンス制度の設計、実施並びに継続的見直しが重要。

2. グループ企業のガバナンス

  • 米国大和銀行事件はNYの一行員の権限外取引により発生した巨額の損失に対して、海外支店の不祥事により日本の親会社の役員の善管注意義務が問われ巨額の賠償金の支払いが求められた。適切なリスク管理体制(所謂内部統制システム)の構築の必要性が海外のオペレーションについても明確となった事件として記憶に新しい。
  • グループ企業の一員としての米国子会社は、本社の支店や事業部門の様な存在であり、経営と資本の分離がなく株主有限責任の原則や独立企業の原則を担保するベースが存在していないという矛盾を抱えている。
  • 米国子会社に対する親会社の経営への関与や役員の兼任により、刑事の域外適用(連帯責任、幇助罪)や、民事に於いても州の人的管轄権(ロングアーム法による非居住者への管轄権の拡大)がある点に留意が必要。親会社が訴訟に巻き込まれた場合は勿論のこと、米国子会社の訴訟でも親会社が証拠開示要求制度 (Discovery) の対象となる可能性がある為、米国子会社のコンプライアンスには親会社による米国法へのコンプライアンスが求められる。
  • 少数株主のいる米国子会社の経営にはコンフリクトオブインタレスト(利益相反)に焦点を当てたガバナンスの仕組み構築が重要。即ち、レンタカーチェーンを Earn Out と呼ばれる2段階買収によるM&Aにより買収した三菱自動車のケースでは、旧オーナー Cohen 一族の持分20%と役員を温存し経営を現地の少数株主に任せたことにより、フォード車が採用され係争に発展した。クロージング後の経営を売手側に任せることは買収契約に於ける会社内容のデューデリジェンスが不十分となる。一例だが戦略的経営者が会社を売却した様な場合手放した会社の奉公人にはなりたくない、新たな事業に傾注したいという心理が働き、また旧オーナーがリタイアの一環として会社を売却した場合は、経営に身が入らないといった問題がある。少数株主とのこうしたコンフリクトが生じないガバナンス体制を企業の経営者自身が主体となり当該子会社の特性に合ったテーラーメードのガバナンス体制を検討し構築することが重要である。80%でなく100%の子会社のガバナンスを検討するに当たってもコンフリクトの回避は重要である。
  • 日産ルノーの資本提携のケースでも、業務提携の細部の詰めが不十分なまま提携が合意されたことにより、多くの分野でコンフリクトが発生した。
  • 米国子会社のリスク管理に当たっては所謂ホワイトカラークライムの問題に注意を要する。インサイダー取引、脱税、贈賄、独禁法違反等社会的信用を有する者が職務の過程又は職務上の地位を利用して行う経済犯罪であるが、米国では社会に対する挑戦=テロ行為と見なされ厳罰に処される。
  • 自動車メーカーX社の米国子会社役員のセクハラに関する民事案件は和解により短期で解決したが、メディア対策を含めた複眼思考によるトータルリスク管理の必要性が浮き彫りになった。形は訴訟でも法律以外の要素の方が問題解決に重要な場合も多く、メディア対策に加え、従業員対策、消費者対策、コスト対策等を含めたバランスの良い判断が求められる。従業員との雇用契約を巡る係争案件では、企業に取り訴訟より仲裁が陪審員がいない等いくつもの点で有利であり推奨される。
    日系企業が訴追の対象となった刑事案件、民事案件の99%は和解で解決されているが、「不本意な和解は完全な勝訴に勝る」との考えのもと、早期和解に向けた戦略の実行が重要である。
  • 医療機器メーカーY社の事案では現地経営陣自体が違法行為に関与しており、和解を妨げるコンフリクトが見られたケースがある。また、米国の民事訴訟制度では当事者が相手先に対して書類や情報の開示を求める証拠開示手続制度があり、製紙会社Z社米国子会社の事案では親会社の子会社への一通のメールが命取りになったケースがある。米国でのリスク管理でことのほか大事なのは証拠開示手続きに対する対応であり、親会社の関係部署は自らのメールが子会社を巻き込む米国での訴訟に於いて証拠開示手続きの対象となる可能性があることを十分理解し、注意深く書類を作成し同時にメール等の定期的な廃棄に留意が必要。
  • 米国子会社のコンプライアンスに当たっては、雇用や職務の範囲内で当該不正により企業に利益がもたらされる場合は従業員の不正=会社の不正となり、犯罪の予防の観点で会社も刑事罰の対象となる。日本の様に両罰規定の存在が要件とはならない。また民事でも会社に懲罰的罰金が課せられる可能性がある。裁判官によって異なる量刑が課されるのを避けるため、連邦センテンシングコミッションが量刑ガイドラインを定めており、同コミッションが公表したコンプライアンスのための7つのステップが多くの企業でお手本として活用されている。日本人はコンフリクトに対する理解やDNAが弱い面があるが、各企業は夫々の事業の特性に合わせてテーラーメードの効果的なコンプライアンス体制を構築することが重要である。

主なQ&A

Q1.
三菱自動車のケースでは三菱は株式を80%所有しており取締役会でもマジョリティを取れたのではないか。また取締役会でM&Aによるレンタカー会社の買収を審議するに当たり、三菱車の採用を検討していれば事前にフォード車を防止することが出来たのではないか。
A1.
取締役会はフォード車の導入に反対したが、子会社の役員が賛同強行したもの。三菱自動車は利害関係者の立場ではあるが、米国の判例では案件がフェアーであり決定事項が公正なものであれば決議に参加出来ることにはなっている。但し、公正ではないことを指摘して経営者が従わないことは十分あり得る。
Q2.
X社のセクハラ訴訟の事例紹介があり雇用に於いては仲裁が効果的との説明があったが、日系企業では制度の導入が進んでおり雇用に於ける訴訟は減っているのでしょうか。仲裁合意についてご説明あったが司法取引と同じものかそれとも別物か。
A2.
仲裁により訴訟は減って来ている。司法取引は刑事に於いて当時者同士つまり検察と被疑者が和解するもの、一方仲裁は民事に於いて第三者の仲裁人による仲裁を当事者同士が予め合意するものであるが、仲裁人の判断については従わざるを得ない。一般的に陪審員による裁判よりも仲裁人による仲裁は合理的なものであり、仲裁に対する評価は高い。
Q3.
米国のみならず海外子会社の管理を考察するに当たっても示唆に富んだ講演であり、そのキーワードはコンフリクトとそれに対する適切な対応と理解した。そこで三菱自動車のケースで少数株主役員を本社のボードメンバーに選任した場合、そのメリット・デメリットについてはいかがお考えでしょうか。
A3.
状況によりけりであり、Cohenの様に会社売却により新しい事業を展開しようとしている場合は親会社の役員登用は望んでおらず、むしろいやがらせをすることになりコンフリクトの解決には繋がらない。
以 上(國安 幹明)