第18クール 企業ガバナンス部会

第8回月例セミナー講演要旨

2023年6月21日
 昭和電線ホールディングス(当時)、現:SWCC株式会社 代表取締役社長・グループCEO 長谷川 隆代 氏
開催日
2023年4月25日(火)14:00~16:00
場所
Zoom + スタジオ751(事務局)
テーマ
人的資本と多様性、女性役員の意義を考える
講師
松澤 香 氏
三浦法律事務所パートナー弁護士、Onboard株式会社代表取締役CEO
参加者
35名(録画視聴者含む)

講演概要

サステナブルな経営が求められる中で、企業が保有している資産のうち「無形資産」が重視されるようになってきており、とりわけ無形資産の中でも、企業成長に大きく影響する「人的資本」は、投資家も特に注目している。また、企業の多様性について女性活躍を中心に対応を求められ、その取り組みについて公表も義務化されてきた。これらの課題と解決策について事例を交えてご講演頂いた。

講演内容要旨

1. 最近のニュースから社会における女性役員のニーズ

経営層に女性取締役不在の場合、経営者の再任に反対票が投じられるようになった。(例:キヤノン)
議決権行使助言会社のISSやグラスルイスは議決権行使基準に多様性が欠如(女性取締役が一人もいない場合など)している場合、経営トップの任命に反対助言を行っている。

2. 女性活躍・ダイバーシティ概観

ダイバーシティ経営は労働市場の供給構造の変化や市場環境の変化を背景に必要なことであり、性別などの表層的なものだけでなく、価値観の多様性などの深層的なダイバーシティも求められる。その実現には理念を共有し、多様な人材を管理できるシステム構築、働き方改革などが必要。ダイバーシティ経営が進んでいる会社にGoogleが挙げられるが、具体的な要素として、国際色の豊かさ、リーダシップポジションの男女比や国籍バランス、ダイバーシティ教育の普及や、DE&Iの取り組みの透明性などが必要である。女性活躍はダイバーシティ経営の一要素に過ぎないが、日本ではこれが第一歩である。
日本はジェンダーギャップ指数の国別順位が極めて低く、改善が急務となっている。

3. 女性活躍推進の理由

女性活躍について女性役員に注目すると経営の意思決定に多様な視点や価値観が反映され、幅広い選択肢での検討が可能になり、結果、イノベーションが促進され、企業競争力や社会的評価が向上し、企業価値が上がる。機関投資家は女性活躍情報が企業業績に長期的に影響があるとみている。またROEなどの経営指標にもプラスになっているとの指摘もある。

4. 背景の一つとしてのCGコード

CGコード原則で社内の女性活躍を含む多様性の確保、取締役会のジェンダー確保が企業価値向上に資するとし、実効性確保を前提条件としている。

5. 2023年3月期以降の有価証券報告書における多様性開示

有価証券報告書にサステナビリティやコーポレートガバナンスに関する取り組みの開示が求められるが、その一つとして、人的資本、多様性に関する開示が必要となった。企業の判断で開示内容は決めることではあるが、「管理職に占める女性労働者の割合」「男性労働者の育児休業取得率」「労働者の賃金の差異」が追加された。これに対応する開示の具体例が提示された。

6. OnBoardの取り組み

企業のダイバーシティ確保に貢献したいという強い想いから起業した。現状は多様な人材の供給が不足しており、特に女性管理職、女性役員の育成に対応していきたい。

Q&A

Q1.
日本ではジェンダーは男女の性にとどまっているが、多様性という意味で先進のOECDの現状は?
A1.
グラスルイスの基準は10%以上の性別多様性を求めているので、同等と推定。
(後日下記追加情報を頂きました)
EUは2026年6月までに一定比率(33~40%)を義務づけられる。フィンランドでは女性比率が36%まできているがLGBTQの権利はこれからとのこと。
Q2.
男女賃金差について有報開示が求められているが、産休を取る人が多い場合、時短になり、女性の賃金比率が低めに出てくる。賃金格差の指標に戸惑いを感じる場合もあるが。
A2.
企業により事情が違うので、任意情報にその違いをしっかりと書き込むことが重要です。
Q3.
中小企業の場合は女性活躍、ダイバーシティ経営に程遠い。DFメンバーは中小に関わることが多いので、どう対処すべきか。
A3.
女性活躍推進法は中小企業も対象になってきており、採用の観点でも、男女問わず採用対象者が、就職先の女性活躍の状況を判断の一要素としているのが昨今の現状であるため、対応の重要性の助言はできる。
また、企業の活動と相まって、育児施設などの社会的インフラの充実が一層求められる。
Q4.
女性活躍にはまだまだ偏見も多く、意識改革が必要に感じるが。
A4.
アンコンシャスバイアスがまだまだあるのは事実なので、研修機会で改善していくのは有効。
研修は一見安易に感ずるかもしれないが、ケーススタディなどを含め、効果がある。また女性社外役員を研修機会に活用するのも効果がある。
Q5.
女性は時として管理職登用直前に躊躇することが多いが、良い対処方法はあるか。
A5.
タイトルを与える前に、プロジェクト推進を任せて、この経験で自信をつけさせる。そして励ます。
Q6.
人的資本の有報開示は,企業の現場に混乱と過剰な負担をもたらしている側面もあるものの、他社比較など有用になったと感じるが。
A6.
有報開示はパブコメの応答により理解が深まった。投資家向け情報として有効で、他社比較しやすくなり、投資家は歓迎している。
以 上(橋本 健)