第18クール 企業ガバナンス部会

第9回月例セミナー講演要旨

2023年6月14日
開催日
2023年5月24日(水)14:00~16:00
場所
Zoom方式 (日本郵船本社会議室から)
テーマ
DXと新たなビジネスへの挑戦
講師
石澤 直孝 氏
日本郵船株式会社イノベーション推進グループ長
兼NYKデジタルアカデミー学長
視聴者
29名

講演概要

  • DXは日常の暮らし・仕事にデータ・情報を収集し、分析し、新しい技術、アイデアを使って新しい価値を提供するものである。技術の変化の速度をユーザー数が5000万人に到達するまでに要した時間で比較すると、携帯電話は12年、インターネット7年、ChatGPTの利用者はわずか2ヵ月で1億人を突破と飛躍的に進化している。まるで違う世界が到来するのである。その主な事例としてカメラ→デジカメ→スマートフォン、百貨店→Eコマース、記録音楽はCD →違法ダウンロード→ストリーミングになったなどがある。
  • 具体的な事例1として米国GM子会社 On Star。On Star はGMの富裕層向けの自動車情報提供サービス会社だったが、使命(やるべき仕事)を明確化し、車載テレマティクス市場を創造し今やGMグループの高収益企業に急成長した。
  • 事例2は日本郵船(NYK)。
    物流の市場規模は全世界の物流費をGDPに占める割合でみると8.4%~14.7%に上る。2002年から18年間でGDPの成長率は145%であったが、国際貿易の成長率は197%伸びてGDPを大幅に上回る。これは国際分業化の進展によるもの。日本の国際収支は今や貿易収支より第一次所得収支で稼ぐ構造になっている。物流業界は物流機器・貨物情報の相互運用化が必要。物流が提供する価値は、生産・販売(消費者)にとってより高度なものに進化する。IoTの活用は主要な成功要因(Key Success Factor)のひとつになる。NYKはこうした潮流を捉えて、NYKデジタルアカデミーを作り既存事業の強化、新たな顧客・市場の創造を教育・実践している。船舶の特質を活かした効率的なロケットの打ち上げ、回収などJAXAから研究案件として受託し事業化。
    宇宙産業へ貢献している。商船を活用した洋上の生物多様性の調査活動を東北大学などとANEMONEコンソーシアムを組んで事業化。さらにゴミのでない物流、船上での新しいユニフォームのデザイン、生体データ・動線分析を活用したケガのない世界、フェアトレードの可視化、DAO(分散型自律組織)による新たな協創組織の探索なども事業化。20チーム結成しその内8件を事業化に成功、成功率40%の確率。
  • 電子レンジ誕生の経緯、米国ウォルマートのスマートフォン+暗号で開錠しモニター用カメラで不正を防止し、冷凍品を冷蔵庫まで届けるサービス(アマゾンとの差別化)などは、新しい事業を考えるにあたって参考になる。
  • 新たなビジネス創造について考える上で重要な視点は次の4つである。
    1. 世界的な社会潮流(メガトレンド)
    2. ヒトの本性(人間の普遍的な本性・欲求)
    3. 技術(テクノロジーは現状を打開し変化を加速する有効な手段)
    4. ビジネスモデル(優れたビジネスの知恵は新たなアイデアを現実のものにする)
  • 経営者は「やって見せ、言って聞かせて、させて見せ、ほめてやらねば人は動かじ」の精神で既存事業の強化、新たな顧客・市場の創造に務めなければならない。

質疑応答(主なもの)

Q1.
NYKは限られた経営資源(リソース)を新規事業にどう配分しているのか?あるいは事業をどう切り出しているのか?撤退ルールなどはあるのか?
A1.
宇宙事業開発チームには人材を投入し、生物多様性調査では子会社の近海郵船などを活用するなど、きちんと収益を挙げられるサステナブルな事業を目指してうまくリソースを投入している。今のところ会社の事業化の条件をクリアしている。
Q2.
日本はJAXA・三菱重工によるH3ロケット試験機1号機の打ち上げが失敗し、その原因究明と対策が長期化の様相を見せている。一方、米国は既に大型のリユース型のロケットを常時使っており、彼我の差を実感する。ロケットのみならずITも半導体技術もそして今度のDXもこの差はどこからくるのか?
A2.
米国は失敗しても拍手する余裕がある。資金、人材の投入量が日本とケタが違う。日本ももう少し余裕をもってみたほうが良いのではないか。そもそも新規事業に挑戦する風土も違う。日本ももっと挑戦しなければならない。
Q3.
講演者がバンジージャンプに8回も挑戦したのには敬服する。どうしてそこまでしたのか?
A3.
たまたま誘われて、人は誰でもストレス耐性を高めることができる(認知行動療法)という学説を検証するために挑戦し、挑戦前後の血圧と脈拍を測って実証できた。改めて挑戦する重要性を認識した。
Q4.
NYKは子会社が多いが、過去に環境の変化から潰した事業もあると思うが、復活した事業はあるのか?
A4.
クローズした事業で「客船」があるが、復活したものにクルーズ事業がある。客船は旅客、クルーズはレジャーが対象だが多くの共通するノウハウがある。柔軟に顧客のニーズを汲み取って真摯に対応する必要がある。新しければいいと言う訳ではなく本当の所は何か把握する必要がある。
Q5.
DXは既存事業の変革も含むが、貴アカデミーでは新規事業に重点を置かれているように思う。既存事業への技術(例えばChatGPT)の活用などは採り上げてもよいのではないか?
A5.
両利き経営の中で、既存事業は本業として取り組んでいる組織があるので、そちらに任せるようにしている。 ChatGPTなどは一緒にやる範疇かもしれない。
以 上(越後屋 秀博)