- 日時
- 2022年11月18日(金)14:00~16:00
- テーマ
- 監査役員スタッフから見た社外役員の必要スキル
- 講師
- 柳澤 達維 会員(1359)
大和リアル・エステート・アセット・マネジメント取締役
(元 大和証券グループ本社監査委員会室長) - 場所
- DF事務所スタジオ751 + Zoomを利用したハイブリット方式
- 参加者
- 35名
【講演レジュメ】

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緊急時と平時
- 緊急時
- 平時
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社外役員・監査役員への期待
- 社外役員が期待されること
- 常勤監査役員としてやるべきこと
- 監査役員としてのノウハウ
- 根本原因分析
- ガバナンスへの期待
【講演概要】
0. はじめに
講演者の略歴と業務内容が紹介され、証券会社の幅広い実務経験(証券会社の不祥事対応、証券制度改革、従業員組合、MOF担など)や特に2013年から2020年にわたり勤めた大和証券グループ本社監査委員会室長としての実体験(社外役員への納得感ある説明、常勤監査役員のサポート、グループ会社の常勤監査役の教育サポート)に基づいている。
1. 緊急時と平時
- 大前提として、平時から情報が入ってくる体制を作る必要がある。監査役員は、他人が起こした不祥事でも責任を取らされるからである(会社を守り自分も守る。第三者委員会の報告書には過激な表現もみかける)。
- 緊急時とは、社長が記者会見を行わねばならない不祥事や、債務超過や資金繰り切迫などの財務面、代表訴訟(監査役員が対応する必要あり)、アクティビストの登場(監査役員への面談が要求される)がある。緊急時の見極めや対応を予め考えておくことが重要である。
- 万一の緊急時に対応できるようにするため、平時から異例事項を含めた情報が入る体制の構築が求められる。担当役員や関連部門との連携、内部通報制度、三様監査、スキルマップ、リスクマップ等を作成・利用出来るようにしておく。
2. 社外役員・監査役員への期待
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社外役員が期待されること
- 情報が入ってくる体制のために、業務推進を妨げないよう配慮し社内をまとめる方向にTPOを考えて発言して社内の信頼を得、外部の目線から株主との対話や業績説明を聞き必要あれば是正する。
- その会社のカルチャーやDNA(社内常識)へ違和感があれば、それを教えてあげる。
- 緊急時には、早期対応して被害を最小化し、最悪社長へ引導を渡す役割もあるが、難しい判断なので社内の相談相手が欲しい。
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常勤監査役員としてやるべきこと
- 社内情報が入ってくる体制作り、重要な意思決定の場への陪席、内部通報やクレーム情報の把握、リスク管理・品質管理・内部監査等の2線・3線部門の味方としての地位を確立する。(そのためには信頼関係を築くことが必要)
- 異例事項については、根本原因分析として仮説検証プロセス(「動機」・「機会」・「正当化」)を実践する(3つが揃うと不正が起こってしまう)。会社のカルチャーやDNAも分析するが、Tone at the Top(社長の考え方や姿勢)が大きく影響するのでこれが変化するときは要注意。
- コンプライアンスのレベルが上がっているので、それに乗り遅れないようにレベルアップを図る。
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監査役員としてのノウハウ
- 過去の経緯を継承している相談相手を持ち、社長と同等の情報通となり、スキルマップやリスクマップを活用して社内を知ることが監査役員としては大事なこと。
3. スキルとして根本原因分析
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不正の三要素
なぜ不祥事が起こったのか、その根本原因分析のトレーニングを常に行う(他社の例も使って)。それには、不正の三要素(「機会」「動機」「正当化理由」)の考え方を利用する。
- 欲求5段階説
「動機」の分析には、マズローの欲求5段階説が役に立つ。高い次元の欲求から順に並べると、自己実現/承認(尊重)/所属と愛/安全/生理的の欲求となる。動機で多いのは所属の欲求(仲間外れを避ける)。
- 道徳性発達理論
人間の道徳的判断に注目したローレンス・コールバーグの道徳性発達理論を自分なりに解釈すると、3つのレベル(しつけ/教育/社会人)がある。日本ではたこつぼ的組織が多く、教育レベルの自分が属する小さい組織が怒られるか、褒められるかを基準に判断して行動するパターンが多い。監査役員としては、会社全体さらには社会人レベルで社会全体が困らないように、いい方向に行くように、そのための仕組みや制度を構築する という観点で行動することが望ましい。そうすれば社長と同じ観点で行動することになる。
- その他
根本原因分析では、事案の根本の原因を探るために、「なぜ」を5回繰り返す方法もあり、すると経営陣の問題に行きつくことが多い。また、社内調査を行う場合に、相手には職業的懐疑心に基づき相手のためになる助言をしようとしていることを判って貰う。また、最近起こったことを重視する認知バイアスにも注意する。これらをキチンと行うことにより、再発防止につながる。
- 内部監査の高度化で言われていること
金融庁の令和元年6月のレポート「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」において、次の4段階があると指摘されている。従来は第一/第二段階にとどまることが多かった。
- 第一段階
- 事務不備監査
- 第二段階
- リスクベース監査
- 第三段階
- 経営監査
- 第四段階
- 信頼されるアドバイザー/内部監査の更なる高度化に向けて
4. ガバナンスへの期待
ガバナンスの今後の期待されるあり方として次の3つを提示したい。
- カルチャー監査:社会の常識に反する会社のDNAやカルチャーに注目。
- 監査役員の調査権の行使:他にない権限を有効活用し外部の目線から会社をよくしていく。
- ステークホルダー間の調整:各ステークホルダーと会社は利益相反関係にあることが多いが、会社と各ステークホルダー全員を社会の持続可能性という同じ方向を向くように持って行くことが望ましく、社外役員もこの考え方をうまく取り入れると物事を進めやすい。
【Q&A要旨】
- Q1.
- 相談相手はどのようにして見いだせば良いか?
- A1.
- 社内には持ちにくいともいえ、世の中的には少ない。一人で悩むのでは無く、無理矢理にでもガバナンスリタラシーに理解のある人を育てるのが良いか。ディレクトフォースのガバナンス部会もそういう場として提供できるのではないか。
- Q2.
- 質問と言うより意見だが、社外役員に就任したら、最初の3ヵ月が肝心で、経営陣と方向性を確認するとともに、精力的に社内を歩き回ることが必要と思う。
- A2.
- おっしゃる通りの面はあると思う。補足していただいてありがとうございます。
- Q3.
- 社外役員とまわりの距離感は難しいテーマで、毅然と言うべきことは言うべきだし、監査役としてリスクを見るだけでは無く、前向きな役割(事業環境や将来性や設備投資などを踏まえて)も果たすべきと思うが、うまくやられているところはあるか?
- A3.
- 最近のガバナンスコードの考え方には、ブレーキ役だけで無くアクセル役が期待されているが、個人的には常勤の経営陣を納得させるような攻めの意見は難しいと思う。経営の結果責任があり、実際に経営しない社外役員のアドバイスは責任を取ることができない。アクティビストなどが評判悪いのは無責任なアドバイスになるからではないか。ただし、最近は社外役員を含めた合宿のようなオフサイトミーティングをやる会社が増えており、そういう場で意見を言うことは可能かもしれない。
- Q4.
- 相談相手を含め、監査役へのリポーティングプロシデュアーは、日本企業で出来ているのでしょうか?プライム上場のような大会社でも人間的なところが関係してくるのでしょうか?
- A4.
- それは会社の規模・社歴・ガバナンスへの意識により様々だと思う。
- Q5.
- 社外役員の経験から言うと、日の当たらない部署に不祥事が起こりやすいのはその通りだと思う、また社内の情報が入ってこないことが通例で、色々なコミュニケーション手段を使って、常勤者との交流を図ったが、本音を聞き出すのは難しかったように思うがどうすれば良いか?
- A5.
- 相手のスキルマップを知り、どういう経緯でそのポジションにいるのか判るとコミュニケーションを取り易い。本音の本音は判らなくても、気を遣って対応すれば、会社を良くするという同じ土俵で話ができるようになると思う。
【アンケート結果】
【セミナーの内容について】
大変参考になった: 92% 参考になった: 8%
【良かった点】
- 監査とは愛と見識のある大人の仕事だと思いました。経験に裏打ちされた、他に得難い内容で感謝申し上げます。P30の第6, 7のレベルの社会になるといいです。
- 各ステークホルダーの利益相反を解決するベクトルがSDGsだというお話に大変感銘を受けました。
- 全体像が再確認出来ました。特に「5つなぜ」のポジショニングです。
- よく整理して纏められ、良くわかりました。これから社外役員になる方に是非聴かせてあげたい。
- 非常時と平時の対比や対応策や視点、不祥事の背景の分析が個人の経験に基づき説得力のある内容だった。
- 守りのガバナンスを進めるための具体的行動のご説明が良く理解できた。
- 社外監査役の役割が良く認識できた。また、「社外役員・監査役員への期待」は非常に参考になった。
【改善点】
- 今回のお話に直接は関係ありませんが、銃を持たない危ない国のCGCを、本物の銃を見たこともない人々の国で真似るのは意味があるのだろうか。少し疑問も残りました。
- 取締役や監査役の経験がないので、社外役員の実務をご紹介いただきたい。
- 社外役員が月1回程度出て来てどれだけのことが分かるのか?リスク監査だけでなく事業計画の妥当性、中計への関与、報酬の妥当性、DX、GXへの積極関与も個人的には必要と思います。要は社長と刺し違えるくらいの度胸と知見とスキルが必要と思います。日本の社外役員制度は中途半端だと思います。
- 現在の内部監査の業務と監査役等との連携の説明があっても良かった。
- 攻めのガバナンスの具体例があれば聞きたかった。
- 体験談をもっと聞けた方が、より理解が深まるように思います。
【今後希望する講演テーマ・講師】
- 企業と「ESG]「SDGs」の位置づけ
- 攻めのガバナンス改革
- KAMの開示における留意点
- 取締役会の実効性向上施策や、サクセションプランについて
- 日本公認会計士協会 森洋一氏(金融庁によるサステナビリティ情報開示の最新の動向と課題)
- DF会員やDFと関係ある講師の方が、質疑応答が充実するような気がしてきた。