第18クール 企業ガバナンス部会

第2回月例セミナー

2022年11月2日
日時
2022年10月21日(金)14:00~16:00
場所
Zoomのハイブリッド形式
講演者
三井住友信託銀行 ガバナンスコンサルティング部 IR担当部長
 加藤 佳史 氏
テーマ
最近の株主総会の動向と課題及び最新トピックス
参加者
37名
加藤 佳史 氏
  1. 2022年6月株主総会の概況
  2. ハイブリッド型バーチャル株主総会の状況
  3. 株主提案及び機関投資家等の動向
  4. 株主総会資料電子提供制度の概要

※講演内容が多岐にわたりかつ詳細な為、
 本要旨はその主要部分を抽出するに留めた。

【講演概要】

  1. 2022年6月株主総会の概況
    1. 株主総会開催集中率は、2020年はコロナ禍の影響で32.8%と高まったが、2022年は26%と低下し分散するようになった。又、招集通知の早期発送状況は2022年には順調に改善している。
    2. 出席株主数は、コロナ禍の影響で2020年総会以降それまでの平均200名程度から30名台に大きく減少した。
    3. 所要時間は、2019年までは株主総会の充実を目指して拡大していたが、2020年以降はコロナ禍の影響による総会の簡素化や質疑応答数の制限等もあり短縮された。2022年は平均42分であった。
    4. 株主の質問数も、これに伴いコロナ禍前は平均5、6問あったのが、2020年以降は2、3問と減少した。質問内容も、従来の事業状況や、株主還元に加えてサステナビリティーや人材の多様性に関するものなど多様化している。
  2. ハイブリッド型バーチャル株主総会の状況
    1. ハイブリッド型バーチャル株主総会は、①遠方の株主に出席の機会を与える ②総会の透明性が向上する ③情報開示の充実が期待できる と言うメリットがあるが、「参加型」と「出席型」の2つの方式があり現状ではそれぞれに課題がある。
    2. 「参加型」は、企業が円滑なネット環境が構築できることや、特に高齢の株主がネット等を利用可能かと言った点が留意点であり、「出席型」は、会社が質問を恣意的に選別できる、事前の議決権行使の株主側のインセンティブが低下し議決権行使率が下がるのではないか、と言った懸念が指摘されている。
    3. 動議については、提案株主に提案趣旨などの説明を求める必要から、バーチャル出席者に対しては実務的にもシステム的にも対応困難であり、現状では動議を提出するにはリアルに出席するしかない。
    4. ハイブリッド型バーチャル株主総会は、2022年6月時点で402社であり内377社が参加型であった。着実に増えている。
    5. 一方バーチャルオンリーの株主総会は、本来的には、会社法の改正が必要だが、改正産業競争力強化法特別措置法により実施可能となった。2022年6月総会では、150社が定款変更を行った。ネットのみで完結する為、企業側のコスト負担低減効果が期待できることや、株主が総会へ参加する地理的な制約がなくなる、あるいはコロナ禍や天変地異などあっても開催が可能になるなどメリットも多いが、議決権行使助言会社ISSは、経営陣と株主間の有意義な交流を妨げる可能性があるので急いで定款変更する必要はないと反対している。
  3. 株主提案及び機関投資家等の動向
    1. 機関投資家からの株主提案は、2022年6月総会では45社132件と大幅に増加した。提案内容は多岐にわたるが、特徴的なのは提案者の株式保有率を大きく上回る賛成を得ていることだ。それは、アクティビストからの提案でも同様で、経営者は提案を拒否したりこの手の投資家を嫌ったりするのではなく、誠実に対応することが求められる。対話をすることで、会社運営をより良い方向に持っていけることがあると認識すべきだ。
    2. アクティビストの狙う会社は、①PBRが1以下と資産効率が低い ②キャッシュリッチで現金をため込んでいる ③相談役や顧問などを置いておりコーポレート・ガバナンス上問題点があるなどが主であり、これらは一般株主と十分認識を共有できる。
    3. 2022年6月株主総会では、海外の年金基金などの長期運用の機関投資家も、気候変動対応など株主提案するようになったことに留意すべきだ。今後、金融系の機関投資家から同様の提案が増えていくことが予想される。
    4. 機関投資家の議決権行使ガイドラインには、①低いROE ②社外取締役が1/3以下 ③取締役の取締役会への出席率が75%未満 ④女性役員がいない ⑤6社以上兼務している社外取締役 ⑥政策保有株式が純資産の10%以上 ⑦不祥事発生責任などがある。
  4. 株主総会参考資料電子提供制度の概要
    1. 本制度は、株主総会の参考書類の内容をインターネットで開示できるもので、上場会社は2023年3月総会より適用される。電子提供措置は、総会の3週間前又は招集通知のいずれか早い日までに開始することとなる。
    2. インターネット環境にない株主や、これまで通り株主総会参考書類を書面でもらいたい株主には、書面交付請求制度がある。
      同措置を取った場合でも、株主総会参考資料を紙で交付することを禁止するものではない。個社の株主の状況に応じて、どこまでの内容を書面で提供するかは、企業の選択肢となる。実務的には、これらを年内までに決定する必要がある。

以上

Q&A要旨

Q1.
機関投資家が許容している社外役員の任期はどの程度か?
A1.
社外取締役で6年、監査役で8年といったところではないか。任期が長期化すると社外性が希薄になるのが問題だとみている。
Q2.
株主総会の電子化の今後の課題は一言で言うと何か?
A2.
各社の総務担当は総会を短く済ませたいと言う要望があり、総会の短縮化や簡素化、あるいは電子化と言った流れは止まらない。そこで留意すべきは、経営陣と株主との意思疎通がうまく図れるかとなるのではないか。米国ではバーチャル総会が基本になっている。
Q3.
アクティビストが会社を見るポイントは何か?
A3.
一番は会社の資産価値と株価の乖離が大きいと狙われる。経営を改善すれば、株価を上げられるとみるからだ。経営陣は、特にこの手の投資家に拒否反応を示すことが多いが、むしろ誠実に対話することを勧めたい。彼らの意見には客観的に見てもっともな点も多く、それらを自社の経営改善につなげれば双方にメリットが出るはずだ。経営者は SR(shareholder relation) を普段からやっておくことが大切だ。
Q4.
海外の機関投資家はなぜISSやグラスルイスの助言を参考にするのか?
A4.
機関投資家には、投資先会社の議案を分析し議決権を行使するに足りる人材を多くは抱えていない。人材の多くを運用部隊に割いているからだ。従って、ISSなどの助言会社のガイドラインを参考にすることになる。アクティブ運用をしているファンドの場合は、投資先も50~100社程度が多く、こうしたファンドは独自の判断でやることもあるだろう。
Q5.
株主総会のバーチャル化と株主/経営者との対話の充実は矛盾する面もあると考えるが。
A5.
確かにそうした面はあるが、バーチャル化の流れは止まらないだろう。経産省のガイドラインが、見直されることもないと考えている。
Q6.
①女性の社外取締役の質をどのように担保したらよいか? ②2023年の総会での課題は何か?
A6.
①経営経験を持った女性がある程度の人数になるのにはあと10年はかかる。それまでに現役の執行役員クラスや幹部を活用する点については、情報漏洩の懸念などあり今は会社が許容しないと考える。 ②助言する立場で見ていると、各社は総会資料の電子化をどこまでするかについて手探り状態で、来年は多少の混乱が避けられないとみている。
Q7.
①アクティビストとクレーマーの区別は何か? ②電子化におけるなりすまし対策は?
A7.
①アクティビストは後ろにアセットオーナーがおり、その意向を踏まえて行動するので、単に難癖付けるクレーマーではない。大切なことは、拒否することではなく対話することだろう。 ②いくつかのパスワードを組み合わせて本人確認をする仕組みとなっている(2段階認証システム)。システムのハードやソフトのセキュリティー対策とあいまって、現時点ではそれほど心配していない。

アンケート結果

【セミナーの内容について】

大変参考になった:92% 参考になった:8%

【良かった点】
  • 株主総会の最新動向が良く理解でき参考になった。
  • 実例を多く紹介してもらい実態がよく分かった。
  • 質疑応答の内容が参考になって良かった。
【改善点】
  • 少々詰め込み過ぎ。
  • プロキシーファイトやアクティビストの動向や傾向をもう少し詳しく知りたかった。
  • Zoomの運営を円滑にするためのマニュアル整備。
【感想・ご意見】
  • 時間の制約があると思うが、一つひとつの事例をもう少し詳しく聞きたかった。
  • 現役世代に聞いてもらえると良かった。
  • 総会のデジタル化は改めて大きな変化だと気づかされた。
【今後希望する講演テーマ・講師】
  • 講 師:入山章栄早稲田大学教授、北山哲雄青山学院教授
  • テーマ:スタートアップの経営管理の要諦

Q&A アンケート結果

以 上  
(企業ガバナンス部会 小谷 雅博)