環境部会トピックス

第8回 DF環境サロン開催

撮影:保坂 洋
2023年7月5日
山本 明男 会員(977)、金井 英夫 会員(375)
日時:
3月31日(月)15:00~16:30
場所:
対面+Zoomのハイブリッド
講師:
山本 明男 会員(977)、金井 英夫 会員(375)
テーマ:
木造高層建築
参加者:
約60名

山本明男さんからは、木造建築のメリットとデメリット、木造高層建築の世界の潮流と日本の動向、木造建築の課題と展望について話があった。

  1. メリット:低コスト、調湿効果、通気性、断熱効果、デザイン自由度、火災に強い
  2. デメリット:構造上の制約、シロアリ被害・自然劣化、耐震性・防音性・対振動、耐火対策
  3. 2010年:「公共建築物等における木造利用促進に関する法律」成立、2014年:CLT普及に向けたロードマップ策定、2016年:「CLTパネル工法」の告示施行、2021年:「脱炭素社会の実現に資する建築物における木材利用促進に関する法律」施行
  4. CLT構造材のメリット:工期短縮、高い断熱性、基礎工事の簡素化、リラックス効果
    CLT構造材のデメリット:大量生産供給難、コスト割高、実施例が少ない
  5. ヨーロッパでは1990年代後半から7~9階木造建築の取り組み開始
    Stadthaus (ロンドン、9階建て、2009年)、Tall Wood Residence (カナダ、18階建て、2017年)、ミョーサタワー(ノルウェー、18階建て、2019年)、Atlassian Central (オーストラリア、39階建て、2022~2027年完成予定)
  6. Port Plus 横浜研修所(大林組、11階建て、2022年)、H1O青山レンタルオフィスビル(2022年)、nonowa 国立 SOUTH(木造商業ビル4階建て、2024年完成予定)、木造超高層建築(W350計画)開発構想(住友林業、2041年)
  7. 現状の課題:材料価格(CLT部材)が高い、供給量の制約、将来展望:CLTを採用した中層木造建築の耐震性は検証済、木造高層建築では3時間耐火の大臣認定の取得が必要、輸入木材から国産材へのシフト、木造高層ビル普及への需要開拓

金井英夫さんからは、脱炭素に向けた森林の役割と住友林業の取り組みについて話があった。

  1. 森林は地球環境保全、保健・レクリエーション、水源涵養、土砂災害防止/土壌保全などの機能をもち、その貨幣価値は約70兆億円/年である。
  2. 8000年前、地表の約62%は森林であった。5000年前頃、大河川を中心とした文明の発達と都市化により、森林の消失が始まった。20世紀に入って人口爆発が起こり、工業化、住宅建設、食料増産等により、森林破壊の規模が拡大した。1990年代、少なくとも森林の4.2%が消失し、その内の94%が熱帯地域の天然林である。2000年以降、中国を初め各国の森林保護政策がようやく機能し始め、森林の減少幅が縮小した。
  3. 2050年カーボンニュートラルの達成には、電気代替、水素・合成燃料代替、再エネ電源代替などを進めてもなお残る、化石燃料使用によるCO2排出量を森林吸収の増加によってオフセットする必要がある。
  4. 住友林業の森林保有・管理面積(2020年)は、27.9万ha (国内:4.8万ha、国外:3.1万ha)。CO2吸収量(2020年)は77.8万トン、CO2固定量(2020年)は6,559万トンである。
  5. 住友林業はCO2を吸収する保護林を拡大し、炭素固定を促す経済林の伐採・再植林を加速させる「ゾーニング森林経営」と、木の性能(鉄より軽くて強い、鉄より劣化しにくい、断熱性に優れている)を武器にした木材代替を推進している

この後、サロン参加者と活発な質疑・意見交換が行われた。
(Q:質問、A:回答、C:コメント)

Q(河島)
木造建築は鉄筋鉄骨と比べて耐用年数の点で非力ということはないか?
A(山本)
鉄筋コンクリートやSRCの方が頑丈で長持ちしそうな感じがするが、木材の耐用年数は使い方次第で変わる。メンテナンスをして正しい使い方をすれば50年、100年もつ。また、建物は構造体だけではなく内部の設備の問題もあり、使われ方や建物の持ち主の考え方によって寿命は異なってくる。
C(平井)
日本の国土の7割が森林であり、日本の脱炭素社会の達成には木造ビル建築の普及が大事である。しかし、木造ビル建築に対して法律や規制が多く、普及を阻害しているのではないか。
A(山本)
規制が厳しい点もあるが、国土交通省は公共建築物における木材の利用に取り組んでいる。木造建築の発注者がなかなか出てこないことが、木材の利用が進まない一番の問題である。発注者への働きかけが大事である。
C(金井)
(安心して中高層木造建築物を建てるには、それを受け入れる社会的環境整備などが大事であり)、国としてどう考えているのか、国がもっと前に出て方向性を出して欲しいと思っている。
Q(神山)
戦後、国はスギのみを植林してきたが、本来の植林は常緑樹、落葉樹など色々な木を混栽するのが良いと聞いたことがある。住友林業の植林はどうなっているのか。
A(金井)
構造材としては針葉樹のほうが向いている。針葉樹は間伐すると成長が良くなる。また、針葉樹のほうが広葉樹より成長が早く扱い易い。企業としては経営が成り立つかどうかが大事で、その観点から植林する木の種類が選ばれている。
(注:三重県で江戸時代から9代続く速水林業は、ヒノキやスギ以外の広葉樹の低木や下草を生やし、表面土壌の流失を防いでいる。 https://hayamiforest.com/
Q(中尾)
木造建築のメリットとして火災に強いことが挙げられるが、感覚的に理解できない。木造建築は本当に火災に強いのか。
A(山本)
ここでいう木材はCLT(直交集成材)のことである。CLTは厚みのある頑丈な部材で、森林火災の時大木は燃え尽きずに残っているように、表面は燃えても中心部は残る。普通の木造住宅は火災で全焼するが、CLTを使った木造建築は火に強く、火事で倒壊することはない。木は1時間に1ミリしか燃えない。
Q(西村)
老木になると光合成が鈍くなるが、伐採・植林によって若い木に置き換わると光合成は増える。この増加量を定量的に知りたい。また、建築物だけではなく橋などの公共構築物を木造にする動きはないのか。
A(金井)
森林経営において間伐をどうするかが一番大きな問題である。山を持っていても間伐をしない山は無価値である。間伐によって森林に光が差し、光合成を行う枝葉が増えるため木は太っていく。住友林業は国内に4.8万haの森林を持っているが、間伐や枝打ちをやっていくことによって木はどんどん育っていく。山の上の方に行くと手入れがされていないため、細い木ばかりである。50年以上山をほったらかしにしておくと、CO2の吸収量は大きく減少する。
(注:樹木も含め植物は、光合成によりCO2を吸収し酸素を放出する一方で、生きていくための呼吸もしており、酸素を吸収しCO2を放出している。ただし、光合成に使われるCO2量は呼吸から出るCO2量よりも多いので、差し引きすると樹木はCO2を吸収している。成長期の若い森林では、樹木はCO2をどんどん吸収して大きくなる。これに対して成熟した森林になると、吸収量に対する呼吸量がだんだん多くなり、差し引きの吸収能力は低下していく。林野庁「森林の地球温暖化防止機能について」)
C(西村)
結局、老木はどうしようもないということか(笑い)。
A(山本)
橋の木造化については土木関係の営繕を行う役所は頭が固く、言い出しっぺがなかなか出てこない。奈良、和歌山など木材が豊富な県では、民間が公共土木、公共建築への木材使用を仕掛け、官に働きかけることが必要ではないか。
Q(飯田)
山本さんと金井さんの話はサプライヤー、或いは、ゼネコンの立場からの話である。ユーザーから見て木造建築は本当に良いのか、或いはそれほどでもないというようなことを知りたい。その意味で鉄筋コンクリート・SRCと木造との総合比較表があるといい。木造建築はコストが高いなど、普及は一筋縄でいかない部分が結構ある。それをブレイクスルーするためにも、ユーザー側の視点が重要である。
A(金井)
木造高層建築はやっと始まったばかりで、普及はこれからである。今まで一戸建て住宅ばかりやっていて、木造高層建築など考えもしなかった。しかし、木造オフィスにはスケールメリットがあり、それを増やして行く時代になっている。
A(山本)
2021年に「脱炭素社会の実現に資する建築物における木材利用促進に関する法律」が施行されたばかりで、木造中高層建築の取り組みはまだ助走の段階である。海外でもまだ事例は少ない。多くの人が触れる公共の中高層木造建築が増えて行けば木造建築への関心が高まり、木造建築のメリットの理解が進むと考えている。
C(越)
ビルのオーナーは木造建築のユーザーの一人である。彼らが何を求め何をしたがるのか、その背景には生命保険会社とかJ-REIT (投資家から集めた資金を不動産に投資し、その収益を分配する投資信託)等の機関投資家からESGを求められているという事情がある。東京都は低炭素中小ビルが評価される不動産市場の形成を目指し、低炭素ビルの評価指標を公開している。
https://www8.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/ondanka/benchmark/index.html
世界的にはビルのグリーン度合いの判定基準として、GRESB (Global Real Estate Sustainability Benchmark)があり、J-REIT は必至になってこれに合わせよう、自分の点数を良くしようとしてとしている。
https://www.gresb.com/nl-en/real-estate-assessment/
日本政策投資銀行はビルのグリーン度の基準を決めて、日本不動産研究所が実際の判定を行うという制度を既に作っている。
https://www.reinet.or.jp/?p=27215
機関投資家は何を求めているのか、行政は何を求めるか。ビルのユーザーはコストだけを求めるいるわけではなく、居心地がいいとか、デザインがいいとかも求めている。それを考えるとGRESBなども変わっていくことが予想され、木造建築が今後どう位置付けられていくかについて見て行く必要がある。
C(山本)
機関投資家や行政側からのESGなどの要請に応えるためには、サプライヤー側としても世界的に高評価されるような環境に配慮した性能の高い建物や設備を造り、対外的にPRしていく地道な努力が必要であると思われる。
Q(新宮)
大学で建築を学んだ後大学に奉職し、建築研究者の道を歩んできたが、建築の実務からは遠いところにいた。専門はシェル構造。(DFメンバーズ・エッセイ「シェル構造に取りつかれて~学生時代の夢⇒現実」
https://www.directforce.org/DF2022/member/essay/2023/e384.html
低層ではなくある程度高い木造ビルは本当に火災に耐えられるのか心配である。木造ビルの耐震実験はよくやられているが、耐火実験は十分になされているのか。
(注:「世界初、10階建て木造ビルの振動台実験開始~米国 NHERI TallWood Project に参画で当社独自実験も(住友林業)」)
https://sfc.jp/information/news/2023/2023-05-12-01.html
A(山本)
カナダ、アメリカ、ヨーロッパなど海外では、5階建てや8階建て等の木造建物で燃焼試験をやっている。日本の場合は熊谷組などが構造的に重要な木質耐火部材の耐火実験を行っている
(注:熊谷組「環境配慮型 λ-WOOD II」柱・梁の1~2時間耐火大臣認定を取得)
https://www.kumagaigumi.co.jp/news/2023/pr_20230306_1.html
C(山本)
今後、具体的に15階とか20階の高層木造ビル案件が日本で出てくれば、建設会社は国から認可を取るために必要な耐火試験を行っていくでしょうから、それらの実験の積み重ねることにより、木造高層建築の耐火性能の安全性がより担保されていくものと考える。
以 上(中西 聡)