DFと東大高齢社会総合研究機構との連携事業11月に千葉県柏市の東大プロジェクト現場を見学&意見交換会

地域デザイン総合研究所
2023年12月26日

「学ぶことが多く収穫大」との声、今後の連携テーマづくりが課題に」

超高齢社会時代に対応する新たな社会システムづくりを、というテーマに取り組むディレクトフォース(DF)地域デザイン総合研究所(旧100歳社会総研)の超高齢社会問題分科会メンバーは2023年11月6日、連携パートナーの東京大学高齢社会総合研究機構(東大IOG)が千葉県柏市の豊四季台団地で展開するプロジェクトの現場を見学すると同時に、見学を踏まえて、プロジェクトリーダーらと意見交換を行いました。

現場見学のきっかけは3カ月前の東大での連携会合

この現場見学は、3カ月前の8月7日に開催した東大工学部8号館ライブラリーでの東大IOGとの合同会合で、超高齢社会時代が日本で間違いなく本格化すること、しかし、それに対応する社会システムの制度設計が日本で十分に出来上がっていないことで意見一致した際、DF側から、東大IOGが問題意識に沿って積極的に取り組んでいる柏プロジェクトの現場をまず見学させていただきたい、と申し入れた結果、具体化したものです。

現場見学は、駆け足での見学でしたが、意見交換会を含め、充実したもので、参加したDFメンバー11人の間では「いろいろなことが学べた。間違いなく収穫大だったといっていい」との声も出ていました。

豊四季台団地は高齢化率40%超で、独居老人も増え課題山積

東大IOGが産官学連携で意欲的に取り組む柏プロジェクトの現場となる柏市の豊四季台団地は、旧日本住宅公団が造成した団地で、1964年に入居が始まり、4850世帯、約1万人が居住する大団地です。入居スタート時から60年近くがたち、今やさまざまな課題を抱え、中でも高齢化率が40%を超すほど高齢者が多い上に、最近は独居老人が増える、といった状況にあるそうです。

このため、UR都市機構は、東京都下の多摩ニュータウンに見られる設備の老朽化や住民の高齢化など、全国の共通の悩みを抱える団地群の新たなモデル事例になるようにと、豊四季台団地全体の建て替えを行い、若い子育て世代が新たに入居してきて、高齢者世帯とも融合できるようなまちづくりを、という形で、建て替えプロジェクトに踏み出しました。

そんな中で、東大IOGは、人口の高齢化など、さまざまな問題を抱える地域社会への対応やまちづくりに問題意識を持っていたため、UR都市機構、そして行政当局の柏市の3者と協議して連携、2010年5月に協定を結び、豊四季台団地のみならず周辺地域を巻き込んだ新しいまちづくりに取り組む計画に踏み出しました。これが今、大きな成果を生み出しつつある柏プロジェクトです。

「地域包括ケアシステム」、生きがい就労創出で元気なまちづくりめざす

プロジェクト関係者によると、柏プロジェクトは、数多くのミッションを掲げています。メインは、高齢者向け在宅医療の枠組み定着をめざし、それに対応するため、医師チームを軸に看護師による24時間訪問看護、ヘルパーによる24時間訪問介護、在宅ケアマネージャー、栄養士、薬剤師の体制づくりを進める一方で、地域医療連携センターを軸にグループ化した内科医などの医師の連携も進め、それによって「地域の在宅医療システム」、「地域包括ケアシステム」の確立をめざすことだそうです。

しかし、プロジェクトはそれにとどまらず、生きがい就労の創出、生活支援の場づくり、フレイル(身体虚弱)予防を軸にした市民健康づくりなどのプログラムも進め、それによって医療や介護に頼らないアクティブシニアを、元気なまちづくりをめざす点など、さまざまな計画が盛り込まれているそうです。

「全国に誇れるモデル事例になりつつある」とプロジェクトリーダーの辻氏

柏プロジェクトのプロジェクトリーダーの辻哲夫氏(元厚生労働省事務次官)は、見学後のDFメンバーとの意見交換会で「東大、UR都市機構、柏市が連携して町づくりに取り組む柏プロジェクトは、まだまだ課題が多いのは事実です。でも、高齢化が進む全国の各地域のまちづくりにとっての課題解決につながり、全国に誇れるモデル事例になりつつある、と申し上げたい。今後、私たちはプロジェクトの横展開のため、他の地域にとって参考モデルになるように、ぜひがんばりたいです」と、述べておられたのが印象的です。

その辻氏は、DFメンバーとの意見交換会で、高齢者の生きがい就労、生きがい支援に関連して、「今後、企業の人事部や労働組合が、(定年退職を控える)シニアの従業員の方々に対し、退職後の生き方、地域社会での生活や地域貢献などについて情報提供や(退職後の人生100年時代の生き方などに関する)教育アドバイスを行っていただくことが重要になってくるかもしれない」という趣旨の問題提起をされました。

辻氏は今年8月のDFとの合同会合の場でも、「企業幹部OBの方々が多いディレクトフォースの力で、高齢者の生きがい就労といった形での高齢者雇用の創出につながるきっかけをつくり出していただけば、大変にありがたい。私たちはこれまで企業との接点が少なかったので、その意味でも、皆さんとの交流は大事にしていきたい」と述べられています。

DFでは今後、Zoom会議などを通じ東大IOGとの連携策を模索へ

ただ、辻氏がDFに期待される点に関しては、現場見学&意見交換会に対するDFメンバーの感想やコメントでは、さまざまな考えが出ているため、DFとして、今後、Zoom会議などの場で話し合って、今後の東大IOGとの連携の方向付けを行うことになります。

しかし、今回の現場見学を経て、高齢者の地域社会貢献につながる雇用、生きがい就労を積極的に進めることは、結果的に元気なまちづくりにつながる、という意識を強く持ったDFメンバーが多かったのは事実です。

現に、今回の意見交換会の場で、柏市の生涯現役促進協議会がまとめた求人者と求職者のニーズが一致せず、いわゆるマッチングが進んでいない現実が明らかになった際、あるDFメンバーは「楽しくやりがいを持って働きたい、という求職者の側のニーズに沿った雇用機会の創出が必要でないのか。柏市の生涯現役促進協議会ももう少し雇用のマッチングが進むような工夫が必要だ」と問題提起していました。

DFメンバーの現場見学や意見交換会への感想&コメント

さて、今回の東大IOGのプロジェクト現場の見学、それを踏まえての意見交換会の結果に関して、参加したDFメンバーに感想やコメントを求めましたところ、参考になるコメントをいくつかいただきました。そこで、名前を出さずに、建設的なコメントを主体に、いくつか紹介させていただきます。ご参考に願います。

A氏:「柏プロジェクトの現状と課題などは、一定程度、理解が出来た。問題は、DF超高齢社会問題分科会のめざすところについて、参加メンバーを中心に、取り組む具体的なテーマ、ゴール、スケジュール感などに関するベクトル合わせが必要だ。現時点で考えられるのは、課題の洗い出し、それに対してDFのできることは何か、企業の持つ人的資源、資金の導入は具体的に何ができるか、豊四季台モデルを全国に紹介し提案する方策としては何ができるかなどでないか」

DF専門家のICTノウハウを柏プロジェクトのネットワークづくりに活用も

B氏:「今回の柏プロジェクトに対応して、DFとしては何ができるか。DFがいま持っている機能で、実績ある機能の対象を地域や高齢者支援に拡大していくことが1つ、と考える。これまでDFは、企業支援に関して営業支援が中心だったが、今後は、一歩進めてマネージメント支援も志向している。ただ、地域と言っても、極めて多様だ。しかも、DFメンバーは高齢化に伴って体力が次第になくなりつつあり、手掛けるとしたら、これまでの営業や経営の現場での経験を生かしたアドバイザー機能があるのでないか」

「DFのHPなどで、メンバーがお世話になっているデジタル情報通信のプロフェッショナル、小林氏の持つIT、もしくはICT機能やノウハウを、柏プロジェクトの地域社会ネットワークづくりで活用したら、喜ばれるのでないだろうか。要は、DFとしては、新しいボールよりも、いま投げられるボール活用、工夫して投げることが重要だ」

高齢者の人たちをいくつかにグループ化しプロジェクト対応を

C氏:「豊四季台団地のまちづくりを進める柏プロジェクトを見ていて、超高齢社会が目前に迫ってきており、対策を急がねば、という思いを強くした。そこで、私は、高齢者をグループ別に分けて、それぞれ取り組み対応を考えることも一案かなと思った。

1つのグループは、加齢により心身ともに衰え医療や介護を必要とする高齢者群。このグループに必要なことは、医療や介護が一体化したサービスを提供すること、在宅医療の充実などでサービスの利便性を高めることだ。

2つめのグループは、心身ともに元気で、生活に不自由はないものの、年金などの収入面で不足と考えている高齢者群。このグループにはできるだけ多くの補助的な業務の切り出しなど就労の場の提供することが重要になる。高齢者がやれそうな軽度の作業や業務をいろいろ見つけ出し、提供することが必要になる。

3つめのグループは、心身ともに元気で、とりあえずは年金耶それ以外の収入で生活が出来ている高齢者群です。この人たちは、現役世代が手の届きにくい分野の仕事に関して補助する形で社会貢献することがポイントです。DFでも行っている小学生向けの理科実験教室のサポートもその1つで、今後、大学、高校、中学向けの授業支援活動によって、公教育の場での教員の働き方サポートです」

シニア就労への業務切り出しでDF会員にアイディア協力求めるのも一案

D氏:「東大IOGの辻先生のコミュニティーづくりに関連して、シニアの就活のみでなく共通の目標を持つグループの研究会、あるいは趣味の会といった形で地域のスモールコミュニティーづくりを進めるのも一案でないか。DFでも渋沢栄一研究会、理科実験グループなどのグループ活動がワークしている。

東大IOGと企業、たとえばUR都市機構、学研ココファンなどとの協業での事業展開も、すでにチャレンジされているのかどうか、定かでないが、やりようによっては生きがい就労など雇用の創出につなげるきっかけになるかもしれないような気がする。

とくに、シニアの就労に関しては、柏市も加えて、業務の切り出し方式にDF会員の参画を呼び掛け、アイディア協力を求めることも一案だ。DF柏支部の、いわゆる柏市の住民でDF会員の人たちがおり、彼らのネットワークやアイディアを得ることも新たなヨコ展開となる」

DF地方会員などを巻き込んで柏プロジェクトの全国展開に協力も

E氏:「今回の柏プロジェクトを見聞させていただいて、1)プロジェクトを強力に推進する中心人物が必須、そして、2)地元住民の協力、3)社会の問題や課題の解決に意欲を持つ自治体、4)高齢社会ビジネスを飛躍のチャンスと考える関連企業が1つの目的で同じベクトルでプロジェクトを進めることが必要だが、豊四季台団地の場合、うまく条件がそろった初めての成功事例だ、と感じた。問題に関心を持つ大学シンクタンク、自治体、住民、企業の存在が条件整備の大きい要素だと思う。

DFとして、今後、どう対応するか。DF会員の中には地方でアクティブに活動する人や地方の有力者もいると思われるので、全国モデルになり得る豊四季台団地のケースをDF会員ルートで紹介すると同時に、仮に自治体、住民、企業のうち条件のそろう地域があればリストづくりを行い、新たなモデル拠点になるプロセスを提案できるようになれば素晴らしい。ただ、その場合、アクティブに動く問題意識のある地元リーダーが必要」

プロジェクトの全国展開に際しESG経営を志向する企業に協賛を仰げ

F氏:「8月7日の東大IOGとの意見交換会、そして今回の現場見学、それに続く意見交換会を経験して、改めて柏プロジェクトの素晴らしさを再認識した。ただ、高齢者の就労機会の創出に関しては、柏市生涯現役促進協議会の取り組み実績を見て、求人と求職者側のニーズが一致していない旨の担当者の説明を聞き、ミスマッチングを解消するには、まず求職ニーズに合うような雇用機会の創出が必要だと感じた。

DFが柏プロジェクトからの学びを踏まえ、何ができるか、今後、DF側での意見交換会合を経てコンセンサスを形成、それをもとに(独自の視点で)提供できるアドバイスがないか模索することがポイント。個人的には、柏プロジェクトのモデル事例を全国展開することが出来ればベストだが、DFがどのような形で支援ができるのか考える必要がある。

ただ、DFとして、全国展開に際して、協賛企業の発掘はあり得る。その場合、法的な問題もあるので、入念な考慮が必要だが、ESG経営を意識している大企業、NTTなどESG企業ランキングで上がっている企業をターゲットにすることも考えられる。柏プロジェクトリーダーの辻氏が提案されていた企業の人事部や労働組合に対する働きかけに関しては、肌感覚として難しい、と感じる。その点でいえば、中小企業よりも、地域限定社員を採用していて、ESG経営に関して意識せざるを得ないような規模の企業がターゲットと考える。ただ、その場合、ターゲット企業が納得できるようなコンテンツの作成が必要」

DF柏会員の立場で柏市行政当局に不満、プロジェクトが市民に浸透せず

G氏:「柏プロジェクトの地元の柏市に在住のDF会員の立場で、若干、コメントや問題提起を行いたい。まず、私自身が高齢者で柏市内に居住する身ながら、この柏プロジェクトのみならず、豊四季台団地のプロジェクトをモデルに、あるいはコンセプトを活かした施設が柏市内にある、というのを今回、初めて知った。柏市当局は、市内全域の高齢者の存在を住民に対する周知徹底が全くできておらず不満だ。受益者の市民にとっても、こういったプロジェクトは全国のモデル事例にもなるし有益なものなので、情報共有したい気持ちだ。

「そこで、提案がある。柏市内全域に展開する1つの方策として、住民の大半が高齢者となりつつある東急柏ビレッジや柏の葉1~3丁目などのマンション施設を対象にすること、さらに、次の展開として高齢者のみならず中年、若手、子供が混在する普通の一般住宅地域を対象にプロジェクト展開するシステムづくりも必要だ。重要なことは、柏プロジェクトの存在を首都圏のみならず全国にアピールする取り組みを打ち出せるかどうかだ」

辻氏がDF健康医療研究会刊の「DF流 健康長寿の知恵」を絶賛

最後に、柏プロジェクトリーダーの辻氏が、意見交換会のスピーチの中で、DF健康医療研究会が活動の記録や成果を出版物にした本【DF流 健康長寿の知恵】を話題にして絶賛されたので、レポートしておきます。

辻氏は、「今年8月7日のDFとの意見交換会後に、健康医療研究会の代表世話人の江村氏から本の寄贈をいただき、興味深いので、読ませていただいた。率直に申し上げて、健康長寿問題への取り組みに関する活動報告などは、実に素晴らしいもので、DFの皆さんとのプロジェクト連携が必要であることを実感しました」と絶賛されました。

江村氏は当日、運悪く別件の用事で意見交換会合の途中に退出されていたため、辻氏の評価を聞き逃されました。江村氏には後日、辻氏の発言の詳細を伝えしました。辻氏の絶賛評価を聞いている限りでは、DF健康医療研究会と東大IOGの新たな連携作業が意外に早く進み、これをきっかけにDFと東大IOGとの全体の連携に踏み出すことになるのでないか、という点を印象付けました。

以上(超高齢社会問題分科会 牧野義司)