NY見聞録最新小売業事情

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2024/1/16 (No. 405)
三宅 宏
三宅 宏

NYの秋は短い。10月半ばになるとダウンにニット帽姿のニューヨーカー達が目立つ。10月末から3週間弱マンハッタンのミッドウエストに滞在した。最初に訪れたのは学生時代だ。その後仕事で何回か訪れているが、本当に久しぶりである。今回まず感じたのは、やはりNYが相変わらずエネルギーに満ちていること。次に感じたのは物価が高く特に食事をすると金銭感覚が麻痺することである。NY最初のランチをイタリア料理の店に入った。ランチなのにコースが高いのにまず驚いた。単品でハンバーガーとオレンジジュースを頼んだ。支払った金額は5千円を軽く超えた。物価が異常に高いうえに、最近の円安で5割高、それにチップで2割加算、これらの掛け算の結果である。ホテル代と外食代は日本の3倍近くと覚悟すべきである。本題に入ろう。

米国の最近の大手小売業の見聞録を記したい。滞在しているところから歩いて行ける距離に、庶民に人気で全米3位のスパーマーケットのターゲット、西海岸発でニューヨーカーにも超人気のトレーダージョーズ、高級スーパーのホールフーズがあった。

米国小売業といえば1ドルを大切にする姿勢で「毎日が安売り」で世界を制したウォルマート。それを猛烈に追い上げて来たアマゾンがある。リアル店舗対オンライン。アマゾンがウォルマートを抜くのは時間の問題と思われていたが、ここ最近、様相が激変した。2020年のウォルマートのECやテクノロージーへのIT投資額はアマゾン、アルファベットについで全米3位。スーパー側もネット販売システムの構築にずば抜けた投資をしだしたのである。

早い話、オンラインで食料品を買い決済まで済ませ、スーパーのリアル店舗で受けとるシステム構築が各社旧ピッチで進んでいるのだ。コロナ禍は食品のオンライン化を一気に激増させたが、アアマゾンは受注した配送がキャパを超えて間に合わず、2週間待ちも出た。結局蓋を開けると漁夫の利を得たのはウォルマートを筆頭にスーパー勢でオンライン発注、リアル店舗受け取りがコロナでの非接触も味方につけた。それまで数パーセントもなかったオンライン発注が高齢者にまで広がり二桁を占めるにいたった。リアル店舗のスーパー勢のオンライン発注が一気に進んだ模様で、アマゾンの食品売上の一部をウォルマートらが侵食している。

もうひとつ、私が渡米した日に全米で最も愛されるスーパーランキング1位のウエグマンズがNYで2店舗目を開店させた。ここが話題になっているのである。日本式の魚屋を売り場に作ってしまったのだ。ウエグマンズは日本ではあまり知られていないが、100年以上の家族経営の老舗で東海岸だけに100店舗ほどを展開している。従業員満足がスーパー業界ですこぶる高く、アルバイトから数十年も働き続ける社員が多いので有名だ。早速視察に行った。場所はNY大学の近く、ダウンタウンにある。入って驚いたのは天井が高く、通路は広く、品数も多く陳列が綺麗。一階は総菜が中心でまるで日本のデパ地下をゆったりさせたよう。入ってすぐのコーナーは寿司でコの字型の陳列ケースの奥で多くの職人が寿司を握っているのだ。カリフォルニアロール中心ではなく、海老、イカ、アナゴ、マグロ、サーモン、鯛といった日本と見間違える見事な江戸前寿司なのだ。なぜ全米1のスーパーなのか分かった気がする。他のスーパーとは全然違うのだ。特にNYのスーパーはまず狭い通路で品数が少なく、マンハッタンのトレーダージョーズなどは夕方になると身動きがとれない混雑となり長蛇の列が売り場にできる。またホールフーズ以外は野菜売り場が新鮮ではないのだが、新鮮で美しい売り場なのだ。大量の商品が山積みされている野菜・果物は青果市場に来たような感じで、買い物が楽しい。しかも価格はホールフーズよりずっとリーズナブル。シーフード売り場は圧巻だ。SAKANAYAと書いてあり、豊洲市場直送ののぼりや、実演での切り売り、一匹買ったお客さんには無料でさばいてくれる日本式サービスまである。売り場の鮮魚の品揃えは正面には氷の上に所狭しとサンマが光って並んでいる。その他の魚は、金目鯛(鹿児島)、鯖(京都)、太刀魚(宮城)、甘鯛(山口)、鰆(石川)、秋鮭(北海道)などのお頭付き。実は100年続く豊洲の老舗「魚力」の職人が直々に3カ月の予定で指導に来ている。ここの鮮魚は豊洲から週2回空輸していて、魚力の刺身グレード。入社21年になるマネージャーのスティーブさんは、なぜ日本式魚屋をやるのか聞くと、「東京の魚力とは長い付き合いで信頼関係がある。日本の食文化の歴史は古く、魚は日本の文化の一部になっている。米国ではシーフードの売上はまだ数%しかないが、伸びる余地がある。だから日本から学びたい」と。つくづくNYは夢への挑戦と挫折が交錯する街だと思う。今度来るときにまたNYがどのように変化しているか今から楽しみである。

以上

みやけ ひろし(1405)
アカデミーグループ、理科実験グループ、授業支援の会
(キッコーマン)