スーパーマーケットと 資本主義市場経済

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2023/10/1 (No. 398)
近藤 勝重
近藤 勝重

ソ連と米国

第二次世界大戦後、社会主義体制と資本主義体制の対立の時代に入り、米国・ケネディ大統領とソ連・フルシチョフ第一書記との間で様々な論戦も展開された。

論戦の一つに資本主義体制にはスーパーマーケットが存在し、社会主義には存在しないというものがあった。当時のソ連にはまだスーパーマーケットは生まれていなかった。

スーパーマーケットの経営論理には資本主義の根本理念が根ざしている。

それはケネディ大統領が唱えた「消費者の4つの権利」という発想にある。

4つの権利とは、「安全を求める権利」「知らされる権利」「選ぶ権利」「意見を聞いてもらう権利」である。

その後、ニクソン大統領が「救済される権利」を、フォード大統領が「消費者教育への権利」を追加したとも言われている。

昨今のウクライナをめぐるロシアのいまだ変わらぬ行動からも納得できるものである。

映像の世紀

では、どういう経過をたどってスーパーマーケットという業態がアメリカに生まれたのか。

先ごろのNHKのすぐれた編集ドキュメンタリー番組である『映像の世紀』で解明されていたところを紹介する。

戦前からのニューヨークでは消費者の買い物は、肉は精肉店、野菜は青果店、缶詰などはグローサリーショップなどと別々に主婦は買い物をしに行っていた。買い物とは結構面倒なものだった。

ある不動産屋がたまたま空いた広い建物の利用方法を考えた時に、これらの食品店を集めた市場を考え付いたところこれが主婦に大うけした。いわゆるワンストップで買い物ができる利便性が支持されたわけである。経営者は考えその後ここに、セルフサービスという手法が導入されワンウェイで買いまわれるように工夫が重ねられていく。スーパーマーケットは益々発展していくことになり、郊外に大型店も進出した。これにより今度は食品や消費財が大量に売られていく状況が生み出され、その効果がメーカーに波及し、メーカーの大量生産につながっていく。

スーパーマーケットで大量に買い物をするようになった消費者は当然車を使い、今度は自動車が売れるようになったし、大量に買い込んだ食材を家庭で保管する冷蔵庫の需要が急増して行って、自動車と家電製品が大量生産されるようになっていく。

スーパーマーケットの発展はこのように大量生産方式という資本主義市場経済を生み出していった原点の存在だったと『映像の世紀』はレポートした。

『映像の世紀』がその取材の根底に置いている「バタフライ効果」がここにある。

スーパーマーケットはバタフライだったのだ。

トヨタ産業技術記念館

さらにスーパーマーケットの効果についての私自身の経験を追加させいただく。

それは今年春に行った名古屋駅近くの「トヨタ産業技術記念館」でのことである。

民間企業の博物館としてはおそらく日本一、世界一のものと言えるトヨタが総力をあげて建設したものである。案内ガイドツアーで参加することでよく内容が理解できるのでお勧めする。

トヨタ原点の紡織事業の創業者である豊田佐吉が綿花から綿糸を紡ぐ撚糸の自動機械を発明していくところから案内が始まる。様々な発明・工夫を重ねた経糸・横糸のトヨタ自動織機は画期的な自動機械として大成功し世界の紡織事業を発展させた。日本ならではのからくり機構など目の前で実演があり感動ものだ。トヨタの基礎が築かれた歴史だ。

この成功から戦後自動車産業に進出するのが豊田喜一郎である。朝鮮戦争を境に苦境から立ち直り成長を遂げていく。この記念館は紡績から始まり後半は自動車産業の展示となる。

私が最後に関心を引いたのが、いわゆる「トヨタ生産方式=カンバン方式」だ。

この紹介コーナーでは動画が流され、トヨタ生産方式が生まれてきたキッカケとなる豊田喜一郎の経験が紹介されている。

それがスーパーマーケットとの出会いだ。

スーパーマーケットでは顧客が買ったものが売り場から買い物かごに移され、店側ではなくなった棚に次の商品がバックヤードから補充される。売れたものは補充のための発注につながっていく。スーパーマーケットの基本的な単品管理・受発注管理だ。

これがそのままカンバン方式の発想へとつながったというのだ。いわゆる後工程へカンバンが引き継がれてという流れである。必要なものを、必要な時に、必要なだけ作ることを目的として、タスク管理や進捗管理を効果的に行うための生産管理方式がカンバン方式だ。

流通業界では当たり前の単純工程なのだがこれを製造業界に持ち込んだところに喜一郎の偉大さがある。

不思議なことに流通業界ではその後物流などの改革にトヨタ生産方式のコンサルを受けたりしたこともあった。

流通出身の私としては大いに満足して、トヨタ産業技術記念館を後にした。

その後会う人ごとにこの記念館のすばらしさをPRしている。

以上

こんどう かつしげ (115)
(理事 彩遊会 日本酒文化研究会 理科実験G
歌舞伎同好会 テニス同好会 ゴルフ同好会)
(元 ダイエー)