パッチワークで異文化と
ピュタゴラスのありがたさが分かる

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2023/5/1 (No. 388)
小島 千代美
小島 千代美

コロナでなかなか外に出られなかったここ3年間でハマったものがある。パッチワークキルトである。ある日、YouTubeを見ていると、オレゴン州のファブリックストアの女主人のチュートリアルが目に留まった。様々な色・模様の布をカットし、それらをミシンで繋げていく。カットされた布は1枚が数cm四方だが、それを何百枚、何千枚と繋げて新たな一枚の布を作り上げていくのだ。彼女が使っていた布はどれもこれも美しく、繋げると更に奥深いニュアンスが醸し出される。日本でみるパッチワークはおとなしい色が多く、手仕事としては素晴らしいけれどちょっと地味だなぁと、物足りなさを感じていた私は一目惚れしてしまった。

元々、ハワイアンキルトをやっていたので、道具は揃っていた。布以外は。コロナで不要不急の外出禁止令中、オプションはネットショップだったが、布というのはネットで買うのが少々難しい。手触りがわからなかったり、色味が違っていたりするからだ。そこで、チュートリアルと同じ布を日本のサイトで探してみた。値段は米国の2〜3倍するし、種類も少ない。そりゃそうだ。為替、売れ残りリスク、輸入の手間、輸送コストなどを考えれば当然そうなるわけだ。そこで米国アマゾンを覗いてみると、配送料込みでも日本の半分くらいの値段だ。届くのに2~3週間かかっても、これは買いだ!(*注:為替は@110円前後)

2週間後に届いた封筒は汚かったが、布はビニール袋に入っており無事。日本のように小綺麗ではないが、実質十分な包装となっている。そう言えば、米国の友人にクリスマスプレゼントを渡したら、きれいな包装をびりびり破かれびっくりしたことを思い出した。彼らにとって重要なのは中身、一刻も早く箱を開け、中を見てお礼を言いたいということだった。歓喜した友人からハグされながら、人の考え方はこうも違うのだと妙に納得した。

考え方の違いと言えば、パッチワークキルトも日本と米国では大きな差がある。誤解を恐れずに言えば、日本は一針一針の手仕事至上主義、米国はミシンを駆使した効率・分業主義である。パッチワークというのはその名の通りPatch(継当てする)することだ。そうして作った大きな布をトップ布という。間に綿を挟み、下布でサンドイッチにし、3層を刺し子のように縫うことをキルティングという。こうして、丈夫で温かみのあるひざ掛けやベッドカバーなどができるのである。

市場に出回っている商品を見ればわかるのだが、日本ではパッチワーク用の布は30cm四方に切ったものが大半で種類が少ない。そして、カットした布を手縫いで繋ぐ方が多い。手縫いの方が気持ちがこもっている、優れているという風潮があるのだ。米国ではプレカットと言って、布は用途によって何種類もの大きさにカットされ、できるだけ手数を少なく、多くの種類の布が手に入るようになっている。布を繋ぐのはもちろんミシンである。

さらに、アメリカでは分業が進んでいて、専用ミシンを持ちキルティングを請け負う人たち(Long Armer)がいる。キルティングは手縫いだとかなりの重労働、時間もかかるので、この部分をアウトソースできるのだ。この専用ミシンは、コンピュータライズされ、数m2の布に数十種類の模様をキルトできる優れものだ。通常数ヶ月はかかる手縫いのキルティングを1日で仕上げてしまう。もちろん手数料が発生するが、完成を急ぐ、キルティングは苦手という人が完成品を手にするために不可欠なビジネスとなっている。

一方日本では、依然「心を込めた手縫い」が主流だ。時間がかかっても丁寧に縫っていくことが美徳なのだ。私自身も、丁寧な手仕事の方が機械で大雑把に縫ったものより価値があると思いがちな世代である。しかし、キルティングは重労働だ。布の間に綿を挟んでいるから重いし、老眼が進むと細かい針目に苦労する。完成できなければ、いくら心を込めても使えるものにならないことを考えると、キルティングのアウトソースは有りだなと思う今日この頃である。

パッチワークでもう一つ気づいたこと。それは数学(というか算数)の有用性だ。学生時代、文系女子としては数学が大人になって役に立つのか疑問だった。が、役に立った。パッチワークは3角形、4角形、6角形など、様々な形を組み合わせていく。例えば、四角い布に4枚の三角形の布を縫い付ける場合、三角形の1辺の長さはピュタゴラスの定理で計算する。また、一枚の布をいかに効率良く使うか考える時など、ちょっとした数学のセンスが必要だ。ピュタゴラスは「万物は数なり」と、あらゆることは数字で解明できると言ったらしい。まあ私には及びもつかないが、とりあえず学校で習ったことが役立ってシンプルに嬉しい。

こうしてパッチワークキルトははかどり、3年で何枚ものベッドカバーが出来上がった。目下の悩みは、このカバーをかけるベッドがもうないことである。

以上

こじま ちよみ(1415)
(理科実験グループ 授業支援の会)
(元・シティバンク銀行)