健康医療研究会Zoomセミナー

第30回記念・「DF流健康長寿の知恵」出版記念
「高齢者の心理に分け入りより豊かな今後の精神生活を探る」

撮影:小林 慎一郎
2023年2月14日

2023年2月2日(木)15:00より、『セミナー通算30回目』と『DF流健康長寿の知恵』の出版を記念して開催いたしました。講師は、第一回セミナーの講師であり、上記書籍の特別寄稿者でもある健康医療研究会顧問の高橋龍太郎先生(元東京都健康長寿医療センター研究所副所長)と老年心理学の権威である長田久雄先生(前桜美林大学大学院副学長、現特任教授)で、高橋先生の基調講演に続き長田先生との対談という形式で行われました。

高橋龍太郎 先生
高橋龍太郎 先生
長田久雄 先生
長田久雄 先生

高橋先生から1時間にわたり、「老いの成熟:その基本視点」と題した以下の趣旨の基調講演を頂きました。

  1. 高齢化する社会の中で社会も個人もいくつかの課題を抱えている。本日はその中で2つの問題を取り上げる。
    すなわち、自律/自立した人間として。
    1. 老後を自由で意志的に生きる
    2. 元気で最期にポックリ逝く
    → はたしてこれが私たちの目指す道なのか。
  2. 自由な意思決定は重荷になっていないか。(エンディングノートなどで、自由意志が表明しきれないなど)
  3. 「自由とは何か」の医師の立場からの疑問。
    → パターナリズムで患者を誘導していないか
  4. 以上の視点から、3つの問題を、関係書籍を引用しながら提起。
  5. 第1に「自由で意志的に生きる」ことの掘り下げ、大澤真幸氏『<自由>の条件』を題材に、医療の場面での「インフォームドコンセント」に触れて、結局はエビデンスを説明するだけで患者の選択の自由は阻害されている。
  6. 「自由で意志的に生きる」の「意志的に生きる」の部分について「中動態」という概念がある(國分功一郎氏『中動態の世界』)。能動態と受動態の中間の概念で、「主体的意志的に何かをなす」のではなく、「やってくるものを受け止める」という考え方。すなわち「作為が消え、無為に生きる」という生き方。
  7. 元京大教授の森毅氏は「ずっと眺めていられる置き物になりたい」と言われていた。
    上記の考え方、生き方に通じる。
  8. ②の「元気で最期にポックリ逝く」について、「老年的超越」という考え方がある。
    スウェーデンの社会学者ラ―シュ・トーンスタムが提唱した概念で、主著のサブタイトルは「歳を重ねる幸福感の世界」となっている。加齢とともに肉体的な衰えは防げないが、精神の安定により幸福感が訪れる世界を示している。
    高橋先生の仮説によれば、老年的超越への分かれ道は「根をもつ」ということにある。 現代の世界では根も葉もない世界に人間はすっかり疲弊している、とのこと。

引き続き、長田先生に入って頂き、高橋先生のお話へのコメント・質問という形での対話を行いました。長田先生からの要請により、参加者も自由に意見を出せ、とのことでいくつか参加者からも意見を出させて頂きました。主要な内容は以下の通りです。

<長田先生>
「本当に自由はあるのか」との視点に賛成。
エーリッヒ・フロムが「自由からの逃走」で言っているように、自分で自由と思っていても自由ではない。釈迦の手にある孫悟空のようなもの。
<高橋先生>
「自分探し」という言葉は、実際には自由がないことを表している。
<I氏>
自由と思っていても井の中の蛙で、枠の中のである。
<E氏>
日本人は自由を求めていないのではないか。規制されることを望んでいるように見える。
<M氏>
奴隷が開放されると元に戻してほしい、という声が出てくる。
自由になったらかえって不自由に感じる。
<S氏>
現代社会は選択肢が増えている。以前になかった自由度が増大している。
<長田先生>
インフォームドコンセントは患者主体であるべき。EBM(エビデンスベースドメディシン)というが、エビデンスはあくまでも確率で100%ではない。
<高橋先生>
医師は患者に決定を投げているだけ、という一面もある。しかし患者から意見を言えるケースは少なく、最後は医師が決めざるを得ない。
<I氏>
自分は歯科医師として、時にはこんなことをいっていいのか、というくらい自分を追い込んで、患者に説明し、治療法を選んでもらっていた。
<長田先生>
患者に下駄を預けるわけではない。お互いの信頼関係が大事。一方では患者側も「賢い患者」になる必要がある。
<M氏>
患者側に強烈なクレーマーもいて、医師は慎重にならざるを得ない。
<E氏>
やはりお互いの信頼関係構築が必要。
<I氏>
先生にこんなことを聞いていいのか、という人も多い。遠慮がある。
<長田先生>
「中動態」の話の中で、生活習慣病(特に糖尿病)は自己責任という声がある。本当にそうか。
<高橋先生>
生活習慣病は食事のコントロールだけではない。例えばコレステロールは食事での摂取が関与する部分は少なく、代謝が関与しているケースも多い。
<N氏>
「老年的超越」とは、「さとり」ということではない?
<高橋先生>
死への恐れが消えていく、ということはある。
<N氏>
医師も専門分化している。自分のかかるべき信頼できる医者を持つことが大事。また仲間同士でも、自分の経験等を語り合い、情報を共有することが重要。

特に後半部分では、難解なテーマであるだけに議論が白熱し、時間がいくらあっても足りない感があったが、予定の時間となったので、最後に講師への謝意を各人盛大な拍手で表して、セミナーを終了しました。

<アンケート結果>

終了後にメールで依頼したアンケートには10名の方からご回答を頂きました。
結果は以下の通りです。(2月6日14時までにご回答を頂いた分)

概括的な感想としては、4名が「大変参考になった」、5名が「参考になった」との評価でした。特に参考になった点、感想、コメントにつき代表的なものを以下に記します。

今後の気持ちの持ち方に一つの指針を頂いた。
高齢になるに従い意識と現実のギャップをどう捉えていくかについて参考になった。
高齢者の不安である「寿命」について、心の持ち方を難解ながら説明頂いた。
医者でさえも何が最適な措置であるかがわからない。だから選択権が患者に委ねられる。
「根を持つ」ことが老年的超越への分かれ道、とのことだが、なぜそうなのかが理解できない。田舎出の都会人が老年期に新たに根をもつことは不可能な気がする。
参加者との対話時間がもう少しあればよかった。
多様な老人の実情を説明の中に交えて頂ければ、理解しやすくなるのではないか。

これからも、健康長寿のための諸知識習得の観点から、定期的にセミナーを実施していきたいと思います。引き続き会員の皆様の参加をお待ちしております。
また、テーマのご希望についても、事務局 dfkenkohiryo@directforce.orgまでお知らせいただければ幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

以 上(江村 泰一)