第18クール 企業ガバナンス部会

第5回月例セミナー

2023年3月6日
塚本 英巨 氏
日時
2023年1月25日(水)14:00~16:00
テーマ
「社外取締役の役割とその実践の在り方」
~ 最新の実務動向とともに ~
講師
塚本 英巨 氏
アンダーソン・毛利・友常法律事務所  外国法共同事業 パートナー弁護士
場所
DF事務所スタジオ751 + Zoomのハイブリッド方式
参加者
44名(会員38名、非会員6名)

【講演概要】

上場会社のガバナンス改革が求められる中、その中心的な役割を果たすのが社外取締役である。社外取締役については、その人数を揃えて形式を整えるだけでなく、その役割を実効的に果たすことが求められる。講師の塚本弁護士は会社法改正の企画・立案、経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会委員を務めると共に、上場企業の社外取締役監査等委員や非上場会社の社外監査役として実務経験も豊富な弁護士である。社外取締役の役割が何であり、どのようにしてその役割を果たすべきか、最新の実務動向も紹介しながら分かりやすく解説いただいた。

【講演内容】

1.社外取締役の活用の前提としての「取締役会改革」

  • 取締役会の機能には業務執行の意思決定機能及び業務施行者に対する監督機能がある。
  • 従来の取締役会は意思決定機能が重視され、取締役も内部昇進者が中心で、業績が悪いからといって経営トップの解任という伝家の宝刀を抜くことは期待し難かった。
  • 産業構造の変化や競争激化が起こる中、監督機能(モニタリング)を重視し、より良い業務執行者を選任し、会社の成長に向けたインセンティブを持たせる為の仕組みを審議する場としての取締役会を改革することが今日求められている。
  • スチュワードシップ・コードの影響もあり、機関投資家はもはや「物言わぬ与党株主」ではない。
  • 取締役会の監督機能としては、中長期の経営計画といった評価目標の審議・設定、業務執行者の業績評価、指名・報酬に関する人事権の行使(指名、解任・不再任、報酬額の決定、報酬制度の設計)が挙げられる。
  • 監督機能には法令遵守等健全性の観点での「守りのガバナンス」だけでなく、生産性・収益性や競争力を向上させる効率性の観点での「攻めのガバナンス」も求められる。
  • 経済産業省の「社外取締役ガイドライン」では、社外取締役による経営の監督の最も重要な役割とは、経営を担う社長・CEO等経営陣に対する評価とそれに基づく指名・再任や報酬の決定、更に必要な場合は社長・CEOの交代を主導することであるということが、「心得1」として記載されている。
  • 東証コーポレートガバナンス・コード(CGコード)も、上場会社の取締役会に対し会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく取締役会の監督機能強化を求めている。
  • 取締役会の監督機能の実効性確保の為には、「業務執行機関」から「監督機関」へのシフト(決議事項のスリム化)と取締役会の業務施行者からの独立性確保(CGコードがプライム上場企業に求める3分の1以上の独立社外取締役の選任、任意の指名・報酬委員会の設置、取締役会議長と社長・CEOの分離、社長・CEOの後継者計画の監督、取締役報酬の代表取締役への再一任でなく取締役会か報酬委員会への再一任)が求められる。
  • 経済産業省はCG改革を形式から実質へ深化させる為「社外取締役ガイドライン」(2020年)にて社外取締役が果たすべきベストプラクティスを「5つの心得」として公表。

2.社外取締役「過半数」時代と業務執行者取締役の人数

  • 独立社外取締役を取締役総数の少なくとも3分の1以上とすることをCGコードは求めているが、将来的には取締役総数の過半数が求められることは必至(監督機能を重視する場合独立社外取締役の人数が多くなる、業務執行者が取締役となることは当然ではなくなる、業務執行取締役の人数を減らし取締役会のサイズ(分母)を小さくする)。例:取締役総数5名、独立社外取締役3名、残りの取締役はCEOとCFOの2名のみ。

3.取締役会の決議事項の在り方

  • 業務執行者に対する監督機能を重視する場合は、個別具体的な業務執行事項は執行側に委任し、取締役会は会社の大枠、会社の在り方(例:中長期の経営方針・経営戦略・経営計画、事業ポートフォリオ、業務執行者の業績評価・指名/解任(不再任)・報酬、社長・CEOの後継者計画の監督等)について時間を掛けて審議することがその主な役割となる。
  • 決議事項の決議よりは審議事項等の議論に時間をかけ、例えば、役員懇談会等のインフォーマルな場で執行側が原案を固める前段階で社外取締役と共に議論を行う。
  • 監査役会設置会社は会社法上重要な業務執行の決定を取締役に委任出来ない為、取締役会の決議事項のスリム化には限界がある。定款の定めがあれば重要な業務執行の決定を取締役に委任できる監査等委員会設置会社に移行することも、監督機能の重視の観点では選択肢となる。

4.業務執行者の「解任・不再任」

  • 業務執行者の選任だけでなく解任(不再任)に備えた方針や手続きと共に、平時の段階から後継者候補を育てておく等後継者計画に対する監督を適切に行う必要がある。
  • 監督の趣旨からは解任・不再任の方針・基準に関して、定性基準(資質・適性、不正行為をしていない等)及び定量基準(経営計画、経営目標(KPI)との整合性)の観点で策定しておくことが重要。
  • 但し、解任・不再任の基準に抵触したからといって、直ちに解任することが求められるわけではない。「社外取締役ガイドライン」に於いても基準は飽く迄解任に関する議論に入り易くする趣旨であり、機械的な運用を推奨するものでないとしている。即ち、取締役会や指名・報酬委員会で、基準への抵触について業務執行者に経営責任があるのか、報酬面への反映で足りるか等を先ず議論することが重要である。

5.社長・CEOの後継者計画の監督

  • CGコード補充原則 4-1 ③ は、取締役会にCEO等の後継者計画の策定・運用と十分な時間と資源をかけて後継者候補の育成が計画的に行われる様監督することに主体的に関与することを求めており、社外取締役はより積極的に関与することが求められている。
  • 平時に於ける原案作成は現職の社長・CEOの役割であるが、社長・CEOと社外取締役が共同して取り組むことが重要。社外取締役には後継者の育成・選定の客観性・透明性の確保に於ける役割が期待されている。
  • 経済産業省CGSガイドラインは、後継者計画に関する重要な点として言語化・文書化の上、監督を担う指名委員会等に共有することを検討すべきとしている。今後は文書化に当たり取締役会の決議を経ることが推奨される可能性がある。
  • 後継者計画の監督には、後継者候補の育成計画、必要に応じた社外人材の選定(「投資家と企業の対話ガイドライン」)、社長・CEOが職務を遂行出来なくなる緊急事態が発生した場合の後継者の検討といった後継者計画の策定のほか、母集団の絞り込みとタフアサイメントによる育成があり、後継者候補が取締役会で議案を説明することにより社外取締役と接触頻度を高めるなどの工夫も必要。

【質疑応答】

Q1.
社外取締役の重要性はご指摘の通りだが、取締役会の実効性の観点ではまだまだ不十分な面がある。取締役会の役割は業績評価、社長・CEO人事(含む後継者計画)、役員報酬の決定等だが、これらは社内で完結することが多く株主総会で株主に報告されることは少ない。形式の議論も重要だが、ガバナンスの実効性を高める為には、取締役会での議論の株主への説明を通じて社外取締役が適任かどうか判断する等総会の在り方を見直す必要はないか。2024年にNISAの制度拡充が行われると一般株主の層が厚くなることになる為、CGコードの再改訂等も検討されるものと考えている。
A1.
社外取締役の候補者をどのように探すのかという質問が休憩時間にもあったが、令和元年の会社法改正に際して事業報告に社外取締役の活動を記載することとなり、又社外取締役の選任に当たっては招集通知に社外取締役に期待する役割を記載することとなった。個人株主がどこまでその点を監視することが出来るかという問題もあるが、機関投資家が、会社との対話を通じて、社外取締役が役割を果たしているか一般株主を代表して監視する流れも最近は生じている。
Q2.
社外取締役が中計や事業計画を評価しようとしても、会社に相当踏み込んだ活動をしない限り、月に1回程度取締役会に出席する様な頻度ではなかなか難しいと思うがどうか。社外取締役は掛け持ちが多いが、「攻めのガバナンス」を進める為には社外取締役の質を高めたり、量的にも内容に踏み込む努力が必要になると考えるが如何でしょうか。
A2.
経済産業省のCGS研究会でもご指摘の点は議論された。最初から質は難しいので、先ずは社外取締役の量を確保した上で、次のステップとして質を充実させることが求められており、現在はその過渡期にある。従来は弁護士や会計士が社外取締役に多かったが、経営が分っている人材がこれからは重要になる。また、社外取締役が役割を果たしているかどうかを誰が評価するのかという問題は、海外の例では社外取締役同士がお互いに評価するやり方(ピアレビュー)がある。現状は執行側の取締役を適切に評価することが優先して求められているが、将来的には社外取締役の評価と選任が課題になると考えられる。
Q3.
監査役会設置会社の監査役だが、監査等委員会設置会社への移行が検討されている。社外取締役は監査等委員である社外取締役とそれ以外の社外取締役の2つの種類があり、後者の報酬は監査等委員に就任予定の監査役より高い。監査等委員の社外取締役になると議決権の行使など責任が重くなる為、報酬を上げて欲しいと非常勤の監査役は発言しているがどう考えれば良いか。もう一つの質問は個別具体的な事項は執行側で議論し取締役会の議題をスリム化するとの話があったが、現在勤務している会社はM&Aを頻繁に行っており、取締役会の議題から外すことに違和感もあるがどう考えたらよいか。
A3.
一点目は、監査等委員である社外取締役は取締役会と監査等委員会の両方に出席しなければならず、監査等委員でない社外取締役は任意の指名・報酬委員会に出席することがあるとしても取締役会が中心であり、監査等委員である社外取締役の報酬のほうが高くてもおかしくはないと個人的には考えている。二点目は、配布資料 P.10 のCGコードが求める取締役会の役割・機能の説明の②に「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境の整備(基本原則4)」がある。これは正に取締役から執行側への権限移譲であり、全ての案件を取締役会で審議するのではなく、執行側の背中を押すということも求められているものと考えている。
Q4.
ガバナンス改革を押し進めることにより、企業の中長期的成長や企業価値の向上(稼ぐ力の向上)に繋がるのか。その為にはどの様な工夫が必要とお考えでしょうか。
A4.
社外取締役が監督することにより稼ぐ力が直接的に向上するかどうかといった観点でお答えは難しい。社外取締役を通じ監督することにより、少なくとも従前の仕組みよりは企業価値が向上するのではないかという考え方に基づいて現在のガバナンス改革が進められていると理解している。
Q5.
社長の知合い等に社外取締役の声が掛かることが多く、なあなあの関係になりがちと思うが、社外取締役の選定基準の明確化はどこまで出来るのでしょうか。
A5.
選定基準というよりはプロセスの問題と考える。社外取締役の知人から選んだり、指名委員会で候補者を実質的に選んだりするなど、飽く迄「社外が社外を選ぶ」様なプロセスが必要と考える。
以 上(國安 幹明)