日本停滞の犯人は誰だ

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2023/2/1 (No. 382)
藤村 峯一
藤村 峯一

DFで12年間、高校生向けキャリア教育を実施している。高校生への最初の問いは「生き残るものは最強のモノではない。ではそれはなんだ?」から始めることが多い。答えは「環境に適合できるもの」。

手順は

  1. 己を知る。最近の言葉ではメタ認知
  2. 将来変化を予測する
  3. 自らの長所を生かし、将来変化に適合した生き甲斐を見つける

己を知るに関連して、若者の意識を知るのに日本財団の18歳意識調査「第46回調査国や社会に対する意識(6ヵ国調査)」から引用すると。

「自分の国の将来について」

自分の国の将来について、日本は「良くなる」が13.9%と、他の国に差をつけて6ヵ国中最下位となった。また、「悪くなる」が35.1%、6ヵ国中最も高いスコア。

「自身の将来や目標について」では

自身の将来や目標に関する質問で、全ての項目で日本は6ヵ国中最下位となった。特に「多少のリスクが伴っても、新しいことに沢山挑戦したい」「多少のリスクが伴っても、高い目標を達成したい」は低く、5割を下回る。

調査項目は多岐にわたるが日本の18歳は他の5ヵ国に比べ、自国が悪くなると認識しながら、リスクも取りたくないと言う結果である。多くの高校で講義している実感としてはこの調査結果は悲観的に出過ぎていて、日本人特有の控え目な態度が調査結果に大きく影響していると感じる。

DFの皆さんはこれらの結果についてどう思われるだろうか。

「実際には若者はもっと冒険を求めている」などのご意見もあると思うが、日本にはスタートアップ企業の比率が低い、失われた10年が今や30年になり経済が伸びないのが当たり前、など日本の現状をこの調査は正しく反映しているようにも思える。

18歳はそんなものか、現役世代はもっとバリバリに頑張っているのではないかと、調査結果を調べて見ると「経済産業省の未来人材ビジョン」の33ページが目に止まった。

日本企業の従業員エンゲージメントは*1、世界全体でみて最低水準にある。米国/カナダが34%、世界平均20%に対して日本は5%

これこそ私にとって驚きの数値。日本の強味は終身雇用だったので会社と従業員の信頼関係は最も高いのではないか、それが日本企業の強さだったのではないか。
更にこの調査を見ると
「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ない。*2

アジア圏だけの比較であるが現在の勤務先で継続して働きたい人の割合は52%で最低。しかし、「転職や起業」の意向を持つ人も少ない。 転職意向のある人の割合は25%、独立・起業志向のある人の割合16% アジア圏で最低

これが実態の反映だとすると日本の従業員多くは「自社に貢献したいとも思っていないが転職もしたくない」。日本の沈滞状況を表している。現役従業員がこのような状況なら18歳の意識ももっともな結果と言えよう。
高校生へ上記状況を「自己を客観視する」材料として示した積りで話をした。
するとある生徒から質問があった。
「失われた30年、今の若者の消極性は誰の責任か」

私は発想の出発点として提示した積りであり、犯人捜しをする積りは全くなかった。犯人が分かれば安心できると言う心理なのだろうか。犯人を捜すよりも改革策を作り、実行することだと思いつつ、犯人を考えて見た。

犯人がいたとすれば昭和の経営者ではないか。バブル前から高度成長は続かない、ビジネスモデルとスタイルは変える必要があると当時から感じていた。しかし多忙を言い訳に有効的な手を打たないで来たのではないかと考える。

私にできる対策は、前記の経済産業省資料に優れた提案が掲載されている。この中の生徒への探究学習を主体に微力ではあるが懸命の努力をして行きたい。通常ならこれで終わる文章だが・・・だけでは終われない問題!

23世紀の人に「昔日本と言う美しい国があったが自己肯定感が低いので滅びたんだよ」
とならない方策をDFの皆さんと創出しようとおもいます。

以上

ふじむら みねかず(499)
(元・ブリヂストン)
  1. (注)「エンゲージメント」は、人事領域においては、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」といった意味で用いられる。(出所)GALLUP "State of the Global Workplace 2021" を基に経済産業省が作成。
  2. (出所)パーソル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」を基に経済産業省が作成。