米寿で出版 小説第2作

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2023/1/16 (No. 381)
秋山 哲
秋山 哲

令和4年11月23日に米寿に到達した。この日を発行日として、わたくしの小説第2作を刊行した。

2年前の小説第1作『耳順居日記』と同じように、アマゾン方式によるオンデマンド出版である。この歳になってのIT作業なので、少々パソコンと格闘する場面も出てくるが、本文も表紙も奥付も全部自力で組みあげるこの方式は、出版にかかる経費が実質ゼロ円である。一般の自費出版は100万円以上の費用を覚悟しなければならないのに対して、費用不要の出版である。正直に言っておくと、この本は1980円でアマゾンで売っているが、一冊売れるごとにわたくしには300円ほどが入ってくる。経費ゼロで利益がでる。
Amazon.co.jp: プリント・オン・デマンド(POD): 本

前置きは以上にして、小説の話に入る。

南進の口碑』という書名である。筆者名は「檜節郎」。秋山の「秋」は分解すると「火ノ木」なので、こういう名前にしている。

「口碑」という言葉は今は使われないが、広辞苑によると「碑に刻みつけるように口から口へ永く世に言い伝える」という意味である。

南進の口碑

「南進」は、太平洋戦争の少し前から日本が採用した対外政策である。大陸を対象にした「北進」にたいして、南洋に日本の将来を見出そうという基本政策のことだ。日本の勝手な「南進」政策によって、東南アジアの国々、人々は大きな迷惑にさらされることになる。この小説は、実直な一人のインドネシア青年アグスを主人公にして、「南進」によってその人生がどのように振り回されたか、を描く。

「南方特別留学生」という日本が始めた制度によって日本に留学したアグスは原爆によってマレーシア人の親友二人を失う。日本の敗戦によって挫折した彼はインドネシア独立のために戦おうとするが、日本人のゲリラ隊長に説得されて、独立後の祖国発展のために新聞記者への道を歩み始める。日本女性を妻に迎え、男の子を得るが、田中角栄首相のインドネシア訪問を機に起こった反日暴動の中で、銃弾によって愛する子を失う。

失意のアグスは日本を再訪する。そこで原爆死した親友二人の立派な墓、広島で生活した寮の跡地にたつ記念碑、アグスを説得した日本人ゲリラのためにスカルノ大統領が建立した石碑などに初めて出会う。

これらに接して、様々な不条理を乗り越える人と人とのつながり、心の通いあいをアグスは実感するのである。

日本の「南進」が引きずる影を碑に刻みつけるように、口から口へ永く伝えなければならない、というのが元ジャカルタ特派員であった米寿男の思いである。

以上

あきやま てつ(544)
(元・毎日新聞社)