一般社団法人 ディレクトフォース

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2022/11/1 (No.376)

変わったもの、変わらぬもの20年
 ―ディレクトフォース20周年を迎えて―

今井 智之

猛スピードで走り去った20年であったが、筆者昭和人間が、振り返って見ると、世の中、大きく変化したものと変わらぬものに深く考えさせられた。

ディレクトフォース(以下DF)設立前、筆者は会社勤めを終え、日本工業新聞へ週一でコラム『英語で頭を切り替えよう』を執筆していた。そのとき東京都立大学に招かれ、『グローバル化の経営思考』というテーマで講義もしていた。DF入会直後、DFのご紹介により拓殖大学大学院で同様のテーマで3年間ゼミを受け持った。当時、欧米では “Change Management” が叫ばれていた時代である。経営は抜本的に変化させ、変化に対応してゆくということであった。DFの紹介でその他の大学でも主としてコミュニケーションに関する講義を行い、思考力の改善方法を指導していた。

当時の象徴的事例としての話になるが、変化の一環として、今日では常識となっている”Diversity”があった。日本では全く馴染みがなく、上記コラムにそれをテーマにすると編集者が、たった600字の文脈を理解せぬまま、筆者と事前に確認もせず ”Diversification” と修正してしまったのだ。内容と全く違う表題となっていたので、修正を求めてクレームをつけると、丸の内界隈で一杯飲まされ、修正は社内で大目玉を食らうので勘弁願いたいと泣き落とされてしまった。

大きく変化を遂げたもので、IT関係は、欧米や南アジアに比し見劣りするが、明らかに長足の進歩があった。残念ながら筆者はとても追随できず苦言ばかり呈している。パソコンのアプリが年々多様化されているせいか、作文や検索が複雑化しかえって不便である。スマホなど未だに使いこなせてない。パソコンと違って記号化が多すぎる。大学の講義では、オーバーヘッド・プロジェクター(OHP)からパワーポイントに変わる時代であったから、会社に戻り後輩たちにその使い方の教えを乞い、その活用ができるようにした。不要になったOHP用フィルムは今でも書斎の隅にある。DFではOHPさえ使用できなかった時代だ。同好会では海外旅行の研究会で、当初はプリント写真を見せ合いながら語り合ったものだが、その後プレゼンテーションのIT化に有志と努力し、画像をスクリーンに投影しながら報告ができるようになった(今では極当り前でも)ことは特筆に値する。J氏など最初に奥様をアシスタントにお連れになったが、後には完璧なプレゼンを行うようになった。DFではホームページを開始することさえ容易でなかったものの、今日ある姿は、今は亡き三納さんの卓越した技術力とご努力によるもので改めて賞賛申し上げたい。

変わらぬもので極めて深刻なことがある。当時、世間では“失われた10年”と嘆かれていたが、とんでもない20年も経っていた。今では“失われた40年”である。当時大学で、その間日本のGDPが、欧米の平均値で伸びていたら、国民所得は倍増していたはずと説いて見せたが、フラットな経済は今でも変わらず、最近になってようやくメディアが欧米との格差を指摘し始めた。その原因については様々な議論がなされているが、筆者は“変わったこと”が仇となってないかと危惧している。それは若年労働者の野心や意欲がフラット化し、言わば現状の生活水準に満足してか、パイが大きくならないと諦めてか、我々の時代のようにどん欲に働き、消費を支える収入を増やす野心は抱かなくなったことではないか。西ヨーロッパ諸国では、早くから労働の質量不足を外国からの移民、特に東ヨーロッパ人が補い経済の活性化を維持・拡大したから、経済成長を維持できたに違いない。確かに外国人労働者はどん欲に働き、消費拡大に貢献しているようだ。

 GDPの国別推移 名目値 ドル換算 出典:OECD資料(小川真由氏作図)
GDPの国別推移 名目値 ドル換算 出典:OECD資料(小川真由氏作図)

特に英国は際立った成長を遂げた(現在は有能なリーダーシップの不在が災いして後戻りをしてるが)。当時、筆者がロンドン、リッツ・ホテルでアフタヌーン・ティーを取っていた時、隣席にいた若き男性二人がイングリッシュ・ティー、それだけでも高価なのに、加えてシャンパンを開けていたのを見て落差を感じたものだ。甘いケーキとティーにシャンパンを併せ飲むなど決して羨ましいとは思わぬが、正にバブルの象徴のようであった。我々の世代は、広い家に住み、別荘を持ち、家族と海外旅行し、ゴルフクラブに入会したい、と望みは大きく必死に働いたものだ。若い世代は、望みが小さい、海外出張も留学も望まない、という。ましては、海外勤務はお断りとなると日本人の国際競争力が弱化するはずである。海外に出て見分を広めることは、自国の経済を成長させるよい原動力となる。イギリスでは、17世紀には貴族の子弟を海外に旅行させ見分を広めさせる習慣(グランド・ツアーという)を始めていて、今でもその伝統は続き、大学を卒業すると、海外に、アルバイトをしながらでも、1年程度旅をさせることが一般的になっている。

最後に、右肩上がりの経済を再現し、パイを拡大させるには弛まざるイノベーションと発想の転換が必要で、日本人よ、外国人や外国語嫌いを止め海外で見分を広げよう、と提案したい。

以上
いまい ともゆき(21)
(元・シェルジャパン)
(DFワイン同好会、海外旅行研究会、華写の会)

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