2022/9/1 (No.372)
鈴木 信男
先のことをあまり考えたことは無い。これまで仕事中心の生活だったが、好きなように生きてきた結果であり、意図してそうなったわけではない。しかし、75歳にして初めて真剣にこれからの人生を考え、仕事を少し減らしてボランティアをやることにした。DF健康医療研究会での学びで社会参加の重要性を知り、東京都健康長寿医療センター研究所(以降、TMIG)の藤原佳典先生が10年以上前から提唱する児童への絵本読み聞かせ活動「りぷりんと」を知った。
目黒区とTMIGが連携する研修を受けた17名でこの春から活動をスタートして代表に就いたが、未知の世界に遭遇した。先ず、絵本読み聞かせ自体が案外難しい。「りぷりんと」は演技や説明をせずに絵本作家が絵本に込めた心を読み聞かせる。そのためにはともかくも読み込む。1日10回1週間の音読を必須とするのだが、その絵本から何を伝えたいか、私自身の中でどんどん変化していく様が驚きである。
児童との世代間交流はストレートに楽しい。先ずは児童館と学童保育クラブが我々を受け入れてくれた。小学低学年が対象である。選書も難しい。私の初回は米国のクラシック『どろんこハリー』(米国1956年、邦訳は1964年、福音館書店)を選んだ。飼い犬が近所で冒険する物語である。児童の好奇心にあふれた顔は「我が少年時代もこうだったか」、と懐かしい。
団員のほとんどは女性で背景は教員・保育士・企業勤務など多彩、熱量が高いが、組織運営には概して関心が低く、ここに私も少しは貢献出来そうな余地がある。もちろん、ビジネスとは異なるフィールドであり頭の切り替えと工夫は必要だがこれも一興である。ボランティア団体の交流を通して若者が町内会をフィールドにプロボノ*1を実践している(洒落たデザインの防災マップ作成、SDGs映画会など)のを知ったのはうれしい余禄。
目下、老年心理学を齧っている。エリクソンは生涯発達心理学として人生を乳幼児から老年期の8段階に分け、老年期の達成すべき課題を「統合」とする*2 。統合は現在の状況と共に過去の歴史を統合し、その結果に満足することのできる能力であり、自分の人生という事実を受け入れ死にたいしてそれほどの恐怖感をもたずに立ち向かうことのできる能力とされる。愚考するに、過去の歴史の中心はやはり成人期の仕事であり、それによって得た知見と経験である。これを老年期に新しいフィールドに発展させることにより、統合に達し得るのではないか。social capital として社会への貢献につながる期待感もあり、これもプロボノ、と言えそうだ。
私は団塊の世代の先駆けであり、仕事人間であり、典型的な集団の一員と捉えている。DFのかなりのメンバーもこの集団に属するのではないか。「老年期の生活に、趣味の会・勉強会などはそれとして、出来ればさらにボランティアを組み入れてはいかがであろう」とぜひ提言したい。