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2022/7/15 (No.369)

コロナ籠りとベーシック・インカム

猪野 久仁朗

猪野 久仁朗

ベーシック・インカム(以下BI)をご存じですか?昨年の衆院選である党が公約に掲げていました。今でもネット入手できますが、その内容を見るとBIの部分がとても厚いです。今後の取り組みに期待して、今回の参議院選公約を見てみましたが残念ながら影が薄くなっていました。政権与党はBI反対なので良い争点になると思うのですが。

みんなにお金を配ったら
(写真1)
ポスト・ヒューマン誕生
(写真2)
21世紀の資本
(写真3)
ベーシック・インカム入門
(写真4)

私は2020年2月に本屋でたまたま見かけた「みんなにお金を配ったら」(写真1)という本に魅せられて勉強を始めました。陰鬱なコロナ籠りの時期に丁度良い刺激です。それ以前にもBIは耳にしたことはあったのですが、何となく胡散臭い、横文字でごまかす感じの印象でした。幸い「みんなにお金」は、前に読んだことがあった「ポスト・ヒューマン誕生」(写真2)や「21世紀の資本」(写真3)と話がかみ合っていてうまく入れました。あれから2年半近いですが、関連図書がどんどん広がってしまって中々区切りがつかなくなっています。知らない事が多すぎて、思想史や哲学、政治学、倫理学、貧困問題、社会問題、子供の虐待、新財政学 (MMT) 等、読むほどに読むべき本の山が積み上がる状況です。

さて、BIはどんなものかをご紹介しましょう。一言でいうと、全国民に一律に無条件で継続的に一定の額の資金を給付する制度です。

全国民に継続的にお金を配るというアイデアは、トマスペインが「人間の権利」(1791年)で権利としての福祉として提案したのが始まりです。その本は翌1792年には発禁となりました。J.S.ミルが最小生活資料の割り当てという提案で続きました。その後、ケインズの社会給付やミードの社会配当、フリードマンの負の所得税、ガルブレイスの「豊かな社会」でのBI支持と続きます。最近では、生きている事への報酬という人も出てきています。

BI実現の運動は1970年頃から世界各地で続いていて、実験を始めた/終わった国としてナミビア、ブラジル、インド、フィンランド、カナダ、オランダ、アメリカ、ドイツ、ケニア等があります。アラスカとイランでは石油収入から得られる利益の一部を住民に配当しています。これもBIの一種と言えるでしょう。スイスでは国民投票まで行きましたが、否決されました。韓国ではただいま導入議論が進行中とのことです。日本でも選挙公約にBIを掲げる党が出てきて、他の党でも違った形ですがコメントするところが増えています。野党第一党の立憲民主も是非、議論を盛り上げてくれると良いと思います。

BIの期待される効果は数多くあります。低所得層の消費の増加。さらに長期的な制度としての信頼感を得れば、多くの人たちが貯蓄から消費に金を回します。

ベーシック・インカム的制度の分類
給付対象条件無し 給付対象者限定
所得保障 無し <部分的ベーシック・インカム>
定額給付金
国民配当
児童手当 母子手当
あり ベーシック・インカム <限定ベーシック・インカム>
参加所得
年金
生活保護

安定収入があるので子を産みやすく、育てやすくなる。子供は学業に専念しやすくなる。虐待も減少する。ブラック企業や性搾取産業と言った酷い仕事につかずに済む。自分の好きな事に専念しやすくなる。事業を始める資金になる。若者には自由に考える時間が増えて色々と試せるようになり、子供は学習時間を増やせて落ちこぼれる子が減る。つれて少年犯罪も減少、等々です。国民年金をBIに切り替え、生活保護も徐々にBIに切り替える事で事務手間が削減できます。それらに関連した不正も減少します。現行の生活保護制度は捕捉率(保護に該当する人と実際に受給している人の比率)が、先進国では60~90%なのに、日本では15~20%と極端に低い水準です。

一方で、心配される弊害・危惧も色々と取りざたされています。一番目は財源がない、2番は働かなくなる、さらにBI目当てで子沢山が出て来る、移民が増える、等々です。財源は後で試算してみる事にして、まずは怠け者不安です。実験的にBIを行ったところでは、自分に合う仕事を探す余裕が出来て、転職率が下がる、生産性が上がるという結果が出ています。子沢山は英国で子供手当を手厚くしたときに起きたそうです。人口減少への対応策の一つとポジティブに捉えてはどうでしょう。移民は日本ではほとんど心配ありません。難民も含めて受入れは極く少人数です。
以上は主に「ベーシック・インカム入門」(写真4)を参考にしています。

さて最大の危惧である財源です。試算のBI額は一人一月7万円とします。老夫婦で厚生年金平均並み。親子3人とすると年間252万円。世帯平均所得の半分弱です。母子家庭でも子供の面倒を見る時間が取れる最低限ではないかと思います。

計算の前提として、平均所得の半分以下層には全額受給、そこから平均所得までの層には実質半分、平均所得以上の人には実質ゼロとします。さらに厚生年金受給者と生活保護受給者はそのままでBI対象外として計算すると約35兆円になります。これはGDPの6%前後で、今はやりの新財政理論 (MMT) では全額を財政赤字で賄っても問題無いそうです。が、それだけでは不安なのでさらに財源を探します。

ベーシック・インカムと他の所得保障との違い
ベーシック・インカムと他の所得保障との違い
(出典:「大阪府保険医協会」の資料より)

有力候補は配当金の総合課税化、所得税の累進性強化、消費税増税です。所得1億円以上の層では所得税率が漸減しているので、その補正になります。総合課税化で4兆円、累進性強化1%(OECD平均並み所得税率に)で3兆円、欧州並みの消費税(20%かそれ以上)への第一弾で5%アップ=10兆円強。合計で18兆円前後の税収増・事務費減となり、残りを財政赤字で賄います。景気が過熱した時には税収も増えているはずで、赤字国債発行を減らし、さらに買い戻します。

BIの紹介は以上です。今、世界中でAI活用が進み、自動化・電子化・機械学習が広がっています。量子計算機実用化も間も無くでしょう。高給職もAI化されます。どの職種にも、誰にも起きる可能性のある悲劇で、かつてない速度で現実化します。ビッグブラザーが登場し、宇宙で米中が領土争いし、人間がAIに完全に負ける日が来るのかもしれない。だけど、たとえそんな日が来るとしても、少しでも住み良い人間社会を目指したいものです。BIはきっとそんな時にも役立ちます。

以上
いの くにお(993)
(元・古河電気工業)

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