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2022/7/1 (No.368)

ロシアのウクライナ侵攻

越後屋 秀博

越後屋 秀博

ロシアがウクライナに侵攻して4ヵ月以上が経った。停戦交渉も難航し解決の道筋はまだ見えない。

プーチン建造の大公像
プーチン建造の大公像

ロシアやウクライナなど東スラブ民族の国家の起源はキーウを中心に9世紀に誕生したキーウ・ルーシ(キエフ公国)にある。13世紀のモンゴルの侵略により公国は崩壊したが、ロシアは自らをその承継者と名乗ってきた。プーチン政権は2016年、クレムリンの横に10世紀にギリシャ正教を国教とした公国のウラジミール大公(プーチンのファーストネームと同じ)の像まで建設している。因みにこの大公は兄を暗殺するなど前半生の世紀末覇王じみた生き方と正反対に後半生は聖人そのものの改革をし、ウクライナ、ロシアの英雄となった。そしてキーウはキリスト教文明の国家として敬意が払われるようになった。

ウクライナ・キーウの大公像
ウクライナ・キーウの大公像

ロシアにとって、ウクライナは帝政ロシア時代およびソ連邦時代は一地方であった。プーチンにとってはウクライナなどという国は存在しないのである。それがソ連崩壊の時、ウクライナは袂を別ち独立国となり西側諸国につこうとしている。同胞だと思っていた相手が、自分を裏切り敵側につこうとしている。許せるはずがないという論理だ。それ故に自分の任期中に一気に解決しようと侵略戦争を始めた。古典的な身内の裏切り行為への報復のパターンである。日本人には両国とも同じような国としか見えないが。

ウクライナの国花ひまわり
ウクライナの国花ひまわり

ウクライナといえば、映画「ひまわり」が思い出される。1970年公開のイタリア・フランス・ソ連・米国の合作映画でマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが主演した。西側諸国がソ連時代のウクライナのヘルソン州(後年のNHKの取材ではポルタヴァ州チェルニチー・ヤール村)で初めて撮影したという。戦争によって引き裂かれた夫婦の絆を哀感たっぷりに描き、ヘンリー・マンシーニの哀愁を帯びたテーマ音楽とエンディングの地平線にまで及ぶ一面のひまわり畑は圧巻だった。ひまわりはウクライナの国花であり、畑の下にはイタリア兵やロシア兵が埋まっているという。ウクライナ(ソ連)の大地の美しさ・広大さを思うとともに戦争の残酷さに胸を締めつけられた。国旗の青・黄は青の空と黄の麦畑(ひまわりも入っているか)を表しているとされる。そしてウクライナは今また戦争に翻弄されている。時代は21世紀になっているというのに。

ブロードウエイミュージカルの「屋根の上のヴァイオリン弾き」の舞台もウクライナだ。案内文には帝政ロシア時代の一地方ウクライナと紹介されている。米ソ冷戦の頃、ソビエトは一つの国でありロシアもウクライナも白ロシア(ベラルーシ)も一地方だと思っていた。他のいろいろな説明書きにもソ連ウクライナ地方と書かれている。しかし実際はロシア・ソビエト連邦社会主義共和国であり、ウクライナ・ソビエト連邦社会主義共和国であり、別の国だったのだ。それが1991年ソ連邦が崩壊し15の共和国が独立した独立国家共同体(CIS)も構成され、ウクライナはCIS憲章を拒否し客員参加国となった。この辺からロシアと袂を別ちたかったのだろうか。

さて、「屋根の上のヴァイオリン弾き」はユダヤ人ティビエ家の3人娘の結婚までの物語だ。長女は貧しい仕立て屋の男と結婚。次女は革命家と結婚し、その夫はシベリアに流刑され次女は後を追う。三女はロシア青年と結婚。そしてユダヤ人排斥を受けテヴィエ一家は米国へ移住する。主題歌の Sunrise-Sunset はこれまで育てた親の哀歓が胸に打ち、素晴らしかった(若い頃は父親の情愛など頭になかったが、この年になってようやく実感している。風呂の中でツレアイに叱られながら森繫調でよく口ずさんでいる)。ユダヤ人云々はともかくウクライナはなんと情感あふれる優しい国なのだろうといい印象しか持っていない。それがこんなとんでもない悲劇に見舞われている。

ロシアといえばドストエフスキーの「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」などの世界的な文学作品を思い出す。いずれもロシアの大地で殺人という許されざるテーマを「人間の罪とは何か」「神はいるのか」と悩む青年を描いている。高校生の頃、名作として推奨され挑戦したが大部であり、内容が重く人間関係も複雑。読んでいて息苦しくなり最後まで読了とはいかなかった。しかしその内容は今回のロシアのウクライナ侵攻となぜか写し絵のように重なる。ウクライナ侵攻は侵略という名の国の殺人行為である。同じルーツを持つ無辜のウクライナ人を殺戮することは父親を殺し老婆を殺す行為と同じではないか。プーチンがウクライナで虐げられている親ロシア派を解放するという大義名分のもとにいかに自己を正当化しようとも決して許されるべきものではない。「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフは自分の信念を持って老婆を殺したが、結局は罪悪感に苦しめられる。やがて自分の弱さに打ちのめされた彼は親友や家族との関わりの中で人間らしい心を取り戻し復活していく。プーチンもそうあってほしい。

敢えてロシアの言い分を聞くならば、米欧はNATOの東方拡大を目指し、反ロシアを煽り過ぎ、ロシアの大国の尊厳を傷つけているのかもしれない。

ウクライナは日本の1.5倍の面積があり、人口も40百万人を超える。ロシアが属国にしたとしても治められるわけがない。ましてや米欧日の経済制裁が長く続けばロシア経済は壊滅的な状態になることは間違いない。プーチンは国民の冷蔵庫が空っぽになり転覆されるまで侵略し続けるのだろうか。敬虔なキリスト教正教会のロシア人よ、プーチンよ、早く目を覚ましなさい。罰を受け、後で苦しむのは指導者だけでなく国民なのだから。

以上
えちごや ひでひろ(1362)
(元・三菱銀行(三菱UFJ銀行))
(宮地エンジニアリング)

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