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2022/6/15 (No.367)

甲一高校強行遠足の思い出

石川 甚秀

石川 甚秀

今から50余年前の昭和43年に私が入学しました山梨県立甲府第一高等学校では、毎年秋に男子学生が、甲府から長野県小諸市までの約102km歩いて行くという“強行遠足”がありました。夕方16時に校庭を出発し、夜間も小走りもしくは歩き続け、翌日昼の12時までの20時間で終点の小諸駅を目指し、各個人が行けるところまで歩いていくという遠足でありました。

私が高校1年生の時にその強行遠足は始まって以来43回目を数えていた高校の伝統行事の一つであり、卒業までの3年間3回の体験は、その後の私の人生にも大きく影響を与えた体験でもありましたので、半世紀振りに振り返ってみることとしました。

そもそも記録を辿りますと、山梨県立甲府中学校であった時代の大正13年当時の文部省から11月3日(旧明治節)を祝して何らかのスポーツを実施せよとの通達を受け、心身の練磨を目的として始まり、その第1回大会では甲府から東京方面を目指したとのことでありますが、第2回大会からコースを変更し、甲府から西に向かい松本方面を目指し、昭和36年までは、24時間以内に行けるところまで歩いて行くという催しでありました。

その数十年間での歴代最長到達記録保持者が、甲府から167.1kmの長野県松本から信濃大町方面に進んだ“簗場”まで歩いた“岩間幸吉”さんで、私の中学校の担任の先生であったこともあり、中学在学の頃から私も高校に入学した際には強行遠足には是非とも参加してみようという気概を持っていたわけでもありました。

先述のように私が入学した昭和43年には、小諸駅までの約102kmで20時間という制限時間でありましたが、そのルートは海抜270mの甲府から甲州街道(国道20号線)を韮崎に向かい、韮崎からは佐久往還(国道141号線)に入る。この辺りから連続した上り坂となり、山梨県と長野県の県境で八ヶ岳山麓の清里から海抜1473mという日本国内のJRでの海抜最高点の小海線と国道が交差するポイントを通過して、野辺山に入り、そこからは、ようやく徐々に下り坂が続き小海、臼田、中込と経由し最終の海抜80mの小諸駅に向かうという道のりでありました。

服装は、学生帽、上は学生服、下は白いトレパンでリュックサックを背負い、白いズック靴にタオルをベルトに下げた出立でありました。1年生から3年生までの合計で、男子が約1200名程であり、その96%程の生徒が毎年参加し、夕方校庭を3年、2年、1年と10分毎に出発し、各人が小諸を目指すという遠足です。

甲府を出発した直後は多人数がほぼ隊列となって、甲州街道の歩道を小走りもしくは歩くのであるが、韮崎から佐久往還に入る辺りから、夕闇暗くなり、一人一人の間隔が空き出して、懐中電灯の明かりを頼りに、上り坂の山道、峠道を1人もしくは2人ほどでただただ歩き続けるのです。途中からは、疲れと足の痛み、また空腹とさらに深夜になると睡魔に襲われ、何度か途中棄権の誘惑にかられるのですが、その行程には先生や保護者が待機しておられる18か所のチェックポイント(臨時の救護所)が設置されており、到着すると休息がとれ、暖が取れる用意がありました。

私は1年時では軽い気持ちで特に事前練習もせずに、本番の強行遠足に参加したところ、30kmを過ぎるあたりから、足が動かなくなるとともに足裏に豆ができ、出発から9時間ほど歩き続けた後の夜中の1時頃に、甲府から50 kmの中間地点の野辺山の救護所の椅子に座ったら寝入ってしまい、結局それ以後をリタイヤし、あっさりと朝の一番列車で多くのリタイヤした生徒仲間とともに甲府に戻ってしまいました。また足の痛みで駅の跨線橋の階段の昇降に苦労したことが記憶に残っています。

2年時は、事前に少し練習したと記憶しますが、夜中の1時頃に野辺山を通過し、甲府から80kmの臼田まで、出発から16時間後の朝8時頃に順調に到着したのですが、救護所で出された“むすび”と豚汁で空腹を癒し、休憩していたところ、この時間では小諸に到着できないと予測し、無念にも結局棄権してしまったのでありました。

そこで3年時には、相当事前から日常の登校時にも徒歩で練習を重ね、体調も万全を期し、今年が最後だと気力も充実して臨みました。しかし、やはり途中で足は痛くなる上に、夜中は睡魔とともに何度かリタイヤの誘惑に襲われながらも、2年でリタイヤした80km点の臼田を同じ朝8時頃に通過し、その辺りからは体調、気力も回復し、順調に歩みを進めて出発から19時間半過ぎた翌日昼前の11時32分に、終点の小諸駅に到着することができました。その年の小諸駅までの到達者が213人(全生徒中の到達率22%)で、私は確か182番でした。その時の達成感は今でも忘れられない思い出であります。

あれから既に50余年の歳月が過ぎ、今ではとても一晩中歩き続けるというような体力や気力もありませんが、あの高校での強行遠足の体験は、その後の大学、会社、社会人生活の中でのいろいろな場面においても、私を奮い立たせてくれているように思います。

また、甲府一高の同窓会や同期会となると必ずや強行遠足の話題となり、青春の思い出として心を豊かにしてくれるのであります。

以上
いしかわ やすひで(1195)
(元・三菱化学)
(理科実験グループ)

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