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一般社団法人 ディレクトフォース

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 2016/12/01(No234)

訪日客4000万時代、気が付いたらツアーガイドしていました。

西村 誠司

筆者

今年4月よりDFに入会させて頂きました。主に電気通信業界に長く身をおき、2004年にはイスラエル発のスタートアップの日本法人の社長を務め、2006年ナスダック上場の米国企業に買収された後も昨年まで代表を務めておりました。その間、主に FTTH(光ファイバー通信)向けサービス用の半導体を大手日本企業に販売させて頂き、日本の光アクセスサービスの基盤構築のお手伝いをさせて頂きました。

 

代表退任後、通訳案内士という資格がある事を偶然知り、昨年の夏に受験し、今年2月に通訳案内士の資格を取ることができました。旅行に関する外国人向け通訳ガイドを実施し且つ報酬を得る場合は、現在の法律では通訳案内士という国家資格が必要となります。

通訳案内士の資格無しで通訳ガイドを実施し報酬を得ると違法となります。ボランティア通訳は報酬を受け取らないので問題とはなりません。ややこしいことに会議通訳のようないわゆる通訳には資格は必要ありません。旅行に関する通訳をしないという前提です。こちらは資格を必要としないかわりに実力勝負の厳しい世界です。通訳案内士も報酬を得るからにはからには、資格があれば良いというもので無く、お金を貰うには実力が問われる真剣勝負のプロのガイド業です。

通訳案内士は年1回毎年夏に1次試験、冬に面接試験があり翌年2月に合否発表、毎年の合格率は20%前後になります。語学の他に、日本史、地理、一般常識の筆記1次試験があり2次試験は面接試験となります。2次より1次が難関と云われています。私の場合では語学(英語)は過去のTOEICの取得点数で免除となりましたので、その他の筆記試験科目の受験勉強を試験直前の約3か月前に急遽実施し何とか合格できました。

 

合格すると各都道府県に登録し通訳案内士として仕事ができますが、多くの新人通訳案内士は、新人研修等でプロの通訳ガイドとしてのいろはを学ぶことになります。語学力はさておき、まずは日本の文化・歴史を深く理解している事、それ無くしてガイドはできません。

合格後の新人研修に参加してみると、この歳になって知らないことばかりで、新たな知識を学ぶことがとても私には新鮮で、楽しいことでした。

研修の種類は数多く有りますが、私は、1週間の新人研修以降、バス添乗研修、箱根、日光、鎌倉、築地、秋葉原、六本木、表・裏参道界隈、茶懐石、相撲部屋研修等々、数々の研修を重ね来たるガイドデビューに備えてきました。

 

ガイドデビューは予想よりも早く訪れました。

今年4月に、鹿児島港に寄港するサファイアプリンセスというクルーズ船客対象のオプショナルバスツアーのガイドを担当することになりました。お客様は欧米人を中心とした39名の内子供は2名。鹿児島港を9時過ぎに出発し市内の島津家ゆかりの仙巌園に寄りその後桜島へ渡り鹿児島港へ2時過ぎに戻るコースでした。

前日に鹿児島へ入り、他の通訳ガイドさんとコースの下見を行い、夜、総勢32名のガイドさんと合同で旅行会社との最終確認の打ち合わせを実施し、ホテルの部屋に戻り最終準備をすませ、3時間程度の睡眠の後、本番に臨みました。

本番の朝、オプショナルツアー向けのバス32台が待機する中、担当のバスを見つけ運転手さんと最終確認、業界のルールとして初めてのガイドということは、運転手さんにもお客様にも絶対漏らしてはなりません。初めてなので宜しくお願いしますというのは、報酬をもらうプロとしては許されません。

とはいうもの、心は不安で一杯の中。船からは続々とお客様が自分の予約したツアーバスを目指してきます。思い悩む暇もなく人数を確認したのちバスは出発しツアーはスタートしました。

車内ではあらかじめ用意していた、手書きの九州、鹿児島の地図や島津家の家紋の図を使い説明を行い、見学予定の仙巌園についても事前説明を行いました。

島津家の家紋の説明は好評でした、丸十字の家紋すなわち見方によると十字架に丸です、1549年にフランシスコザビエルは薩摩の守護大名島津貴久に謁見しています、その時十字架に丸の家紋を彼はどう見ていたのか、もちろん島津家の家紋はキリスト伝来以前から丸十字でした。

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借景技法で有名な仙巌園から桜島を錦江湾越しに眺める

仙巌園では、噴煙を上げる桜島を錦江湾越しに眺めることができ、予めバスの中で日本庭園の借景(borrowing landscape)について説明していたので、現場では百聞は一見に如かず(Seeing is believing)多くの説明は不要でした。

仙巌園を後にして、桜島をバスで移動中に絶好のタイミングで小噴火があり、窓越しにモクモクと上がる噴煙を見て、雄大な自然現象にお客様は大満足でした。

帰りの鹿児島港へ戻るバス車内は行きのバスですでに車窓説明はしているので、ガイドが何かのパフォーマンスをしなくてはならない魔の時間です、そこで用意した日本語の数字の数ええ方を披露し全員で実演してもらうとこれが大うけ、大喝采でした。

1: Itch 2:knee 3: Sun 4: She 5: Go 6:Rock 7: Hitch 8:Hatch 9: Q 10: Jyudo

バス車内大盛り上がりし運転手さんと到着予想時間を計りながら、最後のお礼のご挨拶では、多くの拍手を頂きました。

そして、到着し降車口で最後お別れのごあいさつ、皆さんが握手とともにお礼のことば、すると握手した手のひらにさりげなくドル紙幣が。

チップでした。人生初めてのチップ、金額以前に兎にも角にも新米のガイドに満足して頂いたことを確認できたことを知り、安堵感と達成感に包まれとても幸せな時間でした。

 

その後、ガイド業は月1回弱程度のペースで行っています、話題沸騰の築地では、メキシコから来た6人家族(祖母、両親、姉妹、叔母)の個人客ツアー(FIT)のご案内をしました、中国2週間、日本2週間滞在の旅行でちなみに、彼らの宿泊先は汐留の高級ホテルでした。

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築地を案内したメキシコ人家族 マグロの巨大なカマをさばく様子をパチリ

また MICE と言って、国際会議やインセンティブトリップ、展示会にも多くの外国人客が日本を訪れています、10月には大手通信事業会社が招待した東南アジアからの研修生をつくばで行われたフォーラムへご案内し現地で通訳を行いました。

また、長野で行われた展示会に参加された外国大使館関係者のご挨拶やプレゼンテーションの通訳もさせて頂く機会もありました。

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大使閣下(Her Excellency)の通訳とご案内をしました

訪日観光客4000万を国が目指すなかで、通訳案内士を取り巻く環境も変化しつつあります。規制緩和により、現状の業務独占資格から呼称独占資格に変更される予定です。資格がなくても一部有料ガイドが可能になります。ボランティア通訳の方にも、交通費や謝礼金を出すことも可能になります。

観光立国ではなく観光大国を日本が目指すなら、いろいろな形で多くの方がよりガイドをしやすくなる環境を整備することは必要と思います。

経験、知見豊富なDF会員の皆様方はもとより、皆様のご家族にも通訳案内士を含めた有料ガイドあるいはボランティアガイドを目指して頂ければと思います。ガイドひとりひとりが日本の民間外交官です。

私も日々精進し、訪日客の皆さまに、日本の文化・歴史を正しくお伝えし、かつ日本での滞在が楽しく、感動的なものになるよう少しでも貢献できればと思います。エンドマーク

にしむらせいじ デイレクトフォース会員(1127)元NTT アクセンチュア(株)

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