
2016/10/15(No231)
ーーー 環境と省エネルギー技術で、
ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス3ヶ国支援の記録 ーーー
石原 秀郎
中央アジアはウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンの5か国を指し、旧ソビエト連邦に属していたが1991年のソビエト連邦の崩壊によって独立したCIS諸国の一部である。
地政学的にはロシアと中国に挟まれた地域であり、石油、天然ガス、レアメタルなどの地下資源にもめぐまれている。また、古くからシルクロードによる文化交流、物資の往来が盛んな地域でもあった。
図1.中央アジアを含むアジア |
中央アジア諸国の経済はもともと、ソ連においてなされてきた計画経済であったが独立後は自由市場経済への移行が必要であり、その教育、支援を行うプログラムとしてTAM(Turn Around Management)およびEGP(Enterprise Growth Programme)が存在する。TAM、EGPはこれらの国々の企業が自由市場経済で成功できるよう、企業の変革を手伝うことで様々な経済改革を支援するプログラムである。
このプログラムはEBRD(欧州復興開発銀行)が窓口になり、欧州、米国、日本等からの拠出金によってSIA(シニア・インダストリアル・アドバイザー)を派遣し、企業の技術的、構造的な経営の支援(改革)に重点を置いている。
マネジメントコントロールの打合せ |
こういった背景のもとに筆者は環境と省エネルギー技術を主なテーマとして、ウズベキスタンのボイラーメーカー、カザフスタンの地方新聞社及びバスタブ製造会社、及びキルギスのボイラーメーカーの計4件の企業においてSIAとして2007年以来技術的な面でのマネージメントサポートを行ってきた。このうちウズベキスタンのボイラーメーカーにおける工場の生産管理、品質管理、環境事業の発掘、とカザフスタンのローカルな新聞社省エネ対策の2件について紹介したい。
経済としてはウズベキスタン、カザフスタンは石油、天然ガス、ウランと言ったエネルギー資源、さらにキルギスは金、銀、銅、レアメタルなどの鉱物資源に恵まれており、産業構造としては少なからず原料依存型である。
このような資源をいち早く経済成長に結び付け発展した国としてはカザフスタンである。1人当たりのGDPで見ても1万ドルを超す豊かさは中国を超えるとも考えられる。
しかしながらいずれの国も資源依存から脱却し産業の多角化を目指すことが経済発展にはなすべき重要な策であると考えられる。
独立前はソ連邦であったため各国ともロシア人が多く(カザフの場合人口の22%)アジアの中の西洋と言う感じがする。従って公用語もそれぞれの国の言語に加えてロシア語が認められている。
首都タシケントの人口は約220万人、民族はウズベキ人(80%)ロシア人(5.5%)タジク人(5.0%)カザフ人(3.0%)など。主要産業としては綿花栽培で、天然ガス、ウラン、レアメタルなどの資源も豊富である。
市内は緑が多く、夏は40℃を超える暑さになるが乾燥しているので木陰に入ると暑さはそんなに感じない。冬はその逆で-20℃になることもあり、夏と冬の寒暖の差が激しい。
ウズベキスタンはシルクロードの西の中間拠点であり、サマルカンド、ブハラ、ヒヴァと言った都市にブルータイルのイスラム寺院を中心とした世界遺産が数多く存在している。
また、タシケントの地下鉄はソ連時代に作られたものであり、モスクワ、レニングラード以外では共産圏として唯一である。
日本とタシケントの間に直行便が週2便飛んでいる
環境TAMのSIAとして初めて中央アジアのタシケントの空港に降り立ったのは2007年9月13日であった。1週間から10日を1回として計6回を1年半にわたりISTAL社の業務改善、経営支援に取り組んだ。ISTAL社はウズベキスタンにおいて最大のボイラー製造会社であり、ウズベキスタンのみならずロシア、カザフスタン、などにボイラーの販売網を持っている。工場は1991年の独立前のソビエト連邦の国営工場を引き継いでおり、建物や製造設備も相当古く、しかも雑然としている。
作業環境の向上のための “5S” や品質管理の一環である “PDCAサイクル” “小集団活動” を指導した結果大きな改善が見られた(写真1-2、1-3参照)。
| 写真1-2.雑然とした工場内 | 写真1―3 整理整頓された工場内の製品 |
ボイラーやバーナーを販売した後、メンテナンスビジネスの取り組みがあいまいであり、客先からの要求によって訪問する受身の取り組み、いわゆる“修理屋“であった。
ボイラーやバーナーの計画的なメンテナンスビジネスが製品の販売に加 えて利益の大きな源になることを説明し、日本のメンテナンスビジネスの取り組み方を参考にして資料を作成し、マネージメントに対しての勉強会を行った。
製品の販売時にメンテナンス契約を行い、定期的な客先訪問によって納めた製品の状況を把握し、積極的な営業活動をするよう指導した。
その結果、ISTALの社長は社内にメンテナンスチームを発足させ、中央ア ジア市場にマッチした資料を作成し、活動に入っていった。このような活動によって客先との関係がより密になり、メンテナンスビジネスのみならず製品の取り換え需要にも結びつくことに気づき、市場確保に大きく貢献してきたと思われる。
上記に述べたようなビジネスの拡大においてボイラーやバーナーを製造販売するばかりでなく過去に販売したボイラーやバーナーのメンテナンス事業、運転委託事業などをISTAL社の事業の柱の1つとして確立すべきであると言う教育の一環、品質管理や生産管理の実態調査、さらに将来の成長戦略と考えている2つの環境ビジネスの実態を視察するためにトレーニングビジットとしてISTALの社長、副社長に日本のボイラーメーカー、バーナーメーカー、リサイクルプラント等を訪問してもらった。
その結果ISTAL社の事業にメンテナンス事業を取り入れることが将来の大きな収益源になると確信し、さらに日本のボイラーメーカーの品質管理や生産管理の実態を視察出来たことで、ISTAL社の経営陣は変革の必要性を痛切に感じとったことと思われる。
さらに環境ビジネス分野への進出を計画していたISTAL社は日本へのトレーニング訪問時、2つの環境プロジェクトのテーマに関心があった。
その1つはコンポストである。切り込まれた街路樹や農業廃棄物からコンポストにリサイクルする事業はウズベキスタンにおいても将来性のある環境ビジネスと考えられる。
2つ目は火力発電所の石炭灰を多孔質構造の人工ゼオライトに加工してリサイクルし、それを綿花畑の土壌改良剤や発電所の水質改良材として使用することである。無数の孔を有する人工ゼオライトには水分や肥料を蓄える特質があり、地中でも高い保水性、保肥性を発揮する。
ウズベキスタンは独立以前の計画経済の名残で綿花栽培が基幹産業の1つになっているが降水量が少なく本来は綿花に向かない土地であるため、廃物利用を兼ねた人工ゼオライトによる土壌改良は一石ニ鳥である。
日本のコンポストや人工ゼオライトの専門家をSPとしてタシケントに同道してもらい、農業関係者、大学や研究機関の専門家、企業関係者、を対称にセミナーを開催し、多くの人々に関心の程度が広がったことは言うまでもない。
国の機関との関係もあり時間を要するのでじっくり取り組む必要があるが、人工ゼオライトは国の主産業を支える製品の1つである綿花の増収殻が期待できるとあって農業関係の研究機関である「サイエンスアカデミー」も大変興味を示しISTAL社と共に積極的に進めることで一致した。
日本でのコンポストや人工ゼオライトの製造プラントを視察は将来の環境ビジネスへのマイルドストーンとして前進があったことは確かである。
| 写真1-4.コンポスト製品図 | 図1-2 石炭灰から人工ゼオライト |
コスタナイ市はカザフスタン北部、ロシアとの国境に位置し、首都アスタナから760㎞の距離にある。人口は約20万人。厳しい大陸性気候で夏の平均最高気温が26℃、冬の平均最低気温が-22℃、年間降水量が250-300mmと非常に少ない。産業としては天然資源としての天然ガス、オイル、レアメタル、農産物としての小麦、そして牧畜などである。
ヒートポンプと言うのは小さいパワーで大気中のエネルギーを吸い上げ、大きな利用エネルギーを作り出す機能を持った省エネ機器である。
1例をあげればエネルギー1個のパワー(電気)で5個に相当する大気中の無料エネルギーを吸収し、アウトプットとして6個のエネルギーを作りえることである。(図4-1参照)
特徴として、
| 図4-1 ヒートポンプの原理図(ダイキン欧州資料より) |
コスタナイ市は北緯53度に位置する。冬場は-20℃から-25℃にもなる厳冬地であった。このような気温の大気からヒートポンプによってエネルギーが得られて暖房が可能なことは現地の誰もが信じ得なかった。
図4-2に欧州ダイキンのヒートポンプの作動範囲を、図4-3は最新機種による外気温と出力の関係を示したものである。
| 図4-2ヒートポンプの作動範囲(欧州ダイキン資料より) |
| 図4-3 最新機種と従来機種の出力と外気温の比較(欧州ダイキン資料より) |
従来、市が運転する大型ボイラーでお湯を沸かしそのお湯を各消費場所(家庭や企業)に送り暖房としていた。その場合ボイラーの燃料として石炭、ガス、あるいは石油が使用されていた。しかしながらヒートポンプの場合は前頁で述べたように無償である空気中のエネルギーを吸収して使うために燃料費はわずかである。
写真4-1新聞社ビルの窓 |
窓ガラスから損失する熱をできるだけ少なくするために二重ガラスにすることは最近の日本でも当たり前になってきたが、寒冷地であるカザフスタンではかなり前から施工されている。省エネを取り組んだ新聞社においては既設の建屋の窓には従来の二重ガラスに遮熱フィルムを張り。さらに増築する3階は3重ガラスで断熱効果を高める計画を進言した。
ビルの外壁内側に50+50=100mmの暑さ(従来は50mm)の保温材を設置した、設置の前と後では暖房のための燃料消費を37%減らすことができた。過去4年間の10月から翌年の1月までの平均燃料消費量は2000㎡のビル面積に対して340Gカロリーを消費していたが工事完了した年は214Gカロリーの消費であった。このためのコスト節減は6400$/年になる。建築改造費は全てで52000$かかったが、電気代が高騰するカザフでは5〜6年で回収できると考えている。
このほか下記テーマについても省エネ対象技術として検討の対象とした。
以上6件の省エネ対策について助言を行ってきたが費用の問題もあり、早速すべてを取り掛かることは無理があるとしても、将来に向けて採用の検討を図ると期待している以上、8年にわたって中央アジア3国の環境とエネルギーを事業あるいは事業改善とする企業の再生支援に微力を尽くしたつもりであるが、その成長の姿が見えてくるのはこれからである。引き続きその姿が見えてくるところまでは遠い日本からではあるが見守っていきたい。![]()
関連の地図と写真を用意しました。こちらからご覧ください。
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いしはら ひでお デイレクトフォース会員(148)元荏原製作所