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 2016/09/01(No228)

土木とは ー なぜ土木というのか ー

宮本 幸始

筆者

私は、土木技術者として電力会社で、水力発電のダムや火力発電の地下タンクの建設などに携わった。土木と建築を統括する立場も経験した。

土木は文明の基盤を構築するための工学で、英語では Civil Engineering である。わが国では、治水、灌漑、鉄道、道路、港湾、空港、電力、通信、廃棄物処理、上中下水道、環境保全、国土計画などの社会基盤を対象としている。ところで、土木はなぜ土木というのか。似た言葉に建築とか建設もある。それぞれどう違うのだろうか。

建設とはものをつくる事であり、土木も建築も含んだ一般的な用語として使われる。一方、土木あるいは建築は、つくる(建設)ことだけを指すのではなく、つくる前の「計画」「設計」、つくったものの「維持」「補修、補強」、さらに「研究開発」含めて用いられる。

では、土木(土木工学)と建築(建築学)はどういう関係か。2つを違うものとして言うなら、土木とは社会基盤のダム、橋、トンネルなどを対象とするもの、建築は、家屋やビルなど建物を対象とするものである。実際的には建築基準法の規制を受けるものを扱うのが建築になる。土木は公共用途のものがほとんどであり、建築は、民間が発注するものが多い。

土木、建築という言葉は、明治の初期に、それぞれの学術分野あるいは行政分野を示すものとして創られたと言われている。古くは「普請」「作事」と呼ばれた。

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湛水前のダム(蛇尾川ダム 栃木県)

LNG地下タンク建設 (c土木学会)

「土木」は、中国の古典「淮南子(えなんじ)」にある「築土構木」(土を盛り木を組んで、人々が安寧に暮らせるようにした)から採ったとされる。英語の Civil Engineering にあてた造語である。「建築」は、Architecture に対する訳語として、しばらく使われた「造家」に代わって用いられるようになった。用語としては「建築」は内容を直感しやすいが、「土木」は土と木が並んだだけにみえ、意味することが分かりにくいようだ。近年、大学の (旧)土木工学科の多くは、社会基盤工学科、社会環境工学科、建設工学科などへ、説明的に改名されている。歴史のifをいうなら Civil Engineering の訳語に「建築」が採用されていてもおかしくなかったのである。そうすると今の土木は建築といわれ、今の建築は造家と呼ばれていたかもしれない。

ところで、目的物は異なっても、土木と建築には工学としてあるいは使用材料、施工技術として共通するところが少なくない。どちらもコンクリートや鉄鋼を使用し、耐震力学計算をし、クレーンなど建設機械を使用する。しかし、わが国では、土木と建築それぞれに学問体系が発展し、行政管轄が並立してきた。大学の土木工学科と建築学科は構造工学をそれぞれ独自に教育している。役所や建設会社には土木部門と建築部門があってほぼ並立している。そのため、基準、技術慣習や用語が土木と建築とで異なることも多い。これは世界標準ではない。アメリカを中心として、土木と建築に共通する工学はほとんど Civil Engineering の範囲である。日本の建築構造技術者も世界の専門学会では civil engineer あるいは structural engineer となる。

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土木建築関係図

土木と建築の、そして Civil Engineering、Architecture との関係を私なりに解釈すると、右図のようになる。海外の Architecture は建築意匠(デザイン)が中心だが、日本の建築は、建築構造、建築設備の分野をも包含している。ちなみに、工学部にあっても建築工学科ではなく建築学科と称するのは、意匠の芸術的側面を主張しているからである。東京芸大では美術学部に建築科がある。

日本は地震国であり安全な建物をつくるには工学的要素の重要性が大きいことから、「建築」でも独自に構造分野を発展させたこと、また行政管轄・規制が縦割りになったことが、土木と建築の並立につながったわけだが、土木と建築は特に構造分野で共通することが多い。横断的学会など技術交流の場はあるものの、自分のことに忙しく相手側の良さを知らない技術者がほとんどで、残念なことである。限られた資源の有効活用がより重要になる将来に向け、土木と建築の共通部分で組織や人の交流が進み、技術が高度化していくことを望みたい。そもそも古典の「築土構木」は土木も建築も含んだ記述といえ、ならば土木に建築がふくまれても言葉としてはおかしくはない、などと考えている。エンドマーク

みやもとこうじ ディレクトフォース会員(1053) 元東京電力

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