2016/05/01(No220)
石古 茂
ラオスについてはあまりご存じない方もいらっしゃるのではないかと思います。正式名はラオス人民民主共和国で1975年に独立し、政治は社会主義体制です。人口は650万人、国土は周りをタイ、カンボジア、ベトナム、中国、ミャンマーに囲まれた海のない国です。メコン川に恵まれ、自然豊かな美しい国です。一人当たりの賃金はタイの1/2程度で、国民は手先がとても器用で、穏やかで勤勉です。インフラ整備は現在徐々に進んでいる状況です。公用語はラオ語という言語で、タイ語に近い言葉です。例えば、「ありがとう」は、タイ語では「コップンカップ(男性)」でラオ語は「コップチャイ」、「こんにちは」は、タイ語の「サワディカップ」に対して、ラオ語は「サバイディ」です。
ラオスと周辺国 |
2011年当時、アデランスはタイに2生産工場、フィリピンに1生産工場を持っていました(現在はタイ2工場、フィリピン2工場、ラオス2工場の計6工場)。しかしながら、2011年のタイの大洪水によって、タイ・アユタヤ工場は工場の天井まで届くほどの水害を受け、製品も機械類も全損となるほどの大きな被害を受けました。またその当時、タイのインラック政権下で最低賃金が一律300バーツに全国的に引き上げられ、それにより製造コストも高くなり、全体の工場運営に大きな支障が出ることになりました。
他方、日本での売上は右肩上がりに順調に成長し始め、工場での生産は追いつかず、製品不足が緊急の課題となっていました。そういう状況下で新しい工場を模索することとなり、白羽の矢を当てたのがラオスでした。なぜラオスにしたのか?その理由はいくつかあります。1. 手先の器用さ(植毛作業が重要な工程となるので最も重要な要素)、2. 勤勉性、3. 賃金のメリット、4. ラオ語がタイ語に近い(タイ工場からのタイ人技術指導者とのコミュニケーションがとりやすい)等々です。当社は、幸いにも現地の有力者の協力を得ることができ、その方を通じて政府の重要人物への人的ネットワークを順次広げていくことができました。
ビエンチャン国際空港 | メコン川の夕焼け |
フランスの名残の凱旋門 | 古い寺院 | たくさんの仏像 |
海外での生産をするにはいくつかの方法がありますが、最初からいきなり直接投資をするのはさすがにリスクがありますので、2012年に首都ヴィエンチャンに生産委託工場を作り、当社が原材料の供給、工場設備の設置、製造機器の提供、技術指導・訓練、従業員の雇用等々、100%丸抱えでスタートさせました。当初は、山岳地帯からの従業員が多く、長期に働くという習慣がなかったことやホームシックなどの理由で離職率が非常に高く、入ってきては辞め、入ってきては辞めの連続でした。しかしながら、1年近く経つと、就業体制が整い、従業員へのトレーニングも軌道に乗り始め、従業員の定着率も次第に高まり、生産性も目に見えて上がってくるようになりました。ラオス人の持ち前の器用さが発揮できるようになると中には他の生産工場よりも抜群に高い植毛生産をする社員が何人も出てくるようになりました。特に優秀な社員には定期的な表彰、インセンティブ、日本への招待等々、他の社員の模範となるよう様々なプランを用意しました。
委託生産工場が軌道に乗り始めたことを受けて、さらにラオスでの事業を展開するために、2014年に現地法人を作りました。首都ヴィエンチャンから約200Km南のサワンナケートに直接投資をし、工場を建設することを計画しました。この地は大河メコンの東岸に位置し、対岸はタイです。この地を東はベトナムのダナンから西はミャンマーのヤンゴンまで至る東西回廊という国際産業道路が走ることが計画され、その一部はすでに開通しています。また我々が特に注目したメリットは、この地区は経済特区になっており、事業開始後利益がでてから10年間法人税が免除されるということでした。
工場建設前 |
この新工場の建設に当たっては当初想定しなかった様々な困難があり、工事着工までに予定から半年以上遅れました。その間、政府関係者と何度も精力的に交渉した結果、最終的にこの経済特区ゾーンDで土地の長期賃借契約を得、工場を建設することの許可を得ました。
ラオス・サワンナケート空港 | ラオス新工場 | 明るい笑顔の社員とパーティ |
完成したのは2015年7月24日で、当日は、お天気にも恵まれ、ラオス政府要人や駐ラオス大使等を招き盛大なオープニングの式典を行いました。敷地面積8,600坪、建屋2,100坪で、将来的にはヴィエンチャン工場と合わせて2,000から3,000人規模の生産工場になることが期待されています。この規模では日本からの投資としては最大規模で、雇用創出効果も期待できますので、ラオス政府も積極的に支援してくれています。
ラオスは将来のアセアンの中で今後の成長期待のできる国です。ビジネスだけではなく、観光も期待ができ、特に一時フランスの統治下にあったことによりヨーロッパの面影がどことなく残っており、実際、ヨーロッパからの旅行者もよく見かけます。残念ながら、今まで私は何度もラオスに行っていますが、いつもビジネスだけで、観光は一度もありません。一度はゆっくりとラオスの自然を満喫してみたいと思っています。
ディレクトフォースの皆様も、もし機会があれば一度ラオスを訪れてみられてはいかがでしょうか?
いしこ しげる ディレクトフォース会員(1111)現・㈱アデランス