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一般社団法人 ディレクトフォース

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 2016/02/01(No214)

アフリカでのうま味調味料普及活動

三宅 浩之

うま味の発見とうま味調味料:

筆者1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士により昆布の抽出物から発見されたグルタミン酸は、翌1909年にうま味調味料「味の素」として発売され、国内はもとより世界へと広まりました。今日、年間300万トン以上のうま味調味料が世界で使用されていますが、発売から106年を経た現在でも年率2−3%の成長を続けていることは、世界で広く受けいれられ各地の食文化を支えていることの証と、深い感慨を覚えるものです。

現在では、味の素(株)以外に中国、韓国のメーカーも参入し凌ぎを削るうま味調味料市場ですが、リーディングカンパニーとして、品質、技術開発、サービス等の向上は勿論、安全性の懸念や様々な規制に対し科学的エビデンスに基づく情報発信を続けており、消費者が安心して使えるよう普及活動を継続しています。

発売から90年以上を経て、舌や胃の内壁にあるグルタミン酸の受容体が発見されましたが、これからも科学技術の発展により、味覚やフレーバーの代謝プロセスの探求が進むことでしょう。日本発のうま味調味料が、これからも広く世界に普及することを願うものです。

味の素(株)の海外展開とアフリカ進出:

味の素(株)は1909年の会社設立後1917年にニューヨーク事務所を開き、それに続き中国、東南アジアへ進出、戦後は欧州、アジア、中南米へとグローバルな展開を進めました。

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ナイジェリアと周辺国

アフリカへの進出は1980年初頭の製品輸出により始まりましたが、1985年の西アフリカ事務所設立(トーゴ国、ロメ市)により本格化しました。経営陣による「アフリカは今後の重要市場と位置付ける」の決意表明は、その後の市場開拓の大きな弾みとなりました。

アフリカは、現在人口12億人を数え2050年には25億人に達すると言われていますが、一括りに語ることはできず、政治、経済、歴史、民俗、宗教等が複雑に交錯する54の国々の集まりです。従って国ごとに異なる個性を持つため、進出に当たっては、焦点を絞った具体的な計画が求められます。

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ナイジェリア料理(左からシチュー、ジョロライス、オクラスープ)
ケニア料理 ケニアの道路脇レストラン カメルーン料理
木の実を発酵させた調味料(左からダワダワ、オギリ、イル)

味の素(株)が西アフリカ市場に着目したのは人口や経済成長率の高さ故ですが、それに加えてうま味に親和性の高い食生活がありました。人々は伝統的に木の実を発酵させたうま味の豊富な調味料を使用しており、うま味に対する感度は鋭く、受容性も高いものでした。

私の経験でも「米食、干し魚のだし、煮込み料理」の3要素が揃うと、うま味調味料は食生活によく馴染み、人々に喜んで受け入れられます。特に、干し魚だしはうま味のもう一つの重要成分であるイノシン酸を豊富に含み、グルタミン酸と一緒に食すことで「うま味の相乗効果」が生まれます。その結果、人々は強いうま味を嗜好するようになるのが一般的です。西アフリカにはこれらの特徴が共通に見てとれ、いずれの国でも伝統的にうま味の豊富な食生活が営まれてきました。

しかし、近年の人口増加、都市化の進行、サハラ・サヘル(サハラ砂漠及び南縁部の半乾燥地域)の乾燥、木々の伐採などにより木の実の供給力が追い付かず、伝統的調味料が不足する傾向にあるため、それを補完しながら「味の素」の普及も進んでいると言えます。

ナイジェリア進出:

西アフリカでどこから市場開拓に着手するかは、1980年代初めからの現地調査を通じてナイジェリアと決定されました。1億人を超える人口と、原油生産による経済成長率の高さから、将来性を判断したものです。しかし、当時の政治・経済情勢は不安定で法整備は不十分、しかも安全面でのリスクの高さゆえに、一足飛びの現地進出ではなく、まずトーゴ国のロメ市に拠点を構え、ロメ港から陸路でナイジェリアに製品を運び込むことにしました。ロメ市からブルキナファソ、ニジェールの両国を通過し、ナイジェリア北西部の都市、ソコト市、カノ市に続く1500kmを超える輸送から始めたのです。そこには、うま味調味料を中華料理店で使用する華僑の協力もあり、「味の素」普及の心強いパートナーとなりました。

ナイジェリアの法整備が進み、外国資本100%の進出が可能となり、外貨規制の緩和も実施された1991年、いよいよラゴス市に「西アフリカシーズニングス社」を設立し、直販体制の構築を進めながら事業の育成が図られました。

それから25年が経過しましたが、今では包装工場や全国35か所に支店を持ち、従業員は1,000名を超える企業に成長しました。日本人駐在員6名も現地に溶け込み、マーケット回訪や工場支援に、文字通り地に足の着いた活動を続けています。利益が出るようになるには20年もかかりましたが、どんな事業であれアフリカに根を張るには不屈の闘志と忍耐が必要です。

勿論、進出の意思決定には、様々な経済指標、投資や外貨取扱に対する恩典や規制、地域経済同盟やそれに連動した関税制度など、重要なファクターがいくつもあります。特に、人口が3億3000万人に上る西アフリカ15ヶ国では、経済共同体 ECOWAS やフランス語圏8ヶ国が参加する UEMOA、更に法体制のハーモナイゼーションを進める OHADA などの同盟が重要で、将来の発展の鍵となるでしょう。

ナイジェリアでの活動:

現在ナイジェリアでは、南米や欧州で生産されたうま味調味料をバルクで輸入し、ラゴスの工場で小袋に包装、それを各支店の営業担当者が小売店、卸店に直接販売する方式をとっています。営業担当者は店舗を訪問し商品を陳列、商品のほこりを拭き、ポスターを張り、そして代金を回収します。この CASH ON DELIVERY を基本とした販売制度は、1960年代にアジア諸国で改善が加えられ、アフリカにも導入されたものです。従業員にも分かりやすく、管理し易い制度と言えます。

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魚屋さんに商品説明し取り扱いを依頼
(ケニア)
競合メーカーに負けずと販売
(ナイジェリア)
陳列器具を付けて商品を販売
(ナイジェリア)
価格交渉、厳しい !!
(ナイジェリア)
販売代金の回収
(カメルーン)
満足のいく結果!
(ケニア)

1袋10g入りの小袋は10ナイラ(6円)で販売されますが、これは消費者の買いやすい「ワンコイン」価格で販売するという鉄則に沿うものです。また安定した品質や最寄りのマーケットで購入できることも、市場への浸透が進んだ大きな理由です。国民一人が毎月1袋を購入する小さなビジネスも、1年間では大きく安定した事業規模に積み上がります。
今迄はうま味調味料に集中し、市場の拡大とブランドの育成を図りましたが、漸く事業基盤も

固まり次のステージに進む時期になりました。現地の食生活に適した製品開発と現地生産により、風味調味料の一層の普及、そしてインスタントラーメンの発売が期待されています。

安全第一:

ことほど左様にアフリカ事業には開拓者魂と忍耐が欠かせませんが、それに加えて心しなくてはいけないのは、テロも想定した安全対策です。現地メンバーの安全は勿論ですが、特に日本人駐在員の安全確保には準備が必要です。高い塀と武装警察官に守られた住居、通勤や移動の際の安全確保を目的とした武装警察官の採用、大使館やリスク管理会社との連携や情報交換、さらには誘拐を想定した模擬訓練などは必須です。また、健康面では駐在員の国外搬送を含めた準備が必要となります。マラリアに加え、昨年流行したエボラ出血熱は大きな脅威です。しかし、どのような場合でも、安全確保やリスクの極小化には、現地判断の尊重と最悪事態を想定した早めの対応が重要です。

現地メンバーの成長:

25年に亘る様々な経験と試行錯誤を通じ、現地メンバーも逞しく成長し、現在では日常のオペレーションはナイジェリア人を中心に進めています。また、アフリカ諸国での事業展開にはナイジェリア人を責任者として派遣しており、カメルーンやケニアでは既にその体制を敷いています。これはメンバーにも大きなモチベーションになるばかりでなく、経営層の育成にはまたとない機会です。アフリカ事業においては、現地メンバーの育成と経営の現地化は、特に重要なテーマです。

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イスラム教最高指導者への謁見
(ナイジェリア)
カノの首長への謁見
(ナイジェリア)

明るいアフリカ市場の将来:

今年はケニアでTICADが開催されますが、日本政府、日本企業のアフリカに対する関心が急速に高まりつつあります。日本からは遠いアフリカですが、アフリカ諸国は日本に大変友好的で、日本企業の進出に大きな期待を寄せています。総じて経済成長の著しい市場ですから、中国、韓国企業や欧米企業に負けずに、日本企業の皆様がアフリカの大地に足を運ばれるよう願わずにはいられません。

味の素(株)のアフリカ各社は、1969年に日本のCMソングとして使用された「MY FAMILY AJINOMOTO」を社歌としています。アンディーウィリアムスにより歌われたこの曲は、各国語に翻訳され、毎朝の朝礼で唄われます。

いつでも どこでも
忘れない あの頃
明日も変わらない
マイファミリー味の素

アンディーウィリアムスのオリジナルソングはこちら

日本から13,000km離れた地球の裏側で、現地社員と日本人駐在員が共に歌う姿は、強い一体感の醸成を通じアフリカでの事業が将来に亘り成長することを確信させるものです。エンドマーク

みやけ ひろゆき ディレクトフォース会員(1107)現 日本うま味調味料協会 元 味の素欧州社

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