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一般社団法人 ディレクトフォース

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2015/12/15(No211)

八ケ岳山麓にて「蕎麦栽培」にチャレンジ

市古 紘一

筆者

蕎麦打ちを始めて10年が過ぎたが、自ら作った蕎麦粉で蕎麦を打ってみたくなり、蕎麦の師匠でもある蕎麦屋「玄庵」の社長に相談してみた。「大変な作業だけれども面白いよ」と後押ししてくれ、一冊の古い「蕎麦栽培マニュアル」を貸してくださった。このマニュアルが、全く経験の無い者にとって大変役に立ったのである。

蕎麦は丈夫な穀物で不毛な土地でも育つが、昼夜の寒暖差が激しく、朝霧がでるような海抜の高い土地が適しているという。そのころ高校のクラスメートで小淵沢に別荘を持つA君から、近くの畑を借りられるという情報が入った。話はトントン拍子に進み、「蕎麦栽培プロジェクト」に関心を持つ、9名の高校時代の友人が集まった。

4月中旬、北には八ヶ岳連峰、南には南アルプスを望む、丘陵にある畑に立った。約150坪(0.5反)の畑の脇には用水が勢いよく流れ、申し分のない畑であった。しかしここ2〜3年使用していなかったようで、小石交じりの堅い土で使用するには何回か耕耘(耕す)が必要であり、最初から厳しい作業の連続であった。家庭菜園程度の経験しかない者が、家庭菜園用の農機具で耕耘し、そして周囲の雑草を除去する作業には、予想以上に苦戦した。しかしその後A君の努力により徐々に農機具も揃い、2か月後には立派な畑に変身していった。

今回プロジェクトのスタートに当り、①極力手作業で完結すること。②極力他人の手は借りずに9人でやり通すことの、2つの方針を掲げた。近年蕎麦栽培も米と同様大規模化され、播播(種まき)、刈取り、乾燥、脱穀、製粉等一連の作業は機械化されているが、手作りの美味しい蕎麦を作ろうということを第1の目標とした。

(以下画像クリック⇒拡大)
八ケ岳連峰 全員集合(播種日) 新芽成長(播種後20日) 蕎麦の花(播種後35日)
南アルプス 刈取り・天日干し
(播種後72日)
脱穀(播種83日) 手挽き石臼

「播種」の時期を8月上旬と定めた。一般的にはバラ播きで行うため、畝作りは不要であるが、我々は雑草がびっしりと茂っている畑を再度丁寧に耕耘し、24本の畝を作り上げた。灼熱の太陽のもと、70歳超えの高齢者が日射病にもならずよく頑張ったと思う。

8月2日小淵沢は快晴、八ケ岳が美しい姿をみせている。9名全員が集合し、いよいよ「播種」の日がきた。蕎麦の種子は日本全国種々あるが、地元産の「信濃1号」を使った。各自
2〜3畝を担当し、手のひらに数粒をつかみ畝にすじ播きをしていった。全員の熱意のある働きにより、陽が傾くころには全ての種子を播くことができた。近くの温泉で汗を流したあと、恒例の食堂「さん味」にて全員で祝杯、窓にはピンク色に染まった甲斐駒ヶ岳の雄姿が美しかった。この食堂は畑の一角にあり、近くの農家の人々が作業を終えたあと集まってくる。初めは都会から来た人が何を始めたかと好奇心を持ってみていたのではと思うが、親しくなるにつれ輪が広がり、貴重な話を聞くことができるようになった。何よりこの時間が我々の楽しみでもあった。

播種から1か月後の9月6日、畑は真っ白な蕎麦の花で覆われた。幡種後好天続きで受粉も順調に行われたのであろう。蕎麦の成長は早く、1か月で1m位に成長している。

そしてさらに1か月後の10月11日待望の「刈取り」を行った。早すぎると実の成長が不十分であるし、遅いと水分の無いカラカラの実となってしまう。播種後75日、黒化率70%が目途と言われているが、普段畑を見ることができない我々にとっては、刈取りのタイミングはかなりの難問であった。ほぼ全員が集合し、手に鎌をもって畝に沿い蕎麦を刈取っていった。根は浅くまた茎も細い蕎麦は、風に弱く暴風が吹くとすぐに倒れてしまう。倒れると蕎麦の実は成長せず、収穫量も激減するが、今回は天候に恵まれほとんど倒れずに収穫することができた。収穫した蕎麦は天日干しをする。ハサ掛けと言い、高さ80cmくらいの竿に立て掛けて、約2週間乾燥する。今はほとんど乾燥室で乾燥しており、天日干しはあまり見られなくなったが、天日干しの蕎麦の味は格別だそうだ。

刈取り後晴天が続いた10月23日、畑作業の最後となる「脱穀」を行った。晴天が続き、天日干しにより適度に黒化した実は脱穀のタイミングである。こん棒でたたいて脱穀することもできるが、この作業は足踏みの「脱穀機」を借りた。脱穀した蕎麦の実「玄蕎麦」には、茎やごみなどが沢山付いている。これを「唐箕」という手動式扇風機のようなもので吹き飛ばす。この作業を経て、20Kg強の「玄蕎麦*」を収穫することができ、無事に畑での全作業を終えることができた。

11月12日、お世話になった小淵沢駅前の「ピュア―ファーム・カフェ」にメンバーが集合し、「収穫祭」を行った。6か月の間大変お世話になった農家の方、そして食堂「さん味」、宿舎「高原旅館」のご夫妻も招いて、我々の努力の結晶である蕎麦を食べていただいた。取りたて、挽きたて,打ちたての蕎麦は大好評で、「よくやった」と、身に余るお褒めの言葉をいただいた。我々メンバーも真夏の作業を思い出しながら酒を飲み、蕎麦を食べ、至福の時を過ごした。

今回150坪の畑で、20kg強の玄蕎麦を収穫できたことは、1回目として大成功と思っている。これも天候に恵まれたこと、サポートしてくれた方の存在、そして何より9人の 熱意のお蔭であると思う。帰途小淵沢駅に立った時、「為せば成る」を改めて実感した。マーク

いちここういち ディレクトフォース会員(会員No.338)
元朝日生命 朝日生命カードサービス

*玄蕎麦はそのまま蕎麦粉にはできず、さらにゴミを取り、磨きをかけてから製粉することができる。製粉は手挽き石臼で挽くか、製粉機にかける方法がある。手挽きは時間がかかるものの、蕎麦の味は格別である。