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一般社団法人 ディレクトフォース

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2015/06/01(No198)

皇居勤労奉仕の4日間

篠原 寿一

筆者

今年も3月31日から4日間皇居勤労奉仕団に参加した。昨年もそうだったが今年も桜の満開の時機であり、皇居の花見を存分に楽しむことができた。昨年は皇居乾通りが一般に解放され、満員電車並みにごった返していたのをテレビで見たが、実は、昨年もこの一般開放の数日前まで勤労奉仕団の一員として、ほとんど人のいない乾通りを貸切り状態で、清掃道具を満載にしたベンツを囲んで花見をしながら歩いていた。ちなみにベンツとはリヤカーのことで、宮内庁の植木職人はこう呼んでいる。

勤労奉仕というといかにもキツイ労働を思い浮べるが、実は大変楽しい。毎日勤労時間の半分以上は皇居内のツアーにあてられる。ツアーといってもそう簡単に入れない場所を案内人さん付でツアーする。案内人は、われわれに作業を指示する植木職人で、流石宮内庁採用の職員と思わせるほどに鷹揚である。

ベンツと呼ばれるリヤカー(ネットより)

主な見学場所は、玉砂利が敷き詰められた宮殿の中庭、そのまわりを囲むようにつくられた日本庭園の植え込み、宮殿で行われる各種行事に使われる盆栽の管理棟。ここには樹齢400年、500年という、徳川家光が愛した盆栽などもあって、盆栽や名木が所狭しと何百鉢も並んでいて壮観だ。

また、天皇陛下お手植えの田植えをされる田圃も毎回見学する。その横には苗を育てる苗床もある。その隣には皇后陛下ご自身が育てる蚕の桑畑も広がっている。昨年の勤労奉仕では、田植えの様子の詳しい説明を聞いたあと、陛下が直接籾を撒かれる苗床の整地と区画割りの綱張作業もした。綱張といっても適当にロープを張るのではなく、長方形の苗床の角は正確に90度になるように各辺が3メートル、4メートル、5メートルにロープの長さを調整して、角度と方向を決めるような頭脳的(?)な作業も織り込まれている。

中でも圧巻は宮中三殿の見学である。宮中三殿とは皇祖神天照大神を祀る賢所、歴代の天皇、皇族の霊を祀る皇霊殿、八百万神を祀る神殿のことであるが、宮中祭礼はここで天皇陛下がなされる。周囲は塀で囲まれていて中の様子を知ることは出来ないが、その門のまえにたたずむだけで身が引き締まる思いがする。勤労奉仕団に加わらない限りこのような場所に近づけることは決してない。

このような場所をツーリングしながら、その合間に清掃をする。不思議なもので、このような場所を見学しているうちに次第に気分が高まってきて、一同は早く作業がしたくてたまらない気持になる。たとえば、宮殿で説明を一通り聞いたあとは、日本庭園の芝生の草取りをする。二重橋から宮殿に至る道路、あるいは宮殿前の広場や生垣、地下駐車場に至る通路の吹き溜まりの落ち葉の掃き出し掃除などをする。

皆作業がしたくてうずうずしている人達なので清掃する場所が決まるとベンツに駆け寄り、箒や熊手、鎌などを取りだして、小一時間もすると見違えるようにきれいにする。ただ単に掃き掃除をするだけではなく、中には雨水の通る水路の蓋を取り外して、中にたまった落ち葉を掻き出す人も居る。普段家では清掃などしたこともないような人達も、ここでは嬉々として作業にいそしむから不思議である。

勤労奉仕のクライマックスは天皇・皇后両陛下から御会釈を賜ることである。4日間の作業の合間に両陛下の御予定に合せて奉仕団一同は御会釈を賜る建物に集まり、中央を空けて、三方の壁を背にして壁の周りに4列から5列で並ぶ。各グループの代表は一人、グループ集団の一歩前に出てお待ちする。定刻になると両陛下のお乗りになった車が正面入口に到着し、お二人はゆっくりとした足取りで中央の空間を横切り、第1グループの代表の前にお立ちになる。

すると代表は、グループの名前、グループの構成などを手短に話し、「総勢何名で参りました」と報告する。すると天皇陛下は「ご苦労様。ところで皆さんは普段どんな活動をされているのですか」というようなご下問がある。地方から来ているグル-プには「この前の地震では大丈夫でしたか」などのご下問もある。代表者と両陛下の会話は時にはほほえましく、笑いにあふれ、周囲がそれにつられてどっと沸くこともある。

グループは、およそ5つから6つあり、総勢は200人前後か。すべてのグループとの挨拶が終わると両陛下は中央空間の正面窓側に立たれ、その前に代表者が一列に並ぶ。その中の代表者が「天皇陛下、皇后陛下、万歳」と発声し、それに合せてわれわれが万歳を三唱し、その後両陛下は退出される。帰りのお車からは窓を開けて両陛下が手を振り、われわれも手を振ってお見送りする。

この間の約30分は、皇室とわれわれの強い結びつきを実感し、また、緊張した後の解放感は実にさわやかで心地よい。そして、つくづくこの国生まれて良かったという思いを実感する。周囲の人達も皆同じ感想を言う。

こうして和気藹々の4日間はアッと過ぎる。作業は1日多くて3時間程度。あとは皇居内ツアーに明け暮れる。ただ、毎日朝8時に桔梗門前に集合して整列し、持参する身分証明書を使っての皇宮警察官の本人確認がある。これがキツイといえばキツイ。退出は午後4時前後。雨の日は作業中止になる。

申込みは作業希望日の半年前であり、桜が満開のこの季節は希望団体が多いらしいが、幸運にもわれわれのグループは2年連続してこの時期に参加することができた。多くの皆さんにも是非この幸せ感を味わってもらいたい。ただし、参加できるのは75歳未満に限られるのでお早めにどうぞ、と申し上げたい。マーク

しのはら としいち ディレクトフォース会員(053)
元日本アイ・ビー・エム

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