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2014/04/01(No170)

NY時代、フィルムの巨人コダック凋落の始まりを経験

今井 祐

筆者1985年9月22日のプラザ合意により、1ドル235円していた為替レートは、その後1年で150円の円高へと進む。その1週間前にNYへ赴任した私は、少なからず財産を喪失した。いまでも、プラザホテルの前を通ると恨めしく思う。爾来、宿敵コダックからアマチュア製品のシェアアップに尽力し、1992年に帰国を命じられる頃には、米国カラーフィルム市場で20%台から33%までシェアを奪取し、快進撃を続けていた。当時の会長から帰国命令を受けた時、「もうちょっと待って下さい、米国でマジョリテイのシェアを取りますから」と述べたら、「今井君、敵はコダックではないかもしれないよ」「これからは、日本のデジタル一眼カメラメーカーが敵となるであろう」といわれた。1992~1993頃、日本における写真感光材料市場の総需はピーク(フォトマーケット誌)を打っていた。

一方、コダックの方は、1993年に、日米構造協議(通信分野)で名を成したジョージ・フィッシャー( George Fisher )をモートローラからCEOとして招聘、7年間在籍した。彼が最初に行ったことは、1988年に約5,000億円で買収した Stering Drug 社なる医薬品会社を、1994年、製品分野別にばらばらにして、バイエル等に売却した。その理由が「写真事業への選択と集中を進めるため」であった。当時、未だ、かなりキャッシュ・カウであったとはいえ、写真事業の先行きは誰の眼にも衰退の一途に見えた。

再建中のコダック社

当時、富士フイルムにはそれだけの資金はなく、医薬品会社を買収できなかった。その20年後の2008年にやっと富山化学を1300億円で買収することになる。

次に、フィッシャーがやったことは、1995年、米国USTRと共に米通商法301条を発動した。これは米国法の域外適用である。理由は「日本政府は、Fujifilm(FF)の組織的反競争行為を看過した」であった。通常、米国巨大メーカーと米国政府が一緒になって日本メーカーに圧力をかけると、大体、ギブアップするものであるが、これに対しFFは、敢然と立ち向かい、米国トップクラスの法律事務所と契約すると共に、訴状の根拠となった事実関係を詳細に調査した。その根拠事例はA業界誌の記事とB業界誌の記事をつなぎ合わせたもの、場合によっては3誌の混合であったりした。訴状の根拠となった事実関係が殆ど虚偽であることを立証し、その結果を「歴史の改ざん(600頁)」として世界に発表・配布した。1998年、FFは3年がかりでWTOにおいて勝訴した。

次に、フィッシャーがやったことは、1997〜1999年にかけて、複写機メーカーのキャノンやリコー等の日本企業の高品質・低価格攻勢に、音を上げ、1975年から22年間続けてきた、複写機事業の営業・サービス部門をダンカ社に、また、工場をハイデルベルグ社に売却した。問題は、これらの売却代金約6000億円を1995年頃から2000年の約6年間にわたって、自社株買いに使用し、株主を喜ばせたが、財務体質を著しく毀損・弱体化させた。これが債務超過の一因となった。

その後、アントニオ・ペレツ(Antonio Perez)をHPからCEOとして招聘、2003年から9年間在籍した。最初はよかったが、その後、赤字事業を始める共に、将来性のある既存2事業を売却し、2012年に終焉を迎えることとなる。ピーク時4兆円の株式時価総額を誇った、フィルムの巨人は自壊していった。

数年前に、サンディエゴでの日米財界人パーティに代理出席した私は、ランチョン・ミーティングに参加した。そこで偶然ジョージ・フィッシャーに会った。彼は、私を目ざとく見つけ、横の席に招いてくれた。かつて、猛烈に競い合った関係など全く忘れさせるぐらい、実に礼儀正しく、さわやかであった。彼は、KKRという世界No.2のPEファンド*のシニア・アドバイザーをやっており、2009~2011年にかけて、コダックの再建・支援にファンドを介して、努力したようであるが、時すでに遅く成功しなかったようである。マーク

いまい たすく ディレクトフォース会員(会員No.317)
元富士写真フィルム 元富士ゼロックス

編集註:*PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)⇒ 株式を公開・上場していない企業の株式に投資し、その企業の成長や再生の支援を行うことを通じて株式価値を高め、その後IPOや他社への売却を通じて利益を得る投資ファンドのこと。

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