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2018年3月31日 掲載 )

2017年11月 講演・交流会(174回)

テーマ:『日本一小さい野菜農家(命の時代に向けて)』

講 師:西田 栄喜 氏(菜園生活 風来代表)

西田 栄喜 氏

11月16日(木)学士会館にて、174回講演交流会が44名の参加者を得て15時から開催されました。

講演会は菜園生活 風来代表の西田栄喜氏に「日本一小さい野菜農家(命の時代に向けて)」というテーマでご講演頂きました。
今回は「食と農業研究会」との初の共同開催で、世話役の四方さんから講師の紹介がなされ、報道番組で放映された動画が流れた後、講演が始まりました。

また、出席した会員全員に今朝、採れた春菊とパセリのサンプルが配布されました。
講演内容は以下の通りです。

◇ ◇ ◇

Ⅰ.はじめに

講演会の様子私はもともとサービス業が好きで、大学を卒業後バーテンダーとなり、その後オーストラリアへ1年遊学後、ビジネスホテルチェーンの支配人になりました。

バーテンダー時代にサービス業の使命はお客様を幸せにするというサービス業の基本を学びましたが、ホテルの支配人時代は前年比アップ、経費節減等数字のノルマ達成に疲れ果て、逃げ帰る様に石川県の実家に戻りました。

そこで再起をかけてゼロから始めたのが農業でした。17年前は農業は平均年齢60才以上、年収200万円という業界で1戸当たりの農地面積は2.27ヘクタール程でした。

私が親から借りられる平地は30aしかなく、この為、発想を全く変えサービス業の視点で農業に取り組む事にしました。
そして心掛けたのが次の点です。

  • 農業の固定概念を捨てる
  • しっかり稼ぐ事を考える

Ⅱ.農業の固定概念を捨てる

今までの農業の常識は農業は儲からない、初期費用が掛かる、広い面積が必要、補助金無しでは出来ないというものでした。

風来は30a(サッカーコートの半分くらい)で普通の農家の1/10で初期投資は3万円の中古の農機具だけで始め、今まで借金をした事も補助金をもらった事もありません。

そんな小さな耕地で50種以上の野菜を育て2012年からは炭素循環農法(無肥料栽培)に切り替えてきました。

農業を始めるに当たり、規模拡大は全く考えませんでした。それはオーストラリアでの経験によるものです。どこのファームも見渡す限りの広大な農地で肥料のやり方もヘリコプターを使い、ㇵーべスター(収穫機)も巾20メートルという超大型機械が時間貸しで使えます。農地面積は日本の1308倍という事で正に桁違いです。

こういった農業を目のあたりにして、いかに効率よくしても価格競争ではかなわないと確信しました。

日本で農業をやるなら、大きさを求めず味や安全性等、別の価値を訴求し栽培、加工、販売を目の届く範囲でやり付加価値を出そうと考え取り組んできたのです。

Ⅲ.しっかり稼ぐ事を考える

小さな農業の可能性を教えてくれたのもオーストラリアの農家の方でした。その農家の方からある時「オーストラリアの農家は都市部へ出かけるのに3時間かかるので兼業農家は無理、兼業が出来る君たちがうらやましい」と言われました。確かに日本の農家は、農業をしながら農業以外の仕事もしやすい環境にあります。また、流通網が発達しクール便も充実しているので通販がしやすい環境が整っています。世界を見てもネットで生鮮品を販売できる国はそう多くありません。しかも農作物を世界のどこより高く買ってくれる国でもあります。

そんなメリットを最大限生かせるのが直販です。「風来」では母親から教わったキムチ向けの白菜を育て、キムチを作り販売する事からスタートしました。そして農産物(1次産業)を加工(2次産業)し直販(3次産業)して6次産業化する事により売り上げを拡大させることが出来たのです。

スモールメリット(私の造成語)を最大限生かしているのが風采の特徴です。

ネットワークで安く、こだわりの原材料を使う、個人のキャラクターを出していくこと等、他にはないオリジナル商品で小回りのきく経営ができるのです。

手取り収入の点で一般的な市場出荷型農家の場合、販売価格100円の野菜では農家に支払われるのが46円で、そのうち農業経費(原価)は約7割(32円)かかるので農家の純利益は14円となります。直販で流通経費をまるまる自分のものにしたら100円(販売価格)-32円(原価)=68円で市場に出すより5倍の利益が残ります。

また、個人の信用を高めようとして作ったのが個人ブランド「源さん」で、今では「源さん」なら、何も説明しなくても無添加で安全と思って頂いています。

風来では野菜セットの販売を基本としています。単品では100円程度のものをセット販売だと2000円〜3000円で売れます。そして地域の人と組んで、地域のものを組み合わせた鍋セット販売は想像以上の売り上げとなりました。

石川県は耕地面積が少なく下から5番目ですが、逆に宇宙人農家と言っていますが変わった農家が多く、自分でホームページを持って売っていく農家が多いです。その結果、最高表彰賞(天皇賞)を受賞したりもしています。

また、風来では「知恵の販売」にも力を入れています。農作物は有限ですが、知恵は無限です。

最近は知恵を教わりたいという人も増えており、風采で行なっている教室は何時も大盛況です。知恵を出すと先生と呼ばれプライドを持てるようになるし、後世に名を残せると思います。

現在、ネットを通じて世界中に個人でも情報を出せる時代になりました。そして農業とネットの相性は最高です。農業は正に自身が体験した1次情報の塊です。膨大な情報が溢れている時代だからこそ、地に足を付けたリアルな情報が求められています。インターネットを使って農家からどんどん情報を発信し、個人や人柄を出していく事が重要です。
65才からホームページを持つようになった人が発信し、皆が買いにくるようになる時代です。パソコンは既に農機具となったのです。

今後、農家である事が一番の付加価値となっていくと思います。農家を見る側の意識が変わりつつあります。受け側も畑を舞台に何をやってもよいとと考えていくと農業はたくましい生活力、生きていく力を持てるようになると思います。クラウドファンデイングを活用したところ30万円の目標に対し、70万円も集まりました。農業への思いが随分変わってきているのです。

Ⅳ 命の時代に向けて

〈宝石〉〈着物〉〈食べ物〉〈水〉〈空気〉

講演会の様子お金の価値で見ると左から右の順番になると思います。でも命にとって大事なものと見ると右から左に変わってきます。命と引き換えになった時は価値判断は安い高いではなくなってきます。食も質が問われる時代になっていくのです。そう考えると「命のもと」を育てている農業は究極のサービスと言えるでしょう

その事に気が付いてから事業が順調になっていきました。そして安全なものを作っていなかったと気付き2012年に有機農業から無肥料栽培に切り替えたのです。

これからは硝酸態窒素(安全な野菜の評価のひとつ)の高い・低いという事が重要な要素になると思います。また、かかりつけの農家というのも増えていくでしょう。

そして将来、振り返ると農業はTopランナーになっているのではないかと思います。

以上

 

  • 当日のアルバムはこちらからご覧いただけます

(大水一弥・記 三納吉二・写真・編集)