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( 2018年7月5日 掲載 )

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2018年6月 講演・交流会(178回)

テーマ:『不安定化する世界情勢をどうみるか〈欧州からの一考察〉』

講 師:熊谷 徹氏(在独ジャーナリスト)

 

伊藤 数子 氏2018年6月7日(木)15時から日本ビル10階 セミナー室にて57名の参加者を得て開催致しました。(初めて日本ビルで開催)熊谷氏の講演は今回で3回目となりました。

ドイツに住まれて28年目ということで、住まれていないと感じえない空気感も含めて欧州の政治的・経済的視点で、とても興味深いお話を聞けて有意義な時間を過ごせました。

また、熊谷氏は今秋に21冊目の本(「イスラエル」テクノロジー大国について 何故日本は遅れる‥‥ )を出版される予定だそうで、是非読んで頂きたいと思います。
講演内容は大要以下の通りです。

◇ ◇ ◇

第1部

大波乱!ドイツ連邦会選挙と新メルケル政権

※伝統政党の集落とメルケル時代の終わり

1.極右政党(ドイツの為の選択肢 AFD)の大躍進で、メルケル首相が予想外の苦戦 !!
   指導力低下(四選し最長不倒首相の横並びとなるが‥‥)

その要因は

  1. メルケル首相の後継者となる政治家の不在
  2. メルケル首相の政策(難民受け入れ)でのドイツ国民(旧東・西)の不満 による右派政党の中央議会での獲得席が94席に達した。左派連合が105席喪失
  3. メルケルが率いるCDU(キリスト教民主同盟)議席減と財務・内部大臣の重要ポストを失う。SPD(社会民主党)が財務・外務大臣の重要ポストを確保
  4. CDU内部でもメルケル首相に厳しい批判の声
  5. 政府121日間に及ぶ混迷が悪影響(第2次世界大戦後初の異常事態)

2.新政権の連邦渠底所に盛り込まれた啓作マニフェスト含めた重要項目

  1. メルケル後継者候補 CDUカレンバウアー氏を次期幹事長に推薦。
  2. 「欧州統合の深化」を重要視、「EU財政への貢献を増やす準備有」と明言
  3. 右派(AfDに表を投じた市民の信頼回復 ③欧州通貨基金(EMF)の創設しEU全体をカバーする銀行保険制度の創設

3.極右翼勢力が躍進したのか?(予想外の出来事、支持率が投票日3週間前から急激に伸びた)

  1. メルケル政権に対する不満が多い東部(旧東ドイツ地方)で圧倒的な強さ
    ※極右派政党(AfD)は旧西独地方ではネオナチに近い排他主義的政党とみられているが、旧東独地方では「ごく普通の政党」と見られている。
  2. 旧西独地方の保守派の牙城バイエルン州でも極右派政党(AFD)が大躍進
  3. AFD躍進の始まりは2015年のシリア難民受け入れである(2大要因の一つ)
  4. シュルツ旋風も線香花火に終わり、SPD(保守派)も弱体化 ⑤CDU・SPD(保守派)の両党首のテレビ討論がつまらなかった‥‥との回答が多く極右派政党(AFD)に票を投じた有権者が多かった(AFDは良い政党ではない認識がありながら)
  5. 旧東独は統一での貧乏くじを引かされた‥‥という被害者意識(2大要因の一つ)
  6. AfDは「ツェントルム」という右翼系の労働組織を設立し産業別労組IGメタルの切り崩しを図っている
  7. ダイムラーの企業別労組で13%の票を獲得(ダイムラーの「ツェンルム」代表はAfD組織と繋がりを持つ人物)
  8. IT戦略(インターネット、FBなどのSNSでの広報活動が効果を出した)

4.難民危機がドイツを変えた要因

  1. ベルリンのクリスマス市場でのテロ、ケルン駅前の集団性犯罪など難民によりテロによる市民の不安感
  2. 保守派の市民にとりメルケル首相の難民政策はあまりに左傾化して保守化への疎外感がAfDに鞍替えを生んだ
  3. ドイツの難民受け入れは断トツ世界一位(116万人、米国43万人、日本231人)*2015・2016年
  4. 難民に対しての社会保障が厚く(ドイツ国民と同じ)長期失業者の難民が5年間で6.56倍の約96万人に達した。
    政府の保証=失業者に家賃や保険の負担プラス毎月4万円の生活費の支給、さらに難民は公共交通機関の切符まで供与される。

    これがドイツ人の「妬み」を生んだ

  5. 外国人の失業率はドイツ人の失業率の3.8倍
  6. ドイツの社会保障制度による給付金で生活している市民は
    ・ドイツ人470万人(2012年)⇒390万人(2017年)
    ・外国人 120万人(2012年)⇒200万人(2017年)
  7. 業者、年金生活者、ホームレスなどの低所得者に対しての炊き出しをやっている慈善団体(ターフェル)に150万食を配っているが外国人の集団を恐れ、こなくなったお年寄りや女性が増えるなど問題等が発生この原因 外国人排除を打ち出したが批判を受け排除を撤回‥‥これもメルケル首相の難民政策の産物であると「ターフェル」は反論。

☆この「ターフェル」問題が難民危機以来、ドイツの空気をかえたことを示す。

5.東独と西独の間に残るこころの壁

  1. 東西格差‥‥失業率:旧東独=8.5% 旧西独=5.6% 背景には貧乏くじを引いたと感じた旧東独でAfDを選んだ人々は社会の隅に押しやられた
  2. 統一により東独の旧国営企業の閉鎖で多数の失業者だ出ただけでなく、繰り上げ退職により年金支給額が大幅に減った(貧乏くじ)
  3. 社会主義時代の東独では西独ほどナチス時代の過去との対決が真剣におこなわれなかった
  4. 旧東独の人口に外国人の占める比率は2%定で旧西独に比べ少ない。
  5. 西側の価値観(社会主義時代の物は全て西側に劣り、悪かった‥‥という感覚)が旧東独市民に強い不満を抱かせた。
  6. 旧東独市民は旧西独側の我々の見方が全員ネオナチと見ているという不満
  7. 右派VS左派(20世紀)の対立ではなく、グローバル派と国内派(21世紀)の対立と変貌した。

◇ ◇ ◇

第2部

右派ポピュリズムの拡大は止まらない !!

1.イタリア総選挙では左派・右派ポピュリスト政党が躍進

2018年3月の総選挙=左派ポピュリスト政党・5つ星運動と中道右派連合が得票を伸ばす。

  1. 政権党(与党)だった中道左派連合が惨敗。
  2. 但し右派両党も単独では議席の過半数は確保できず、政権が誕生するまでには
    相当の時間が係る懸念⇒株価指数2%下落、10年物のイタリア国債の利回りh2.6%上昇
  3. 有権者の約7割が左派および右派のポピュリスト政党に投票

この政党は全てEUの移民政策や緊縮策に反対つまりイタリア国民の大半は欧州統合の深化に「NO」の姿勢を示した。
※但しEUやユーロ圏からの脱退は求めていない

☆イタリアは借金大国(欧州の病人)=ギリシャに次いで公的債務比率が高い(ドイツ68.1%)為、国債の放出で利回りが低下。

ユーロ圏からの脱退を餌に借金の棒引きを要請 !!

経済成長率も0.9%とギリシャの次に悪い。

2.オーストリアの議会選挙でも右派が躍進(7%)左派政党減少

  保守党に近い政策に失望が原因

◇ ◇ ◇

第3部

中国マネーがEUを分断する

1.中東欧と西欧の間に走る溝

  • 三権分立や言論の自由を尊重する国(西欧)=ドイツ、フランス、イタリア、英国
  • 反して三権分立や言論の自由を尊重しない国(中東欧)=ハンガリー、ポーランド、チェコ

2.ドイツ政府が中国に対して警戒感を露わに !!

  1. 中国の一帯一路はEUを分裂する危険がある」とドイツ外務大臣 ジグマー・ガブリエルが演説
  2. 一部の中欧、東欧諸国が中国に急接近している為

3.中国の一帯一路プロジェクトとは?

  1. アジアと欧州間の国々で道路や港湾、鉄道などのインフラ整備をするプロジェクト
  2. アジア・インフラ投資銀行が融資、アジアと欧州間70か国でインフラ整備をし、貿易を促進する目的。
  3. 総工費は4兆ドル(440兆円)に達すると推定(90%は中国企業に発注)
  4. ドイツ最大の電子・電気メーカー ジーメンスのCEOが世界フォーラムにて、中国の一帯一路はWTOに代わって世界経済秩序の大きな枠組みになると発言
  5. 2017年11月 中東欧16か国と中国李克強首相と16プラスサミットを開催
    そのうち11か国がEU加盟国
    ハンガリーオルバン首相が発言「EUの時代は終わった」と、中国を絶賛 !!(中国の資金とテクノロジーが必要)
    西欧諸国にはもはや資金がない‥‥
  6. 中国がハンガリーにシンクタンクを設置(中国・中東欧研究所)

4.EUの亀裂を露呈した、東アジアの領有権紛争

  1. フィリピンでの南シナ海 南沙諸島の領有権を中国が主張していることを不当とし提訴した。裁判所は領有権侵害に当たると判決
  2. しかしながら独仏の大半は中国を批判する判決支持もEUは上記理由もあり中々見解をまとめることが出来なかった
    ギリシャとハンガリーは判決を支持しなかったから(EUは加盟国全部の賛成が必要)
    ※ギリシャは投資家である中国を怒らせたくなかった(借金国であるギリシャにとって中国の投資は何より重要
    EUに3234億ユーロ(42兆円)もの融資を受けてきたにも関わらずEUと足並みを揃えなかった
  3. ハンガリーもインフラ投資に期待の為EU決定を拒否

5.中国マネーがEUの結束に亀裂を入れている

  1. 中国は東欧諸国を資金援助することにより間接的に欧州政治への影響力を手にする危険があると欧州議会で議員も発言
  2. ドイツのメカトール中国研究所も
    「中国は欧州で政治的影響力を増やすための努力を急激に強めている。これはリベラルな民主主義と欧州の価値観、検疫に対する重大な挑戦だ」と結論付けた

6.習近平国家主席の「人類命運共同体」という言葉の意味

  1. 一帯一路プロジェクトはこの習近平思想実現の為の道と定義
  2. 中国主導の新しい共同体を作ろうと提唱している(毛沢東思想に代わる概念)
  3. 国連で習近平が打ち出したこの言葉を引用したことで部分的に成功しつつある
  4. 米国の影響力低下の流れを中国が世界のリーダーになろうとする野心の表れ

◇ ◇ ◇

第4部

中東の混沌に出口は見えない

1.シリア危機=「小さな第3次世界大戦」

  1. 代理戦争、化学兵器使用「仁義なき戦い」
  2. 少なくとも10万人が死亡
  3. 人口の半分(1,100万人)が国内外で難民化(380万人外国に避難)
  4. 7年間経過も終息の見通しなし

2.米国のシリアへのミサイル攻撃だけでは内戦は終わらない

  1. 空爆の理由は化学兵器使用によるこどもを含む訳50人の死亡、500人の重軽傷を負ったこと
  2. 誰が犯人かは確認されていないが2013年にも毒ガスで100人の市民が殺された
  3. 国連安保リの承認なしの軍事攻撃は増加

3.シリアを舞台としたイスラエルとイランの全面衝突の危険性も‥‥

  1. イスラエルがイランの軍事施設を直接攻撃(初めて)
  2. イランはイスラエルを最大の敵と一つと見ている
  3. 今年2月にイスラエル空軍機がイランの微塵偵察機を追撃の事実
    イランがドローンでイスラエルの領空を偵察したから‥‥
  4. ロシアのプーチン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相にシリア情勢をこれ以上不安定にする動きは避けてほしいと提言も反論
  5. イスラエルではトランプ大統領が大人気(エルサレムの件、イランへの核問題)

◇ ◇ ◇

第5部

ロシアと欧米の対立激化

1.欧州の新たな東西冷戦の時代突入

  1. ロシアの元2重スパイと娘が旧ソ連開発の神経ガスのために意識不明事件(第※二次世界大戦後NATO領域での化学兵器使用は初めて
  2. EUと米国はロシアがソルスベリー事件(上記)の調査にきょうりょくしないことへの報復として、100人を超えるロシア外交官を強制退去、ロシア側も米・西欧外交官を強制退去
    米国とEUの対ロシア経済制裁強化とロシアから西欧に天然ガスを供給するパイプラインの建設問題が焦点
  3. ロシア抜きではシリア和平の実現なし
    • プーチン支持が80%を超える中、シリア和平会議にプーチンを参加させたいというドイツ政府の希望
    • ドイツは英・米・仏がシリアを攻撃したことは理解できると発言
    • ドイツ政府は英・米・仏のシリア空爆に参加せず&協力せず
    • ロシアに対する経済制裁強化で最も悪影響を受けるのはドイツの産業界
  4. ロシアは今後も欧米との対決姿勢を強める可能性が高いことから
    ドイツではロシアのサイバー攻撃に対する懸念が強まり、政府は10日分の食糧と水の備蓄を呼び掛けた(講師も備蓄)
    その背景にはナチスドイツの侵攻等歴史的な苦い経験がある

◇ ◇ ◇

第6部

欧州から見たアジア情勢

1.欧州諸国はアジアの中で北朝鮮勢力に最大の関心

  • 欧州メディアは朝鮮半島の緊張緩和を歓迎
  • 北朝鮮の「完全非核化」については懐疑的(今までも騙されてきた)
  • イツの最大関心は中国経済の行方
  • 日本についての欧州での報道は大幅に減少(ここ20年間で)
    ※拉致問題もほとんど無関心
    ※安部総理のスキャンダルさえほとんど報道なし
    ※日本の過労死・過労自殺問題を比較的多く報道

2.トランプ大統領も北朝鮮の罠にはまる?

  1. トランプ氏は大統領として成果を出すしかない状況もありこれまでの大統領より騙しやすい
    ※ロシア疑惑やストーミー・ダニエルズ問題などのスキャンダルを抱えている為
  2. 北朝鮮は絶対核は手放さない‥‥なぜかというと国存続の為の保険としては絶対必要なアイテムであるから
    ※金正恩はリビアのガダフィ政権とイラクのサダム・フセイン政権は核兵器を持っていなかったから米国に滅ぼされたと固く信じている
  3. 表面上米国の受験を受け入れて、体制維持の保証と経済援助を獲得する可能性が高い米国人3人の保釈はそのための撒餌さ
    ※北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルを秘匿し続けるか、短期間で」製造するためのノウハウを保持すると考えられる

 

(上村 宗浩・記)