(2012年11月7日 掲載)

DF監査役部会第8クール    第1回研修会

監査役部会第8クール第1回研修会が、次のとおり開催されました。

講師
  • 開催日時:平成24年10月16日(火)午後3時半〜5時30分
  • 場  所:学士会館203号室
  • テーマ:「コーポレートガバナンス」とは
       コンプライアンスとの違いを通じて考える   
  • 講  師:佐藤総合法律事務所弁護士 佐藤明夫先生
  • 参加人員:50名弱

【講演要旨】

1.講義の目的、問題の所在・背景

コーポレートガバナンス(以下C・G)について、これまでの諸議論を検討のうえ、コンプライアンスとの位置づけの違いを考えながら、その具体的内容を認識し、具体的な場面でC・Gの在り方を考える。C・Gという言葉が、オリンパス事件等を契機に、改めて頻繁に使用されるようになったが、その意味が正確に把握されているとは言い難く、漠然と言葉が先行しているきらいがあり、C・Gとは何かを具体的に検討することが必要。

2.C・Gの議論に関するこれまでの動向

会社法、金商法、証券取引所規則のなかに規定されているC・Gに関する事項(*)に対する議論、制度への反映を検討。

*機関設計、社外取締役、内部統制、情報開示の充実(総会招集通知、内部統制報告書、有価証券報告書、大量保有報告制度、取引所規則の適時開示、C・G報告書提出、独立役員の確保)、罰則の強化など

3.会社法制見直しにおけるC・G

2012年8月に法制審議会は「会社法制の見直しに関する要綱案」を決定。その命題は「グローバルなC・Gへ近づけるための制度改正」である。

  1. 企業統治では、社外取締役選任の義務付け、監査・監督委員会設置会社制度の創設、支配株主の異動を伴う第三者割当による募集株式発行等が議論された。社外取締役設置義務は見送られたが、選任しない場合はその理由を事業報告で明記する必要があるとされた。
  2. 親子会社の規律では、多重代表訴訟制度の創設が明記された。
  3. その他、親会社出身者等の社外取締役就任禁止などが盛り込まれた。

4.C・Gとは何か(C・Gとコンプライアンスの関係)

  1. C・Gの定義
    C・Gという言葉は、「継続的に収益を上げるとともに、リスクを最小化し、『企業価値の最大化』につなげるために会社統治の在り方」といってよいであろう。
  2. C・Gの具体的内容の検討
    1. C・Gの名宛人:企業価値の最大化は、すべての利害関係人に影響をあたえるが、資本市場の視点から捉えれば、株主(潜在株主を含む)との関係が重要。
    2. C・Gの典型モデルの有無:一般的モデルが観念しうるとしても、企業の実態は千差万別。すなわち、各企業において企業の特性を十分分析し、かつ、費用対効果を意識しながらバランスを見て作り上げてゆくものである(ひな形があるわけではない)。
    3. コンプライアンスとの関係:コンプライアンスは法令を遵守することで、ルールを厳格に守ることによってリスクの顕在化を予防するものである。C・Gの目的は「企業価値の最大化』であり、その手段としてリスクの最小化の要請があり、その一部としてコンプライアンスが必要となると考えるのが正しいのではないか。例えば、慎重さのあまり意思決定に過大な時間がかかる企業は、コンプライアンス上は問題ないが、C・G上は問題があるといえる。なお、オリンパス事件などは「C・Gの問題」として取り上げられるが、実態は「コンプライアンスの問題」と整理したほうが正しく理解されるのではないか。

5.具体的な場面におけるC・Gのあり方

  1. 現代は、リスクが複雑化・複合化してきて、企業価値の最大化を図ることが非常に難しい時代。C・Gとコンプライアンスは、相反する場面すらあること認識すべき。
    「何がもっとも望ましいか」、「形式的な議論をしていないか」、「これまでのやり方が正しいのか」を、「収益力の強化」と「リスクの最小化」のバランスを考えながら、不断に実質的に検討を続けることが必要。
  2. 具体的検討
    1. 法改正、制度改正への対応:当然に迅速に対応することは必須。ただし、常に「バランス」を考えるべし。
    2. 社外取締役の資質:牽制はもちろんであるが、ビジネスとの兼ね合いの中で何が最適な回答かを考えることのできる資質を持った人を選ぶべき。
    3. 組織論:「形を整えればよい」という議論になりがち。組織が複雑化すると、意思決定が遅くなり、責任の所在が曖昧になるなどに注意が必要。「権限分配・分掌が明確になされていること」は極めて重要。
    4. 監査・監督の強化:形は既に整っている。実質化(*)にエネルギーを割くべき。

      *適切な人選、優秀な補助者の確保、社長等の全面的協力体制、監査コストの許容、 監査業務の適切な評価と報酬への反映

    5. 株主との関係:株主との関係(*)を良好にする努力の強化。

      *総会運営の健全化、投資家説明会開催頻度の増加、株主への情報提供の強化、適切な適時開示(信頼感を無くするような開示をしない等)。

◎経済がうまく回っている時代は、C・Gは問題にならない。混迷する時代である今こそ、C・Gの内容を十分理解して、バランスのよいC・Gで企業価値の最大化に努めるべき。

会場

以上