(2013年4月7日 )

 

第18回DF環境時事セミナー報告

  • 開催日:2013年3月18日(18時〜20時)
  • 会 場:日本記者クラブ9階宴会場
  • テーマ:[ポスト福島のエネルギー政策」
  • 講 師:河野太郎氏衆議院議員/自民党エネルギー政策議員連盟共同代表
    1963年神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部入学
    82年米ジョージタウン大学入学、85年同大学(比較政治学専攻)卒業
    86年富士ゼロックス株式会社入社、93年日本端子株式会社入社
    96年第41回衆議院選挙で初当選。-102年総務大臣政務官、05年法務副大臣、 08年衆議院外務委員長、09年自民党総裁選挙で次点となる
    12年12月第46回衆議院選挙で6回目の当選

1.原発は今後も選択肢なのか?

1)河野太郎議員と原子力発電

初当選した96年の翌年に、地球温暖化対策会議(COP3)が京都で開かれることになっていた。そこに向けて、当時日本政府は、原子力発電所をあと20基新設するので温暖化ガス排出削減は達成できるという立場であった。しかし、「太郎塾」という若手研究者や大学院生を中心とした勉強会を立ち上げて原子力発電の問題点について勉強を始めると、いろいろな問題が明らかになってきた。しかし、党本部の会合でそれらについて質問すると「お前は共産党か?」と言われるだけで、ほとんど答えが返ってこなかった。自民党では、部会、政調会、総務会の結論は満場一致が建前だったが、自分が当選して以来原子力関係で満場一致で決まったことは一度もなかった。それでも「若干の意見があるようですがよろしいでしょうか?」ということで決まってしまった。

ところが3.11の原発事故が起きると皆が私の顔を見て「お前の言う通りになったな!」。しかし、私は一度も原発事故についてなにか言った覚えは無い。

日本のエネルギー政策を考える時に「福島の事故を見て原発をどうするのか」ということを先ず出発点として考えざるを得ない。

2)核燃料サイクル

日本のエネルギー政策は「核燃料サイクル」と呼ばれるもので、諸外国の原子力政策とは異なる。

ウラン燃料を原子炉で燃やして発電すると使用済み核燃料が発生するが、米国を含むほとんどの諸外国はこの使用済み核燃料を取り出しておしまいになる。

ところが日本は下記の理由で、使用済み核燃料を再処理する核燃料サイクルの開発を目指した。

  1. あと数十年で枯渇する石油に全面的に依存するのはエネルギー政策として脆弱である
  2. 石油は日本で産出しないので全量輸入に頼らざるを得ないが、安定供給確保という点で極めてリスキーである
  3. 石油以外の軸となるエネルギー源を確保したい。太陽光は1960年代当時はまだまだ実用化には程遠いsciencefictionの段階であったし、石炭は夕張炭鉱閉鎖、三井三池炭鉱も水を注入して閉めてしまったので石炭にも頼れない。残されたのは原子力である
  4. ところがウラン燃料も日本国内では産出せず全量輸入に頼らざるを得ないし、しかもその海外のウラン燃料もあと70〜80年分の埋蔵量しかないと言われていたので、枯渇資源である石油の代替エネルギーとして位置づけるのは無理ということになる。そこで考えられたのが「核燃料サイクル」である

「核燃料サイクル」は最初輸入したウラン燃料を原子炉で燃やして発電するが炉から排出された使用済み核燃料を再処理(化学薬品で溶かして)してプルトニウムを取り出し、そのプルトニウムを「高速増殖炉」で燃料として燃やして発電すると、投入したプルトニウムが1.2倍になって取り出せる。従って最初の核燃料は輸入だが以後高速増殖炉を用いるとプルトニウムは1.2倍に増殖するので輸入に頼らなくても良い。日本は2000年先の未来までエネルギーに困らないというバラ色のシナリオを描いた。

3)シナリオ通りにはならない様々な問題

a)安全神話の崩壊

原子力安全委員会の考えは「今回のようなシビアアクシデントは現実に起こるとは考えられない」ので、事業者(電力会社)の自主的対策任せにしてきた。

想定外の規模の津波は来ないことになっていたし、未だにテロリストは来ないことになっている。

原子力発電による利益は電力会社が享受するが、万一事故が起きた時は国民の税金で賠償するということになっている。

原子力発電所の事故に対しては電力会社が一括して責任を負うことになっているので、機器メーカー、プラントメーカー、工事業者などは仮に責任があったとしても責任を問われないことになっている。

ところが起きないはずの事故が起きてしまった。

b)使用済み核燃料の問題

今回の事故で分かったことは、使用済み核燃料プールが非常に脆弱なものであり、これがテロリストの標的になれば広範囲に放射線がまき散らされることになる。

国内54基の原子炉が稼働していた時は、1年間に1000トンの使用済み核燃料が排出されていた。

現在全国の使用済み核燃料プールの空き容量は合計で7000トン弱しかない。

従って原子炉の再稼働が取り沙汰されているが、使用済み核燃料を冷却するプールの空き容量から稼働可能期間は数年から10年以内と短い。九州電力玄海原発は再稼働すると3年でプールが満杯になる。

c)高レベル放射性廃棄物の問題

使用済み核燃料やそれを再処理した時に排出される高レベル放射性廃棄物は非常に放射能レベルが高く、元のレベルまで下がるのに10万年もかかると言われている。

これをどのように処分するかが問題で、地下500m以上の穴を掘って岩盤の中に並べるという方法が検討されている。世界ではフィンランドのオンカロという場所で実際に行われようとしている。またスエーデンが場所を決めたという話を聞いた。

地下深いところに埋設するにしても高い放射能を持っているので10万年先まで見通した安定した地層でなければならず、日本にそのような場所は無い。日本は大陸と一体であったのが分離してできた島でこれから先どのように動いていくか分からない。フィンランドのオンカロは数億年前から動いていない極めて安定した地層だとのこと。

しかしながら10万年先まで危険物の埋設場所として管理しなければならないというのは現実的でない。(氷河期もあるだろうし人類がどのようになっているのか?また情報伝達手段は?)

日本の当初の予定では、青森県の中間貯蔵施設に仮置きしている高レベル放射性廃棄物を2045年までに最終処分地に搬出する約束になっており、そのためには建設候補地の文献調査をして、その後ボーリング調査をして建設予定地を決定し2038年には建設を開始しなければならない。ところが現在2013年は既にボーリング調査に入っている予定だったがどこの自治体も手を挙げず文献調査にすら入れないのでとても2045年に搬出など不可能である。

最終処分場を決められないので、日本学術会議は長期間の中間貯蔵を提案している。

即ち学術会議は使用済み核燃料を再処理せずにそのままプールで冷却した後引き上げてドライキャスクという容器に入れて長期間貯蔵する。これは空冷式容器で容器の外側から空気の流れで冷却するという方式。この容器は少なくとも50年間は持つと言っているので50年ごとに新しいドライキャスクに入れ替えて数千年保管し続ける。その間に半減期を短くする研究開発を行うという提案。

d)プルトニウムの問題

使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムは本来高速増殖炉で燃やすことになっていた。

核兵器を保有しているP5(米、ロ、英、仏、中)以外の国で使用済み核燃料の再処理を認められているのは日本だけで、フォード、カーター政権の時に核兵器は絶対に持たないと約束して認めてもらった経緯がある。青森県六ケ所村の再処理工場が完成するまで英・仏の再処理工場に委託して再処理し取り出したプルトニウムは現在45トンでそのうち10トンは既に日本に戻されて、残り35トンもいずれ戻ってくる。この45トンのプルトニウムの量は米国の核兵器に搭載されている核弾頭のプルトニウム量38トンと比べても莫大な量であることが分かる。(北朝鮮が保有しているプルトニウムは50kg程度と言われている)

日本にあるプルトニウムは青森県六ケ所村で保管しているが、ここの警備はとてもテロ対策にはなっていない。

e)高速増殖炉の問題

1995年12月に高速増殖炉もんじゅが大火災事故を起して停止した。以来一度も運転していない。この事故を受けて政府は2050年までは高速増殖炉の商業運転は無理だと発表した。ところが今現在まで何の進展もないのに相変わらず公式見解は2050年までは商業運転は無理との発表とを踏襲している。しかしながら技術的に非常に問題が多く、恐らく高速増殖炉は実用化しないだろうと言われている。欧米各国も高速増殖炉の開発にトライしたがすべて諦めて開発から撤退した。アメリカは1980年代に技術的には開発可能としてもコストが莫大で高速増殖炉で発電した高い電力を買える人はいないだろうという結論を出していた。

高速増殖炉でプルトニウムを燃やすと理論的に1.2倍のプルトニウムが出来るとのことだったが、実際には普通預金金利程度しか増殖しないとのこと。

f)核燃料サイクルの破綻

  • 高速増殖炉の実用化の目途が全く立たない
  • 高速増殖炉でプルトニウムは増えないかもしれない
  • 使用目的のないプルトニウムは保有してはならないことになっている
  • 高レベル放射性廃棄物は最終処分する場所が無い
  • 再処理をしないと使用済み核燃料プールが満杯になる
  • 青森県六ケ所村の再処理工場はトラブル続きで19回も稼働延期、竣工延期を繰り返し未だに稼働できない
  • 仮に運よく再処理工場が稼働できたとすると年間800トンの使用済み核燃料を処理して1%のプルトニウム即ち毎年8トンのプルトニウムが回収される。既に使い道のないプルトニウムが45トンもあるのに更に毎年8トンずつ増えていく状況になる

◎再処理工場が稼働できないと数年で使用済み核燃料プールが満杯になり原発が止まるし、再処理工場が運よく稼働できると毎年8トンずつのプルトニウムが貯まり、それを処理できずに行き詰る。そして核廃棄物(使用済み核燃料もしくは高レベル放射性廃棄物)の処分は出来ない。

g)プルサーマルとは

  • そこで困った経産省はウラン燃料にプルトニウムを1割混ぜたMOX燃料を通常の原子炉で燃やす実験を始めた。この燃料はウラン燃料が1割少なくなるのでそれだけ資源の節約になるとのことだが、再処理費用とMOX燃料製造費用が12兆円を超えるがウラン資源の節約額は9千億にしかならないということで現在は止めている。

2.ではどうすればよいのか

1)危険な原発は即時廃炉の決断

  • 建設して40年以上経過した炉
  • 福島原発と同じ形式の炉
  • 活断層の上に載っている炉
  • 度々事故を起している炉

2)使用済み核燃料の再処理と商業用増殖炉から撤退

もんじゅを安全に停止させておくために200億円/年の経費が掛かっている。

2050年に商業用高速増殖炉の運転を目指すより2050年には原発をゼロにするという方向性の方が主流になっているだろう。

3)安全な炉は再稼働するというオプションは有り得ると思っている

原発が事実上ゼロの昨年でも電力は足りたという意見があるが、実際にはかなり古い火力発電を目一杯稼働したので、このような炉がトラブルで止まったりテロに襲われたりしたら直ちに電力不足になるので、不測の事態への備えとしてどの程度の原発をバックアップとして稼働させておけば安心かを経産省は提示すべきと思う。そして必要な数の原子炉だけ、安全度順に再稼働するのが妥当だろう。

4)使用済み核燃料の総量について国民的合意を得る

原発を再稼働する前に全国に17000トンもある使用済み核燃料を冷却プールから取り出してドライキャスクに収めて原発の敷地内に保管する案・・・オプション1。

原発で発電した電気を消費した量に応じてドライキャスクを自治体に分配する案・・・オプション2。

どちらのオプションを採用するにしても現在17000トンある使用済み核燃料をどの位まで増やすのか20000トンなのか34000トンなのか100000トンなのか、再稼働前に国民的合意をつくる必要である。

5)原発には賠償金分の保険を掛ける

現在は事故による賠償金に国民の税金が投入されているがおかしい。保険で賠償すべきで、もし保険料を加味した電力料金では高すぎてとても売れないということならば原発は稼働させないだろう

6)原子炉メーカーなどにも事故の責任を負担させるべき

現在はメーカーまで遡及しないが、もし事故の責任がメーカーにあるならメーカーにも事故責任を問うことにすると、メーカーは保険に入ることになりその分だけ建設費が高くなり原発の電力料金が安いというフィクションは通じなくなる。

7)核のごみの半減期を10万年ではなくせめて200年程度までに低減する研究を促進する

8)シビアアクシデントやテロは起きないという前提ではなく、実際に起きるという想定に基づいた対応を義務化する

3.電力料金とコストについて

1)3.11のあとに流れたデマ

  • 原発が止まると電力会社が破綻し金融恐慌になる
    電力会社が国会議員に対して説明したシナリオ(銀行は電力債を大量に保有しているので電力会社が原発を止めて経営が悪化すると債券市場が破綻する)
  • 原発が止まると真夏の需要を賄えない。真冬の北海道の需要を賄えない
    これは脅しであったことは既に昨年証明済み
  • 原発が止まると産業が空洞化する
    原発が止まると電力供給が不安定になるので企業はそれを避けるため海外に移転するという意見だが、日本よりはるかに電力供給が不安定な国に電力供給の安定を求めて出ていく企業などない。昨年発表された日本経済ミニ白書でも企業の海外移転の背景に電力供給の安定性などを取り上げていない。

2)大企業が支払っている電気料金はいくらか?

製造業の製造原価に占める電力料金の割合は製造業平均で1.44%で、人件費の占める割合や為替の影響などから比べたら極めて少ない。

大企業が納めている電力料金は7円/kwh〜10円/kwhで一般消費者が支払っている通常の電気料金18円〜25円/kwhと比べて半分以下である。これは需給調整契約(電力が足りなくなった時は最初に供給をカットするという建前)を締結しているから。しかし昨年の計画停電時は、契約に基づいて最初に供給カットせずに一般消費者と同時に計画停電を行った。更に大企業は停電すると操業に大きな影響及ぼすとの理由で計画停電の対象外となっていた。

3)原発事故以来天然ガスの輸入代金が増えて貿易赤字になった

確かに2012年の天然ガスの輸入金額は2009年に比べて2.14倍に増加しているが、輸入量は1.35倍しか増えていないが単価が1.57倍に増えているためである。単価は石油代金にスライドする契約になっているためであり、原発事故が無くても輸入金額は60%増えているはずである。

4)原発関連の無駄なコスト

  • 現在原発50基は操業していないのに維持管理費、減価償却、レートベースはそのまま計上している。
  • 福島第一原発には事故機の横に5号機、6号機があるが、これらを再稼働するための維持管理費を相変わらず計上しているがこの炉が再稼働することは有り得ない(東電はまだ何も決まっていないからと言っている)
  • 日本原子力発電(株)は電力9社が出資して設立した原子力発電専業の卸電力会社で東海第2原発と敦賀1号機と2号機の3基の原子炉を持っているが、現在3基とも停止している。敦賀1号機は既に40年以上経った古い原子炉、敦賀2号機は活断層の真上に設置されているのでいずれも再稼働することはない。東海第2原発は地元が絶対に再稼働を認めないと言っているので3基とも再稼働は殆ど有り得ない。従って全く発電していないし今後も発電できないのに電力9社から年間1400億円の料金が支払われている。(これは基本料金のような性格のものと説明しているが発電しているときも1400億円支払っているので不可解)
  • この会社は現在運転していないので空前の利益を出して役員や社員には高給を支払っている。
  • 日本原子力燃料(株)は再処理する会社だがまだ全く稼働していないのに電力9社は毎年2700億円支払っている
  • その他いくつもの不可解な経費計上がなされている

5)原発を止めたら電気料金はどうなるか?

いろいろな機関が原発ゼロシナリオ、15%シナリオ、20-25%シナリオに分けて2030年の電気料金(2010年を1万円/月とした時)を試算しているが、国立環境研究所はどのシナリオも1.4万円/月で変わらない、地球環境産業技術研究機構はゼロシナリオだと2.0万円/月、他のシナリオだと1.8万円/月と発表したら新聞は2.0万円/月だけ掲載して現在の2倍に跳ね上がると騒いだ。

6)脱原発のコスト/ベネフィット(立命館大学大島堅一教授による)

脱原発のコストは

  • 火力発電の燃料の焚き増しに3兆1600億円/年かかるが再生可能エネルギーを導入すると焚き増しは5300億円/年に減少する
  • 再生可能エネルギーの導入コストが15年間で発電量の20%に達するという前提で1兆4700億円となり合計2兆円/年かかる

一方脱原発のベネフィットは

  • 原発の稼働コスト(燃料・修繕・委託料等)8400億円/年が不要になる
  • 再処理費用の不要分が1兆3100億円/年、
  • 再処理から排出される高レベル放射性廃棄物の処理コストの不要分が1400億円/年
  • 立地対策費3500億円/年が不要になり、合計2兆6400億円/年が不要になる

従って脱原発は決してコスト高になるのではなくむしろコストよりベネフィットの方が多いと発表した。

この計算の中で原発を止めたら立地対策費も不要になるとしているが、福井県や青森県やその他原発立地県は国策に協力するために努力し、苦労して住民の意見をまとめてくれたので原発を止めたからと言ってその協力、苦労に報いる必要はないというのは酷すぎる。従って立地対策費3500億円は支払わなければならないと思う。それでもベネフィットは2兆2900億円となり、コストより多い。

4.それではどうすればよいのか?

1)LNGが一番きれいな排ガスを排出するので天然ガスに置き換える

日本の天然ガスは石油にリンクした価格設定になっているので高い。そこで安いシェールガスを米国から輸入する

2)ロシア極東から天然ガスをパイプラインで購入する

3)各電力会社が個別に交渉して買い付けるのではなく日本全体でLNGの買い付け交渉を行い出来るだけ安く購入する(購入先を多様化して交渉力をアップさせる)

4)CCT(クリーンコール技術)の技術移転

現在横浜で稼働している石炭火力は世界で最もクリーンな火力発電所でこの技術を中国なり米国に輸出して協力すればPM2.5の改善にもなるし温暖化ガス削減にも貢献する

5)地熱発電等再生可能エネルギーの開発

日本は地熱の宝庫でアメリカ、インドネシアに次いで世界第3位の賦存量があるので、温泉旅館等の地元に丁寧に説明しながら再生可能エネルギーの活用を図っていきたい。

6)発送電分離と電力自由化

3.11の事故の後で自家発電設備を持っている企業は自家発電設備で発電した電力を卸電力市場で売ろうとしたが、東京電力は3.14に卸電力市場からの電力は東電の送電網では受け入れないと拒絶した。そしてその後東電は各企業を個別に回り買取価格を提示してこの価格なら買い取ると申し出た。これは卸電力市場で電力価格が高騰してそれを買い取らされたのでは大変だという思いからそのような卑劣なやり方をした。これも一社が送電網を独占しているからできたことで発送電分離と電力自由化はぜひやらなければならない。

今日も国会でこの問題について話し合ったが、明らかに各電力会社が地元の国会議員に対して熱心なロビー活動をしていて、多くの議員が意味不明の反対意見を言っていた。

7)スマートグリッドとピークタイムプライシング

今までは電力消費量を十分に賄うだけの発電量を用意していたが、電力消費量の多い時間帯は価格を高く、少ない時間帯は安く設定にすると企業も個人もそれぞれ工夫して電気を使うようになる。そのためにはスマートメーターを各戸に設置して時間ごとの価格を把握できるようにする。このようにするとピーク時の電力消費量が下がり発電所の設備容量も下がる。

8)住宅・建物の断熱性能をもっと高める

  • 欧米に比べて日本の家屋は断熱性能が悪い
    これを改善するとエネルギー効率が高まる
  • 換気の方法も熱交換式にすると効率がアップする。このような例は他にもいろいろあり、節電、省エネ対策はまだまだ改善の余地がある

9)河野議員が3.11の前に主張していたのは

  • 原発は40年稼働したら廃炉にする。
  • 新しい原子炉の建設は住民の反対が強くてできない
  • そうすると2050年には原発はゼロになる
  • このようなペースで脱原発を進め、天然ガスで補いながら再生可能エネルギーを増やしていき2050年頃には省エネで電力消費量を3割〜4割減らすことが出来るのではないか
  • 省エネは、暑いのに我慢、寒いのに我慢するのでは長くはもたない。やはり家庭生活の質や企業活動に影響を及ぼさない中で省エネを図ることが技術開発やシステム開発、規制緩和などで可能だと思っている。
  • 原発に関してもすぐに動かせという人もいるし、全面的に止めろという人もいるがここは少し冷静になって、ゴールはココ。そこへのステップはこのようなステップでということを国民の間で合意をしながら進めて行くというのが政治だと思う。

5.質疑応答

Q:今年の夏に安倍政権はエネルギー政策を発表するとのことだが、本日講演された河野先生のご意見はどの程度反映されるのか?

A:最大の問題は国会議員の中で核燃料サイクルについて理解している人が1割程度しかいないという事実。経産省や電力会社が都合の良いように脚色したり真実でないことを吹き込んだ時にその嘘を見抜けないと鵜呑みにしてしまう。例えば再処理の問題で経産省や電力会社は再処理をした方が廃棄物の処理がしやすいので再処理をしなければならないと議員に吹き込が、その際プルトニウムが出来ることには一切触れないので議員は再処理賛成となってしまう。小泉内閣の時の科学技術担当大臣が河野氏のところに来て「ウラン燃やすのもプルトニウム燃やすのも同じなのになぜおまえは煩いことを言っているのだ」と文句を言われた。担当大臣でさえも理解していないことが分かった。
このような議員が「良きに計らえ」と経産省や電力会社に任せてしまうと今までとちっとも変わらないと思う。
もう一つの問題は、40年で廃炉にすることに電力会社は絶対反対する。理由は平成元年に原子炉を廃炉にするための費用を積み立てることになった。積立額は一年の稼働率が70%に達したらその年の積立予定額を全額積み立てるというもので、もし達しないときは積立額も少なくて良いことになっている。ところが稼働率が70%に達している原子炉は殆どないので積立額は大幅に予定額より少ないのが現状。従って40年で廃炉にすると不足分を電力会社が負担することになり特別損失が発生するので積立金が積み上がるまで稼働させてくれと主張し安全性など配慮していない。
3.11までは河野太郎対その他自民党の国会議員達という構図だったが、事故以来国民の原発の危険性に対する意識が高まりパブリックコンセンサスを取ってみると圧倒的に原発ゼロの意見が多いので自民党の国会議員の中にも河野太郎と同じ意見を持つ人が増えてきた。自民党が取りまとめた公約でも原発依存度を下げると明記しており、安倍総理も明言しているのでそのような方向に進んでいくだろうと思うが、まだまだ経産省や電力会社の意見を鵜呑みにしている議員も多いので国民が厳しく監視し意見を言わなければならない。

Q:事故の原因について各種の事故調査報告書が出されたが、核心を突いた事故原因を指摘した報告書は無いと思う。このまま事故原因や責任の所在をうやむやにしたままで終わるのかそれともきちんと総括した事故報告書が発表されるのか?

A:国会事故調は今回初めて作った。国会事故調は東電から資料を提出させたが、東電は「コピー禁止、返却すること」という条件を付けたため貴重な資料をコピーも取らずに返却したものが多く、返却していないものは国会図書館に保管されているがそれを見ることが出来ない。理由は「公開ルールが決まっていないから」
国会事故調の提言の中に「国会が引き続き事故の調査をフォローすること」とあるので国会で対応するように要求したところやっと特別委員会が発足した。私は委員会の理事には当然入れるだろうと思っていたら理事どころか平の委員にすら入らなかった。
事故が起きた直後から政府がデータを公開してきちんとやっていれば国民は政府の言うことを信用したと思うが、電力会社と一緒になってデータや事実を隠ぺいしたり根拠もないのに安全基準を上げたり下げたりしたので国民は政府の言うことを信用しなくなってしまった。

Q:昨日の日経に相変わらず原子力発電が一番安いという比較が出ていたが、実際は廃棄物の処理やプルトニウムの問題もあり決して安くないはずである。国民に対して先生が講演されたように正しい数値、情報を提示して欲しい。
原発を止めて再生エネルギーが増えてくると固定価格買取制度もあり電力料金は上昇するので電力多消費型産業にとっては死活問題なのでぜひ安い電力が供給されるような政策をお願いしたい。

A:日経新聞は電力会社の完全な御用新聞なので経団連や電力の意向をそのまま報道するのは当然だ。しかし東京新聞などはかなり頑張った報道をしている。
日経、産経、読売の報道と朝日、毎日、東京の報道とは明らかに違いがあるような気がする。
再生可能エネルギーの買い取り費用は請求書で別枠で明記されている。一方放射性廃棄物の再処理費用は明記せずに電気代の中に含まれているために、この再処理負担金の方が再正可能エネルギーの買い取り費用より圧倒的に高いのがわからない。再処理をやめればその分電気代はかなり安くなるはずである。

Q:途上国で盛んに原発の建設が計画されているが、これらが安全な原発でなければ日本だけ脱原発を進めても意味がない。日本が安全な原発の技術開発をしてこれらの途上国の原発に反映するということについて先生のご意見を聞かせてください。

A:日本の原発技術は一流だと大いなる誤解があるが、実は日本の原発メーカー(東芝や日立)は電力会社の下請けで、プロジェクトのリスクは電力会社がとっている。電力会社はそのリスクを最終的に電気代に反映させて(総括原価方式)国民に転嫁している。日本のメーカーが海外でリスクを取ってプロジェクトを完成させる力は無いと思う。海外で原発を建設しているのはロシア、中国、韓国だが、これらに比べて日本の技術が勝っているとは評価されていない。中国も原発の大増設から方針転換して再生可能エネルギーに注力して風力発電、太陽光発電とも世界最大規模になっている。
日本の技術はむしろ廃炉技術を開発して世界に貢献する方がビジネスチャンスが広がる。

Q:日本のエネルギー政策は供給サイドからの話が多いが、需給サイドからの話即ち文明論とか人の生き方というところからのご意見を聞かせていただきたい。

A:文明論というと貧しくてもエネルギーを使わないという話になってくるが、それは決して有り得ない。誰もそんなことを望んでいない。今までの快適な暮らしは維持したいと思っている。技術の進歩によって電力消費量を減らしても快適な生活の維持が可能になってきている。冷蔵庫・エアコン・照明など10年前に比べて電力消費量は比べ物にならないほど少なくなっている。更に建築基準法を改正して住宅の断熱・換気をきちんとやれば更にエネルギー効率は上がる。
また規制、税制、システムを変えることによって電力消費量を減らすインセンティブが働く。例えばピークタイムプライシングなど。

以上