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2011/10/01(No110)

「深層心理との葛藤に苦しんだ秀吉の悲劇」

根本 寛

筆者の写真今年の6月12日、BS日テレの『歴史プロファイル』で、織田信長、豊臣秀吉、徳川康の3人の筆跡を分析した。その中で、秀吉については、「秀吉は錯覚に陥っていて、結果として不幸な晩年であったらしい」という仮説を発表した。秀吉は、信長が横死した後、頭角を現し天下統一を果たし大阪城を築いた。天下人として15年ほど栄華の時代を送りその後病死している。この栄華の時代は、実は、秀吉にとっては不幸な時代のようだと考察したのである。筆跡心理学では、筆跡に表れた特徴は、その人間の深層心理を顕していると考えている。例えば、「大」や「木」字のように、横線を書いたのちに縦線を書く場合、その突出する縦線の長さなどである。横線というのは、どうも「平均」というようなイメージを与えるらしく、平均に埋没したくない、天下を取りたいというような深層心理の持ち主は、横線の上の高い位置に筆を下すことが多い。

雷電

図の右側は秀吉の手紙である。特徴の第一は、「ろ」の字に見られる下部の大きな弧型である。秀吉は常にこのように書いている。これは「大弧型」といって、大きな心理エネルギーを示している。立身出世をしたいとか、影響力を持ちたいというような深層心理のエネルギーである。参考まで示した松下幸之助氏の「助」字にも見られる。

ところが、「大」や「ち」の字では、前述した縦線の突出が極めて短い。この短さは協調性を表し、むしろ親分の下にいたいという深層心理である。秀吉は、出世意欲が強く天下人に上り詰めたのだが、そのリーダーの地位は、彼の深層心理とは相入れないものであったと思われるのである。つまり、秀吉は自身の真の姿に気づいていなかったために、栄華を極めた晩年は、むしろ心理的葛藤に苦しめられたものと思われる。……自分の本当の姿を知るというのはなかなか難しいものと言えるのである。

ねもとひろし ディレクトフォース会員、現日本筆跡心理学協会・会長