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2011/06/01(No102)

「メディアの功罪」

猪熊 建夫

猪熊 建夫氏地震の数日後、京都に行っていた。

「天皇陛下が秘かに御所に移ってきたらしい。御所の周りを警官が取り囲んでいるようだ」

メール・チェーンメール、ツイッター、フェイスブック上などで、京都市民の間でこんなデマ情報が飛び交っていた。

明治維新の直後、どさくさにまぎれて明治天皇は江戸城(今の皇居)に下洛してしまった。それから140年余、「天皇は御所に戻ってくるべきだ」というのが京都市民の悲願となっている。この背景があればこそ、デマ情報はあの人からこの人へと伝播してしまったのである。

北アフリカ、中東の民衆蜂起でインターネットの果した役割は大きかった。日本の震災・津波・原発に関する情報受発信でも、ネットは活躍した。放射性物質の拡散シュミレーションなど欧米の研究機関の調査を、ネットで入手した人も多かったようだ。

「新聞・テレビ・ラジオの既存メディアは不安をあおる報道ばかりだった。ネットこそリアルタイムで正確な情報を発信した」という意見が聞こえてくる。 ネット傾斜論者の声である。

私の見方は違う。「ネット情報は玉石混交。既存メディアの報道は楽観的過ぎる」というものだ。既存メディアにも登場してきているが、「福島原発は制御不能に陥る可能性が大で、原発周辺30キロは向こう20年,住めなくなる」というのが私の判断だ。高濃度の放射線のために原発サイトには早晩、作業員が入れなくなるだろう。対応不能になるというのがその根拠である。

素人判断にすぎないが、専門家の分析や解説を当てにしない方がいい、というのをこの2ヵ月半で学びとった。だから、色々な情報を収集したうえで、あとは自分で判断しよう、というのが私の身上である。

ところで、既存メディアやネットの功罪をあれこれ論じているのは、東京以西の暇人である。被災地の人たちは、新聞はもちろんのこと、送配電線と基地局がやられ乾電池もないため、携帯電話、パソコン、テレビ、ラジオが使えない情報過疎に陥ってしまった。

そこで私は、電源手回しラジオを、ネットで購入した(たった2000円)。なお、手前みそではあるが、メディアと報道の在り方について、この1月に『ジャーナリズムが亡びる日』(花伝社)を上梓したことを付記しておきたい。

2011.5.19記

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いのくまたてお ディレクトフォース会員、元毎日新聞社、船井総研

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