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2011/05/16(No101)

「チャリティー・コンサート」

鶴岡 忠成

鶴岡忠成氏 4月初め、桜も未だ2~3分咲きの上野の東京文化会館でチャリティー・コンサートが開かれ、妻と参加した。言うまでもなく、未曾有の東日本大震災の追悼・支援のためで、尾高忠明氏の指揮と読売交響楽団のコンビにより、バーバーの弦楽のためのアダージョとマーラーの交響曲第5番が演奏された。音合わせの時間が少なかったにも拘わらず、いずれもハーモニーが美しく、厳粛で荘厳な響きに満ち、追悼公演に相応しい演奏であった。

弦楽のためのアダージョは、J.F.ケネディの葬儀で演奏されて以来、追悼演奏の定番と言われている曲だが、照明を落とした舞台上で犠牲者の霊や被災者の胸に届けとばかりに精魂こめた尾高氏と読響の名演は、多くの聴衆の心に強く訴えるものがあった。当然のことながら拍手は控えられたが、聴衆が深い感銘を受けたであろうことは、全プログラム終了時の鳴り止まぬ拍手からも容易に想像できた。因みにこの曲は昭和天皇崩御の際にもN響により演奏され、放映もされたそうだがはっきりとは覚えていない。

マーラーの5番は、以前ザルツブルグ音楽祭でラトル/ベルリン・フィルの演奏を聴いたことがあり、好きな曲の一つである。この曲が何故選ばれたかは解説になかったが、私には、よく知られたトランペットのファンファーレに導かれる第1楽章の葬送行進曲と、生命力に溢れた未来を暗示するかのような第5楽章のロンド・フィナーレが、大災害の悲劇性と復興へ向けての力強い希望とに重なり合うように思われて、滅多にない感動を覚え暫し黙祷を捧げた。

実はこのコンサートは、当初、東京・春・音楽祭の目玉の一つであったマーラーの大地の歌が、指揮者や歌手の来日取り止めによって中止を余儀なくされ、急遽代替企画されたもので、幸い、尾高氏と読響の強い熱意とボランティア精神により実現したと聞いており、心から敬意を表したい。

3.11以後、日本を離れた外国人は20万人に上るとされ、各界、各層に及んでいるが、音楽界でも来日中止や公演の中断が続出した中、フィレンツェ歌劇場公演の中断で一旦は離日したズービン・メータ氏の如く、第九の慈善公演指揮のため再来日した外国人のいることを付け加えておきたい。

 

*編集註:掲載ビデオは YOUTUBE より(1988.02.29 NHK交響楽団 サントリーホール)

つるおかただしげ ディレクトフォース会員、元丸紅

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