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(2013年5月10日 )

一般社団法人 ディレクトフォース 4月勉強会

テーマ:「日本の社会保障と財政    一体改革を考える」

講師4月の講演・交流会は、4月25日に学士会館で会員約90名が参加して開催されました。今回は、財政学の第一人者であり、一橋大学特認教授の田近栄治氏を講師にお迎えして「日本の社会保障と財政〜一体改革を考える」というテーマで講演いただきました。

田近氏は、近年は個人所得税負担の実態や政府間財政調整、医療・介護保険改革、途上国財政問題等をテーマにして研究を続けてこられました。税制、社会保障問題については理論と制度のバランスを重視しながら財政の具体的な問題に言及されておられます。今回の講演でも、社会保障制度に国はどのように関わっているのか、その負担はどこからきているのか、更に一体改革をどう考えたらいいのかなど日本の社会保障制度が抱える根幹的な問題について解説いただきました。

社会保障制度はディレクトフォース会員にとって最も身近なテーマであり、その本質的な問題について考える格好の機会となった講演会でした。詳細は次のとおりです。

1.国の財政と社会保障負担

日本の経済規模は約500兆円であるが、平成22年度の一般会計予算約92兆円で見ると、国債の元利払い20.6兆円(22.3%)、地方交付税交付金17.5兆円(18.9%)、社会保障関係費27.3兆円(29.5%)であり、これらで歳出全体の70%強を占めている。そして国債費、地方交付税交付金を除いた54兆円の約半分が社会保障費である。27.3兆円の社会保障費の内訳は、年金、医療給付金、社会保障費(生活保護など)の負担となっている。

歳入92兆円の内訳は、国の借金というべき公債金収入が44.3兆円(48.0%)、租税及び印紙収入が37.4兆円、その他収入が10.6兆円である。消費税と所得税を合わせた22.1兆円では社会保障費27.2兆円をまかなうことが出来ないのが現状である。

2.一般会計の歳出

社会保障費が急速に増え、その伸びを公共事業関係費等の減額でまかなっている状況。社会保障費は1970年度あたりから急激に増加しているが、福祉元年と位置づけて年金給付を現役時代の給料の一定割合にするとか、老人医療を無料化にしたことによるもので、結果として国の負担が増加していった。年金を物価上昇にリンクさせたが、物価の捉え方を消費者物価ではなく、給料の上昇を基準にしたので現役世代の生産性を反映するものとなった。

3.社会保障給付費の推移

1990年から2012年にかけて国民所得はほぼ横ばいであるのに対して、高齢化の影響で社会保障給付費は47兆円から110兆円と2.34倍になっている。110兆円の内訳は、年金54兆円(49%)、医療35兆円(32%)、福祉・介護その他21兆円(19%)である。

4.社会保障負担はどこから

福祉その他の21兆円から介護の8兆円を除いた12兆円ぐらいが生活保護などに使われている。この部分の税負担は理解できる。他方、年金・医療・介護は保険であり、保険料でまかなうことになっている。しかし社会保障給付費110兆円のうち保険料負担は61兆円(55%)しかない。国、地方合わせて40兆円(40%)を公費負担しており、社会保険料が横ばいの傾向のなかで国や地方が負担する割合が増加している。しかし公費負担40兆円の半分は借金である。問題は、社会保険という年金・医療・介護になぜ公費を投じなければならないのか。投入するにしてもどういう形にするのか。そこが社会保障改革の本質的な問題といえる。

5.公的年金全体の資金の流れ

公的年金加入者数は6874万人、受給権者数は3703万人。保険料32.1兆円に対し、年金給付は51.4兆円。年金への国庫等の負担は11.2兆円にのぼる。

70年代になって高度成長から社会保障へと転換を求められたとき国はこれに応えた。しかし人口の高齢化、賃金が増えない状況にもかかわらず、70年代後半から80年代、90年代にかけて給付に見合う保険料値上げをしなかったことが問題を残した。そのために基礎年金の尻拭いという形で国が関わることになった。

6.医療保険制度の姿

医療費のうち自己負担を除いた35兆円の医療給付はどのようにまかなわれているか。日本の医療保険の仕組みは、タテ軸を年齢として65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と輪切りにしている。保険者のグループは、国民健康保険と被用者保険の協会けんぽ、健保組合・共済である。

国は医療介護で10兆円あまり使っている。その使い方として、国民健康保険の給付の半分は公費(国費41%、都道府県9%)で負担、協会けんぽには1.2兆円(26%余り)が自動的に給付されている。輪切りにされた75歳以上の後期高齢者の医療費13.1兆円については、保険料が約1割、半分の6.2兆円は国と地方を合わせた公費、残り4割は現役世代からの支援金となっている。

このような仕組みになっているのは、アメリカ(国民皆保険とはいえないが)と日本ぐらいで世界でも稀有なシステム。日本の医療制度が年齢で輪切りになっていることに問題があり、本来であれば、生涯を通じて同一保険に入る道を確保するべきである。しかし、日本では75歳以上となると他の保険から切り離された「後期高齢者医療制度」に加入することになるので、現役世代からの「支援金」に頼らざるをえない。本来保険制度のなかの支えあいである負担を「支援金」と呼び、高齢者に対するあたかも追加的な負担であるかのように扱う現在の制度は、根本的な問題を抱えている。

7.介護保険制度の仕組み

介護保険は40歳から加入する。40歳から64歳までの第2号被保険者は、若年性アルツハイマーなど特定の疾病について介護保険給付が支給されるが、基本的には65歳以上に適用される仕組み。介護費の5割は公費負担(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)となっている。残り半分の保険料は、人口比に基づき40歳から64歳までが29%、65歳以上が21%を負担する。制度の運用は市町村単位で行う。65歳以上の人の保険料は、1割負担を除いた残りの給付半分が公費となっている。

8. 社会保障費と財政負担の根源的問題

国は社会保障費として年金、医療給付金、社会保障費(生活保護など)に27.3兆円使っており、年間予算92兆円の30%にあたる。そして国の社会保障への関与の仕方は、基礎年金の半分、医療を後期高齢者に限れば給付の半分、介護保険給付の半分を負担するというもの。かかった給付の一定割合を国が払うという関与のあり方が、日本の社会保障制度と財政の根源的な問題になっている。どのように措置すれば良いのか。国が給付の一定割合を負担して支給額をコントロールするとしたら給付額を下げるしかない。

9.一体改革とは

日本のGDP500兆円、そのうち消費が60〜70%とすれば、消費税1%で2.5兆円の税収となる。5%上げることで12〜13兆円の税収増。国民には財政健全化に一定の寄与をさせると同時に社会福祉に使うと説明している。残りの使い方として社会保障の充実に2.7兆円程度、年金国庫負担2分の1、これを現状36.5%から50%に上げる(2.9兆円)、消費税率引き上げに伴う社会保障費支出増(0.8兆円)に対応、残りの7兆円程度を社会保障財政の健全化に当てるというのが「一体改革」の姿である。

社会保障4経費(年金、医療、介護、子育て)に31.5兆円使っているが、地方消費税分を除いた国・地方合わせて消費税4%の10.4兆円では21.1兆円の穴が空いている。消費税を5%引き上げたときにはこの差が24兆円となり、社会保障財政の健全化に回せるのが7.0兆円とすれば、差額は17兆円になる。結論として消費税5%上げて財政を健全化する姿にはなっていない。

10.一体改革をどう考えたらいいか

社会保障で国はなぜ関与が必要なのか、必要を前提として国はどうやって負担してきたのかが本質的な話となる。年齢で輪切りになっている医療保険制度がおかしいし、高齢者医療と介護をどのように統合して考えるかという問題もある。

高齢化といっても働ける人には働いてもらう、女性にも働いてもらい働き手をもっと増やすことあるいは若い人の生産性を上げること即ち有効的な人口を増やすことが求められる。医療や介護のサービス提供ももっとスマートに、有効資源を効率的に使用する改革が必要となる。

11.社会保障改革の方向

年金、医療、介護といった社会保障給付の原則は、給付に見合った保険料を求めていくことにある。国や地方公共団体の役割としては、受給サイドのモラルを低下させない支援の仕組みが必要である。高額医療の負担は必要だが、日常的な医療については給付に見合った保険料を求め、モラルハザードが生じないようにしなければならない。負担サイドでは、世代間格差の是正、特に若年低所得者支援、軽減措置を早急に実現していく必要がある。

社会保障と財政といった大きな問題に対して、国、政府がどのように関与するか、そのフィロソフィーないしは原則を国民を前にしてきちんと議論すべきであろう。

以上

懇親会の様子
懇親会講師の田近栄治氏を囲んで歓談する皆さん
懇親会の様子
懇親会講師の田近栄治氏を囲んで歓談する皆さん